あらすじ
第1巻
中学3年生の女子、松本ユキオは、これまで学食のコックとして全国を渡り歩いてきたユキオの父の都合で、転校ばかりを繰り返していた。その甲斐あって、父親の夢であるレストランを建てる資金もようやく貯まり、以後は定住するために、新しい町へとやって来た。そして新しい学校への転校を迎えた日、学校に早く着き過ぎたユキオは、校庭で料理をしていた不思議な少年、高野晴矢と出会う。彼が作るオムレツを一口食べたユキオは、その不思議な美味しさと、ミステリアスな少年に心を奪われてしまう。 転校生として紹介されたユキオは、早速成瀬あゆみ、茶谷ゆーじと友達になり、新しい学校生活は順調な滑り出しを見せた。しかし、ここで1つの問題が発生する。この学校の学食は全自動の機械が調理したもので、どれも美味しくなかったのだ。これは、食べることが大好きなユキオにとって、このうえないストレスだった。ショックを受けるユキオの前に晴矢が姿を現し、朝とはうってかわって冷たい態度を取り、ユキオをますます落ち込ませる。 美味しくない学食のせいで、学校に行くことすら嫌になってしまったユキオの姿を見て、ユキオの父親は、もう一度学食のコックになることを決意。ユキオの学校へ直談判に行った結果、その条件として、全校生徒700人の舌を納得させる料理を作るよう求められる。この試験に対し、ユキオの父親は卵料理で受けて立つと宣言する。(メニュー1「天使のオムレツ」)
ユキオは、実家が農場を経営する金城寺緑子の協力を得て、大量の新鮮な卵を手に入れることに成功。相手の性格を知ると、その人の好きな食べ物がわかるというユキオの特技、そしてユキオの父親の料理の腕前により、生徒たちの舌を次々と満足させていく。しかし最後の1人を迎えたところで、ユキオの父親が疲労により倒れてしまう。くしくも最後の1人は晴矢であり、彼のための料理はユキオが作ることになってしまう。(メニュー2「イースターパーティー」)
ある日、ピクニックに行くことになったユキオは、クラスメイトたちとともに登山道の途中で、楽しいランチタイムを過ごしていた。その後、さらに頂上を目指して進もうとしたユキオたちだったが、体力のないメンバーが次々と脱落。頂上にたどり着けたのはユキオのみであった。そこでこの山にまつわる怪談を思い出したユキオは、怖くなって慌てて下山を開始し、その途中で道に迷っていた晴矢と合流。ほっとするユキオだったが、急に雨が降り出してしまう。雨宿りをしながら話をしているうちに、2人は次第に打ち解けていくのだった。(メニュー3「夢見るオニオングラタンスープ」)
退屈していたユキオはある日、校長先生の誕生パーティを企画する。同時に、勉強も運動も完璧で、いつもユキオを馬鹿にする晴矢の弱点を探っていた。そんな中、校長先生の誕生パーティでプリンを作ることに対して強固に反対する晴矢の姿を見て、ユキオは、晴矢がプリンのようなぷるるんとした形状を苦手としていることを知る。だが、ユキオはその秘密を誰にも言わず内緒にすると約束し、晴矢との距離をさらに縮めていく。(メニュー4「ヒミツのにんじんぷりん」)
夏休みになってからも、生徒たちはユキオの父親が経営する学食「パラダイス・カフェ」に毎日やって来ていた。しかし、あゆみだけは学校に姿を現さない。実はあゆみは深刻な虫歯を患っており、その治療のために入院していたのだった。あゆみを見舞ったユキオたちは、虫歯を憎む歯科医と出会い、あゆみの異常な食生活について説明を受ける。そして入院生活が耐えられないとあゆみに泣きつかれ、ユキオは一緒に入院することになってしまう。しかし、病院の食事でストレスのたまったユキオとあゆみは、新商品のアイスを買いに行くため、病院を脱走。その行動を歯科医は厳しくとがめるが、ユキオにその心ない態度を指摘された彼は少し反省し、3時のおやつだけは認めようと決める。(メニュー5「よいこのスイーツ」)
ある日、同じ町内のレストランの経営者たちが、「パラダイス・カフェ」に文句を言いにやって来た。美味しくて安価なこともあって「パラダイス・カフェ」の人気が高く、他のレストランの商売に影響が出ているのだという。本場フランスで修業をしてきたことが自慢の女シェフの料理を食べたユキオは、確かに美味であることは認めるが、食べ方にまでこだわりを押し付けてくる彼女のやり方に反発を覚える。にらみ合った2人は勢いから、「パラダイス・カフェ」の存続を賭けて料理対決をすることになるのだった。しかし、勝負の前日にユキオの父親が急性盲腸炎で倒れてしまい、絶体絶命の大ピンチを迎える。その様子を見た晴矢はいつものように憎まれ口を叩きながらも、ユキオの手伝いを始める。(メニュー6「優しいポタージュスープ 前編」)
第2巻
松本ユキオは高野晴矢の指導のもと、学食「パラダイス・カフェ」のピンチを聞いて駆けつけた友達と協力し、夜を徹して料理を行う。彼女たちが必死で力を合わせて完成したのは、結局素人料理に過ぎなかったが、相手に喜んでもらいたいという気持ちを込めたもてなしで、どうにか女シェフを満足させることに成功。その後、オコジョのミューとともに校庭で過ごしていた晴矢に、ユキオは無事に「パラダイス・カフェ」を存続させられることを報告する。その時の晴矢の笑顔を見て、ユキオはこれまで味わったことがない感情に胸がときめくのを感じるのだった。(メニュー7「優しいポタージュスープ 後編」)
晴矢への想いを意識するようになったユキオは、彼の一番好きな食べ物は何かということが気になって仕方がない。どうにも眠れないある夜、ユキオは納屋で、亡くなった母親が自分と同じ年齢の時に書き残していたレシピを見つける。そこに「カレの心をとりこにするパンプキンパイ」の項目を見つけたユキオは、晴矢にこのパンプキンパイを食べさせようと考えるが、相変わらずの料理オンチなため失敗してばかり。そんな彼女を晴矢はいつものようにからかうが、今日に限って様子のおかしいユキオは、泣いて飛び出してしまうのだった。ユキオを探し出して素直に謝る晴矢に対し、ユキオは彼の一番好きな食べ物を聞き、それを作るため料理を教えて欲しいと頼む。笑顔で承諾する晴矢を見て、彼に対する自分の気持ちが初めての恋心であることを、ユキオはようやく自覚する。(メニュー8「恋のトリコのパンプキンパイ」)
晴矢による個人料理レッスンが始まったものの、それは当初ユキオが思い描いていた甘いものではなかった。しかし厳しく叱咤されながらも、ユキオは料理している晴矢のカッコイイ姿を見てはうっとりしていた。そんな中、正月を迎えるたユキオは、晴矢の実家である東京のマンションを訪ねる。だが、そこでユキオを冷たく出迎えた晴矢の母親、高野むらさきから、晴矢がパリにしばらく留学することになり、すでに空港に向かっていることを知らされる。慌てて空港に駆けつけたものの、ギリギリで間に合わずに号泣するユキオに対し、突然姿を現したむらさきはレシピ本を投げつけ、その本に載っているレシピをすべてマスターするまでは、ユキオを晴矢の相手として認められない、と宣言するのだった。(メニュー9「デットヒート おせちレース」)
むらさきから受け取ったレシピ本には、100通りのレシピが、易しいものから難しいものまで順番に載っていた。そして、最後のページの一番難しい料理をクリアすれば、最高の料理人になれるという。むらさきの挑戦的な態度に闘志を燃やしたユキオは、レシピ本に載っていたチョコレートケーキを作り、バレンタインのプレゼントとして、パリにいる晴矢に届けに行くことを決心する。後日、パリに渡ったユキオは、曲がり角で男性にぶつかり、せっかく持って行ったケーキを落としてしまう。しかし、そのぶつかった男性、ジャンのおかげでケーキを作り直すことが出来て一安心。その後、晴矢の留学先の料理学校に潜入したユキオは、念願の晴矢との再会を果たしたものの、晴矢の戸惑うような反応を見て、言いたいこととは反対の憎まれ口を叩いてしまう。そこへ先ほどのジャンが登場し、晴矢に抱きつく。実は彼は、晴矢の父親だったのだ。(メニュー10「ハートのチョコレートケーキ」)
有名フランス料理店でシェフを務めるジャンの料理をごちそうになりながら、ユキオは高野家の家庭の事情を聞かされる。なんとかして晴矢の力になりたいと考えたユキオは、日本に帰国し、むらさきから受け取ったレシピ本に載っていた、ちらしずしを作ろうと考える。高野家を招待して家族に仲直りして欲しいと考えたのだが、晴矢からおせっかいだと責められてしまう。また、難しいちらしずしの料理工程に悩むユキオだったが、こっそり厨房に忍び込んだ晴矢の協力により、無事にちらしずしを作り上げることに成功。むらさきもジャンもその味を認め、また意地を張っていたむらさきも、両親の不仲を気に病んでいた晴矢の気持ちに気づいて、反省するのだった。(メニュー11「ちらしずしだよ 全員集合」)
ユキオの弟のタッちゃんが、幼稚園に入園することになった。しかし早くに母親を亡くし、引っ越しばかりを繰り返してきたせいか、タッちゃんは4歳ながらに大人びており、幼稚園で周囲の子供たちと馴染むことができないでいた。子供扱いされることに嫌気がさしてしまったタッちゃんは、お子様ランチの中に入っているケチャップ味のスパゲッティを嫌い、反抗的な態度を取るようになっていた。これをきっかけに、クラス全員から責められて孤立してしまったタッちゃんは、幼稚園を脱走して自宅のユキオのもとへ走る。しかしユキオはキッチンで晴矢と仲良く料理をしていた。また居場所がなくなったと感じたタッちゃんは、せっかくユキオが作ってくれたスパゲッティを投げつけてしまう。タッちゃんの事情を幼稚園からの電話で聞いたユキオは、タッちゃんの口に合うようなスパゲッティを作ろうと苦心を重ねるのだった。(メニュー12「タッちゃん 涙のカルボナーラ」)
第3巻
年齢を重ねながらも、美しさやスタイルを保ち続ける高野むらさきは、実は徹底した自己管理の鬼だった。完璧主義のむらさきは、自分とは対照的な松本ユキオのことを、天敵としてライバル視していた。息子の高野晴矢がユキオを気に入っていることに対する嫉妬心もあり、むらさきは彼女のことをより詳しく知ろうと、自分の出演しているTV番組の新しいレギュラーにユキオを推薦。ユキオを徹底的に自信喪失させてやろうと考えたむらさきの計画通り、番組におけるパフェの料理対決で、ユキオは圧倒的に負け続ける。しかし、毎日くじけずに新しい案を考えるユキオは、次第に視聴者たちの支持を得ていく。(メニュー13「ゲキレツ! パフェ勝負」)
パフェ対決でむらさきに勝って以来、ユキオはさらに料理が上手くなるように頑張っていた。むらさきにもらったレシピ本は、すでに後半のレシピに差し掛かっており、料理も難しいものが増えていく。ユキオは、「フランスの親子どん」という難しい料理をクリアできたら、晴矢に告白しようと心に決める。だがそんな中、ユキオの父から、友人が開いたレストランで働くためにウィーンに引っ越す、という事実を告げられる。心の中では晴矢と別れたくない気持ちでいっぱいだが、レストランを開くという夢を一度はあきらめて学食「パラダイス・カフェ」を開いてくれた父親のために、ユキオもウィーンに行くことを決意する。(メニュー14「アツイきずなの親子どんなのだ」)
ウィーンに行く前、最後に晴矢を好きな食べ物でもてなそうと決めたユキオは、誰もいない「パラダイス・カフェ」に彼を招待する。ユキオが次々と出していく心を込めて作った料理を、すべて残さず食べながらも、晴矢はユキオになにも感想を伝えない。泣きながら彼の一番好きなものを問うユキオに、晴矢は一番好きなのはユキオだと告げる。ユキオもまた、晴矢への想いを伝え、お互いに離れたくないという気持ちを確認し合う。その瞬間、隠れていた友達全員とユキオの父親が現れ、ウィーン行きは勘違いであり、新しいレストランは隣町にできるという事実を聞かされる。拍子抜けしながらも、晴矢ともこの町とも離れずに済んだことに、ユキオは幸せを感じるのだった。(メニュー15「シアワセのクロカンブッシュ」)
登場人物・キャラクター
松本 ユキオ (まつもと ゆきお)
中学3年生の女子。年齢は14歳。ユキオの父の仕事の都合で全国を渡り歩き、転校ばかりしている。順応性が高く、誰とでもすぐに仲良くなれる性格で、天真爛漫で元気いっぱいな楽天家。一方で、まったく料理ができないことと、生まれてから一度も恋をしたことがないのがコンプレックス。相手の性格を知ると、その人がどんな食べ物が好きなのかを知ることができる特技を持っている。 思いつきで行動することも多いが、失敗したら素直に反省する愛すべき人物。
高野 晴矢 (たかの はるや)
中学3年生の男子。松本ユキオのクラスメイト。通称「ハル」。クラスメイトとはほとんど交流を持たず、ペットであるオコジョのミューとだけ心を通わせている。授業をよくサボるわりに成績は良く、運動神経にも優れている。相当な料理の腕の持ち主ながら、プリンやゼリーなどのプルプルしたものが苦手、という意外な弱点がある。ユキオのことが気に入っているのだが素直になれず、いつも冷たい態度を取ってしまう。
ユキオの父 (ゆきおのちち)
松本ユキオの父親。年齢は45歳。コックとして全国の中学校の学食を渡り歩き、生徒や先生の食への意識を改革してきた。ユキオの母にはすでに先立たれており、男手一つで子供2人を育てている。自分のレストランを開くのが夢で、これまで働いて貯めた金を開店資金にするつもりだった。しかし、ユキオが、通っている中学校の学食が不味いことに悩んでいる姿を見て、学校内に学食の形で理想のレストランである「パラダイス・カフェ」を開くことを決意する。 語尾に「なのだ」と付ける特徴的な話し方をする。
タッちゃん
松本ユキオの弟。年齢は4歳。なぜか関西弁でしゃべり、大人びた話し方をする。保育園を中退し、ユキオの中学校に入りびたっては、学食「パラダイス・カフェ」でユキオの父の作った料理を食べている。春になって幼稚園に入園することになったが、大人びているので周囲の園児や先生と合わず、どこかアウトロー気味に振る舞っている。 子供扱いされるのが嫌で、甘ったるいケチャップ味のスパゲティを嫌っている。
成瀬 あゆみ (なるせ あゆみ)
中学3年生の女子。松本ユキオのクラスメイト。偏食で肉も魚も食べられず、嫌いな食べ物が多い。反面、お菓子は大好きで、お菓子だけ食べて生活している。お菓子を食べ過ぎて虫歯になってしまい、歯の治療院に入院。甘いもの断ちを強要されたが、それでもお菓子を食べるのはやめられずにいる。
茶谷 ゆーじ (ちゃや ゆーじ)
中学3年生の男子。松本ユキオのクラスメイトで、クラス委員長を務めている。地味でおとなしく、目立たないタイプの少年。料理が得意で、いつも横暴な姉たちのために食事を作っているものの感謝されず、報われていない。高野晴矢と仲が良い。
金城寺 緑子 (きんじょうじ みどりこ)
中学3年生の女子。学校一の金持ちのお嬢様で、馬に乗って登校している。実家の「金城寺農場」では、馬やニワトリを大量に飼っている。金の使い方が田舎の成金っぽく、趣味も統一感がない。
歯科医 (しかい)
虫歯になった成瀬あゆみが、強制入院させられた歯科医院の若い男性医師。イケメンだが融通が利かない性格で、あゆみたち入院患者には甘いものを一切取らせず、咀嚼と歯磨きを徹底教育した。配慮が足りずに、過去に何人ものパートナーとの別れを経験している。
女シェフ (おんなしぇふ)
学食「パラダイス・カフェ」の近くにあるフランス料理店で、オーナーシェフを務める女性。かつてフランスに留学して料理を学んだことがある。安くて美味しいという「パラダイス・カフェ」の評判を聞いて、自分の商売に影響していることを腹立たしく思っている。どちらが美味しいか、名誉をかけてユキオの父と料理対決をすることになった。 ところが、ユキオの父親が急に倒れたため、代わりに松本ユキオと対戦することになる。フランス料理へのこだわりは強く、プライドも高いが、美味しいものを素直に美味しいと認められる度量の持ち主。
高野 むらさき (たかの むらさき)
高野晴矢の母親。年齢は33歳。容姿端麗ながら性格がきつく、口調も高飛車。「バイオレット高野」の芸名で、雑誌の連載やTVのレギュラーを抱える売れっ子フードコーディネーター。松本ユキオの晴矢に対する想いを知り、ユキオを試そうと、100通りのレシピが載っている料理本を渡す。そして、最後のページに載っている一番難しい料理をマスターするように命令した。 美貌やプロポーションを保つため自己管理が徹底しており、完璧主義なところがある。
ジャン
高野晴矢の父親。フランス人。フランスで有名なレストランのシェフをしている。能天気な性格で、それが妻である高野むらさきの勘に触ってしまい、別居するはめになった。料理を本当に美味しそうに食べる松本ユキオのことを気に入っている。
伊島 (いじま)
松本ユキオのクラスの担任を務める男性教師。フランスかぶれだが、伊島自身はフランスに一度も行ったことがない。そのため、フランスへ行ったことがあるユキオやユキオの父に対してコンプレックスを抱いている。権力に弱く、大勢に流されるタイプ。
ユキオの母 (ゆきおのはは)
松本ユキオ、タッちゃんの母親。ユキオの父の妻だったが、既に故人。ユキオが幼い頃、「この世で一番すてきなことは、お料理することと愛されること」という言葉を残し、それがユキオの心のルーツになっている。
ミュー
高野晴矢が飼っている白いオコジョ。晴矢の作る料理が大好物。もともと、晴矢が北海道に住んでいた時に飼い始めており、寒い地域の方が体質に合っているのだが、彼が引っ越すのに合わせて体質を変えた。
場所
パラダイス・カフェ (ぱらだいすかふぇ)
松本ユキオの中学校に、ユキオの父が開いた学食。登校時間から下校時間までオープンしており、昼食の他にティータイムもある。メニューは生徒の好きなものを書いたアンケートにより決定されている。シェフであるユキオの父がヒマな時は、メニューにない料理を作ってくれることもあり、年間行事に合わせて特別メニューも提供される。 木の大きなテーブルや、オープンテラスがあったりと、「楽園(パラダイス)」のような「食堂(カフェ)」という意味からその名前が付けられた。