概要・あらすじ
2月23日午後7時35分、東京首都圏でM8の直下型地震が発生。お台場で就職活動中だった平凡な大学生・三島ジンは、偶然再会した幼なじみの岡野なな子とともに、震度7の地震の恐怖に見舞われる。激しい揺れによる建造物の崩壊、路上が泥沼と化す液状化現象、追い討ちをかける余震、火の竜巻さえも伴う火災、ライフラインの停止、緊張下での集団パニック、略奪、性犯罪、そしてその中で人間が見せる強さと優しさ。
2人は自らの知恵と判断力で下した「およそ」51の方法をもって、壊滅した東京を歩き続け、たくさんの出会いと別れを経験し、ともに生まれ住んだ街・早稲田を目指すのだった。
登場人物・キャラクター
三島 ジン (みしま じん)
慶凰大学3年の男子学生で、年齢は21歳。東京都早稲田出身。夢は安定した収入を得て、優しい女性と結婚し、子供とマイホームを持つことで、現在はテレビマンになることを目標に就職活動を行っている。会社説明会のためにテレビ局がある東京お台場へ訪れたところ、大地震に見舞われる。中学校の頃、岡野なな子をいじめから救ってあげることができなかったことを悔い、たまたまともに被災した彼女を守ることを決意する。
岡野 なな子 (おかの ななこ)
喫茶店アルバイトの女性で、年齢は21歳。東京都早稲田出身。敬愛するビジュアル系バンド「サリン・ヘルヴァイン」の解散ライブを見るため、ゴスロリファッションに身を包み、お台場に足を運んでいた。三島ジンとは中学校の同級生。その頃に遭っていたいじめの傷を癒してくれたのがサリン・ヘルヴァインの音楽で、以後はそれまでの人生を忘れ去るために、「ロルコ」という新しい名前を名乗るようになっている。
ジジイ
お台場のベンチで佇んでいた関西弁の老人。震える手先で、物乞いをする姿から、被災直前に出会っていた三島ジンには「人生の負け組」とレッテルを貼られていた。しかし地震が発生した後は緊張下においても冷静な観察眼を発揮し、ぶっきらぼうながらもジンや周囲の人の指南役となる。ジンにできることは生きること、岡野なな子を連れて危険なお台場から逃げる方法をジンの知恵と判断力で考える他にないと諭す。 阪神淡路大震災で家と家族を失った経験を持つ。
洋一郎 (よういちろう)
お台場の崩壊したゲームセンターの中に取り残され、瓦礫に押しつぶされていた男児。流血している怪我人や遺体が多数ある中、ジジイの制止を振り切った三島ジンによって救出された。お台場には祖母と2人で来ていた。
ソドム
ビジュアル系バンド「サリン・ヘルヴァイン」のボーカル。ファンからは「ソドム様」「救世主様」などと呼ばれるほどのカリスマ的存在で、岡野なな子が最も崇拝していた人物。三島ジンとなな子が一時避難の場所として選んだテレビ局に向かったところ、その姿が目撃された。しかしそこで2人は、とても「救世主」とは呼べないような彼の言動に直面する。
カオス
ビジュアル系バンド「サリン・ヘルヴァイン」のギタリスト。三島ジンと岡野なな子が、お台場で焚き火で暖をとる人だかりに加わったところで出会った。ステージの上での寡黙なイメージとは裏腹に、実際は東北弁で話す気さくな青年で、わざと東北弁で歌を歌うことで、被災した人々の心を和ませる。本名もイメージとはかけ離れた「カズオ」という平凡なものである。 頭から血を流したまま身動き一つ取ることができない恋人のヨーコを背負って避難するため、レインボーブリッジを渡る際、愛用していたギターを捨てる。
ヨーコ
カオスの恋人。カオスとは同棲して10年の間柄で、「サリン・ヘルヴァイン」解散後に結婚することを約束していた。サリン・ヘルヴァインの音楽を「嘘くさい」と長い間嫌っていたが、被災した日は解散ライブということでお台場に来ていた。
澤田 リカ (さわだ りか)
三島ジンと岡野なな子がお台場を抜けた後に出会い、行動をともにすることになった女性。年齢は19歳。肌の露出の多い服装に、高いヒールのブーツを履き、当初は男性に媚びる言動が多かったが、破壊された東京の街を歩くうちに心境を変化させていく。地理に明るく、そして知り合いも多い六本木で、凶悪な事件の被害者となってしまう。
フリーダム
三島ジンたちが六本木で出会った外国人。スキンヘッドで、黒い肌に黒いスーツを着た巨漢。避難所に入ることを拒否された他の外国人たちとともに崩壊したカフェで一時避難しており、片言の日本語しか話せないながらも、PTSDによるフラッシュバックと発熱で倒れたジンを救護する。1989年にサンフランシスコでの大地震で被災した過去を持つ。
オーナー
澤田リカの六本木の知り合いで、取り巻きの男たちから「オーナー」と呼ばれている。女性に積極的に声をかけ、「彼の店」にある食料、飲み物、そしてアルコールを提供している。発熱していた三島ジンのため、リカは彼のもとへ食料を調達しに行く。
まりん
渋谷で母親とはぐれてしまった幼女。パンダのポシェットをたすき掛けにし、クマの耳のような形をした帽子を被っている。物怖じせず人見知りもしない性格だが、まだ言葉はおぼつかない。渋谷のセンター街の前で三島ジンたちと出会い、行動をともにするようになる。
飯森 福郎 (いいもり ふくろう)
岡野なな子と澤田リカとは行動を別にすることになってしまい、PTSDに苦しんでいた三島ジンに温かく接する21世紀箱舟学会の男性会員。大柄でラフな格好をしている。ジンを21世紀箱舟学会のビルに避難させ、人々を救うことを建て前にして、心に傷を負ったジンを学会に勧誘する。
小波 よい子 (こなみ よいこ)
21世紀箱舟学会のビル内で三島ジンに食事を配膳した女性会員。黒髪で、質素なスカートスーツを着ている。恋人である飯森福郎とともに、学会がはじき出したという天変地異のデータを示しながら、ジンの肩に身を寄せ、学会へ入会するよう迫る。
枡洟 梁山 (ますはな りょうざん)
21世紀箱舟学会の教祖。メガネをかけ、黒いスーツを着ている。巨大コンピューターで森羅万象を計算し、言語化できる唯一の「委託者」といわれている。これから起こる新たな災害から、人々に救いの手をさしのべることを会員に訴えかける。かつては印刷会社を営んでいた。
森田 (もりた)
渋谷の不良集団「カラス」のリーダー。剃り込みの入った坊主頭で、口髭を薄く生やし、眉は細く整えられている。センター街を荒らし、手下とともに女性を強姦し続けている。三島ジンの前で岡野なな子と澤田リカに襲いかかる。
アリサ
ファッションビル「SHIBUYA009」で、暴徒化した男たちから鉄パイプを片手に女性を守る店員のリーダー格。ガン黒メイクに茶髪、ヒョウ柄の服を着た女性で、頼もしく、そして店内で匿う女性たちに優しい。森田の元恋人である。
鹿野 久美子 (しかの くみこ)
ファッションビル「SHIBUYA009」に避難している女性客の1人。妊婦でもある。出産予定日は1か月先の予定だったが、暴徒化した男の群れがビルに押し寄せる中、本陣痛が始まってしまう。また、阪神淡路大震災の後に従妹が21世紀箱舟学会に入会してしまった経験を持つ。
野山 甚平太 (のやま じんぺいた)
自警団「渋谷青年団」の団長を務める老人で、「団長歴62年」と自称している。顔には皺(しわ)が多く、歯も欠けている。まだ小川が流れていた頃からの大切な故郷である渋谷のセンター街で、鉄パイプを武器に、不良集団「カラス」をはじめとした暴徒化した男たちから女性を守っている。戦争経験者でもある。
芝課長 (しばかちょう)
渋谷の街で数人の部下とともに被災した中年のサラリーマン。21世紀箱舟学会の機関誌を信じ、女性たちだけが救援物資を多く受け取っていると勘違いしている。さらに女性が暴行を受けるのが当然となってしまった街を見続けているうちに、自らも女性に襲いかかる暴徒と化す。妻と1人の娘を持つ。
稲本 康夫 (いなもと やすお)
ファッションビル「SHIBUYA009」内の更衣室に隠れていた若い男性で、薬品メーカー勤務のサラリーマン。ネクタイを緩めたスーツ姿に、メガネをかけている。出産直前の鹿野久美子たちの前に姿を現した。手には倒れた警察官から奪った銃が握られている。
ユースケ
澤田リカの幼なじみ。だぼだぼのファッションに身を包んだ青年。携帯電話の災害用伝言板でリカのメッセージを読んだ後、たくさんの救援物資を背負い、原付バイクと徒歩で横浜から渋谷まで駆けつける。リカのことを「リカちん」と呼ぶ。
集団・組織
サリン・ヘルヴァイン (さりんへるゔぁいん)
「信者」と呼ばれる熱狂的な女性ファンが多いビジュアル系バンド。死や霊魂、そして天使といった西洋の宗教をイメージさせる楽曲を奏でる。白塗りメイクに黒ずくめの衣装を身にまとい、「信者」も同様のゴスロリファッションでライブを「礼拝」する。大地震が起きた日に東京お台場で解散ライブを行っていた。
カラス
数十人の若い男で構成されている、渋谷で有名な不良集団。警察による東京の治安がままならない中、酒を飲み、荒廃したセンター街で数多くの女性を集団で強姦している。リーダーは森田。渋谷青年団と対立している。
渋谷青年団 (しぶやせいねんだん)
団名が記されたヘルメットとジャンパーを身にまとう、老人で構成された街の自警団。鉄パイプやバットなどを片手に、暴徒化した男たちから女性を守る。団長は野山甚平太で、SHIBUYA009と共闘関係にある。構成メンバーたちはアリサから「素敵なお兄さんたち」と呼ばれている。
21世紀箱舟学会 (にじゅういっせいきはこぶねがっかい)
渋谷に巨大なビルを構える救済団体。災害に備えた自家発電システムを設けており、被災直後であるにも関わらず、ビル内にいる人々は明るい表情をし、食事も取れる。地下には大きなホールがあり、ステージ上には森羅万象を計算できるコンピューターといわれる、黒い長方体の巨大物体がある。大災害や凶悪事件を日付まで性格に予測したという機関誌を長年発行し続けていて、おびただしい数の被災者がいる渋谷で、機関誌をおにぎりに添えて配布している。
場所
SHIBUYA009 (しぶやまるまるきゅー)
渋谷にある、「マルキュー」の通称で知られる女性向けファッションビル。ここに集まっている女性たちのことを言う場合もある。女性店員が鉄パイプや金属のポールなどを片手に、暴徒化した男たちによる性被害から女性を守る「女の要塞」。渋谷青年団と共闘している。店員も買い物客も女性しかいないため、安心して休息でき、店員のはからいで店舗の商品を定価ツケ払いで購入することもできる。