戦乱の火種を抱え、改易も相次いだ江戸時代の黎明(れいめい)期
慶長19年(西暦1614年)は、徳川秀忠が将軍を務めた江戸時代の黎明期にあたる。幕府を開いた家康はまだ健在で、政宗のような戦国時代に活躍した傑物も現役で活躍している。一方、大坂城には豊臣秀頼が居城し、関ヶ原の戦いで西軍に味方して浪人に落ちぶれた武士たちが不穏な動きを見せていた。また、東軍に味方した大名家も改易に追い込まれ、特に世嗣断絶は多くの大名家を悩ませていた。
高条家は北条家をモデルとした架空の大名家
小太郎が仕える高条家は、北条家をモデルとした架空の大名家であり、その歩んできた歴史もモデルに準じている。また、主要な家臣にもモデルが存在し、たとえば小姓頭の九島綱成は北条綱成を、主席家老の松田秀憲は松田憲秀をもとにしており、モデルに近いポジションのキャラクターとして描かれている。主人公の小太郎については、上杉家の小島弥太郎と北条家の風魔小太郎の名前を組み合わせて創作されたキャラクターであることが、作中の幕間(まくあい)で説明されている。
作品の理解をうながすおまけ漫画「雑談のはじまり」
物語の幕間には、現代の学生が歴史を学ぶというコンセプトで描かれたおまけ漫画「雑談のはじまり」が挿入されており、武断派と文治派、幕藩体制、影武者、病鉢巻など多岐にわたり、その多くは本作の理解を深めるのに役立っている。また、政宗の奇行や井伊家の内紛といった逸話も紹介されている。
登場人物・キャラクター
小島 小太郎 (こじま こたろう)
総髪の小柄な体型をしている臆病な少年。年齢は14歳。会津上杉家に仕え、牢人に身を落とした小島小助の息子で、下町の長屋で母親と質素に暮らしている。幼なじみのおしんとは、立派な武士になった暁には夫婦になると約束した親しい間柄。剣術道場では腰抜けと馬鹿にされているが、母親の前では「道場一の剣士」と見栄を張っている。ある日、おしんから身売りが決まったと告げられ、駆け落ちを持ちかけられるも断ってしまう。しかし、母親から父親の形見の脇差を手渡され、武士として生きる覚悟を問われ、おしんのために戦うことを決意した。決死の覚悟でおしんの奪還を試みるも、追手に敗北して高屋城へ連行された。その後、おしんが母親の治療に必要な薬を得るために女を捨てる覚悟を固めたことを知り、おしん改め高条氏信に小姓として仕える道を選ぶ。高屋城で働くようになってからは、小姓頭の綱成の厳しさに怯(ひる)みながらも、剣術指南役の神後宗春を師と仰ぎ、ひたむきに鍛錬に励んでいる。
おしん
小太郎と夫婦の契りを交わした、気高く勇敢な少女。薄紅色の長髪で、身体は未発達ながらも、天女にたとえられるほど美しい。その正体は高屋城主、高条氏直の一人娘である「信姫」。下町の長屋で母親の看病をしながら暮らしていたが、世嗣断絶の危機に陥った高条家を存続させる切り札として連れ戻され、男装して新たな城主「高条氏信」として生きることになった。母親の治療に必要な薬と引き換えに殿様の役割を果たし、剣術の稽古では小太郎を凌ぐ猛々(たけだけ)しさを発揮する。弓馬も巧みで、雉(きじ)を射落とすまでに成長した。一方、筆や箸の扱いは苦手である。政務に関しても、主席家老の秀憲から「家臣をまとめる扇の要」であるように言い含められ、お飾りに甘んじている。氏信の性別は機密として扱われ、小姓として仕えるようになった小太郎と一部の重臣にしか知られていない。立派な武士に成長した小太郎との結婚を夢見ていたが、井伊直政の娘で二代将軍、秀忠の養女である清姫との縁談が決まってしまう。
書誌情報
嘘つきは殿様のはじまり 全5巻 小学館〈ゲッサン少年サンデーコミックス〉
第1巻
(2015-03-12発行、978-4091257956)
第2巻
(2015-09-11発行、978-4091263391)
第3巻
(2016-04-12発行、978-4091271983)
第4巻
(2016-09-12発行、978-4091273796)
第5巻
(2017-04-12発行、978-4091275974)







