フェンリル

フェンリル

12世紀のモンゴルを舞台に、勇者のイェスゲイの息子、テムジンが、謎の美女、フェンリルと出会い、大陸全土を巻きこむ戦乱の人生を歩む。キヤト氏族の族長となったテムジンが、フェンリルやキヤト氏族の仲間たち、そして、ケレイト族や蛮戸兵など、クセのある人々をまとめ上げて大陸統一のために戦う姿を描いた歴史大河ロマン。テムジンやイェスゲイ、モンゴルの名だたる英雄たちのほか、源義経や弁慶など、平安時代の日本人たちも多数登場する。「月刊ビッグガンガン」2018 Vol.09から連載の作品。

正式名称
フェンリル
ふりがな
ふぇんりる
原作者
赤松 中学
作者
ジャンル
東洋史
関連商品
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あらすじ

第1巻

勇者のイェスゲイの息子であるテムジンは、キヤト氏族の長の座をかけて、義理の弟であるベクテルと決闘を行うが、すんでの差で敗れてしまう。新たな長の座に就いたベクテルは、イェスゲイが戦いに明け暮れたために死を迎えたことを教訓として、不戦を是とするよう掟を改める。一方、テムジンは薬の素材を取るためにハルフフ湖へと足を運ぶが、足を滑らせて湖の中に転落してしまう。泳ぐことができないテムジンはそのまま沈んでいくが、そこに謎の美女、フェンリルが現れ、テムジンの命を救う。異なる星からやってきたと主張するフェンリルを伴ってキヤト氏族の本拠地に戻ったテムジンは、ベクテルが定めた不戦の掟に従おうと考えるが、フェンリルから服従による生存は緩慢な死となんら変わらないと諭され、彼女の語る大陸統一を成し遂げ、争いのない世界を作り上げることに興味を抱く。そんな中、タイチュウト族ビルジが急襲し、ベクテルを殺害。さらに、テムジンもビルジの手下が放った矢に貫かれ、ハルフフ湖の底へと沈むが、フェンリルによって命を与えられて蘇り、新たに目覚めた力をもってビルジを打ち倒す。ベクテルに代わって新たにキヤト氏族の長となったテムジンは、改めて大陸統一の志のもとに動き出し、その足掛かりとして、ケレイト族の長であるトオリル・カンのもとを訪れる。イェスゲイの旧友であったトオリルは、テムジンの器を試すために質問を投げかけるが、彼の想像を絶する答えを提示したテムジンを認め、キヤト氏族とケレイト族はひとまずの協力関係を結ぶ。一方、日本の壇ノ浦では、源義経能登守平教を下し、天下取りに王手をかけていた。義経の妾であるは、さらなる闘争を望む彼に対して、モンゴル大陸を巡る新たな戦いに身を投じるように誘いかける。静もフェンリルと同様に、異なる星から訪れたという異種生命体だったのである。

第2巻

トオリル・カンに認められたことでケレイト族の協力を取りつけたテムジンは、曲者ぞろいとして恐れられている蛮戸兵を率いるように求められる。その一方で、タイチュウト族の族長であるタルグタイは、腕利きの将軍であるビルジが倒されたことに激高し、さらにその下手人がかつて因縁のあるイェスゲイの息子であることを知り、強い敵意を募らせる。欲の深いタルグタイは、テムジンを殺害したうえで、敵対するほかの種族のすべてを滅ぼし、自らとタイチュウト族がモンゴル全土を支配するという欲望のままに動き出す。一方でテムジンは、蛮戸兵の住処へと足を運び、彼らの強烈な個性に面食らいつつも、共に戦うことですべての存在と分かり合うための一歩にしたいことを語り、彼らに気に入られる。そして、フェンリルの助言に従って、ベルグタイカサルなどのキヤト氏族の仲間に、数人の蛮戸兵やタイチュウト族からの逃亡者であるソルカンなど、わずかな手勢を率いてタイチュウト族の砦を攻略することを宣言する。一行は、難攻不落の砦を落とすべく、自力で崖を上りつつ、敵の総大将であるタルグタイを仕留めるべく動き出す。途中で、ソルカンの子供たちであるチンベチウランと遭遇したり、タルグタイの用心棒であるラキザミの襲撃を受けるなどのアクシデントに見舞われるが、一人の仲間も欠けることなく崖を越えて、いよいよタルグタイの待ち受ける本命へとたどり着く。テムジンは、イェスゲイを裏切った挙句、暴虐の果てに多くの人々を苦しめてきたタルグタイを打倒する決意を改めて固め、単身で彼のもとに切り込んでいくのだった。

登場人物・キャラクター

テムジン

キヤト氏族の族長であったイェスゲイの息子。仲間を思いやる優しさと、自分を曲げずに他者と分かり合うことを望む誠実さを持ち併せた青年で、婚約者のボルテや臣下のカサルなど、多くの人々から慕われている。イェスゲイが倒れたことをきっかけに、新たな族長の座を賭けてベクテルと模擬戦を行うが、あと一歩のところで敗れたためにキヤト氏族の族長に就任できず、ベクテルの補佐として活動することを余儀なくされる。その中で、傷薬の材料となる魚を採取するためにハルフフ湖に赴いたところ、誤って転落してしまい命の危機にさらされるが、湖の底に眠っていたフェンリルに助けられ、共に住処へと帰還する。さらに、住処がタイチュウト族の襲撃を受け、その中でベクテルがビルジに倒された挙句、テムジン自身もビルジの部下が放った矢を受けて再度ハルフフ湖に沈むが、フェンリルから命を与えられて蘇り、相手の動きを先読みするなどの特殊な力を得る。その力をもってビルジを倒すと、倒されたベクテルに代わってキヤト氏族の族長となる。フェンリルの助言に従ってモンゴル大陸の全土を統一するという志を掲げると、イェスゲイのかつての仲間であったトオリル・カンに接触することでケレイト族を味方につけ、彼らから蛮戸兵の指揮を任せられるなど、着実に力をつけていく。戦いを好まないながらも、他者に従属することをよしとせず、従来の価値観にとらわれない広い視野を持つことから、フェンリルからは「テムジンと組めばすべてうまくいく」と言われるなど、高い評価を受けるに至った。実在の人物、チンギス・カンがモデル。

フェンリル

ハルフフ湖の奥深くに沈んでいた謎の女性。「地を揺らすもの」の異名を持つ。髪の毛が狼の耳のように盛り上がっており、感情に応じて動くことがある。容姿端麗で、テムジンやボルテをはじめ、さまざまな人たちから注目されているが、フェンリル自身はこれは仮の姿であり、本体は青い狼のような姿であると語る。気が強く、自信に満ちた態度や堂々とした立ち振る舞いを見せる。また、地球の成り立ちを知っていたり、異なる星からやってきたことを明かすなど、12世紀の時代では明らかに理解できないような高度な知識を持ち合わせている。好奇心旺盛な性格で、世界の行く末に興味を抱いている。事故によってハルフフ湖に沈んだテムジンを助ける代わりに、地上に姿を現すための取引を交わした。そして、キヤト氏族の一員として迎え入れられ、争いのない世界を実現させるために世界のすべてを統一するように助言し、今後のテムジンの目的を明確なものとする。さらに、タイチュウト族の攻撃で致命傷を負ったテムジンに、自らの生命力を分け与え、蘇生させた。テムジンの指導者としての力量や視野の広さに一目置いており、彼こそが世界を変える器になり得ると考えている。なお、自分の正体を隠す意図は薄いものの、テムジンをはじめ誰にも理解できないため、問題にはされていない。

ボルテ

キヤト氏族の少女。テムジンの婚約者で、彼とは相思相愛の間柄。芯の強い性格で、テムジンのことを誰よりも信頼している。また優しいところや、時として強靭な意志を見せる点など、テムジンの長所をよく見抜いており、彼の婚約者となったことを幸せに思っている。フェンリルが現れてからは、彼女の人間離れした美しさや、底の知れない雰囲気などに不信感を抱くと共に、彼女にテムジンを取られはしないかとやきもきすることが多くなり、彼女によくちょっかいをかけるようになる。一方で、フェンリルからは、物怖じせずに率直な発言をすることなどから、困惑されつつも興味を抱かれている。

ベクテル

キヤト氏族の族長であったイェスゲイの息子。ただし妾の子であるため、テムジンとは腹違いの兄弟にあたる。恵まれた体格ながらも穏やかな性格で、テムジンとの仲も良好。イェスゲイの没後、キヤト氏族の族長の座を巡ってテムジンと模擬戦を行い、これに勝利したことで族長に就任する。イェスゲイが倒れたのは、戦いに明け暮れたためだと考えており、キヤト氏族は戦いをしないという掟を新たに定める。タイチュウト族によって攻められた際にも、戦う気はないことを主張しようとしたが、聞く耳を持たないビルジから急襲される。身体能力の高さには一目置かれていたものの、戦うことを放棄する姿勢に関してはカサルやフェンリルなどからは、「家畜の自由」などと揶揄され、批判されていた。

ビルジ

タイチュウト族きっての勇将と称えられている男性。粗野かつ好戦的な性格の持ち主。キヤト氏族との戦いを望み、部下たちを率いて彼らの居住地を襲撃する。その際に、キヤト氏族の新たな族長となったベクテルから、戦いを望んでいないことを聞かされるが、まったく聞く耳を持つことなく、ベクテルを一刀のもとに切り伏せる。さらに、駆け付けたテムジンから、あえて攻めさせたスキを突いて本陣を攻撃する計画を立てていたと告げられる。しかしこれをブラフと断じると、手勢を率いてテムジンを追いかけ、ハルフフ湖にたどり着いたところで部下に弓で彼を狙撃させる。そして、キヤト氏族の中核となる二人を倒したと考え、意気揚々とタイチュウト族の居住地に帰還しようとするが、フェンリルに命を与えられて蘇ったテムジンから、逆に襲撃を受ける。

カサル

キヤト氏族の青年。かつて頭部を負傷し、つねに包帯を巻いている。冷静沈着な性格で、テムジンやボルテなどから信頼されているが、時として大胆な行動を取る。また、ベルグタイとは対称的な性格をしているが、互いに仲はよく、いっしょに行動することも多い。一方でベクテルのことは、不戦の掟を定めたことから快く思っておらず、彼が死亡した際には「最初から死んでいたも同然」と、辛辣な評価を下す。弓の扱いが非常に優れており、タイチュウト族との戦いでは、崖を進みながらタルグタイが雇ったラキザミと互いに撃ち合い、彼女を撤退させるという活躍を見せた。

ベルグタイ

キヤト氏族の青年。適当かつ陽気な性格で、軽口を叩くことが多い。カサルとは正反対の性格をしているが仲がよく、行動を共にすることが多い。想外の出来事にうろたえるなど常識的なところがあり、蛮戸兵から会うなり破天荒な行動を見せられた時は、慌てふためくような一面も見せた。当初はテムジンのことを軽く見ており、イェスゲイの才覚を受け継いでいるのはベクテルであると信じて疑わなかった。しかし、テムジンがフェンリルと邂逅したうえ、キヤト氏族の族長に上り詰めると、彼の高い志を驚きつつも認めるようになる。タイチュウト族に対しては恨みを募らせており、ケレイト族の捕虜となったソルカンを目の当たりにした時は、殺意を露わにする。

イェスゲイ

先代のキヤト氏族の族長の男性。テムジンとベクテルの父親。勇者(バアトル)の異名で呼ばれており、勇猛果敢な戦いぶりから敵味方を問わず尊敬や畏怖を集めていた。また、フェンリルと出会ってからのテムジンと同様に、争いのない世界を作り上げるために、モンゴルの大地を統一しようと志しており、トオリル・カンやタルグタイとも協力関係を結んでいた。しかし、「タタール族」と呼ばれる部族の騙し討ちによって毒殺されたことで、トオリル・カンやタルグタイから離れられた。特にタルグタイからは、いずれ自らの手で決着を付けようとしたところが騙し討ちによって倒れたことに、今でも強い憤りの感情を抱かれている。この影響から、キヤト氏族も一時は存続を危ぶまれるほど弱体化したが、テムジンが遺志を継いだことで部族は復活の兆しを見せつつある。実在の人物、イェスゲイがモデル。

トオリル・カン

ケレイト族の族長を務める老年の男性。飄々としたつかみどころのない性格で、一度眠ると数か月眠り続けるという奇妙な体質や、人を煙に巻くような言動を多用するため真意が測りづらいことなどから、ケレイト族の臣下たちからも苦手意識を抱かれることが少なくない。一方で、先を見通したかのような発言や、状況を効果的に俯瞰する視野の広さなどから、族長としては強く信頼されている。かつてイェスゲイと共に戦っており、いずれは彼がモンゴルを制する器になり得ると期待していた。しかし、敵対していた「タタール族」と呼ばれる種族の騙し討ちによってイェスゲイが命を落としたことで、彼のもとを離れた。しかし、タイチュウト族からの攻撃を受けたテムジンから助力を請われた際に、「『馬』と『女』のいずれを差し出すか」と問いかけたところ、彼から思いもよらない回答を得たことで、彼に力を貸してタイチュウト族と戦うことを決意した。フェンリルからは、人間としては特異な習性を持つことから注目されており、トオリル・カン自身も、祖父からフェンリルの「地を揺らすもの」という異名を聞かされていたことから、彼女が実在していたことに強く驚いていた。また、世界が球体であることを薄々感づいており、フェンリルの発言からそのことを確信する。実在の人物、オン・カンがモデル。

源 義経

12世紀の日本を二分していた勢力の一つとされる「源氏」と呼ばれる勢力の将軍を務める青年。妾である静や、腹心の部下である弁慶、与一とつねに行動を共にしており、戦場においてもそれは例外ではない。国を統一することより、新しい戦に身を投じることに興味を抱く好戦的な性格をしている。また、苛烈と用心深さを併せ持ち、戦になった時は決して容赦をすることを知らず、不安要素となる存在は須(すべから)く排除する。その一方で、トオリル・カンなどと同様に、地面が球体であることを薄々感づいているなど並みならぬ洞察力を誇り、静から強い信頼と愛情を寄せられている。壇ノ浦の戦いでは、部下と共に船の上を駆け抜けて、能登守平教との一騎打ちを制して源氏を勝利へと導く。そして、勝利を喜ぶ前に戦いが終わってしまうことを嘆いていたが、そんな折に静からモンゴル大陸の存在と、それを取り巻く現状を知らされると、新たにモンゴルを手中に収めるべく「倭寇」と呼ばれる作戦を計画する。実在の人物、源義経がモデル。

源義経の妾。表情が非常に豊かな女性で、感情が昂ぶると蠱惑(こわく)的な様子を見せる。また、髪の毛が狼の耳のように盛り上がっていたり、地球やその環境について深い知識を持っているなど、フェンリルとの共通点が多く、彼女と同じように地球外から訪れた異種生命体であることが示唆されている。ただし、彼女とは反対に戦乱を望んでいる節があり、地球のすべての生命が尽きるほどの激しい戦が発生することを望む。そのため、聡明かつ好戦的である義経に対して、強い信頼と愛情を寄せている。また、義経と共に壇ノ浦の戦いに出た際には、襲い掛かってきた兵士に向けてバリアのような空間を展開して、瞬時に粉々にしてしまうなど、静自身の戦闘能力も群を抜いている。壇ノ浦の戦いを制しつつも、勝利を喜ぶ前に戦が終わることを嘆く義経に改めて惚れ直し、新たな戦場としてモンゴル大陸へ出征することを提案する。実在の人物、静御前がモデル。

弁慶

源義経の部下の男性。白い頭巾をかぶり、大柄な体型に身の丈ほどもある長刀を携え、義経や与一に匹敵する戦闘力を誇る。義経に対して強い忠誠心を抱いているが、彼の破天荒かつ好戦的な性格にはやや難儀しており、危険な目に遭わないかとつねに心配している。壇ノ浦の戦いでは、義経の傍らで大立ち回りを演じ、能登守平教の部下たちを斬り捨てていく。その際に、火をかけられた船から漂う煙に視界を奪われそうになった挙句、義経が単身で敵に向かっていく様子を見て慌てるが、彼がみごとに能登守平教を討ち取ったところを目の当たりにすると、これを好機とみなして彼に続き、平氏の軍勢を蹴散らした。戦が終わると、次なる戦いを求める義経や静に巻き込まれる形で、彼らや与一と共にモンゴル大陸へと向かうことになる。実在の人物、武蔵坊弁慶がモデル。

与一

源義経の部下の少年。年若く小柄ながら弓の名手で、義経や弁慶のかたわらで戦う。義経に対する忠誠心が非常に強いがゆえに、自分を顧みず積極的に前線に出たがる義経を案じており、できることならあまり突出しないように願っている。壇ノ浦の戦いでは、複数の敵を射抜き、義経たちが船に乗り込むスキを作り上げる。そして、前線に切り込んだ義経に対して不意打ちを試みた敵兵を撃ち貫き、義経の危機を救った。そして戦が終わると、次なる戦いを求める義経や静に巻き込まれる形で、彼らや弁慶と共にモンゴル大陸へと向かうことになる。実在の人物、那須与一がモデル。

能登守平教

壇ノ浦の戦いで源義経と敵対した将軍の男性。「王城一の強弓精兵」の異名を持ち、その通り名のごとく弓の扱いを得意とする。自軍の船を渡りながら迫って来る義経に対して名乗りを上げ、一騎打ちを迫ろうとする。しかし、そのあいだに拙速を尊ぶ義経に切り込まれた挙句、接近戦を強いられた。さらに、戦う際に名乗りを上げることを古臭いと罵られてしまう。実在の人物、平教経がモデル。

タルグタイ

タイチュウト族の族長を務めている男性。数多の存在に憎しみを抱き、暴虐のままに滅ぼしてきたことから「憎悪の王」の異名を持つ。大柄な体格に見合った怪力の持ち主で、片腕だけで人を殺害することも可能。極めて粗野かつ短気な性格で、少しでも機嫌を損ねたら、その相手を容赦なく殺害するほどの残虐性を持つ。このような性格から、多くの人々を無差別に殺害しており、その生き残りである蛮戸兵たちに恨まれている。かつてはイェスゲイのもとについており、いつか自分の手で殺害しようと思いつつも、表向きは従って見せていた。しかし、戦いを挑む前にイェスゲイが毒殺されてしまったため、不本意な形でライバルを失ったことに憤り、キヤト氏族を離れてタイチュウト族だけの部隊を作り上げた。そのため、現在でもイェスゲイの名前すら聞くことを嫌っており、キヤト氏族を滅ぼすために腹心の部下であるビルジを差し向ける。さらに、ビルジがイェスゲイの息子であるテムジンに返り討ちに遭うと、彼に対しても敵意を募らせるようになる。実在の人物、タルグタイ・キリルトクがモデル。

ソルカン

タイチュウト族の男性。チンベとチウランの父親。かつてはタルグタイに付き従っていたが、彼の残虐なやり口についていけず、単身で彼のもとを脱走する。このような境遇からタルグタイを否定しているものの、ほかの種族のことも嫌っており、特にキヤト氏族に対しては辛辣な言動を取ることも少なくない。また、タルグタイ以上の強者など存在しないと考え、半ばあきらめたような態度を取っている。脱走したのちにケレイト族と遭遇し、彼らの捕虜となる。この時点ですでに自分の命はないものと考え、初対面のテムジンを散々に罵倒する。しかし、テムジンが「暴力で暴力に対抗すれば、タルグタイと同じになってしまう」と諭され、反発しながらも興味を持ち始める。解放のための条件として、テムジンが率いる部隊の案内役を任せられ、彼らと共に戦ううちにわずかながら認めるそぶりを見せ始める。しかし、偶然ながらチンベやチウランを発見して、動揺してしまう。

ラキザミ

「メルキト族」と呼ばれる少数民族の少女。タルグタイから用心棒として雇われている。寡黙な性格で、感情を表すことが滅多にない。天才的な弓の腕を持ち、走り回る鹿に跨(またが)りながら、遠くの吊り橋を支えるロープを射抜くことができる。テムジンと、彼が率いる部隊がタイチュウト族の砦を急襲した際に、迎撃のために出撃する。そして、彼らが渡ろうとする吊り橋を落として、崩落に巻き込まれて崖にしがみつくテムジンを仕留めようと彼に狙いを定める。しかし、放った矢をカサルの撃った矢によって迎撃され、さらに追撃を受けたことで手傷を負い、撤退を余儀なくされる。

ツェツェグ

蛮戸兵に所属している少女。平時はつねに気だるげな様子を見せているが、一度戦場に出ると刀を巧みに使いこなし、実に20騎の軍勢を一人で蹴散らすほどの戦闘能力を発揮する。自分たちの土地を手に入れることを夢見ているが、長い放浪生活の中でその希望もやがて失いかけていき、キリルト族に保護された時は、その境遇もあって紹介されたテムジンたちに対して投げやりな態度を見せていた。しかし、テムジンが蛮戸兵を人間として扱う様子を見せたことからわずかに態度を軟化させ、さらにフェンリルから、テムジンと共にタイチュウト族を倒した暁には、土地や家畜などを自由に与えられる権利を得られることを知ると、がぜんやる気を漲らせた。そして、ザアンたちと共にテムジンのもとにつき、タイチュウト族の本拠地である砦に急襲を仕掛けた。道中では部隊の最前線に立ち、鮮やかな手並みで並み居る敵たちを薙(な)ぎ払っていき、テムジンたちから大いに頼られた。

ザアン

蛮戸兵に所属している男性。「トンカイト族」と呼ばれる少数民族の出身。動物の頭蓋骨を加工した兜をつねにかぶっているなど、ほかの二人と比較してもより蛮族に近い出で立ちをしており、しゃべり方も独特。ただし、ほかの蛮戸兵と比べると穏やかな性格をしている。イェスゲイのことを知っており、彼の息子であるというテムジンに対して、いち早く興味を抱く。さらにフェンリルから、テムジンと共に戦えば土地や家畜を得られると聞いた時は、真っ先に羊が欲しいと宣言する。一見粗野ながらも軍略に詳しく、かつて部族と離れる前に砦を攻めた経験を持つ。タイチュウト族との戦いでは、硬い石で作られた棍棒を手に、立ちはだかる敵兵を次々となぎ倒して、テムジンがタルグタイへ通じる道を切り開いた。

チンベ

タイチュウト族の少女。ソルカンの娘で、チウランは弟にあたる。ソルカンからは死んだものと思われていたが、実際は生き延びており、砦の中で労働に従事させられていた。幼いチウランを守りつつ健気に働いていたが、その最中にテムジンたちの案内をしていたソルカンと偶然ながら再会し、彼と共に身を隠す場所を見つけるために動き始める。

チウラン

タイチュウト族の少年。ソルカンの息子で、チンベは姉にあたる。幼い身ながら、砦の中で労働に従事させられており、チンベに守られながら必死に境遇に耐えてきた。ソルカンを死んだものと思っており、ソルカンからもチンベ共々すでに死んだものと思われていた。しかし、テムジンたちと共に砦に戻ってきたソルカンと偶然にも再会する。

集団・組織

キヤト氏族

モンゴル大陸に暮らす部族の一つ。かつては勇者と名高いイェスゲイによって率いられており、タイチュウト族のタルグタイやケレイト族のトオリル・カンも協力者として迎えていた。しかし、イェスゲイが暗殺されると、タルグタイやトオリル・カンが離れたうえに、タルグタイが人や家畜を奪っていったため、目に見えて弱体化してしまう。さらに、イェスゲイの次の族長に就任したベクテルが不戦の掟を定めたことで、ほかの種族に従属せざるを得なくなる状況にまで追い込まれる。しかし、フェンリルの協力を得たテムジンがベクテルの次の族長に就任すると、ケレイト族や彼らに保護されていた蛮戸兵を仲間に引き入れ、タイチュウト族とも渡り合えるようになる。

タイチュウト族

モンゴル大陸に暮らす部族の一つ。かつてはキヤト氏族の一派だったが、イェスゲイが暗殺されたことでタルグタイが離反し、その際にタルグタイが奪っていった人や家畜を利用することで新たに興された。タルグタイがイェスゲイを強く嫌っていることから、やがてキヤト氏族を殲滅するために将軍のビルジ率いる軍が派遣される。しかし、そのことごとくがテムジンたちによって討ち果たされると、本腰を入れてキヤト氏族と対決する流れが組まれた。現在のタイチュウト族は、タルグタイの独裁により、彼の不興を買った者は容赦なく処刑されるほか、幼い子供にまで労働を強いるなど、劣悪な環境になり果てている。そのため、ソルカンのように脱走を企てる者もいる。

ケレイト族

モンゴル大陸に暮らす部族の一つ。トオリル・カンによって率いられている。かつてはイェスゲイとトオリル・カンが懇意にしていたこともあってキヤト氏族との関係も良好だった。しかし、イェスゲイが亡くなると同盟関係も解消され、新たにキヤト氏族の族長になったテムジンが助力を求めに言った際も、断るどころかその場で捕らえてしまう。しかし、目を覚ましたトオリル・カンがテムジンに謎を投げかけ、それに対してテムジンが納得のいく回答を出したためにトオリル・カンから認められ、晴れて再び同盟が結ばれることとなった。さらに、タイチュウト族を打倒するために保護した蛮戸兵を貸し与えるなど、テムジンの活躍に期待している様子を見せる。

蛮戸兵

長いあいだ、岩山や緩衝地帯を流れ歩いている蛮族の集団。過酷な環境や度重なる戦闘によって数を減らしていき、現在はツェツェグやザアンを含めて三人しか存在しない。血みどろの戦場の中で倒れていたところをケレイト族に保護されたが、彼らに恩義を感じることもなく、彼らから離れてひっそりと暮らしていることから、ケレイト族からも人間扱いされず、露骨に侮蔑されている。しかしその戦闘力は群を抜いており、三人だけで60騎の軍勢と渡り合えるといわれている。ケレイト族の協力を取り付けたテムジンが、タイチュウト族の砦を攻略する際に部下として配属されるが、当初はテムジンを認めようとはせず、カサルやベルグタイなどからも恐れられた。しかし、テムジンは当初から蛮戸兵を人間として扱い、さらに彼らこそが求めていた仲間であると公言したため、彼を一目置くようになる。タイチュウト族との戦いでは、圧倒的に数で勝る敵兵たちを次々となぎ倒し、テムジンはもとより、カサルやベルグタイからも徐々に頼りにされるようになっていく。

場所

ハルフフ湖

モンゴル大陸に広がる湖の一つ。キヤト氏族の居住地の近くに存在する。深く澄んだ湖で、薬の材料となる魚が生息している。ある日、テムジンが魚の採取に訪れたところ、足を踏み外して湖の中に落下し、あわや命の危険にさらされる。しかし、湖の奥深くに封じられていたフェンリルを解放したことでテムジンが救われ、このことが二人が出会い、共に世界を変えるために手を携えるきっかけとなった。のちにビルジが率いるタイチュウト族が、キヤト氏族を襲撃した際に戦場となる。

クレジット

原作

赤松 中学

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