世界観
本作の舞台となる時代は、戦国末期~江戸初期となっている(物語は関ケ原の合戦直後から始まるが、それ以前のエピソードも描かれている)。ただし、本作で主に描かれるのは、宮本武蔵を代表とする個人としての武芸者の闘いと内面の物語であり、登場人物たちの動向が徳川幕府の成立や豊臣家の滅亡といった大きな歴史の流れを左右することはない。
あらすじ
以下に『バガボンド』37巻までのあらすじを紹介する。なお、便宜上いくつかの章に分けて記述しているが、この区切りは本稿のみのものであり、作中では明確な章立てはされていない。
武蔵編
母を知らず、剣術家である実父新免無二斎からも愛情を注がれずに育った少年新免武蔵。故郷の宮本村でも、鬼の子と忌み嫌われていた武蔵は、17歳の1600年、唯一の友である本位田又八と共に関ケ原にいた。西軍の雑兵として戦に参加したふたりは、敗軍の兵となり戦場を落ち延び、偶然知り合った未亡人お甲に匿われるが、お甲を狙う野武士の集団と戦うことになる。武蔵は、死闘の末に野武士たちを討ち果たすが、又八はその戦いに参加することなくお甲とその娘と共に姿を消してしまうのだった。武蔵と又八の道はここで大きく分かれるが、以後何度となくふたりの軌跡は交差していくことになる。
武蔵は、又八の許嫁であるおつうに又八の生存を伝えるべく宮本村へと戻るが、村の衆に追われ捕らえられてしまう。きつく縛られ木に吊るされた武蔵は生死の境をさ迷うが、なんとか脱出を果たし、僧沢庵の言葉により名を宮本武蔵と改め、剣の道に生きるために旅立った。
それから4年後、京に現れた武蔵は、若き達人として知られる吉岡清十郎に挑むため吉岡道場へと乗り込む。しかし、清十郎には一歩も動けぬままに額を切り裂かれ、その弟吉岡伝七郎とは互角に闘うも腹に深手を負ってしまう。結局、吉岡道場との決着はつかぬまま、武蔵は京を離れることになった。
奈良の槍の聖地・宝蔵院へとたどり着いた武蔵は、宝蔵院流槍術の二代目胤舜に挑むが、その圧倒的な技の前にかつてない恐怖を覚え、なりふり構わず逃げ出してしまう。己の未熟さ・弱さを痛感し苦悩する武蔵に手を差し伸べたのは、宝蔵院の先代である胤栄であった。胤栄と寝食を共にする日々の中で、新たな境地に至った武蔵は、再び胤舜と対峙し、紙一重の差で勝利を得、胤舜との再会を約束して宝蔵院を後にする。さらに柳生の庄での剣聖柳生石舟斎との出会い、異形の武器である鎖鎌の使い手宍戸梅軒との死闘を経た武蔵は、再び吉岡清十郎、吉岡伝七郎に挑むべく、京へと歩を戻す。
小次郎編
関ケ原から遡ること17年。越前の浜辺で無気力に生きる老人の元に、一振りの長剣と共に赤子が流れ着いた。老人はかつて剣豪として知られた鐘巻自斎。赤子は後に佐々木小次郎として知られることになる男児である。弟子である伊藤一刀斎に敗れて以来気力を失い、自身がすべてを捧げたはずの剣からも遠ざかり、ただ老いの中に時を過ごしていた自斎だったが、無垢な赤子である小次郎を育てることに心を注いでいく。だが、その小次郎は生来の聾者であった。他者の声を聴くことができず、自身も言葉を持たぬ小次郎は、幼子のような心のままに剣を操ることに没頭していく。
時は流れ、長身の少年となった小次郎の前に、希代の武芸者として名高い伊藤一刀斎が現れた。かつての師である自斎が育てた小次郎の剣の才を看破した一刀斎は、小次郎を自斎の元から天下へと連れ出す。旅を続ける中、強者との実戦によって小次郎を鍛え上げていく一刀斎だったが、小次郎には剣者として必要である臆病さが欠けていることを見抜き、それを教え込むために落ち武者狩りが横行する関ケ原に小次郎を置き去りにしてしまうのだった。無数の農民たちや生き延びた強者たちとの不眠不休の殺し合いを続ける小次郎。この窮地を切り抜けたとき、小次郎は一刀斎にも迫りうる剣者として成長を遂げるのだった。
吉岡道場編
吉岡伝七郎との闘いから1年後の年の瀬、武蔵は再び京の都に足を踏み入れた。伝七郎も武蔵との決着を望み、決闘の場所と日取りを市中に張り出す。これにより、武蔵と吉岡一門との勝負の行方は都中の話題となっていく。勝負の日である正月九日に向け、門人たちとの熾烈な稽古に励む伝七郎。しかし、この勝負に先んじる元旦の夜明け前、吉岡道場の当主吉岡清十郎はひとり武蔵へと襲い掛かり、その剣の前に斃れるのだった。吉岡道場へ清十郎の死を告げた武蔵は、偶然知り合った本阿弥家の先代光悦の館に滞在を許され、清十郎から受けた傷を癒すのだった。
光悦の館には、もうひとりの客人がいた。言葉を持たぬ剣者佐々木小次郎である。その素性も知らぬままに束の間の邂逅を得た武蔵と小次郎は、互いの力量を感じ、友情にも似た奇妙な感情を味わう。そして正月九日、武蔵は約束通り決闘の場に現れ、衆人環視の中伝七郎を討ち果たす。
当主とその弟を武蔵によって斃された吉岡道場は、吉岡十剣の筆頭植田良平を党首に据え、武蔵を抹殺せんと動き出した。吉岡側が門人70余名をもって己を討たんとしていることを知った武蔵は、一度は京を離れようとするものの、戦いに背を向けることができず、吉岡一門が待つ一乗寺下り松へと切り込んでいく。技を競うのではなく、ただひたすらに武蔵の命を絶とうとする70余名の剣士を相手に、悪鬼のごとく刀を振るい続ける武蔵。ついには、そのすべてを討ち果たすことに成功するが、その代償として右足に大きな傷を負ってしまう。動かぬ足と失血、疲労にさいなまれながら京から離れる武蔵の口から洩れたのは小次郎の名であった。
漂白編
吉岡一門との闘いで負った傷のため山中で倒れた武蔵を救ったのは又八であった。かつての友に背負われ山寺に運び込まれた武蔵は、そこでおつう、沢庵らと再会する。しかし、意識を取り戻した武蔵の右足は、すでに歩くことさえままならない状態となっていた。沢庵から「闘いはもう終わりだ。剣を捨てよ」と諭され、煩悶する武蔵だったが、私闘を行ったという罪を名目に京都所司代に捕らえられてしまう。しかし、所司代は武蔵に好意的であり、この捕縛も剣名を上げた武蔵に興味を持ち始めた諸藩の意を汲むと同時に、武蔵を保護しようという意図のものであった。自由に面会を許された沢庵から、そして所司代からも仕官を勧められる武蔵。だが、武蔵はもう一度己のすべてをぶつけられる勝負を求めて、所司代の元から脱出する。
それと時を同じくして、光悦の館で世話になり続けていた小次郎にひとつの出会いが訪れる。九州小倉細川家の剣術指南役を小枝一本で倒したことで、新たな指南役として招かれることになったのだ。小次郎は京の都から西の地へと旅立っていく。
一方、やはり京を離れた武蔵は、山中での伊藤一刀斎との邂逅を経て、痩せた土地に作られた寒村へと辿り着く。そこで父を失ったばかりの童子伊織と出会った武蔵は、なぜかその地に腰を落ち着け、百姓仕事に熱中し始めるのだった。丸一年の間、村人たちと共に飢饉に耐え、土を相手に汗を流す武蔵。いつしか、自由に動かなかったはずの右足にも回復の兆しが見え始めていた。
休載期間
本作は、2015年時点で18年に及ぶ長期連載作品だが、途中3度に渡って長期休載されている(2004年からは約1年間、2010年末から約1年半、さらに2014年初頭より1年間)。特に2010年からの2度目の休載は、2010年年頭に作者井上雄彦自身が、「バガボンド」は今年で終わらせる]と宣言していたこともあって、多くの読者を驚かせた。再開後の2012年には、休載期間中の井上の動向を追った書籍(後述の『空白』)が発表され、その中で作者自らが「終わり時を逃したかもしれない」という旨の自省とも迷いともとれる発言を残したことでも話題となった。
表現上の特徴
本作の描画表現は非常に写実的であり、キャラクターの表情や肉体に漫画的なディフォルメが為されることは皆無ではないが非常に少ない。また、会話シーンはもとより剣戟などのアクションシーンであっても、動きを表現する効果線の使用は極端に控えめとなっている。
また単行本14巻以降(前述のあらすじでは小次郎編以降)は、ペンではなく筆によって描かれており、それ以前とは明らかに描線が異なる。
特殊設定
本作は吉川英治による大衆小説「宮本武蔵」を原作としているが、同小説をそのままコミカライズしたものではなく、井上雄彦による独自の設定・解釈が為されている。まず、キャラクター面では、原作に登場した武蔵の姉が存在しない、小次郎が生来の聾唖者である、といった違いがある。エピソード面でも、原作では宝蔵院胤舜と武蔵が闘うことがない、という点も大きな違いとなっている。
また、本作は全般として非常に現実性の高い歴史劇である一方で、死者の魂や内なる怪物といった非現実の存在が度々描写されている。それらの大半は、登場人物(主に武蔵)の内面や心理の表出と受け取ることが可能なものだが、中にはそれだけでは説明が付かないような動きを見せる者(おつうの前に姿を見せる植田良平の霊など)も登場する。しかし、それらはすべて登場人物の個人的体験として描写され、作品世界内に物理的な影響を及ぼすことはない。
派生作品
書籍
『WATER』:『バガボンド』のカラー原画集。
『墨』:『バガボンド』のモノクロ原画集。
『空白』:2010年から2012年に渡る『バガボンド』休載期間中の井上雄彦の活動を、インタビューを中心に綴った書籍。帯の記された言葉は「バガボンドはいかに描かれなかったか」。
DVD
『DROW』:『バガボンド』の制作過程を記録したDVD。
イベント
『井上雄彦 最後の漫画展』:2008年から2010年にかけて、東京、熊本、大阪、仙台の4都市で開催された井上雅彦の個展。『バガボンド』のエピローグともなり得る宮本武蔵の最期を描いた書下ろしの作品群(単行本等には未収録である)が展示された。
評価・受賞歴
2000年講談社漫画賞一般部門受賞。
2000年第4回文化庁メディア芸術祭マンガ部門受賞。
2002年手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞。
登場人物・キャラクター
宮本 武蔵 (みやもと むさし)
実在の剣豪宮本 武蔵がモデル。新免無二斎の子として作州(いまの岡山県)宮本村に生まれる。人と交わらず、父らに命を狙われ孤独であった。幼馴染の本位田 又八とともに関ヶ原の戦いに赴くも、戦いに敗れて落ち延びる。その後宮本村に帰り着くも、今度は村人たちに命を狙われる。 僧侶の沢庵宗彭と、又八の許嫁であるおつうによって命を救われた後は、名を宮本武蔵と改め天下無双を求めて修行の旅に出る。21歳の春、京都で吉岡伝七郎との戦いに引き分けると、宝蔵院胤舜や柳生四高弟らとの戦いを通じて成長。1年後、吉岡伝七郎と再戦し勝利するも、その後は吉岡一族との泥沼の戦いが続く。 辛くも勝利したが、瀕死の重傷を負い右脚が動かなくなってしまう。剣の道を見失い、農村に身を潜めて孤児伊織とともに田を耕す生活を送る。
佐々木 小次郎 (ささき こじろう)
実在の剣豪佐々木 小次郎がモデル。落城した越前北庄城(きたのしょうじょう)から、まだ赤子の時分に小舟で落ち延び、父佐々木 佐康(ささき すけやす)の師である鐘巻自斎のもとで剣術の達人へと成長する。生まれつき耳が聞こえない。後に伊藤一刀斎に師事し、「虎」と称される。 吉岡伝七郎らとの戦いを通じ、恐怖に対する鈍さを克服して、自分に欠けていた「臆病さ」を獲得する。自らを「巌流」と称する。関ヶ原の戦いにおいて、初めて宮本 武蔵と遭遇。京都では本阿弥光悦のもとに身を寄せ、本位田又八と出会った後に、武蔵と再会する。小倉細川家から剣術指南役として推挙され、豊前に渡る。 女好きである。
本位田 又八 (ほんいでん またはち)
宮本武蔵とは幼馴染で同い年。母はお杉だが、実際は妾の子。武蔵とともに村を出て関ヶ原の戦いに赴くが、落ち延びてお甲に助けられる。許嫁であるおつうを裏切り、お甲と結ばれ京都でヒモ同然の生活を送る。伏見で倒れていた草薙天鬼と遭遇し、佐々木小次郎の印可状を託される。 以後「小次郎」の名を騙るようになるが、次第にその名の大きさに怯えるようになる。その後本物の佐々木小次郎と出会い、以降は彼と行動をともにする。吉岡一族との戦いで瀕死となった武蔵を救ったのも彼であった。嘘で塗り固めた人生を悔い、母お杉とともに故郷に帰ることを決意。お杉を背負って京都を出る。 後年は武蔵と小次郎の逸話を伝える語り部となった。
沢庵 宗彭 (たくあん そうほう)
実在の人物沢庵宗彭がモデル。各国を放浪する僧侶。宮本村で殺されそうになっていた宮本武蔵を救い、生きる道を説き、おつうとともに逃げることを勧める。幼少期の佐々木小次郎にも会っており、剣で左腕を傷つけることで剣の恐ろしさを教えた。人脈が広く、ところどころで武蔵と遭遇し、道を説いている。
おつう
七宝寺で拾われた孤児で、お杉のもとで育てられる。本位田又八の許嫁だが、宮本武蔵に想いを寄せている。沢庵宗彭とともに武蔵を助け、宮本村を離れる。沢庵の勧めもあり、柳生石舟斎のもとで奉公する。武蔵と再会を果たした後は、彼を追って城太郎とともに旅に出る。
城太郎 (じょうたろう)
自らを宮本武蔵の弟子と称する少年。奉公先から「武蔵の弟子になれ」と追い出され、強引に武蔵の弟子となる。柳生との戦いの中で武蔵とはぐれてしまい、おつうとともに彼を追う旅に出る。
お杉 (おすぎ)
本位田又八の母。宮本武蔵らからは「おばば」と呼ばれる。又八とともに関ヶ原へ向かった武蔵を恨んでおり、「悪蔵」と呼ぶ。又八が生きていることを知り、京都へ向かう。その後武蔵とおつうがともに逃げたことを知り、二人を討つために旅に出る。病に侵されており、最後は又八に背負われながら息をひきとった。
新免 無二斎 (しんめん むにさい)
実在の人物新免無二がモデル。宮本武蔵の父。息子の才能を恐れ、世に天下無双は二人いらぬと武蔵を殺そうとする。十手術の達人でもあり、その手ほどきを受けた武蔵は自らの戦いの中で二刀流を編み出した。
辻風 黄平 (つじかぜ こうへい)
辻風典馬の弟。兄が宮本武蔵に殺された後、武蔵を殺そうとするが、それは仇討ちではなく、自らも兄を恨んでおり、先に兄を殺したことへの嫉妬であった。鎖鎌の達人だった盗賊宍戸梅軒を殺し、梅軒の名を名乗る。梅軒の遺児龍胆(りんどう)との共同生活の中で、自らも鎖鎌の技術を身につける。 武蔵との再戦では指を切り落とされた。顔には佐々木小次郎に斬られた傷がある。
吉岡 清十郎 (よしおか せいじゅうろう)
実在の人物吉岡直綱がモデル。剣術吉岡流の創始者吉岡拳法の長男で現吉岡流当主。奔放で酒と女好きな性格から評判は悪く、実力は弟吉岡伝七郎のほうが上だと噂されていた。朱美がお気に入りで店へよく足を運んでいた。伝七郎との決戦を控えていた宮本武蔵を襲撃するが、返り討ちに遭い死亡。 その噂は京都に広く伝わった。
吉岡 伝七郎 (よしおか でんしちろう)
実在の人物吉岡直重がモデル。剣術吉岡流の創始者吉岡拳法の次男で、吉岡清十郎の弟。真面目で愚直な性格ゆえに周囲からの人望は厚い。兄清十郎が当主に選ばれたことに反発。自分に足りないものを求め修行の旅へ。満月の浜辺で佐々木小次郎と戦い、非情さを身につける。宮本武蔵が道場に乗り込んできた際には互角に戦うが、道場が炎に包まれたため戦いは中断される。 1年後、武蔵との再戦に敗れて絶命した。
宝蔵院 胤舜 (ほうぞういん いんしゅん)
実在の人物胤舜がモデル。宝蔵院 胤栄が創始した槍術の二代目。幼名は慎之介。両親を浪人に殺され、槍術に没頭する。その強さゆえ周囲に敵がなく、「命のやりとり」を渇望している。精神的には幼さが残る。宮本武蔵の挑戦を一度は退けるも、再戦では敗れる。
宝蔵院 胤栄 (ほうぞういん いんえい)
実在の人物胤栄がモデル。奈良宝蔵院にて槍術を創始する。現在は引退の身。宝蔵院胤舜との戦いに敗れ逃亡した宮本武蔵を介抱する。自らの弟子である胤舜がまだ知らない「恐怖」を植え付けるために、武蔵に稽古をつける。
柳生四高弟 (やぎゅうよんこうてい)
剣術柳生新陰流の使い手たち。庄田喜左衛門(しょうだ きざえもん)、出淵孫兵衛(でぶち まごべえ)、村田与三(むらた よぞう)、木村助九郎(きむら すけくろう)の四人。宮本武蔵に1対4での戦いを挑まれるが、倒すことはできなかった。
柳生 石舟斎 (やぎゅう せきしゅうさい)
実在の人物柳生宗厳がモデル。剣術柳生新陰流の開祖。年老いて引退しており、弟子で孫の柳生兵庫助に自らの技を伝承しようとする。病で寝ているところを宮本武蔵に襲われるがはねのける。普段はおつうの世話を受けている。ひどく負けず嫌いな性格の持ち主。
辻風 典馬 (つじかぜ てんま)
300人の野武士を束ねるならず者集団辻風組の頭。お甲の夫(朱美の父)を殺した男で、お甲を自分の女にしようとするが、宮本武蔵によって殺される。弟辻風黄平をかわいがっていたが、弟はなつかず、逆に恨みを買っていた。
お甲 (おこう)
関ヶ原から逃げ延びた宮本武蔵と本位田又八を匿う。妖艶な仕草で二人を誘惑する。後に本位田又八と結ばれ、娘の朱美とともに京都へ。親子で商いをしながら、働こうとしない又八の生活を支えている。
朱美 (あけみ)
お甲の娘。お甲とともに京都で商売を営む。常連客である吉岡清十郎に気に入られている。清十郎の死後、宮本武蔵と吉岡一族の戦いを見届けるために武蔵を追う。戦い終わった武蔵の前に現れ、武蔵に短剣を突き刺した後、自分は清十郎の女だと打ち明け、崖から身を投げた。
植田 良平 (うえだ りょうへい)
剣術吉岡流の使い手で吉岡十剣と呼ばれる剣士たちの筆頭。もとは捨て子だったが吉岡拳法に拾われて養子となる。宮本武蔵に対して、佐々木小次郎を吉岡伝七郎の身代わりに戦わせようと画策するが、伝七郎の怒りを買い吉岡流を破門される。伝七郎の死後、彼の遺言により破門を解かれ吉岡流の当主に。 一門七十余名を率いて武蔵への復讐を試みるが、返り討ちに遭い死亡した。死後は幽霊となり、おつうの前に何度か現れた。
祇園 藤次 (ぎおん とうじ)
剣術吉岡流の使い手で吉岡十剣と呼ばれる剣士の一人。実力は高いが、天狗とも呼ばれる。自らを「吉岡の刺客」と自称し、宮本武蔵を倒すべく武者修行の旅に出る。吉岡清十郎が斬られた噂を聞きつけ京都に戻り、武蔵を襲撃するが返り討ちに遭う。
鐘巻 自斎 (かねまき じさい)
実在の人物鐘捲 自斎がモデル。佐々木小次郎の育ての親。剣術中条流の師範だったが弟子伊藤弥五郎に敗れ、生きる意味を失っていたところ、弟子佐々木佐康から赤ん坊の小次郎を託される。人と交わるのが苦手。村の長から不動幽月斎を斬ることを依頼され、引き受ける。小次郎が17歳のとき、印可状を書き草薙天鬼に託す。
伊藤 一刀斎 (いとう いっとうさい)
実在の人物伊東一刀斎がモデル。剣術一刀流の始祖。鐘巻自斎の弟子であったがわずか5年で師匠を超える技を身につけ、自らを伊藤一刀斎と名乗り、一刀流を創始する。後に鐘巻自斎から佐々木小次郎を託され、「わしになれ」と説く。後に宮本武蔵とも出会い、拳で気絶させた。
柳生 兵庫助 (やぎゅう ひょうごのすけ)
実在の人物柳生利厳がモデル。剣術柳生新陰流の開祖である柳生石舟斎の孫であり後継者。石舟斎の溺愛を受け、剣を振る姿は石舟斎の生き写しとも言われる。武者修行の旅を続けているが、帰郷した際に宮本武蔵と出会う。武蔵のことを自分に似ていると感じている。
草薙 天鬼 (くさなぎ てんき)
本名は「亀吉」。佐々木小次郎にとって初めての友人。村のガキ大将的な存在で、当初は耳の聞こえない小次郎をいじめていたが、その実力を認めて友人となり、鐘巻自斎に弟子入りする。父の腕を斬り落とした不動幽月斎を恨んでいる。師に託された印可状を小次郎に届けるべく旅に出る。
不動 幽月斎 (ふどう ゆうげつさい)
佐々木小次郎らが住む村に出没する謎の剣士。自らを不動明王の使いと称する。かつては村の守り神だったが、14歳になった娘をさらうなどの悪行で「疫病神」と呼ばれる。小次郎に腕を斬られた後、鐘巻自斎に斬られ絶命。
夢想 権之助 (むそう ごんのすけ)
自らを「兵法天下一」と名乗り、自分の流派を立ち上げる夢を掲げる剣士。もとは百姓の子。佐々木小次郎に戦いを挑むものの歯が立たず、伊藤一刀斎に弟子入りした。関ヶ原の戦いでは命を落としかけるが、宮本武蔵によって救われる。
定伊 (さだこれ)
関ヶ原の戦いで敗れた西軍の落ち武者。猪谷巨雲らとともに大坂を目指す途中に佐々木小次郎と出会う。万力鎖で小次郎と戦い、口の利けない小次郎と気持ちを通わせる。最後は戦いに敗れ、剣士としての死に場所を見つけて散る。
猪谷 巨雲 (いがや こうん)
関ヶ原の戦いで敗れた西軍の落ち武者。師である定伊から巨雲と名付けられる。「魔剣」の使い手。定伊を殺した佐々木小次郎に戦いを挑む。強い相手と戦い、成長することの喜びを感じるも、小次郎に敗れる。
本阿弥 光悦 (ほんあみ こうえつ)
実在の人物本阿弥光悦がモデル。刀研ぎを生業とする本阿弥家の九代目。宮本武蔵や佐々木小次郎を京都の屋敷に迎え入れ、二人を対面させた。現在は一線を退いているが、二人のために刀を研ぐ。
板倉 勝重 (いたくら かつしげ)
実在の人物板倉勝重がモデル。京都所司代。吉岡一族との死闘を繰り広げた宮本武蔵を罪人として捕える。彼の前で武蔵は、天下無双は陽炎であると語った。
小川 家直 (おがわ いえなお)
小倉細川家の剣術指南役。家老の岩間 角兵衛とともに京都の本阿弥光悦を訪れた際に佐々木小次郎と出会う。小次郎に勝負を挑むも、木の枝で倒されてしまう。自らは剣を置き、小次郎のために人生を費やすことを決意。小次郎を豊前に連れ帰り、後見人となった。
伊織 (いおり)
実在の人物で宮本武蔵の養子である宮本伊織がモデル。病死した父親の遺体を刀で斬ろうとしていたところを、放浪中の武蔵に見つかる。父が遺した土地を武蔵とともに耕す。
長岡 佐渡守 (ながおか さどのかみ)
実在の人物松井興長がモデル。豊前小倉藩細川家の家老。宮本武蔵の評判を聞き、細川家に迎えようと使者を送るも、武蔵は放浪に出ていた。その後、旅籠で偶然武蔵と遭遇。「助けてくれ」と頭を下げられる。
その他キーワード
天下無双 (てんかむそう)
『バガボンド』に登場する用語。この世に並ぶ者がいないほど優れた剣術を持つ者を指す言葉。宮本武蔵の父新免 無二斎は「天下無双」にとらわれるあまり、子の実力を恐れ刃を向けようとした。武蔵が追い求める理想像であるが、その姿は曖昧としている。後に武蔵は「天下無双は陽炎」と語った。
印可状 (いんかじょう)
『バガボンド』に登場する用語。一般的に、師匠がその道に熟達した弟子に対してお墨付きを与えるために作成した文書のこと。『バガボンド』においては、鐘巻自斎が弟子佐々木小次郎に向けて書いたもので、草薙天鬼に託され彼の手元に届けられるはずであった。しかし、京都で草薙天鬼が倒れているところを通りかかった本位田又八によって奪われてしまう。 以後、又八は「小次郎」の名を騙るようになる。
クレジット
- 原作
ベース
宮本武蔵
書誌情報
バガボンド 37巻 講談社〈モーニング KC〉
第1巻
(1999-03-22発行、 978-4063286199)
第2巻
(1999-03-22発行、 978-4063286205)
第3巻
(1999-07-21発行、 978-4063286441)
第4巻
(1999-10-22発行、 978-4063286588)
第5巻
(2000-01-21発行、 978-4063286724)
第6巻
(2000-04-19発行、 978-4063286854)
第7巻
(2000-07-20発行、 978-4063287028)
第8巻
(2000-10-23発行、 978-4063287202)
第9巻
(2001-02-23発行、 978-4063287363)
第10巻
(2001-05-23発行、 978-4063287554)
第11巻
(2001-08-23発行、 978-4063287639)
第12巻
(2001-11-22発行、 978-4063287790)
第13巻
(2002-03-21発行、 978-4063288049)
第14巻
(2002-06-21発行、 978-4063288230)
第15巻
(2002-10-23発行、 978-4063288506)
第16巻
(2003-02-21発行、 978-4063288711)
第17巻
(2003-06-21発行、 978-4063288919)
第18巻
(2003-11-19発行、 978-4063289169)
第19巻
(2004-03-20発行、 978-4063289459)
第20巻
(2004-07-22発行、 978-4063289701)
第21巻
(2005-09-18発行、 978-4063724646)
第22巻
(2006-02-22発行、 978-4063724974)
第23巻
(2006-06-23発行、 978-4063725261)
第24巻
(2006-10-23発行、 978-4063725537)
第25巻
(2007-03-23発行、 978-4063725827)
第26巻
(2007-07-23発行、 978-4063726121)
第27巻
(2007-11-29発行、 978-4063726404)
第28巻
(2008-05-23発行、 978-4063726855)
第29巻
(2008-11-28発行、 978-4063727500)
第30巻
(2009-05-28発行、 978-4063727951)
第31巻
(2009-09-03発行、 978-4063728279)
第32巻
(2010-01-15発行、 978-4063728668)
第33巻
(2010-05-27発行、 978-4063729030)
第34巻
(2012-10-23発行、 978-4063729474)
第35巻
(2013-04-23発行、 978-4063871951)
第36巻
(2013-10-23発行、 978-4063872613)
第37巻
(2014-07-23発行、 978-4063883404)