あらすじ
第1巻
クロとセンは旅の途中に訪れた農家で、なかよくなった村娘のローレッタたちの手伝いをしていた。そんな中、二人は鍛冶屋の息子のヒースと出会う。博識なヒースと意気投合したセンは、彼が行っている小麦畑の異変の調査を手伝い始める。小麦畑では小麦が黒く染まるという謎の現象が起きており、村人は頭を悩ませていた。現象を調べていくうちに、小麦畑の周囲に幻の蝶のヘレルシロアゲハが飛んでいることをつき止める。作物と伝染病と蝶、これらの関係性からセンは自身の過去に思いをはせる。通常の方法では殺すことができない蝶だったが、センはかつて月の光に消えていくのを目撃しており、そのことを提案。夜、小麦畑で蝶を集めた一行は、月明かりのもとで光り輝くように消えていく蝶を見送る。そしてセンは喜ぶヒースの姿に、かつての自分が成し遂げられなかったもう一つの結末を見ることができたと、満足感を覚えるのだった。(第5話。ほか、6エピソード収録)
関連作品
本作『棺担ぎのクロ。~追憶旅話~』は、同じく芳文社より発刊されているきゆづきさとこの『棺担ぎのクロ。~懐中旅話~』全7巻を原作としている。『棺担ぎのクロ。~懐中旅話~』では、数奇な運命で結ばれたクロとセンの旅がどのように始まり、何を目的としているのかが描かれている。
登場人物・キャラクター
クロ
黒ずくめの格好をした旅人の少女。大きな丸眼鏡をかけて黒い帽子をかぶり、身の丈より大きな棺を担いでいる。現在はコウモリのセンと旅をしており、よく憎まれ口をたたき合う関係。かつてはニジュクやサンジュと共に旅していた時期もあり、二人からは「クロちゃ」と呼ばれて懐かれていた。クールな性格で、シニカルな言動が多い。
セン
クロと共に旅をするコウモリ。人語をしゃべり、クロのツッコミ役を担うことが多い。博学で植物や昆虫関係の知識が豊富なため、似たような気質を持つヒースともすぐに意気投合した。実はコウモリに姿を変えられているが人間で、以前は1年に一度だけ赤紫の月の夜のみ元の姿に戻れた。現在は月が増えたことで、月明かりの強い日であれば元に戻れるようになっている。故郷はやせ細った北の大地で、父親はその地の領主をしていた。ある日、商人から手に入れたジャガイモの種イモで、民の食糧事情を改良すべく奔走。その努力が実り、一時は領地の食糧事情は大幅に改善したが、ジャガイモ栽培を始めた翌々年にジャガイモの花が黒く変色する謎の伝染病が流行することとなる。これによって大量の死者を出し、最後はジャガイモの栽培が禁止されてしまった。この出来事はセンの心の深い部分でわだかまりとなっていたが、ヒースと共に小麦畑の異変の原因を突き止め、解決したことで積年の悩みから解放される。
ニジュク
猫の耳と尻尾を持つ少女で、サンジュとは双子の関係。明るく無邪気な性格で、サンジュとよくいっしょに遊んでいる。クロに懐いており、彼女と旅をしていたが、現在はサンジュと二人で旅をしている。サンジュと遊んでいるうちに迷子になることも多く、お互いを見つけるのに3日かかることもざらにある。そのため、迷子になった際の決まり事を二人でいろいろ決めている。
サンジュ
猫の耳と尻尾を持つ少女で、ニジュクとは双子の関係。明るく無邪気な性格で、ニジュクとよくいっしょに遊んでいる。クロに懐いており、彼女と旅をしていたが、現在はニジュクと二人で旅をしている。ニジュクと遊んでいるうちに迷子になることも多く、お互いを見つけるのに3日かかることもざらにある。そのため、迷子になった際の決まり事を二人でいろいろ決めている。
ヒース
鍛冶屋の息子で、内気な性格の男性。前髪を目が隠れるまで伸ばしている。幼なじみで農家のローレッタの役に立ちたい一念で、農業の知識を身につけた。現在はローレッタのために養蜂箱を作ったりもしている。ふだんはおどおどした態度で、人ともまともに話せないが、センとは植物や虫の話で意気投合し、初対面ながらすぐなかよくなった。村の小麦畑で起きている異常を調べており、センたちと協力することで原因がヘレルシロアゲハにあることをつき止める。その後はセンからのアドバイスでヘレルシロアゲハを月明かりのもとへ誘き寄せて退治し、小麦畑を救うことに成功する。
ローレッタ
農家の娘で、活発な性格の少女。長く伸ばした髪を動きやすいように結って夜会巻にしている。ヒースとは幼なじみの関係で、何かと内気でおとなしい彼の面倒を見ている。一方で、農業に詳しく虫や植物の知識に長けたヒースに農場のことをよく相談しており、彼に養蜂箱を作ってもらったりしている。
アト
40年前に亡くなった悲恋の王女。世間的には、王と妃と兄弟が殺されたために君主となったが政に疎く、豪華絢爛な建物を作らせたりと失策続き。最後は周辺国家が戦争状態となったところで隣国の王子と婚約したが、結婚前日に落馬して死亡し、国もすべて奪われた不幸なお姫様として話が伝わっている。しかし、真実は自分が王の器でないと悟った姫が、豪華な建物を建てることで職人を育てて自立させ、戦争が始まると周辺国家で最も慈悲深い王を見定め、彼にあとを託して落馬を装って自殺したというものだった。また異国出身の片腕の騎士とひそかに恋に落ちており、両親が形見としていた二つの指輪のうち一つを騎士に渡していた。
司書 (ししょ)
盤上遊戯が好きな王様の住む王城で働いている、司書の青年。王様に対戦を挑まれた旅人をひそかに逃がしたり、旅人に対戦のアドバイスを与えることを役割としている。実は司書のふりをしているが王子である。父親が盤上遊戯を異国人としかしないため、旅人にアドバイスする形で代理対決していたのが真相だった。王様と盤上遊戯で対戦することになったクロにもアドバイスをしようとするが、逆に彼女の自由な発想を見て司書自身の視野の狭さを自覚することとなる。
その他キーワード
ヘレルシロアゲハ
昆虫愛好家の中では「幻の蝶」ともいわれる希少な蝶。そのあまりの希少性から、取り引き価格は不明ともいわれている。生態は謎が多く、卵や幼虫の姿も確認されていない。ローレッタたちの暮らす村の小麦畑にたむろしていた。その正体は「あいつ」と呼ばれるものの欠片であり、黒い呪いを振りまく存在。ただし、呪いを振りまくには条件があり、ローレッタたちの村では条件に合致した麦を汚染していた。ふつうの方法では殺すことができず、壊れると消え去り、違う場所で再生するという特性を持つ。捕まるとわざと壊れて逃げ去るため、これが「幻の蝶」といわれる所以となっている。センの故郷にも現れ、ジャガイモを黒く呪い、多くの犠牲者を出した。弱点は強い月の光で、満月の光を浴びると光り輝きながら消え、二度と復活しない完全な死を迎える。