概要・あらすじ
古代日本。とある南の島で、貧しい少女・壱与(いよ)は狂気となった祖母・照日女(てぃらひるめ)とともに暮らしていた。ある日、島に伊都国(いとこく)の第四皇子・狗智日子(くちひこ)がやってきた。実は日女は、大和連合に君臨する巫女王・照日女子(てぃらひみこ)の姉で、先代の巫女だという。壱与をかばうクロヲトコの鮪(シビ)、祖母の日女とともに、壱与は島を出て伊都国に連れていかれる。
そこは、政権争いの陰謀が渦巻く都だった。腹違いの兄弟同士で殺しあう、壮絶な跡継ぎ争いのコマとして使われ、壱与は翻弄される。そして、命の危険に会うたびに、壱与の巫女としての才能はどんどん開花していく。しかし、その能力は日女子にとって、憎むべき対象でしかなかった。
やがて争いは拡大していき、大和連合全体に飛び火していく。
登場人物・キャラクター
壱与 (いよ)
気の狂った祖母・照日女(てぃらひるめ)と2人で島で暮らしていた少女。時々、不思議なものが見えることがある。10歳の時に狗智日子(くちひこ)に伊都国(いとこく)まで連れていかれる。争いを嫌う、心優しい少女だが、先代の巫女だった日女の孫であり、巫女としての才能が垣間見られるため、権力争いのコマとして使われる。 幼い時、島の少年たちに集団で暴行されたことがあり、正式な巫女に就任するために必要な「処女」という資格はないが、その事実は狗智日子によって秘密にされている。
照 日女 (てぃら ひるめ)
壱与(いよ)の祖母で、照日女子(てぃらひみこ)の姉である老婆。もともとは伊都国(いとこく)の巫女だったが、妊娠したことでその座を追われ、狂気となり、各地を転々として生きる。「自分の娘・鳴与(とよ)に売春をさせて生きのびてきた」と日女子から非難されるが、真偽のほどは不明。かつて、ひどい目にあわされたため、妹の日女子の名前を聞いただけで震え上がる。 自分で人生を切り開くような強さは持たないが、巫女としての才能は本物で、亡くなった時には伝説通りに皆既日食が起こった。
照 日女子 (てぃら ひみこ)
伊都国(いとこく)をふくむ大和連合全体に君臨する巫女王。照日女(てぃらひるめ)・天日男(あまひるお)の妹。巫女としての力はそれなりだが、政治力や人心を掌握する力が強く、歴代の巫女のなかでも際立った存在となっている。外国にもその名は聞こえ、魏の国からは正式な巫女として認める「親魏倭王」と彫った金印を送られている。 年齢的には老婆のはずだが、若々しい外見を保つ。
鮪 (しび)
島に住み、死人を埋葬する仕事に代々ついている男。クロオトコとも呼ばれる。島民たちから差別を受け、住居も孤立している。島を出ることが長年の夢で、何度か戦争に参加しようと試みるが、職業差別にあって追い返される。がっしりした体格の強面だが、内面は優しいところがある。島を出る壱与(いよ)に頼まれ、一緒に都へ上る。何度も危ない目にあう壱与をかばい、心身ともに支え続ける。
狗智日子 (くちひこ)
伊都国(いとこく)の王・天日男(あまひるお)の第四王子。母親は敵国・狗奴国(くなこく)から人質に差し出された姫で、日男との間に王子として生まれた。そのため、天兄日子(あまひるす)・天弟日子(あまおとひこ)よりも年長だが、身分は下の第四王子となっている。見た目も、面長の顔に一重まぶたで、他の兄弟たちとは顔立ちが違う。 頭がよくて野心家だが、それを表には出さずに立ち回り、次々と政敵を葬っていく。天日子(あまひるす)の立太子をはばもうと、照日女子(てぃらひみこ)に対抗する勢力として先代の巫女・照日女(てぃらひるめ)の行方を探し、日女と壱与(いよ)を都に連れ帰る。
天 日子
伊都国(いとこく)の王・天日男(あまひるお)の第一王子。巨漢で、決断の速さと勇気を合わせ持つ。母親は照日女子(てぃらひみこ)の女官。身分が低いため、本来なら第一王子にはなれないところを、日女子の後ろ盾を得て成り上がった。日女子に傀儡として使われ、他の王子を皆殺しにするように命じられる。王子同士の戦いの中で毒矢に当たり、命を落とす。
天 兄日子
伊都国(いとこく)の王・天日男(あまひるお)の第二王子。天日子(あまひるす)より20日ほど遅れて生まれてきたが、母親が正室のため、自分こそが正しい次の王だと信じている。いつも同腹の天弟日子(あまおとひこ)とつるんで行動している。父王である日男がなくなり、日子が次の王になる前に討ち取ることに成功。自分こそが次王だと油断したところを、狗智日子(くちひこ)に暗殺される。
天 弟日子
伊都国(いとこく)の王・天日男(あまひるお)の第三王子。天兄日子(あまえひこ)とは同腹の兄弟。常に兄日子と一緒で、深い考えも覚悟もなく、兄と遊んでばかりいる頼りない王子だった。狗智日子(くちひこ)の裏切りで兄を殺され、自身も重症を負っているところを壱与(いよ)に助けられ、国外に逃亡する。その後、苦労を重ねることで成長し、大和連合の王たちを説得して軍を出してもらい、狗智日子の軍と戦って伊都国の王となる。
天 日男
伊都国(いとこく)の王。長年、伊都国に君臨していたが、病に倒れ、妹である照日女(てぃらひるめ)が船で戻ってきたと同時に亡くなる。
太郎
島に住む少年。叔父の五郎(ゴラエ)が連れてきた壱与(いよ)・照日女(てぃらひるめ)としばらく同居をしていたが、追い出す。ずるがしこく、欲が深い性格で、少年たちを焚きつけて、まだ幼い壱与を集団で暴行した。その後、功名心から戦争に参加するが、壱与が伊那国の重要人物になっていることに気づき、うまい話のおこぼれがあるのではないかと、ひそかに追いかけまわす。
五郎
壱与(いよ)の義父。兄のかわりに島を出て戦争に行き、そこで出会った壱与の母と契りを結ぶ。壱与の母が死んだ後、娘の壱与と母の照日女(てぃらひるめ)を連れて島に帰ったが、戦争で受けた傷がもとで死んでしまう。
場所
大和連合 (やまたいれんごう)
伊都国(いとこく)を中心に、末盧国(まつろこく)・不弥国(ふみこく)・対馬国(つしまこく)・一支国(いきこく)・投馬国(つまこく)からなる連合国。それぞれの国に国王がいるが、連合国全体の巫女王として、照日女子(てぃらひみこ)が君臨する。邪馬台国がモデル。
狗奴国
大和連合(やまたいれんごう)と長年、戦争を続けている敵国。
その他キーワード
聞こえさま (きこえさま)
大和連合の巫女の通称。神の声を聞いて託宣を下すため、この呼び名になった。聞こえさまの資格を持つのは、王族の血を引く処女のみ。一般的には、王の代替わりに伴って聞こえさまも交代し、新しい王の姉妹が就任する決まりになっている。聞こえさまが亡くなると、皆既日食が起こり、空が真っ暗になると言い伝えられている。