概要・あらすじ
ヒミコが治めるヤマタイ国の軍勢に部落を皆殺しにされたクマソ国の少年イザ・ナギ。ヒミコに忠節を尽くす猿田彦のもとで弓の修行を積むうち、二人は親子のような愛情で結ばれていく。しかし、ヒミコを仇と憎むイザ・ナギはヒミコを暗殺しようとして失敗、二人はヤマタイ国から逃れるが、大陸から渡ってきた高天原族に捕らえられてしまう。
一方、ヒミコに雇われた弓の名手天弓彦はついにヒミコが切望する火の鳥をしとめるが、時すでに遅くヒミコは病死する。女王をなくしたヤマタイ国は高天原族に滅ぼされ、ヤマタイ国に戻った猿田彦や天弓彦も討ち死にする。イザ・ナギは天弓彦から火の鳥の隠し場所を知らされるが、その死骸は干からびており不老不死の血は一滴も出なかった。
登場人物・キャラクター
イザ・ナギ
クマソ国に住む、ウラジの弟。兄譲りの弓の名手。部落を皆殺しにした猿田彦を矢で射るが急所を外して捕らわれる。ヤマタイ国に連れて行かれ、そこで、火の鳥を仕留めるために弓の腕を磨かせられる。猿田彦を仇として憎んでいたが、やがて、憎むべきはそれを命じたヒミコであると思い至り、猿田彦を次第に父親のように思うようになる。 火の鳥を目の前にしたとき、心の声で語りかけられ、永遠の命よりも、短い命の中で幸福を見つけることの方がいいと言われるが、少年のイザ・ナギには理解できない。
猿田彦 (さるたひこ)
ヒミコの軍勢の長。ヒミコの命令を絶対とする防人(さきもり)。クマソ国でただ一人イザ・ナギだけを殺さずに連れ帰り、火の鳥を仕留めさせようと弓の腕をみがかせるが、やがて彼に対して、父親のような愛情を持つようになる。イザ・ナギがヒミコを殺そうとしたため、猿田彦も罪に問われ、まだらバチの穴ぐらへ閉じ込められて、蜂に刺された鼻は肥大化してしまう。
火の鳥 (ひのとり)
『火の鳥 黎明編』の登場する不死鳥。遙か昔から生きており、人間以上の知恵を持ち、舞も踊れば人語も解し、文字さえ知っていると言われる。その血を飲めば不老不死の命を得られる。ある時期がくると火の壺に飛び込み、新しく生まれ変わる。
ヒミコ
ヤマタイ国の女王。呪い(まじない)によって国を治め、その決定は絶対であるが、民衆の心は次第に離れつつある。60歳間近となり自分が老いていくのが我慢ならず、また、人には伏せているが、乳房に腫瘍ができており、不老不死の血を持つ火の鳥を切望する。弓の名手天弓彦をヨマ国から呼び寄せ、彼はみごとに火の鳥を仕留めて持ち帰るが、時すでに遅くヒミコは、その死骸の前で息を引き取る。
ヒナク
クマソ国に住むウラジの妻。くされ病(破傷風)で助からないと思われていたが、グズリの治療で回復する。ヒミコの軍勢が部落を襲い、グズリにつれられ逃げ出し、部落再興のためにグズリの子どもを産む。火山の噴火で、子どもを死なせ、正気を失ったあげくグズリとともに周りを崖で囲まれた窪地に閉じ込められる。
グズリ
船が難破して、クマソ国へ流れ着く。殺されそうになるところを、ヒナクの病気を治して部落の一員となる。実はヒミコの軍勢の斥候で、ヒナクと婚礼をあげた夜、祝いの酒で油断しているときに軍勢に合図を送る。部落が皆殺しにあう中、ヒナクをつれて逃亡する。火山の噴火で、ヒナクとともに周りを崖で囲まれた窪地に閉じ込められ、隔絶された空間で子孫を作る。
スサノオ
ヒミコの弟。託宣によって国を治めるのは時代遅れだとヒミコに進言するが、逆に疎まれて、目をつぶされたあげくに国を追われる。
天弓彦 (あまゆみひこ)
火の鳥を仕留めるため、ヒミコがヨマ国から呼び寄せた弓の名手。折れもせず燃えもしない鉄の弓で火の鳥を狙う。猿田彦を好敵手と見なす。
ウラジ
クマソ国に住む弓の名手。妻のヒナクのために火の鳥を捕らえようとして、その火に焼かれて死ぬ。
カマムシ
クマソ国の長。猿田彦と戦って討ち取られる。猿田彦と一騎打ちで敗れ、死に際に「女が王なら、おまえは身を滅ぼす」と予言する。
ニニギ
高天原族の長。ウマを使った戦でマツロ国、ヨマ国を滅ぼし、イザ・ナギと猿田彦を捕虜として伴い、ヤマタイ国に攻め入り制圧する。
ウズメ
高天原族に滅ぼされたヨマ国の娘。醜い娘を装うことで身を守る。ニニギに殺されそうになった猿田彦とイザ・ナギの命乞いをして、猿田彦と結婚し、その子どもを宿す。
ノロ
ヤマタイ国の農民の子ども。年貢として、米をすべて持って行かれて途方に暮れ、イザ・ナギのヒミコ暗殺に加わる。逃げようとするところを弓で射殺される。死ぬ間際に、海に逃げるための小舟のありかを教える。
ナガトコ
ヤマタイ国の農民の子ども。両親はヒミコの占いで有罪とされ首を刎ねられる。うらみを晴らそうとイザ・ナギのヒミコ暗殺に加わるが、失敗し、逃げようとするところを弓で射殺される。
イサハヤ
『火の鳥 黎明編』に登場する鳥。ニニギが大切にしている金色のトビ。イザ・ナギに襲いかかり、逆に水に沈められて死ぬ。
タケル
グズリとヒナクの子ども。崖に囲まれ外界と隔絶した空間で生まれる。登攀不可能と思われた崖を登り切り、外の世界へ出て行く。
集団・組織
高天原族 (たかまがはらぞく)
『火の鳥 黎明編』に登場する部族。大陸から渡ってきた遊牧民と思われる部族。ニニギに率いられ、ウマを使った戦でマツロ国、ヨマ国を滅ぼし、さらにヤマタイ国に攻め入り制圧する。
場所
ヤマタイ国 (やまたいこく)
『火の鳥 黎明編』に登場する古代国家。巫女、ヒミコが治める国。ヒミコの呪い(まじない)によってすべてを決定し、周りの国も従えるほどの勢いを持つ。イザ・ナギのクマソ国を滅ぼすが、大陸から渡ってきた高天原族によって滅ぼされる。
マツロ国 (まつろこく)
『火の鳥 黎明編』に登場する古代国家。魏の国と交わりを持ち繁栄した国。ヤマタイ国のグズリが医学の知識を学んだ国でもある。ニニギに率いられた高天原族に滅ぼされた。
ヨマ国 (よまこく)
『火の鳥 黎明編』に登場する古代国家。ニニギに率いられた高天原族に滅ぼされた国。醜女に身をやつしたウズメ、弓の名手天弓彦の国。
クマソ国 (くまそこく)
『火の鳥 黎明編』に登場する古代国家。イザ・ナギの国。グズリに手引きされたヤマタイ国によって滅ぼされる。カマムシを長とし、その集落は海に臨み、近くには火山火の山がある。そこには火の山といっしょにずっと生きていると言われる火の鳥が住んでいる。
火の壺 (ひのつぼ)
『火の鳥 黎明編』に登場する地名。火山火の山の火口のことをクマソ国ではこう呼ぶ。火の山には火の鳥が住んでおり、ある時期がくると火の鳥は、この火の壺に飛び込み、新しいからだになって生まれかわる。
岩戸 (いわと)
『火の鳥 黎明編』に登場する洞窟。日食におびえたヒミコが逃げ込んだ洞窟。大きな岩が入り口をふさいでいる。
イベント・出来事
シラヌ火 (しらぬい)
『火の鳥 黎明編』に登場する自然現象。クマソ国から、夜、沖に見えることがある海上の灯り。部落では人間の魂が海を渡って遠くの国へ去って行くしらせと言われる。しかし、グズリとヒナクの婚礼の夜に見えたそれは、猿田彦に率いられたヤマタイ国の船団の灯りであった。
その他キーワード
枯草玉 (かれくさだま)
『火の鳥 黎明編』に登場する草を集めた一種の武具。高天原族の強さの秘密である馬の足を止めさせるため、枯草を集めて大きな玉にし、火をつけて騎馬軍勢にむけて転がすという猿田彦の作戦であったが、雨が降り出したために火をつけることができなかった。やむなく草の塊の中に射手が潜り込み、敵の背後に転がって後ろから矢を射たが、多くは敵の矢を受けて失敗した。
くされ病 (くされやまい)
『火の鳥 黎明編』に登場する病気。はだしで枯れ野をあるいて草で切るとそこから悪魔が入り込んで体を腐らせるという。グズリは青カビを豆から採った油で練り、病人に飲ませることでくされ病にかかったヒナクを回復させる。現代風にいえば破傷風を青カビのペニシリンで治療したのである。
関連
火の鳥 (ひのとり)
火の鳥と呼ばれる超生命体が見守る古代から超未来にわたる人類の叙事詩。 関連ページ:火の鳥