あらすじ
婚約破棄を決意するユリアスとルドニークの出会い
恋愛にはいっさい興味がなく、お金儲けのことしか頭にない令嬢のユリアス・ノッガーは、今後のビジネスのことを考えて公爵家の長男であるラモール・キュリオンと婚約していた。しかし、最初からお互いに愛情がなかったこともあり、ラモールは平民出身で天真爛漫な性格のジュリー・バナッシュに心を奪われてしまう。ラモールはジュリーを利用してユリアスをいじめる悪役に仕立て上げ、自分に有利な条件で婚約破棄をしようと画策していた。その企みを知ったユリアスは、ラモールの罠にはまらないように準備し、多額の慰謝料を請求して逆襲しようと思いつく。それには確固たる浮気の証拠が必要だと考えたユリアスは、ラモールとジュリーが逢引きしている場所を突き止めようとする。その場所は、国の第一王子のルドニーク・レイノ・パラシオが日課の昼寝をする場所の近くで、偶然顔を合わせたユリアスは、初めてルドニークと言葉を交わす。王子である自分になんの関心も示さず、慰謝料のために証拠をどん欲に集め続けるユリアスの姿に興味を引かれたルドニークは、協力する代わりに友達になってほしいと彼女に申し出る。
現実になっていく人気少女漫画の世界
ユリアス・ノッガーは、少女漫画家のマチルダの編集者としても活動していた。ユリアスはマチルダの人気作である少女漫画「ドキドキ☆貴族になっても頑張っちゃうもんね!」のヒロインの境遇がジュリー・バナッシュに酷似しており、愛読している彼女の中では預言書のような扱いになっていることに気づく。作中ではジュリーにあたるヒロインをいじめ、学園を追放される役柄にあたるユリアスは、このままでは自分の立場が悪くなるのではないかと不安を覚える。そしてルドニーク・レイノ・パラシオは、作者のマチルダが「バンシー」という予言を得意とする一族の出身であることを知り、作中で描かれた内容の一部が、現実に起こっているのではないかと推測する。こうしてユリアスは、作品に描かれた出来事が現実にならないように注意しながら、ラモール・キュリオンと婚約破棄をして、多額の慰謝料を手に入れる目標を新たに掲げる。しかし、自身がメインヒロインであることを疑わないジュリーは、作中で最も好きなキャラクターにあたるルドニークと結ばれるため、ユリアスを悪役令嬢にでっち上げる。
浮気疑惑をかけられたユリアス
ユリアス・ノッガーやルドニーク・レイノ・パラシオ、ローランド・ノッガー、マイガーは協力して、人気少女漫画「ドキドキ☆貴族になっても頑張っちゃうもんね!」と同じストーリー展開にならないように画策する。しかし、それに負けじとジュリー・バナッシュも、強引な手段で物語を進めていく。そんな中、ユリアスとルドニークが草むらで寝転がって会話をしている姿を何者かに目撃されてしまう。すぐに一部の生徒のあいだでは「ルドニークがユリアスの腕枕をしていた」「婚約者がいるはずのユリアスが浮気をしている」という噂が流れる。このままではラモール・キュリオンから慰謝料を奪うどころか、自らがお金を支払う立場になってしまうユリアスだったが、金儲けへとつながるある手段を思いつく。
婚約破棄の舞台へと
学園ではダンスパーティーが催され、そこに国王と王妃も出席することになる。これまでコツコツとラモール・キュリオンの浮気の証拠を集めていたユリアス・ノッガーは、ついに正式な婚約解消と慰謝料を請求する舞台が用意されたと奮い立つ。一方のジュリー・バナッシュは、少女漫画「ドキドキ☆貴族になっても頑張っちゃうもんね!」の最新刊で、自らを投影しているメインヒロインとルドニーク・レイノ・パラシオがモデルになっているキャラクターが結ばれないことを知る。そして、ジュリーは物語に登場したダンスパーティーには参加せず、運命を変えようと行動を起こす。
ユリアスのルドニークへの思い
ユリアス・ノッガーは無事にラモール・キュリオンと婚約破棄を果たし、傷心を理由により一層ビジネスに力を入れるようになる。そんな中、ユリアスは王妃から茶会に招待され、王妃から隣国の王子であるジュフアや、その妹のランフアとムーランを紹介される。ユリアスは隣国との貿易取引を強化するため、ルドニーク・レイノ・パラシオといっしょに、ランフアが所持する船を見学に向かう。そこでユリアスはジュフアに対して、自らが婚約者に裏切られ、関係を破棄をしたばかりの身であることを打ち明ける。ジュフアの国ではどのような事情であっても婚約破棄をされた女性は社交界を追放になり、貴族の娘としての立場を失うことになる。そのため、必死になって男性に取り入る女性が多い中、凛とした立ち居振る舞いで自らのビジネスを語るユリアスがまぶしく見え、ジュフアはもっと彼女と親しくなりたいと願うようになる。その一方でユリアスは、ルドニークと過ごしている時間を楽しいと感じている自分に気づき、マチルダからも恋をしているのではないかと指摘を受ける。
関連作品
原作小説
本作『勿論、慰謝料請求いたします!』は、soyの小説『勿論、慰謝料請求いたします!』を原作としている。原作小説版はsoyが小説家になろうに投稿したもので、KADOKAWA「ビーズログ文庫」より刊行されている。
登場人物・キャラクター
ユリアス・ノッガー
ノッガー伯爵家に生まれた令嬢で、何よりもお金儲けを好む少女。まだ学生で若い身分ながらも商才を発揮し、物販や出版など多方面で莫大な利益を得ている。特に経営しているアパレルショップ「アリアド」では、若い女性向けのオリジナル商品をプロデュースして大ヒットを収めている。ビジネスをするうえで公爵の爵位に魅力を感じ、愛情がないながらもラモール・キュリオンと婚約したが、彼がジュリー・バナッシュに思いを寄せるようになり、自分を悪者に仕立て上げて婚約破棄しようとしていることを知る。ラモールに逆襲するため、莫大な慰謝料を取って婚約破棄する計画を立てる。その計画の途中で、親しくなった第一王子のルドニーク・レイノ・パラシオに好意を抱くようになる。
ルドニーク・レイノ・パラシオ
ユリアス・ノッガーが暮らす国の第一王子で、彼女と同じ学園に通っている少年。ひょんなことからラモール・キュリオンとジュリー・バナッシュの浮気の証拠集めをするユリアスに協力する形となり、そのまま親しくなる。ほかの令嬢と違って、お金儲けや自身の野望に忠実なユリアスに興味を抱いている。第一王子でありながらも気取ったところがなく、親しみやすい性格の持ち主。人気少女漫画「ドキドキ☆貴族になっても頑張っちゃうもんね!」に登場するキャラクターのモデルであり、作中では圧倒的な人気を博している。爽やかなルックスの美男子で、ジュリー・バナッシュ、ランフアから好意を寄せられている。
ラモール・キュリオン
キュリオン公爵家の長男で、ユリアス・ノッガーと同じ学園に通っている少年。数年前にユリアスと政略結婚することになり、お互いに成人するまで婚約状態にある。しかし、ジュリー・バナッシュを本気で好きになったことから、ユリアスと婚約破棄することを決意。その際に自分に有利になるよう、ユリアスをジュリーをいじめる悪役に仕立て上げることを思いつく。物事を深く考えることが苦手な軽薄なタイプ。ユリアスとの政略結婚に応じたのは、ノッガー伯爵家の財産目当てで、ユリアスにはまったく愛情を感じていない。キュリオン公爵家が財政的にひっ迫していることを知っているが、体裁を保つために散財を繰り返している。人気少女漫画「ドキドキ☆貴族になっても頑張っちゃうもんね!」に登場するキャラクターのモデルであり、ルドニーク・レイノ・パラシオをモデルとするキャラクターと、メインヒロインを巡ってライバル関係になる役柄。
マイガー
マチルダの息子で、ユリアス・ノッガーが経営しているアパレルショップ「アリアド」の店員を務める青年。ルドニーク・レイノ・パラシオの幼なじみで、以前は彼の従者として過ごしていたものの、周囲からのやっかみに遭い、ケガを負わされたことで王室を去る。その際に助けてくれたユリアスに一目ぼれし、それからは彼女に尽くしている。ユリアスにいじめられたい欲望を抱くいわゆるドMであり、その言動から彼女に引かれることも多い。すぐに泣いたり、動揺して失敗を繰り返す天然ボケだったりするところがある。しかし、見た目が美しく整っていることもあり、若い女性客が多い「アリアド」では人気の店員となっている。
ジュリー・バナッシュ
下町の庶民として生まれ育った少女。のちに伯爵家の隠し子であることが発覚し、以降バナッシュ家で暮らしている。ユリアス・ノッガーと同じ学園に通うようになり、知り合いになる。かわいらしい顔立ちで、明るく天真爛漫な性格をしているため、プライドが高い貴族のお嬢様たちの相手に疲れた男性から人気があり、ラモール・キュリオンも魅了している。ヒロインが自分の境遇と酷似している人気少女漫画「ドキドキ☆貴族になっても頑張っちゃうもんね!」を予言書だと信じており、ヒロインと同じ振る舞いをして、最終的にルドニーク・レイノ・パラシオと結ばれることを夢見ている。「ドキドキ☆貴族になっても頑張っちゃうもんね!」の中ではユリアスが自らをいじめる悪役令嬢のため、彼女からは特に何もされていないものの、陥れようとする言動を取ることが多い。
ローランド・ノッガー
ノッガー伯爵家に生まれた青年で、ユリアス・ノッガーの兄。ユリアスを溺愛しており、彼女のやることはすべて肯定的にとらえている。そのため、ユリアスを傷つける者はたとえ国の第一王子であるルドニーク・レイノ・パラシオであっても許さない。長髪の知的な雰囲気を漂わせた美男子で、家督を継ぐ立場にあるが、気取らず気さくな性格の持ち主。似た性格のルドニークとは、身分の差を超えた友情を築いている。人気少女漫画「ドキドキ☆貴族になっても頑張っちゃうもんね!」に登場するキャラクターのモデルではあるが、ユリアスが作者のマチルダに送ったアドバイスにより、早々にヒロインを巡る争いから離脱している。マニカ・パルブール、ムーランから好意を抱かれている。
ルナール
ユリアス・ノッガーと同じ学園に通っている少女。ワイン醸造商家に生まれ、裕福な家庭に育つ。平民出身のため、貴族のユリアスにあこがれている。流行に敏感なお洒落な人物として学園でも有名で、伯爵令嬢のユリアスから物販で儲けるためのヒントになるのではないかと、何かと目をかけられている。将来はデザイナーとなり、ユリアスが経営するアパレルショップ「アリアド」にルナール自身がデザインした品物を置くことを夢見ている。同じ平民出身のグリンティアと親しくしている。
グリンティア
ユリアス・ノッガーと同じ学園に通っている少女。貿易船の副船長の娘で、庶民のあいだで流行している事柄に非常に詳しい。そのため、ユリアスからは金儲けのヒントになる情報を握っていると思われており、何かと目をかけられている。スタイル抜群の大人びた容姿の持ち主で、学園でも有名な存在。同じ平民出身のルナールと親しくしている。
マニカ・パルブール
ユリアス・ノッガーと同じ学園に通うパルブール侯爵家の令嬢。国内では知らない者がいないとされる、名門貴族の出身の少女。婚約者がいるはずのユリアス・ノッガーが、ルドニーク・レイノ・パラシオと禁断の恋をしているという噂を聞き、心配してユリアスに声をかけてきたことで知り合いになる。非常にかわいらしい顔立ちで、やや天然ボケな一面を持つ親しみやすい性格をしている。しぐさや表情も愛らしく、ユリアスから溺愛されている。ルドニークとは幼なじみで、周囲からは婚約者候補として認識されているが、マニカ・パルブール自身にはそのつもりはない。ユリアスの兄であるローランド・ノッガーに思いを寄せている。
ジュフア
ユリアス・ノッガーが暮らす隣国・ラオフォン国の王子。妹にランフアとムーランがいる。王妃から誘われた茶会に、ユリアスも招待されたことで知り合いになる。妹以外の女性が苦手で、最初はユリアスに対しても冷たい態度を取っていた。しかし、ユリアスがラモール・キュリオンに浮気されて婚約破棄したと聞き、以降ユリアスのことを優しく気遣うようになる。友達付き合いをしている隣国の第一王子であるルドニーク・レイノ・パラシオからは、「ジフ」と呼ばれている。
ランフア
ユリアス・ノッガーが暮らす隣国・ラオフォン国の姫。兄にジュフア、妹にムーランがいる。ムーランとの姉妹関係はあまり良好とはいえない。王妃から誘われた茶会に、ユリアスも招待されたことで知り合いになる。非常にプライドが高く、ランフア自身が王族であることに誇りを持っている。そのため、伯爵家の令嬢であるユリアスに対しては身分が違うと、冷たい態度で接している。さらにルドニーク・レイノ・パラシオに好意を抱いているため、ユリアスは彼を巡るライバルの一人だと認識しており、何かと突っかかることが多い。
ムーラン
ユリアス・ノッガーが暮らす隣国・ラオフォン国の姫。兄にジュフア、姉にランフアがいる。ランフアとの姉妹関係はあまり良好とはいえない。王妃から誘われた茶会に、ユリアスも招待されたことで知り合いになる。ローランド・ノッガーに恋しており、ユリアスがローランドの妹であることを理解しつつも、彼女に対して嫉妬心をあらわにすることが多い。
マチルダ
元王室付きの乳母の女性で、マイガーの母親。現在は王室から出て、ユリアス・ノッガーが経営しているアパレルショップ「アリアド」の二階に住んでいる。年齢は65歳。ユリアスと気が合うことから、実業家として活動している彼女のビジネスを手伝うことも多い。少女漫画家で、ユリアスを編集者に迎えて執筆している「ドキドキ☆貴族になっても頑張っちゃうもんね!」が、若者を中心に大ヒットしている。「バンシー」という予言を得意とする一族の出身で、そのため「ドキドキ☆貴族になっても頑張っちゃうもんね!」の世界の一部が現実のものになっていく。高齢ではあるものの見た目は若々しく、抜群のスタイルを誇る。その一方で子供っぽい一面も持ち合わせており、年下のユリアスからもかわいいと評されている。幼い頃、ルドニーク・レイノ・パラシオの乳母をしていた経験を持つ。
王妃 (おうひ)
ユリアス・ノッガーが暮らす国の王妃を務める女性。ルドニーク・レイノ・パラシオの母親で、非常に肝が据わっている。優れた商才を発揮しているユリアスのことを気に入り、ルドニークと婚約することを願っている。それをユリアスが回避しようとしていることにも気づいており、金儲けにつながりそうな話を餌に、彼女をコントロールしようとしている策士でもある。そのため、ユリアスからは苦手意識を抱かれている。
その他キーワード
ドキドキ☆貴族になっても頑張っちゃうもんね! (どきどき きぞくになってもがんばっちゃうもんね)
編集者にユリアス・ノッガーを迎え、マチルダが執筆している少女漫画。ストーリーの面白さだけでなく、実際の貴族たちをモデルにしているのではないかという噂もあり、若者を中心に大ヒットしている。平民として生まれ育った少女がひょんなことから貴族になって生活するストーリーで、自分の境遇と重なるジュリー・バナッシュにとっては預言書のような存在。そのため、ジュリーは現実世界でも、漫画に登場するヒロインのように振る舞っている。なぜジュリーの境遇がヒロインと酷似しているのかは、作者のマチルダが「バンシー」という予言を得意とする一族の出身であることから、ストーリーの一部が現実のものになっていると推測されている。ファンたちからは「ドキ☆がん」と呼ばれている。
クレジット
- 原作
-
soy
- キャラクター原案
-
m/g
書誌情報
勿論、慰謝料請求いたします! 7巻 双葉社〈モンスターコミックスf〉
第6巻
(2023-04-10発行、 978-4575416220)
第7巻
(2024-10-10発行、 978-4575419887)