概要・あらすじ
江戸時代。裏柳生を率いる柳生烈堂の奸計により公儀介錯人の地位を追われ、さらに妻を殺された拝一刀は、生き残った一子の拝大五郎と共に、刺客稼業を続ける。子連れ狼と呼ばれるようになった一刀と大五郎は烈堂へ復讐を誓い、一方、烈堂はふたりを亡き者にしようと次々と刺客を放つ。
両者の暗闘は多くの人々を巻き込み、やがて徳川幕府を震撼させる大騒動へと発展した。
登場人物・キャラクター
拝 一刀 (おがみ いっとう)
公儀介錯人だったが、裏柳生を率いる柳生烈堂の奸計により地位を追われ、さらに妻を殺される。生き残った一子の拝大五郎と共に、一殺五百両の刺客を生業とするようになり、子連れ狼と呼ばれる。裏柳生への復讐を胸に秘め、烈堂が次々と放つ刺客と暗闘を繰り広げる。後に江戸に入ると、曲折を経て、将軍たちの見守る中、大五郎と共に、烈堂と壮絶な死闘を演じた。
拝 大五郎 (おがみ だいごろう)
拝一刀と妻の薊の間に生まれた子供。幼くして父親と共に、刺客道に入る。普段は一刀の押す箱車に乗って移動している。あまたの修羅地獄を見続けたために、死生眼を得た。
柳生 烈堂 (やぎゅう れつどう)
徳川将軍家の剣術指南役である柳生家に生まれる。公儀の命により刺客を務める裏柳生の総帥だが、表柳生も支配している。公儀介錯人の役職を取られたことから拝一刀を怨み、奸計を持ってその地位を奪い、さらに一刀の妻の薊を殺害した。自分に復讐の刃を向ける一刀に刺客を放つが、ことごとく返り討ちにされる。 これにより五人の子供とたくさんの配下を失い、ついには自身で雌雄を決することになる。実在した柳生烈堂がモデル。
阿部 頼母 (あべ たのも)
公儀の唇役筆頭。将軍家御膳の毒味役を務める。毒薬に精通している。裏柳生と拝一刀の闘争に介入して、柳生家を蹴落とし、天下の権を握ろうと画策した。しかし、ことごとく失敗し、さらには錯乱により水門を開き、江戸を水没の危機に陥れる。最終的に斬首となり、江戸城で拝一刀に首を刎ねられた。 特異な少年期を送ったことで、性格が歪んでいる。
公方 (くぼう)
徳川幕府の将軍。名前は出てこない。柳生烈堂を深く信頼している。拝一刀と烈堂の最後の対決を、最上の礼をもって見守った。
柳生 兵庫 (やぎゅう ひょうご)
柳生烈堂の長男。表柳生に属し、総目付の地位にある。拝一刀に濡れ衣を着せようとするが、逆に奸計を見破られ対決。水鷗流の波切りの太刀に斬られる。
柳生 蔵人 (やぎゅう くらんど)
柳生烈堂の次男。烈堂の命により拝一刀と対決するが、斬り倒される。
柳生 軍兵衛 (やぎゅう ぐんべえ)
柳生烈堂の三男。公儀介錯人を決定する御前試合で拝一刀に勝利するも、致命的な失態を犯してしまう。これによって公儀介錯人は、一刀に決まった。そのことを怨んでいたが、烈堂の命を受け、一刀と対決。しかし斬り倒された。
出淵 庄兵衛 (でぶち しょうべえ)
柳生烈堂の息子。もともとは長男だったが、妾腹であることと醜貌により、烈堂に疎まれ、大和柳生の里の喰代一族の中で育ち、喰代柳生を名乗る。だが烈堂が庄兵衛を柳生の里に追いやったのは、親心であった。それに気づかなかった庄兵衛は、拝一刀との対決で斬られると、烈堂への当てつけに妹の柳生鞘香を犯して、息絶えた。
柳生 鞘香 (やぎゅう さやか)
柳生烈堂の娘。四人の兄が拝一刀に倒された後、烈堂より指南された、お手玉の剣を会得する。この必殺技を持って子連れ狼と対決。しかし、拝大五郎の命を奪うことになるお手玉の剣を使うことができず、斬り倒される。
拝 薊 (おがみ あざみ)
拝一刀の妻。一刀を公儀介錯人の地位から排斥しようとする裏柳生総帥の柳生烈堂の放った刺客により、家人諸共殺される。
長崎屋 (ながさきや)
商人。濡れ衣を着せられ破滅しようしたところを、刺客として現れた拝一刀によって救われる。以後、心酔する一刀の依頼を受け、投擲雷を用意した。阿部頼母により江戸が水没の危機に陥ると、投擲雷の使用により水流を変えることを提言。一刀と柳生烈堂と共に投擲雷を運ぶ途中、力尽きて、濁流の中に消えた。
木颪の酉蔵 (きおろしのとりぞう)
房州の揚屋と女衒を束ねる寄合頭。短筒を片手に、女性の身で忘八者を仕切っている。女衒を殺した娘を拝一刀が助けたことから縁ができる。秘かに一刀を慕い、後に一刀の江戸入りに協力し、斬り合いの中で命を散らした。
集団・組織
公儀介錯人 (こうぎかいしゃくにん)
『子連れ狼』に登場する組織。廃絶・切腹を命じられた大名の介錯をする役職。三ツ葉葵の紋服を着用し、大名の首を刎ねるのは、あくまでも公儀であることを示す。公儀介錯人を決定する御前試合で、柳生烈堂の息子の軍兵衛が拝一刀との立ち合いに勝利するものの、重大な失態を犯してしまう。これにより一刀が、公儀介錯人に選ばれた。
裏柳生 (うらやぎゅう)
『子連れ狼』に登場する組織。徳川将軍家剣術指南役の柳生家で、公儀の命により刺客を務める人々を指す。柳生烈堂が総帥であり、裏柳生のみならず、表柳生も仕切っている。公儀介錯人の地位を奪った拝一刀とその息子の拝大五郎を執拗に狙うが、ことごとく返り討ちにあい、裏柳生の力は大きく弱まった。
黒鍬者 (くろくわもの)
『子連れ狼』に登場する組織。公儀が諸藩の調査に使用する探索人。実質的に柳生烈堂の支配下にあるが、当初は、拝一刀と裏柳生の暗闘を傍観していた。しかし、一刀が刺客として公儀の役人を斬ったことから、暗闘に介入する。その結果、烈堂にいいように使われ、ついには全滅。黒鍬者最後の一人は、柳生封廻状の秘密の手掛かりを一刀に与えて息絶えた。
里入り忍 (さといりにん)
『子連れ狼』に登場する組織。裏柳生の命により、六十余州に潜入した忍びの者の総称。草とも呼ばれる。親子代々、その土地で暮らし、何事もなければ普通の人という仮面をかぶったまま一生を過ごす。しかし柳生烈堂の命を受け、さまざまなしがらみを振り切り、江戸に集結した。拝一刀との戦いにより全滅する。
場所
江戸 (えど)
徳川幕府の将軍が暮らす江戸城のある、江戸時代の日本の実質的な首都。柳生烈堂との約定により、柳生蔵人を倒した後、江戸を離れていた拝一刀だが、柳生封廻状の謎を解いたことで舞い戻る。以後、江戸の地で凄惨な戦いが繰り広げられた。
八丁河原 (はっちょうがわら)
拝一刀と裏柳生が、最終決戦を行った場所。阿部頼母の介入により、戦いが中断したときは、互いの刀を河原に突き立て、再会を期した。その刀を守ったのが拝大五郎である。再会後の三人の死闘は、公方や諸藩の大名に見守られた。
その他キーワード
柳生新陰流 (やぎゅうしんかげりゅう)
『子連れ狼』に登場する技。実在する剣の流派。上泉信綱の新陰流を、柳生宗巌が伝承したことから、柳生新陰流と呼ばれるようになる。宗巌の息子の柳生宗矩が徳川将軍家の剣術指南役になったことから、大いに世に広まった。柳生烈堂率いる裏柳生は、従来の柳生新陰流の技に加えて、独自の技がたくさんある。
波切りの太刀 (なみきりのたち)
『子連れ狼』に登場する必殺技。拝一刀が使う水鷗流の技のひとつ。手首ごと刀身を水中に入れ、そこから斬りつける。これにより、動きの起こりが見えず、相手の対処が遅れることになる。
お手玉の剣 (おてだまのけん)
『子連れ狼』に登場する必殺技。拝一刀を倒すために、柳生烈堂が開発し、柳生鞘香に授けた。二刀を使う。片方の刀を上に投げ、もうひとつの刀で攻撃する。上の刀を払えば、斬りつけた刀に倒され、斬りつけた刀を払えば、頭上の刀が刺さるようになっている。
冥府魔道 (めいふまどう)
『子連れ狼』に登場する用語。拝一刀が、自分と拝大五郎について説明するとき、よく使う言葉。すでに武士ではなく、目的のためには手段を選ばない、修羅の道を歩んでいることを指す。
死生眼 (ししょうがん)
『子連れ狼』に登場する用語。拝大五郎の瞳の様子を指す。黒目が大きく、瞳孔は動かない。生まれたときから修羅地獄を見つめてきたことで獲得した。真の武士や人生の達人は、その瞳を見ただけで、大五郎の尋常ではない人生を察する。
胴太貫
拝一刀の愛刀。頑丈で斬れ味抜群の戦場刀。何度も一刀の窮地を救ったが、里入り忍の策により、柳生烈堂との最後の戦いの前に折れた。
箱車 (はこぐるま)
まだ幼い拝大五郎を乗せるための、木製の乳母車。三本の長巻と、堺筒が備えられている。また箱車の底には鉄板が貼られているなど、武装が施されている。
堺筒 (さかいづつ)
泉州堺の鉄砲鍛冶七郎兵衛が、鉄砲のさらなる発展を願って作った新式銃。束ねられた三十の銃身から、同時に全弾が発射される斉射能力を持つ。さらに連発順射の工夫も加えられた。七郎兵衛を疎ましく思う者から送り込まれた、刺客の拝一刀に自分と相通じるものを感じ、堺筒を託して斬られた。 以後、箱車に仕込まれた堺筒は、強力な兵器として活用される。
柳生封廻状 (やぎゅうふうかいじょう)
里入り忍が柳生烈堂に送った秘密文書。単なる公儀の公文書に見えるが、特殊な暗号が使われている。裏柳生に対する武器として拝一刀が持っていたが、これを奪った阿部頼母によって、公儀を蔑ろにした裏柳生の所業が暴露される。これにより烈堂が窮地に陥った。
投擲雷 (とうてきらい)
手榴弾のような兵器。拝一刀から四万両を受け取った長崎屋が用意した。本来の用途は、裏柳生との決戦で拝大五郎が戦うための兵器であつたが、江戸水没の危機を回避するために使用された。
水鷗流 (すいおうりゅう)
『子連れ狼』に登場する技。拝一刀が使う、剣の流派。水場を利用した技に特徴がある。上総佐貫藩の藩主が部屋住み時代に、一刀の弟子になっている。後に、柳生烈堂の権威に逆らうことのできない藩主が、一刀と対決。一刀に斬り倒されるが、その技を認められ、印可を授けられた。