概要・あらすじ
戦争から復員した天外仁朗は、出征中に生まれた妹天外奇子に会う。だが奇子の実の母は兄嫁天外すえで、義父との不義の子だった。GHQ諜報員の仁朗は、任務上で共犯となった殺人の証拠を隠蔽するところを奇子と使用人のお涼に目撃される。仁朗はお涼を殺害するが、警察による捜査が進む中、家名が汚れるのを恐れた一族によって家を放逐され、奇子は口封じのため、世間的には死んだものとされ土蔵に幽閉されることとなる。
土蔵で成長していく彼女は、やがて世話をする兄の天外伺朗との近親相姦の関係に、女としての喜びを見いだしていく。一方、仁朗は、名前を変え暗黒街の顔役となり、ようやく天外家から逃げ出した奇子を自らの正体を隠して世話をすることになるが、かつての陰謀を隠蔽し去ろうとする組織により追いつめられる。
仁朗をかくまうため天外市朗らが用意した地下の穴蔵に天外家の面々が集まると、一部始終を見てきた伺朗は、閉ざされた空間の中で、一人一人の罪を暴いていくのだった。
登場人物・キャラクター
天外 奇子 (てんげ あやこ)
表向きは天外家当主の天外作右衛門 と妻天外ゐばの次女だが、本当は天外作右衛門と長男天外市郎の嫁天外すえの娘。復員してきた次男天外仁朗が、共犯となった殺人の証拠を隠蔽するところを偶然目撃し、同じく目撃したお涼が天外仁朗に殺されるの現場にも居合わせる。警察の捜査が進む中、家名が汚れるのを恐れた一族によって、口封じのため世間的には死んだものとされ土蔵に幽閉されることとなる。
天外 仁朗 (てんげ じろう)
戦争から復員してきた天外家の次男。GHQの諜報活動中に妹、天外直子の恋人の殺害に加担する。証拠を隠蔽するところを天外奇子と使用人のお涼に目撃され、お涼を殺害し天外家から逃亡した。後に祐天寺富夫と名を変え、裏社会で頭角をあらわすが、やがて、かつて自分が関わった暗殺に疑問を抱くようになる。 自分のせいで幽閉生活を送ることになった天外奇子を影ながら案じ、名を伏せてお金を送り続ける。戦争で右目を負傷、眼帯をかけており、空洞となった眼窩に秘密文書などを隠す。
天外 伺朗 (てんげ しろう)
天外家の三男。幼い頃から頭がよく、天外奇子の幽閉に反対し、口封じの原因となった兄天外仁朗の犯罪を親戚一同の前で告発するが家名を重んじる一同によりその声は封殺される。天外奇子のために色々骨を折るが、成長した天外奇子と近親関係でありながら体の関係を持つようになる。
天外 市朗 (てんげ いちろう)
天外家の長男。財産をすべて相続する代わりに、嫁である天外すえを父天外作右衛門の女として差し出す取引をかわす。その結果として生まれた天外奇子に怒りをぶつけ、その幽閉に当たっては一族を取りまとめる主導的な役をはたす。父の遺言が、先の取引にも関わらず、自分ではなく天外すえに財産を譲るという内容であり、しかも、その天外すえに離縁状を突きつけられたため、天外すえを殺害する。
天外 すえ (てんげ すえ)
天外家の長男天外市朗の妻。天外市朗は、財産をすべて相続する代わりに、嫁である天外すえを父天外作右衛門の女として差し出し、その結果として天外奇子が生まれるが、戸籍上は義理の妹とされ、母と名乗ることは許されない。理不尽な男たちに逆らえず苦悩する。
天外 志子 (てんげ なおこ)
社会主義政党民進党の支部長江野正の恋人となり、自らも党員として活動。父である天外作右衛門は、自分の娘が「アカ」であることを許さず天外志子を勘当する。その後、家を出て結婚した後も、自分の恋人を殺した人間を憎み続ける。
天外 作右衛門 (てんげ さくえもん)
400年の歴史を持つ旧家天外家家長。女好きで長男天外市郎の嫁天外すえを、財産を相続する見返りとして自分のものにする。その結果生まれた天外奇子を、自分の末娘として溺愛するが、その幽閉に当たっては家名を優先する天外市郎に逆らえず、しだいに実権を失っていく。天外家の使用人として働いているお涼も、天外作右衛門がよその女に生ませた子どもである。
天外 ゐば (てんげ いば)
家長天外作右衛門の妻。
お涼 (おりょう)
知的障害がある娘。使用人として天外家にいるが、実は天外作右衛門が使用人の妻に生ませた子。
江野 正 (えの ただし)
社会主義系政党民進党の淀山支部長。天外志子の恋人。GHQの秘密工作により暗殺され、天外仁朗はその死体処理の任務を受ける。
下田警部 (げたけいぶ)
江野正がころされた淀山事件を時効後も追い続け、天外仁朗を執拗に探る。その息子は天外奇子と偶然に恋人となった下田波奈夫である。
下田 波奈夫 (げたはなお)
下田警部の息子。父が探る天外仁朗の自宅を見に来て、天外奇子と出会い、庇護者兼恋人となる。
霜川 則之 (しもかわ のりゆき)
国鉄総裁。GHQの強硬な要求による職員の大量解雇に抵抗する。解雇を発表した後失踪し、その後礫死体となって発見される。捜査に当たった下田警部は、先輩の田沼刑事から、事件が青森の「淀山事件」と酷似していることを知らされ、天外仁朗を追求するようになる。
場所
天外家 (てんげけ)
400年の歴史を持つ青森県の素封家。家長を絶対とする封建的な日本の旧家。戦後の農地改正で多くの土地を失い、没落の道を辿りつつある。天外仁朗の殺人を家名を重んじて隠蔽、目撃者である天外奇子の幽閉を、一族が一同に会した場で決定する。