あらすじ
回復術師は、やり直す!
リンゴ農家に生まれたケヤルは勇者にあこがれる純粋な少年だったが、ジオラル王国の第一王女にして勇者でもあるフレア・アールグランデ・ジオラルに「癒」の勇者であることを告げられ、新たな勇者の一人となる。だが、ケヤルの輝かしい旅立ちの先に待っていたのは、地獄と悪夢のような毎日であった。ケヤルが生まれ持った「回復」は強力な治癒力の代償に、癒す対象者の痛みや恐怖心の体験を、ケヤル自身が追体験しなければならないという欠点を持っていた。ケヤルの能力を知った途端にフレアは非道な本性をあらわにして、彼を薬漬けにして回復専用の道具として扱うようになる。フレアの仲間からも暴力を振るわれ、虐待を受けていたケヤルは心身ともに壊れていき、廃人同然の身となっていた。そんなケヤルはある日、薬漬けの果てに薬物耐性というスキルを獲得したことによって正気を取り戻すとともに、自分の能力は最強に至る力を秘める魔法だと確信し、これを使ってフレアたちに復讐しようともくろむようになる。念入りに計画を練ったケヤルは、魔王との決戦の地でフレアたちに反逆し、賢者の石を入手して独占しようとする。これまでの回復を通じて勇者たちの経験や能力を得ていたケヤルは、超人的な身体能力も発揮できるようになっていただけでなく、複数の派生能力も会得していたのである。これらの能力を駆使して魔王を倒したケヤルは、自らの力と賢者の石の力を使って、世界そのものを回復する時間逆行を発動。時間を4年前に巻き戻し、2周目の世界にたどり着いたケヤルは、過去の経験と記憶を基に人生のやり直しと自らを虐げた者たちへの復讐を誓い、新たに旅立つのだった。
素晴らしい日々
最初のターゲットであるフレア・アールグランデ・ジオラルへの復讐を遂げたケヤルは、ケヤルガという錬金術師の青年に姿を変えて旅立つこととなる。ケヤルガのお供となったのは、改良によって記憶や人格を改ざんされたフレアが、ケヤルガに従順な魔術師として生まれ変わったフレイアであった。従者となったフレイアを連れて城を脱出したケヤルガは、旅中でかつて勇者たちと過ごした日々の夢を見ていた。薬漬けにされてフレアの犬となり、ブレイドやブレットからも暴行を受けていた、地獄のような毎日。フレアたちに虐げられた記憶は、あらためてケヤルガの心に復讐心と憎悪を植え付けるのだった。そしてたどり着いた自由都市ラナリッタでは、原因不明の奇病が蔓延していた。フレイアと共に仲間を求めて奴隷市場を訪れたケヤルガは、奴隷として捕えられていた、人間を憎む氷狼族の少女・セツナと出会う。セツナを買って仲間にしたケヤルガは、ジオラル王国の王国軍が彼女の仲間を虐げたり、理不尽に襲撃して殺害したりしていたことを知る。ジオラル王国軍はセツナの仇であると同時に、ケヤルガの復讐対象でもあった。奇病の原因を探る中で、軍が再び氷狼族の村を襲撃するという情報を得たケヤルガはその情報を伝えたうえで、今のセツナでは軍に敵わないと彼女に指摘する。強くなりたいと願うセツナに対し、ケヤルガはそのための方法を示しつつ、人間への復讐を遂げたいかという選択をせまる。何をしてでも復讐をすると誓ったセツナは、ケヤルガの力を借りてレベル上限を解放し、獣人狩りをしている軍人たちを殲滅して、氷狼族の村を守り抜く。ケヤルガはセツナの復讐を手伝うとともに、決して心を開かなかったセツナを懐柔するという目的を遂げる。人間を超える力を秘めた強力な氷狼族のセツナを仲間に加えたケヤルガ一行は、次の目的のために再び旅立つのだった。
剣聖の誇り
氷狼族の村を救うことに成功したケヤルガは、フレイア、セツナと水辺で戯れながら、つかの間の休息を楽しんでいた。だが、仲間との平和な時間を過ごすケヤルガたちには怪しい影がせまり、新たな困難と試練が待ち受けていた。そろそろ自由都市ラナリッタから旅立とうと準備を始めるケヤルガたちに鋭い剣が襲いかかる。彼らの前に現れたのは、ケヤルがかつて片腕を癒した最強の剣士であるクレハ・クライレットだった。追っ手として差し向けられたクレハの目的は、フレア・アールグランデ・ジオラルを手にかけたことで疑われているケヤルを捕えることであった。人類最強とも噂される「剣聖」の異名を持つクレハは、彼女の剣術を模倣でコピーしたケヤルガにとっても、真正面で有利に戦えるような相手ではなかった。そんな強敵・クレハに勝利するために作戦を立てて超強力な媚薬を使うことにしたケヤルガは、真正面から攻撃してくる彼女を媚薬攻撃で逆転。さらにはフレアを名乗ったフレイアによる説得により、なんとかクレハを懐柔することに成功する。これ以降、クレハは仲間の一人となり、ケヤルガたちに対して協力するようになる。激闘を乗り越えて再び訪れたケヤルガの一時の安息も、ラナリッタにジオラル王国の王国軍が攻め込んできたことで一変。彼らが引き連れているのは、ケヤルの故郷であるアルバン村の村人たちであった。村人たちはケヤルへの復讐に燃える近衛騎士隊長・レナードによって、ケヤルをおびき出すための人質として捕われていた。兵士に扮装したケヤルは潜入して情報収集に当たるが、そこでレナードたちが犯した大罪を知り、激しい怒りをあらわにする。
鬼畜軍師
ケヤルに復讐しようと彼の故郷・アルバン村を襲ったレナードを返り討ちにしたうえで、レナードの性別を女に変えて男に襲わせることで彼への復讐を終えたケヤルガだったが、育ての親であったアンナを亡くした絶望は大きく、ショックを受けると同時にジオラル王国への憎悪が増すばかりだった。レナードを倒してもアルバン村の危機は終わらず、無実の罪で捕えられたままの村人たちはジオラル王国によってコロシアムで処刑されることが決まり、ケヤルガはそれを止めようと作戦を立てる。だが、情報収集の中でこの処刑を裏から指示しているのは、鬼畜軍師として恐れられるノルン・クラタリッサ・ジオラルであったことが判明。ノルンは1周目の世界からケヤルが恐れ続けてきた強敵であり、恐るべき頭脳と狂気の持ち主でもあった。ノルンとの出会いとトラウマを思い出すケヤルガだったが、それでも村人を救うために行動を開始する。観客に化けながらコロシアムに潜入したケヤルガは、とある仕掛けを施し、わざとケヤルの姿に戻って怒声が響き渡る処刑場に姿を現す。ケヤルはそのまま兵士たちを襲撃するが、敵の指揮官は次々と兵士を仕留めていくケヤルを恐れ、磔になった村人を人質にして動きを止めようとする。しかし、ケヤルはいっさい動じる様子もなく、己の正義と復讐を貫くために大胆な行動に出る。一方、ケヤルから作戦の指示を受けていたフレイアとセツナも、追い打ちのための一手を準備していた。
魔王候補
自由都市ラナリッタを旅立ったケヤルガ一行がたどり着いたのは、ジオラル王国の領土外にある異質な街「ブラニッカ」であった。ブラニッカはかつてジオラル王国に見捨てられ、残された人間と魔族が共存しているという珍しい街で、今までの街とは異なる不思議な雰囲気が漂っていた。魔族と人間が共に助け合い、独自の文化を築きながら平穏を作り上げたように見えるこの街の裏では、現魔王とその手下たちによる思惑がうごめき、ケヤルガたちには新たな戦いと試練が待ち受けるのだった。ブラニッカの情報収集も兼ねて酒場で腹ごしらえすることになったケヤルガたちは、そこでイヴ・リースという謎の少女に出会う。初対面のはずが、ケヤルガはイヴの顔に見覚えがあった。イヴは魔王候補の一人として現魔王の配下から狙われており、酒場は狂牛族の男たちによって襲撃される。敵を返り討ちにして人気のない小屋に避難したケヤルガは、回復を通してイヴの正体と境遇を知り、命を狙われ続ける黒翼族の彼女を保護して共に行動することとなる。強がりながらも秘策や仲間を持たないまま、無謀で孤独な逃亡を繰り返すイヴに対し、ケヤルガはイヴの同胞たちを襲った現魔王に復讐しないかと提案し、自分たちもその復讐を手伝ってやると告げる。それは追っ手を振り切り、憎き現魔王への復讐を遂げたいイヴにとっては、願ってもない提案だった。復讐を決意したイヴをサポートするために、あらためて情報収集を始めたケヤルガは変装し、襲撃を受けた酒場に向かうが、そこにはローブで身を隠した謎の女性と狂牛族の男たちが現れるのだった。
勇者激突
魔族と人間が共存する街・ブラニッカへ進軍してきたジオラル王国の王国軍を先導するのは、第二王女であるノルン・クラタリッサ・ジオラルと、「鷹眼」の異名を持つトリスト・オルガン、そして「剣」の勇者・ブレイドだった。ノルンは想像を超える規模の精鋭騎士団を引き連れ、さらには三英雄のトリストと勇者であるブレイドまでもが参戦し、罪なき民へと凶刃を向けようとしていた。特にブレイドは、1周目の世界で執拗な暴力を振るわれたケヤルにとって、明確な復讐対象の一人であった。ブレイドの存在を確認したケヤルガは、意気投合した商人・カルマンからブレイドの情報を仕入れる。ブレイドは女癖が悪く、街中で好みの女性を漁っては罠にはめて酷い目に遭わせ、時には死に追いやっているという。それを聞いたケヤルガはブレイドに近づくため、とある奇策を思いつく。こうして、ノルンが率いる最強軍と、復讐の鬼と化したケヤルガ一行、二つの厄災と二人の勇者が激突する時がせまっていた。美少女に化けたケヤルはケアーラを名乗り、ブレイドと相対したケヤルは誰にも邪魔されずに復讐を完遂するため、あえて彼女の罠に乗ることを決断。酔ったフリをしながらブレイドの部屋に潜り込むことに成功し、ブレイドと互いに策謀を交錯させながら、ケヤルは彼女を出し抜いて拘束する。憎きブレイドに復讐を果たすため、扮装を解いて正体を現したケヤルが用意したのは、男嫌いのブレイドにとっておぞましい仕打ちだった。態度を急変させて許しを請うようになったブレイドに対し、勝利を確信したケヤルはあるゲームを持ち掛ける。それはブレイドにさらなる恥辱と苦痛を与える、命を懸けた闇の遊戯だった。
動乱のブラニッカ
ブレイドへの復讐を終えたケヤルガは、ついに勇者にのみ許された最強の武器である神装宝具を手に入れる。そんなケヤルガは、仲間になったばかりのイヴ・リースを連れて、フレイアやセツナとブラニッカでの買い物を楽しんでいた。しかし平和なひとときもつかの間、以前からブラニッカを視察していたノルン・クラタリッサ・ジオラルがブレイドの失踪を察知するとともに、魔族の皆殺しを目的とした「ブラニッカ浄化作戦」を発動する。ブラニッカになじみ始めたケヤルガは、気に入った街を蝕もうとするノルンたちの殺戮を食い止めようと、彼女を守るトリスト・オルガンへの対抗策を練る。ジオラル王国が誇る「三英雄」の一人であるトリストに対抗するには、手に入れたばかりの神装宝具を使うしかなかった。だが、街の広場でノルンが発した演説により、その場にいた人間と魔族は殺し合いを始め、ケヤルガが情報収集のために通っていた店の少女が戦いに巻き込まれてしまう。その少女が兵士に惨殺されるのを目の当たりにしたケヤルガはノルンへの復讐を決意し、周囲の兵士を蹴散らしたうえでセツナに作戦開始の指示を出す。作戦どおり戦場に降臨したフレイアはフレア・アールグランデ・ジオラルを名乗り、絶対的なカリスマ性で戦況を変えようと奮闘する。一方、ケヤルガはこの戦いの元凶であるノルンのもとへ急ぐ。そこに絶壁のように立ちはだかるのは、ノルンの護衛を務めるトリストだった。
新たな同行者
凶悪な宿敵であったノルン・クラタリッサ・ジオラルへの復讐を終え、ブラニッカでの戦いを制したケヤルガは、次なる復讐を遂げるための新たな目的に向けて動き出していた。軍略の天才であるノルンを改良で別人格に変えた少女・エレンを新たな仲間として迎え、ケヤルガの復讐への道と憎悪はより深まっていく。残る標的はジオラル王国の国王にブレットと強敵ばかりの中、ケヤルガは魔王候補のイヴ・リースを魔王に成長させ、彼女を強力な戦力として整える必要があった。一方、以前からイヴを狙っていた現魔王の勢力は、再びイヴを狙って動き始めていた。さらなる戦力を求め、ケヤルガ一行が向かった先は、イヴの故郷でもある黒翼族の集落だった。イヴが魔王としての力を手にするために受けなければならない試練、それは伝説の神鳥として知られるカラドリウスが課す、命を懸けた過酷な試練だった。カラドリウスの力を手に入れるため、ケヤルガはイヴと共に、生命の危険すら伴うその試練に二人で挑むこととなる。
関連作品
小説
本作『回復術士のやり直し』は、月夜涙の小説『回復術士のやり直し ~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~』を原作としている。原作小説版は角川スニーカー文庫から刊行され、イラストはしおこんぶが担当している。
メディアミックス
TVアニメ
2021年1月から3月にかけて、本作『回復術士のやり直し』の原作小説『回復術士のやり直し ~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~』のTVアニメ版『回復術士のやり直し』が、AT-Xほかで放送された。監督は朝岡卓矢、総作画監督はごとうじゅんじ、齊藤佳子が務めている。キャストは、ケヤルを保住有哉、フレア・アールグランデ・ジオラルを渋谷彩乃が演じている。
登場人物・キャラクター
ケヤル
ジオラル王国の農村・アルバン村に住む少年。幼少期に両親を亡くし、アンナの世話になりながら、遺されたリンゴ農園を経営していた。茶髪の小柄な体型で、勇者にあこがれる純粋で心優しい性格をしている。「癒」の勇者に目覚め、ほかの勇者と共に魔王から世界を救う回復術士として、フレア・アールグランデ・ジオラル一行と共に旅立つ。優秀な回復術士であるが、回復使用時に伴う苦痛から使用を躊躇している。しかしフレアによって薬漬けにされ、戦闘要員ではなく回復専用の道具として扱われるようになり、ブレイドやブレットからも執拗な暴行を受ける。食事もまともに摂れないために痩せ細り、成長不良を起こしている。そんな地獄のような日々の中でケヤル自身の能力の本質に気づき、薬物耐性を得ていたことで正気を取り戻し、研究を重ねて模倣や改良をはじめとする派生能力を会得するとともに、魔王の体内にある賢者の石を狙ってフレアたちへの復讐を誓う。最終決戦の場でフレアたちを裏切り、魔王から得た賢者の石と回復を使って強力な時間逆行を発動。時間を4年前まで巻き戻し、今までの経験と記憶をもとに、勇者になる直前からの人生を2周目の世界でやり直すことになる。1周目とは異なり、勇者になる前から「翡翠眼」という相手の能力などを見通す強力な鑑定スキルを手に入れており、ふだんはケヤルガの姿で行動している。回復を中心に、クレハ・クライレットを通して得ていた剣術と、複数の派生能力を状況に応じて使い分けている。また、男性勇者に共通する能力として、他者に魔力を込めた体液を与えることで、対象者のレベル上限を解放できる。元は明るく優しい少年だったが、過酷な仕打ちを受けて人間の醜悪さを何度も見てきた過去から、理性が壊れたかのように人格が歪み、敵や復讐対象と見なした相手には容赦のない冷酷な性格になった。一方で、2周目の世界で自分たちに危害を加えていない者には手を出さないようにしており、気に入った相手や街は優遇し、時には人助けにつながる行動を取ることもある。
ケヤルガ
ケヤルが2周目の世界で、街中や戦場など目立つ場で行動するときのために作った姿。表向きは旅の錬金術師ということになっている。ケヤルが立派に成長したような茶髪の青年冒険者の姿をしており、痩せ細った小柄なケヤルよりも背が高く、やや筋肉質な体格になっている。自らを虐げた勇者たちへの復讐を主な目的としており、復讐対象にはいっさいの情けをかけない冷酷な性格で、やり直した2周目の世界では面白おかしく生きてやろうと考えている。ケヤルがフレア・アールグランデ・ジオラルに復讐を果たしたあとに、自らの容姿を改良でこの姿に変えて城を脱出しており、旅立ったあとはほとんどこの姿で行動している。目的や状況によっては一時的にケヤルの姿に戻ったり、まったく別の姿に化けて行動したりすることもある。
フレア・アールグランデ・ジオラル
ジオラル王国の第一王女にして、「術」の勇者の少女。クラスは魔術師。桃色のロングヘアと瞳が特徴の聖母のような美少女で、つねに笑みを絶やさず国民にも人気のあるカリスマ的王女だが、実際はすべてを見下す冷酷で身勝手なサディスト。魔術師としての実力は申し分なく、四つの属性を使い分けられる豊富な攻撃魔術や、人間の限界とされる高位の魔術も使いこなす。また、自分以外の勇者の誕生やその居場所を察知するという、「術」の勇者ならではの特殊能力も持つ。1周目の世界で、ケヤルを新たな勇者として仲間に迎えるが、クレハ・クライレットの腕を癒した彼が回復の反動で倒れたことですぐに見限り、見下すようになった。さらには周りの人間にもケヤルを回復要員の奴隷にするように命じ、薬漬けにしたうえで何度も暴力を振るい、犬のように扱って屈辱を与えていた。それによってケヤルの強い恨みを買い、2周目の世界では大幅に力を高めたケヤルの罠にはまり、過酷な拷問による復讐をその身に受けた。その後は改良によって記憶を改ざんされ、本来の記憶を失って性格も変わり、ケヤルに従順な従者・フレイアとなる。その後は本来の記憶をなくしたままで、フレイアとしてケヤルガの旅に同行している。1周目の世界では、世界樹の枝から作り出した「神杖ヴァナルガンド」という神装宝具を所持および使用していた。
フレイア
ケヤルガの従者の少女。2周目の世界でフレア・アールグランデ・ジオラルへの復讐を終えたケヤルが、改良でフレアの容姿の一部を変え、記憶を奪って性格も改変したため、見た目・人柄ともにケヤル好みの別人のようになっている。ケヤルガと愛し合っている仲だとすり込まれたため、彼を愛し尽くすことを至上の喜びと感じている。ケヤルガの命令ならどんなことにも従う素直でかいがいしい少女だが、フレアの魔術の知識といった能力面は引き継いでおり、戦闘では優秀な魔術師として活躍している。ケヤルガの指導を受け、「熱源探査」と「氷槍風弾」で最高の長距離精密射撃が可能な攻撃力を得るなど、フレアの頃よりも能力をさらに高めている。ケヤルガの作戦によっては、容姿や雰囲気を戻してフレアの姿に変身し、王女フレアを名乗って民衆などを説得することもある。
クレハ・クライレット
ジオラル王国最強剣士で、「剣聖」の異名を持つ少女。剣術の名門であるクライレット家の現当主を務める、銀髪のロングヘアで鎧をまとった美少女。クライレット家に誇りを持ち、ジオラル王国のために努力と鍛錬を重ねてきたため、生真面目すぎるがゆえに思い込みの激しい一面もある。正義感が強く、ジオラル王国の民と平和のために剣を振るい続けてきた。勇者ではないが、剣技だけならば「剣」の勇者・ブレイドを上回る。戦闘の中で片腕をなくし、1周目の世界で勇者になったばかりのケヤルが、最初に回復で癒した相手でもある。この際にケヤルによって、クレハ・クライレットが使うクライレット流剣術をコピーされているものの、所詮は素人によるコピーでしかなく、オリジナルであるクレハの剣術には敵わない。2周目の世界では、自由都市ラナリッタの氷狼族の事件後、クライレット流剣術を悪用したことや王女のフレア・アールグランデ・ジオラルを殺害したという容疑をかけられたケヤルガと対峙する。しかし、ケヤルガが用意した媚薬攻撃で逆転され、ジオラル王国の闇を改良で見せつけられ、さらにフレアのフリをしているフレイアから、それらが事実であると聞かされてショックを受ける。これらの心のスキに恋愛感情を植えつけられて、ケヤルガと恋仲になった。これ以降はケヤルガの依頼に従い、ジオラル王国の動きを探っている。
セツナ
狼のような亜人「氷狼族」の少女。霜が降りたような銀髪に獣耳と尻尾、鋭い牙や爪を持つ。誇り高く、明るく仲間思いな性格をしている。故郷で強くなるための訓練をしていた頃、仲間の氷狼族と共に人間に捕えられ、自由都市ラナリッタにて奇病に侵されて隔離されていた。処分予定の奴隷として売買されていたところで、ラナリッタで仲間探しをしていたケヤルガに買われる。故郷を襲撃し、同胞を殺した人間に強い復讐心を燃やしている。ジオラル王国の王国軍に対抗する力を手にするため、低レベルのままで頭打ちだった戦闘力を、ケヤルガに引き上げてもらった。氷属性の精霊魔術と狼人格闘術のスキルを持ち、戦闘の際は氷の爪を両手にまとって戦う。ケヤルガの指導やさらなる戦闘経験を積んだことで、勇者に匹敵するレベルの能力を獲得していく。ケヤルガとフレイアの協力を得て氷狼族の村を襲おうとしていた王国軍を倒したあと、ケヤルガを慕って自分の真の名を明かし、本当の意味で彼の所得物となった。これ以降は、ケヤルガとフレイアの仲間として旅に同行している。もともとケヤルガの復讐対象ではなかったため、記憶の改竄などはされておらず、本心からケヤルガに好意を寄せ、彼からも気に入られている。
ブレイド
剣士で、「剣」の勇者の女性。金髪碧眼で引き締まった体を誇り、キザで派手好きな男装の麗人。気に入った女性を口説きやすいように男性貴族のような格好をしており、フレア・アールグランデ・ジオラルに心酔して歪んだ恋心を寄せている。一人称は「僕」。フレア以外にも、好みの女性を口説いたり酔わせたりしてはすぐに手を出すなど、女癖が悪い。一方で、毛嫌いしている男性に対しては、常軌を逸した暴力を振るって愉悦に浸るサディストな一面も持つ。もともとの剣技はクレハ・クライレットに及ばないものの、神装宝具「神剣ラグナロク」の加護を受けることで身体能力を強化し、一気に逆転できるほどの圧倒的な強さを持つ。ラグナロクを装備した戦闘では、激しい斬撃と神速であらゆるものを一刀両断でき、さらに力を解放することで身体能力を向上させて毒などの不浄を癒せる。1周目の世界ではケヤルの仲間でもあったが、フレアによく絡まれている彼に嫉妬し、八つ当たり同然の暴力を振るっていたために彼の恨みを買い、復讐対象の一人となっていた。1周目の世界では魔王との最終決戦で負傷するものの、裏切ったケヤルの回復を受けられずに死亡する。2周目の世界では、ノルン・クラタリッサ・ジオラルに同行する形でブラニッカへと訪れ、任務の傍らで街の女たちを漁っていた。ケヤルが美少女に化けた姿・ケアーラの罠にはまり、ラグナロクを手放してしまったスキに毒を仕込まれて体の自由を失う。さらに正体を現したケヤルが用意していた男たちに嬲(なぶ)られ、全身を貪り食われて命を落とした。
ブレット
「砲」の勇者の男性。スキンヘッドにヒゲ面、筋骨隆々の体格を持つ色黒肌の大男。勇者としてはベテランであり、諜報部の経験もあって情報戦も得意としており、ふだんはおだやかだが用心深い性格をしている。大筒のような神装宝具「神砲タスラム」から、魔力をもとに超高精度・追尾機能のある魔弾を放ち、400メートルもの射程距離で狙った獲物を一方的に蹴散らす。勇者の中では、ケヤルに愛情を持って接しているが少年趣味を持ち、一見優しくも見えるその愛情は支配欲と独占欲で歪んでいる。このため1周目の世界では、時折ケヤルに暴力を振るったり歪んだ欲の捌け口にしたりしており、彼から恨まれて復讐対象の一人となった。1周目では魔王との最終決戦において負傷するもののケヤルに裏切られ、ブレイドと共に死亡した。
イヴ・リース
深紅の瞳に黒い翼を持つ魔族の一種「黒翼族」の少女。黒のロングヘアで背中に大きな翼が生えており、ふだんはローブなどをまとって隠している。髪色こそ違うが、ケヤルが1周目の世界で出会った魔王によく似ている。2周目の世界で、ジオラル王国に見捨てられた領土外の街・ブラニッカに出現。黒翼族を代表する魔王候補の一人であり、現魔王勢力から邪魔者として命を狙われている。現魔王の迫害に巻き込まれる同胞たちを救済するため、一人で逃亡しながら魔王になる旅をしていたところで、ケヤルガと出会った。また、ケヤルガが回復で傷を癒した際に、1周目でケヤルたちが戦った魔王だったことが判明する。当初は戦闘技術が未熟で、生まれ持った素質を持て余して実力を発揮できずにいたが、ケヤルガの指導を受けて能力を開花させていった。ケヤルガに選択をせまられたことで同胞を襲った現魔王への復讐を決意し、彼らの旅に同行し、共にブラニッカをノルン・クラタリッサ・ジオラルの魔手から守った。その後はケヤルガ一行と共に黒翼族の集落に戻り、ケヤルガと共に挑んだカラドリウスの過酷な試練を乗り越え、新たな力を手にする。この試練のあとは、2本のツノが生えて色黒肌になり、髪色も銀髪に変化するなど、より魔族らしい容姿になった。
レナード
ジオラル王国の近衛騎士隊長を務める男性。金髪ショートヘアで筋肉質な体型の剣士。粗暴な性格ながら王国への忠誠心は厚い一方で、フレア・アールグランデ・ジオラルに歪んだ支配欲と独占欲を抱いており、ひそかに彼女を手中に収める妄想を繰り返していた。1周目の世界ではフレアに素直に従わないケヤルに暴力を振るっていたことで彼に恨まれ、2周目の世界でフレアと共に彼の復讐を受ける。この際に、ケヤルの身代わりとして容姿を彼そっくりに改良されたことで本来の存在が消え、フレアを殺して王国から逃亡した裏切り者という扱いになった。これ以降はケヤルと信じられて投獄され、罰を受けていたが、勇者の能力を使えないために別人であることが確認されたあとは、ケヤルを激しく憎むようになる。復讐と汚名返上のチャンスを得たあとは、ケヤルをおびき寄せるために、彼の故郷であるアルバン村を襲って村人の公開処刑をもくろむ。この際にほかの兵士と共にアンナを襲って自殺に追い込んだことや、アルバン村を襲撃したことでケヤルの強い怒りを買い、再び彼の復讐対象となる。アンナと同等以上の屈辱と苦痛をその身に味わわせるという復讐をもくろんだケヤルに性別を変えられ、拘束されたままで野獣と化した大男たちに襲われて死亡した。
アンナ
ジオラル王国の農村・アルバン村で暮らす女性。茶髪のロングヘアの優しい村娘で、両親を亡くしたケヤルを引き取って育てた。ケヤルにとっては親代わりであると同時に、初恋の相手でもある。2周目の世界では、ケヤルが旅立ったあとは村で暮らしていたが、レナードが率いるジオラル王国軍にアルバン村が襲撃された際にレナードと兵士たちに襲われ、舌を嚙み切って自害した。
ノルン・クラタリッサ・ジオラル
ジオラル王国の第二王女で、フレア・アールグランデ・ジオラルの妹。桃色のセミロングヘアの美少女で、通称「ノルン姫」。人間離れした頭脳の持ち主だが、性格はフレアと似た歪んだサディストで、鬼畜軍師としても恐れられる。合理的に勝利をつかむための秘策を考えているが、味方の心情をまったく考慮せず、すべてを駒とするような方針が多い。このため、姉であるフレアからも、その冷酷な性格と頭脳を心底恐れられている。幼少期はフレアとの姉妹仲は良好であったが、勇者の力に目覚めたフレアに劣等感を持ち、彼女に認められたい一心で努力して軍神と評されるほどに成長した。その一方でフレアとの関係は溝が深まり、互いに見下したり恐れたりするような、複雑な仲に変化していった。1周目の世界では薬漬けにされていたケヤルが正気に戻っていたことも、フレアたちに復讐をもくろんでいたことも見抜いていたため、ケヤルから恐れられて警戒されていた。2周目の世界では、警戒していたケヤルからは接触を避けられていたが、王国の尊厳を傷つけずにケヤルの故郷を襲う秘策をレナードに与え、村人の公開処刑を裏であやつっていた。さらにはブラニッカから魔族を殲滅する作戦を発動し、ケヤルがブラニッカで出会った友人が殺される原因をつくったことで怒りを買い、彼の復讐対象となった。強力な護衛のトリスト・オルガンを失ってからはケヤルに復讐され、記憶と容姿の一部を改良で書き換えられてケヤルガの妹・エレンとなり、ケヤルガ一行の旅に同行するようになる。エレンになったあとも、有能な軍師としての能力を生かすために知能はそのまま残されている。
トリスト・オルガン
ジオラル王国が誇る実力者「三英雄」の一人で、「鷹眼」の異名を持つ壮年の男性。弓矢と暗器の名手で、筋肉のわずかな動きも見逃さないほどの優れた眼力を持つ。ジオラル王国軍がブラニッカに進軍した際にノルン・クラタリッサ・ジオラルの護衛を務め、ノルンを狙うケヤルガと死闘を繰り広げたが、神装宝具を入手していたケヤルガの技を食らって死亡した。
カラドリウス
魔族の黒翼族が唯一使役できる、伝説の神獣。巨大な白い鷹のような姿で、頭に王冠のような形をした金の羽が生えている。高い知性と強大な力を持ち、天から強力な毒の雪を降らせて死病をまき散らし、町一つを容易に滅ぼせるほどの力を持つ神鳥と恐れられ、多くの者から崇められている。使役するには特殊な試練を受けなければならないうえに、その力を借りるには体力・魔力だけでなく、生命力も消費する必要がある。魔王になるために試練を受けたイヴ・リースと契約して新たな力を与え、共に試練に挑んでいたケヤルガには、未来視の力を持つ瞳「刻視眼」を与えた。
場所
ジオラル王国 (じおらるおうこく)
人類の居住区の最南端にある、最大の国力を持つ王国。魔族が支配する領域がすぐ近くにあるために各国から支援を受けており、魔族から人類を守る盾役となっている。しかし、それは支援を受けるための表向きの理由で、実際は魔族との戦いもジオラル王国が自ら仕掛けていた戦争であり、魔王から賢者の石を手に入れて世界征服を遂げようともくろんでいる。また、領土も先住民だった亜人から強奪した土地で、王国内の亜人に人権はなく奴隷として扱われている。王国軍や王城関係者は略奪や殺戮を好む者も多く、王国の意向に逆らう者や不穏分子は、容赦なく消し去っている。これらの非道の数々を1周目の世界で見てきたケヤルにとっては最大の復讐対象であり、彼は数々の理不尽と略奪を生み出しているこの国を、2周目での復讐を遂げる中でリセットしてやろうと考えている。
その他キーワード
回復 (ひーる)
ケヤルが使用する、「癒」の勇者としての能力。対象のケガや状態異常などを回復させられる。通常の回復魔法では治せない四肢の欠損まで完治させられるが、そのためには対象者の記憶や経験がすべて流れ込み、時には苦痛を伴うという致命的な欠点がある。繰り返し使用すると、強い精神力がなければ自我が崩壊してしまうことがある。1周目の世界では、副作用の苦痛からケヤルは使用を拒否していたが、フレア・アールグランデ・ジオラルによって無理やり薬漬けにされて回復専用の道具のように扱われていた。2周目の世界では副作用に耐え切れるほどの精神力を獲得し、経験や記憶を読み取る副作用を逆に利用し、相手の情報を得る目的で応用技として使用することもある。また、回復の本質を見極めたケヤルは、研究を重ねて模倣や奪取といった派生能力も会得していく。
模倣 (ひーる)
回復の派生能力の一つ。回復の副作用を有効活用したもので、相手の技能をコピーできる。ケヤルは他者の剣術や錬金術などをコピーしながら会得していった。しかし、コピーした技能の持ち主の肉体などとの違いから、オリジナルと比べると劣化版でしかなく、独自の技能はコピーできないこともある。
奪取 (ひーる)
回復の派生能力の一つ。回復の際に開く魔術的なパスを利用して、対象の経験値・魔力などを奪い取る。経験値を奪う場合、既にレベルアップに使用されて体に定着された経験値までは奪えない。
改良 (ひーる)
回復の派生能力の一つ。対象を使用者が望む形に回復することで、使用者自身はもちろん他者の容姿・能力・記憶・性格などを自由に書き換えられる。ケヤルはこの改良を活用してケヤルガに変身したり、フレア・アールグランデ・ジオラルやノルン・クラタリッサ・ジオラルといった復讐対象の人格と容姿を変えて、自分好みの人物に改変している。また、改良をさらに応用した技として「改悪(ヒール)」があり、対象に触れることで肉体を改ざんして、内部から破壊することができる。改ざんの事象が大きいほど魔力を消耗し、基本的に肉体に手を密着させなければ発動できない。
神装宝具 (しんそうほうぐ)
勇者のみが使用できる特殊な武器。誰とも契約されていない状態ではただの宝玉にしか見えず、勇者以外では契約や武器化することすらできない。勇者が触れることで望みや能力を読み取って契約を交わし、新たな持ち主の能力を最大限引き出せる最適な武器へと形状を変化させる。一度契約したあとは、持ち主が死亡するまで形を変えることができなくなる。
クレジット
- 原作
-
月夜 涙
- キャラクター原案
-
しおこんぶ
書誌情報
回復術士のやり直し 15巻 KADOKAWA〈角川コミックス・エース〉
第1巻
(2018-03-31発行、 978-4041068380)
第2巻
(2018-09-04発行、 978-4041072929)
第3巻
(2019-02-04発行、 978-4041077306)
第4巻
(2019-07-04発行、 978-4041083581)
第5巻
(2019-12-03発行、 978-4041083598)
第6巻
(2020-05-02発行、 978-4041093474)
第7巻
(2020-10-10発行、 978-4041093504)
第8巻
(2021-02-10発行、 978-4041093528)
第9巻
(2021-08-10発行、 978-4041115756)
第10巻
(2022-02-10発行、 978-4041115794)
第11巻
(2022-08-10発行、 978-4041126271)
第12巻
(2023-02-10発行、 978-4041132579)
第13巻
(2023-08-10発行、 978-4041139066)
第14巻
(2024-02-09発行、 978-4041145166)
第15巻
(2024-08-09発行、 978-4041151716)