復讐の未亡人

復讐の未亡人

自殺した鈴木優吾の死の真相を探るべく、彼が勤務していた会社に潜入した女性、鈴木密の復讐劇と壮絶な過去を描いたサスペンス。「アクションピザッツSP」2015年4月号から2016年2月号にかけて掲載されたのち、「毒りんごcomic」で2016年11月から配信の作品。2022年7月にテレビドラマ化。

正式名称
復讐の未亡人
ふりがな
ふくしゅうのみぼうじん
作者
ジャンル
サスペンス
レーベル
アクションコミックス(双葉社)
巻数
既刊11巻
関連商品
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あらすじ

ビギニング

とあるIT企業の社員だった鈴木優吾が、ある朝に突然、自ら命を絶ってしまう。優吾の妻の「鈴木美月」は、愛する夫が死を選んだ真相を調べるために、「鈴木密」と名前や容姿を変えて別人になったうえで、優吾が務めていた会社に派遣社員として潜入を開始する。密は有能な派遣プログラマーとして職場の同僚や上司からも注目を集め、周囲に優しい笑顔を振りまきながら日々の業務を的確にこなしていた。そんな密は秘密裏に、探偵をしている義弟の鈴木陽史の協力を仰ぎながら、優吾が所属していた開発部のことを徹底的に調べ上げていた。優吾の同僚の中で彼にパワハラをしたり、嫌がらせをした人物を割り出しターゲットを定めていった密は、その妖艶さと狂気を武器に、復讐相手一人一人に精神的・身体的な苦痛を与える形で復讐を遂げようと目論む。密の潜入先は、開発部課長の橋本雅也の怒号が響き渡り、チームリーダーの斎藤真言をはじめとする社員たちがなだめるも、部下へのパワハラが日常的に行なわれているブラックな職場だった。最初のターゲットを、優吾に対する厳しいパワハラで追い込んだ雅也に定めた密は、巧みに誘惑しながら彼に接近していく。そんな中、陽史の情報提供や協力を得ながら、周到かつ華麗に甘美な罠(わな)を仕掛けていく密は、少量だけの毒薬を混ぜた飲み物でじわじわと雅也の肉体を蝕んでいく。だが、密の復讐はこれだけで終わることなく、彼女が次のターゲットに定めたのは若手社員の板橋ともみだった。ともみにはサボり癖があり、優吾を含め同僚に仕事を押し付けていたことから、ほかの同僚からも心底疎まれていた。ともみと同時に密のターゲットとなったのは、身内のコネクションを利用して入社し、仕事中はオンラインゲームばかりしている古武一也だった。密はともみの自宅にある物を送りつけて精神的苦痛を与えながら、呼び出した一也を狭い一室に幽閉することで追い詰めようと画策する。

人を狂わせる力

まじめで誠実だった鈴木優吾を追い込み、自殺に追いやったブラック企業の社員たちに復讐を果たした鈴木密は、同僚で優吾の後輩でもある斎藤真言と恋仲になる。やがて真言との子供を宿した密は、自らの復讐を終えたあとに真言との愛を深めていき、時には優吾との日々を思い出しながらも平穏な生活を送っていた。密は真言と共にマンションに引っ越し、周囲から歪(ゆが)んだ執着を向けられながらも、真言と二人で新生活をスタートさせる。そんなある日、密と真言はマンションで飛び降り自殺を図った少女、勝浦凛を保護する。実父の病死後に母親の勝浦日美子勝浦恭人と再婚して以来、徐々に毒親と化していった日美子と、虐待を繰り返す恭人に苦しめられてきた凜は、まだ幼い勝浦俊を守りながら苦痛に耐える日々を送っていた。しかし、恭人に怯(おび)えて外に飛び出した俊は、交通事故で命を落としてしまい、恭人の暴虐に耐えられなくなった凛は家を飛び出し、一人で自殺しようとしていたのだ。凛の事情を知った密は、彼女をそのままマンションに匿(かくま)い、一方で親友の西川萌愛の家族にまで手を出そうとする恭人を許せなくなった凛は、彼への復讐を決意する。なんの後ろ盾もないふつうの小学生の凛に対し、密は家族に苦しめられた末に復讐を果たしたとある少女の話をする。それは密がまだ少女だった頃、つまり「美月」であった頃の家族との関係と、周囲の異様な執着や嫉妬に苦しめられてきた暗い過去の話だった。密の壮絶な過去を知った凛は、彼女と共に恭人への復讐計画を練り始める。そのために必要な準備として、密の助言どおりクラスメイトたちを次々と味方に付けていった凛は、周囲に助けを借りながら恭人を殺害する計画を進めていく。そしてクラスメイトの美久を毒親から救った凛は、美久や萌愛の協力を得て、義弟の鈴木陽史が用意した毒草を恭人の料理に混ぜる復讐計画を実行に移す。

遠い遺伝子

自らの復讐を終えて鈴木密と共に暮らしていた勝浦凛は、マンション内のプールで美花と出会う。美花は密と同じマンションの最上階で、サングラスの女性と暮らす美少女だが、凛と同年代とは思えないほどに謎めいた不思議な雰囲気をまとっていた。一方、斎藤真言との子供を妊娠してから数か月経っていた密は、赤ん坊が男児とわかり、凛や隣人と交流しながら幸せな日々を送っていた。しかし、そんな密や凛の周囲では、怪しい視線と不穏な空気が漂い始めていた。真言の職場のOL、山下晴菜が、彼や同僚を通じて密のこと知り、彼女に対して異様な嫉妬心を向けるようになり、やがて晴菜は変装して密の周囲をうろつくようになる。最初は真言との関係性を気にしていた晴菜だが、徐々にその行動はエスカレートしていき、密に抱いていた興味は歪んだ執着や憎悪に変わっていく。晴菜を危険視した凛は、彼女のカバンに小型GPSを仕込み行動を監視するようになるが、晴菜が真言と会っているのを目撃し、二人の関係を探ろうとする。真言に片思いしながらもうまく気持ちを伝えられずに空回りを繰り返す晴菜は、密を見るたびに焦がれるような気持ちを抱くと共に、自分の存在を否定されているような気分に苛(さいな)まれていく。そんな晴菜の行動を凛と共に探る密の脳裏によみがえるのは、まだ「鈴木美月」であった頃の山本薫との複雑な愛憎や鈴木優衣との関係、そして鈴木優吾とのあいだに起こった高校時代の出来事だった。一方、凛は小学校に通っていない美花と度々会うことで、子供とは思えないほどに大人びた美花の中に潜む、異様な狂気を感じ取っていく。やがて美花の正体が、まだ高校生だった頃の美月と優吾とのあいだにできた、実の娘だったことが判明。妊娠発覚から出産・育児と目まぐるしく変わる環境が美月たちに重くのしかかる中、まだ生まれて間もない美花はある悲劇をきっかけに美月や優吾と引き裂かれ、何者かによって誘拐されて長らく行方不明となっていた。美月はいなくなった美花を心配しながらも、彼女の捜索は義弟の鈴木陽史に任せていた。美花と直接対面した陽史は、叔父であると名乗ったうえで、美花の本当の母親が別にいることを告げる。しかし、今の生活を変える気がない美花は、自分にかかわらないように警告しながら陽史のもとを去る。

片付け

鈴木密斎藤真言に粘着するストーカーと化した山下晴菜の恐ろしい本性が明らかになり、密と勝浦凛は警戒を強めていた。凄惨な過去を持つ凛の心の深い部分に寄り添い、彼女から母親のように慕われるようになった密は、小学校の授業参観に出席することになる。密は凛の親戚、みつ子を装い、予定どおり凛の授業参観に訪れるが、担任の女性教師の遠州は初対面の密に対して強い警戒心を向ける。防犯授業に移る前、教室に残った遠州はとある生徒の父親だけを残らせ、子供に暴力を振るっていることを指摘。すると、殴られたフリをした遠州が倒れ、救急車で運ばれるというトラブルが起こる。一方、凛のクラスメイトの保護者たちと交流を持つようになった密は、PTA活動のために定期的に小学校に出入りすることになる。凛は問題児の自分を保護したり、坂本和代に親切にしたりする密を不思議に思うが、密は多くの人間を不幸にしてきた過去への罪滅ぼしだと語る。その一方で、このまま晴菜を好き放題にさせていると、お腹の子供にも危害が及ぶと考えた密は、晴菜を自分と真言から遠ざけるために動き出す。常識を超えた魅力を持つ密に一方的な嫉妬と憎悪を抱く晴菜は、密たちの新たな動きも知らぬままさらに暴走を加速させていく。そんな中、以前から営業の長谷川と交際していたが、彼の暴力を受けるようになった晴菜は、包丁で長谷川を惨殺。一方、密は以前から晴菜がストーカー行為をしていることを真言に告げ、彼は密からの情報と協力を得ながら晴菜を遠ざけようとする。密の指示で晴菜の自宅に侵入しようとした鈴木陽史と凛は、遠くから望遠鏡と盗聴器を通して晴菜のアパートを監視することにする。アパートに現れたのは晴菜の祖母で、浴室で長谷川の死体を発見した彼女は晴菜に連絡し、陽史は死体を始末して殺人をもみ消そうとする二人の会話を録音する。密、凛、陽史の策略により晴菜は逃亡するしかなくなり、晴菜が原因で密から別れを告げられていた真言は、再び密と暮らせるようになる。凛に礼を告げた真言は密と久しぶりに体を重ねながら、実母を含めた三人の女性に育てられた過去を語り始める。頭脳明晰、冷静沈着でリーダーシップもある真言が体験してきた意外な過去と共に、彼と鈴木優吾と密をつなぐ、不思議な関係性の原点が明らかになっていく。

おばあちゃん

鈴木密たちの住むマンションに、まったく同じ容姿を持つ謎の美女四人組が現れる。元は田舎(いなか)で旅館の仲居をしていたハルカをはじめとする四人の女性たちは、個人投資家の蕪城勇介に整形手術を強いられ、まるでペットのように扱われていた。苦痛を伴う手術を強制し続ける勇介の横暴に耐えられなくなったハルカとアキナは、ベランダの仕切りを壊して、となりに住む美花たちに助けを求める。事情を聞いたサングラスの女性に気に入られたハルカたちは、彼女の協力を得ながら勇介に反旗を翻すことを決意。ハッキングや情報収集に長(た)ける美花は、勇介の投資取引を徹底的に調べ上げ、彼がハルカたちの名義を利用して借名取引を繰り返し、脱税にも手を出している事実をつき止める。脱税の片棒を担がされていたことに気づいたハルカは、勇介がハルカの名義で作っていた口座の金を美花の協力で手にしたあと、その金で逃亡を目論む。一方、恩人でもある勇介を憎み切れずに残ったアキナは、美花が調べ上げた彼の悪事の記録をお守りとして渡される。厄介者の勇介たちがマンションから去ったことに安堵(あんど)した坂本和代は、勝浦凛がネットオークションで買った古着を着ていることを知り、彼女を連れて買い物に出かける。密や凛との交流を繰り返す中で、以前のような孤独感から解放された和代は、出産後は密に見捨てられる可能性を警告し、凛に自分といっしょに暮らさないかと誘う。その話を聞いた密から部屋の合鍵をもらった凛は、密の家に出入りしつつも和代の世話になることが多くなる。一方、母親の西川萌美勝浦恭人と共に行方不明になったままの西川萌愛は、手っ取り早く現金を手に入れるため、凛の助言を得ながらフリマサイトの使い方を覚える。幼稚園からの幼なじみでありながら萌愛の家に来たことがなかった凛は、カルト教団の教祖を祖母に持つ萌愛の、複雑な家庭環境について知ることになる。浮気を繰り返す萌美のことを心底嫌っていた萌愛は、萌美の失踪以来、息苦しい家庭から解放されたことに感謝するようになった。そんな萌愛は凛といっしょに和代の部屋に入り浸るようになり、三人で楽しく過ごす時間が増えていく。一方、萌美と逃避行中の恭人は、萌明が教祖を務める教団の罠にはまって宗教施設に幽閉され、恫喝と暴力を受けながら極限状態に追い込まれていた。教団の乗っ取りを目論む幹部たちを始末しようとしていた萌明の策略により、殺人犯に仕立て上げられた恭人は、萌美から盗み出していた金を持って必死に教団から逃走する。

メディア化

テレビドラマ

2022年7月から、本作『復讐の未亡人』のテレビドラマ版『復讐の未亡人』がテレビ東京で放送。また、「Paravi」で2022年3月から先行配信されている。監督は井樫彩が務めている。キャストは、鈴木密を松本若菜が、斎藤真言を桐山漣が演じている。

登場人物・キャラクター

鈴木 密 (すずき みつ)

プログラマーの女性。IT企業の派遣社員をしている。愛する夫、鈴木優吾が自殺に追い込まれた真相究明と、優吾の復讐を果たすために、名前も容姿も変えて「鈴木密」という別人になりすまし、優吾が勤めていたIT企業に潜入する。本名は「鈴木美月」で、優吾と結婚する前の旧姓は「山本」。美しい深緑色の瞳を持ち、以前は黒髪のロングヘアで眼鏡をかけていた。密になってからは地毛である銀髪のボブカットの髪型で、妖艶な雰囲気をまとった美女となる。優吾の死後は義弟の鈴木陽史の協力を仰ぎながら、優吾が所属していた開発部の社員を徹底的に調べ上げ、優吾を追い込んだ人物を復讐のターゲットとして定める。その結果、まずはパワハラで優吾を追い詰めていた橋本雅也に接近し、雅也を誘惑しながら毒薬入りの飲み物を与えてじわじわと体を蝕み、密との逢引(あいび)きに依存していた彼を死に追いやった。これ以降は板橋ともみ、古武一也、佐伯麻穂を復讐対象に定め、引き続き陽史の協力を得ながら、一人ひとりに復讐を遂げていく。復讐にもっとも必要な武器は狂気と考えており、優吾を追い込んだ相手には容赦のない苦痛や死を与える形で、周到かつ華麗に復讐を果たしている。また必要に応じて、ターゲットやその周囲の男性に接近するため、密自身の妖艶さを武器に甘美な罠を仕掛けるなど、復讐を果たすためであれば手段を選ばない。優吾を追い込んだ者たちへの復讐を終えたあとは潜入していた会社を去り、斎藤真言に告白され恋人となる。真言とは再婚していないものの彼との子供を宿し、共に引っ越してマンションで二人暮らしを始める。そんな中、自殺を図った少女、勝浦凛を匿い、自らの過去を語りながら今度は彼女の復讐に手を貸すようになる。幼少期から叔母の鈴木優衣の世話になっていた関係で、従弟の優吾や陽史とは姉弟のように育ち、次第に彼らと肉体関係を持つようになった。避妊薬を隠していた優吾との子を妊娠し、高校生の時には娘の美花を出産した。幼少期から優れた洞察力や観察眼を持ち、相手の考えや感情を直感的に感じ取ることができる。このため、あらゆるウソを見抜くことも可能で、行方不明になった美花を捜すうちにさまざまなスキルを身につけていき、自らの復讐にも活かしている。

鈴木 優吾 (すずき ゆうご)

鈴木密(美月)の夫。とあるIT企業でシステムエンジニアを務めていたが、職場で陰湿なパワハラを受けたり同僚の嫌がらせを受けたことで精神を病んでいき、2年前に突然自殺した。死因は急性アルコール中毒で、美月と最後に行った海の浜辺で死亡していた。愛称は「優ちゃん」。鈴木陽史の双子の兄で、陽史と正反対で気が弱く、まじめで純粋な性格をしている。容姿と性格は父親似。職場では板橋ともみや古武一也などのサボり癖のある同僚から、仕事を押し付けられることも多く、何日も職場から帰れない日が続いていた。その一方で、まじめで仕事熱心な人柄は斎藤真言から尊敬されると共に、職場でパワハラや嫌がらせを受けていることを心配されていた。また真言が新入社員だった頃に、彼の教育係を務めたこともあり、その頃から真言の才能や人柄を見込んでいた。美月の従弟で、幼少期から鈴木優衣に預けられていた美月とは姉弟のように育ち、弟のようにかわいがられていた。共に暮らすうちに美月に思いを寄せるようになり、恋仲になっていく。実は幼少期に、美月と陽史から冒険と称して外に連れ出された時に起こった事故で負傷し、左目を失明している。幼少期からロボット工学に興味を持ち、自作のおもちゃや小型ロボットを作っていた。病弱で気弱なことから友人も少なくいじめられっ子で、学生時代はいじめや理不尽な暴力の被害に遭っていた。美月からは放っておけない人と思われて愛されていたが、一人の男としての自信を持てず、誰からも愛されている美月との関係が壊れることを恐れ、彼女との子供を望むようになる。美月が家を出て自立すると言い出したあとは避妊薬を隠し、まだ高校生だった彼女を妊娠させ、生まれてくる子供が美月の人生を束縛することを願っていた。美月が妊娠したのをきっかけに結婚し、両親や陽史の協力を得ながら、赤ん坊の美花を育ててきた。大切に育てると決意していたが、病院で起こった事件で美花が行方不明となってしまい、そのショックで入院した優衣や美花のことを心配しつつ、親戚の家に下宿して大学に通っていた。

鈴木 陽史 (すずき ようじ)

鈴木優吾の双子の弟。鈴木密(美月)の従弟で、義弟でもある。容姿や性格は母親の鈴木優衣に似ている。生真面目で純粋な兄の優吾とは対照的に、昔からやや根暗で疑い深い性格をしている。愛称は「陽ちゃん」。現在は探偵を生業としており、優吾の無念を晴らすため、復讐を決意した密の協力者として行動している。探偵としての能力と情報網を活かし、復讐対象の情報収集をこなしており、優吾の死の真相を調べるために職場を徹底的に調べ上げることで、優吾を追い込んだ人物をつき止めていく。復讐対象が決まったあとは、ターゲットの関係者に接近したり別人になりすますことで、密の計画をサポートしている。その後も密や勝浦凛に協力し、凛には子供が一人で生きていくための、さまざまな技術と知識を伝授している。子供の頃から美月と同居し肉体関係を持っていたこともあり、美月の家族や優吾が死亡した今となっては、彼女の過去や本性を知っている数少ない人物となっている。また、若くして結婚した美月と優吾の子育てを手伝っていたことがあるため、姪の美花のこともよく知っていた。美花が行方不明となったあとは、美月と共に捜索を続けていた。優吾の死後も美月と肉体関係を持ち、名前と容姿を変えて密となった彼女の理解者として接している一方で、昔から妖艶な魅力で他人を惑わせる美月のことを心底気味悪く思っている。このため、密に保護された凛に対し、密には近づかない方がいいと警告していた。

斎藤 真言 (さいとう まこと)

鈴木優吾と同じIT企業に勤務する男性。優吾の元部下で、彼を尊敬している。現在は鈴木密の同僚。黒髪短髪で眼鏡をかけている。頭脳明晰、冷静沈着で優れたリーダーシップを発揮している。会社の中では誰よりも彼の死を悔やみ、唯一葬儀に参列していた。この際に「鈴木美月」と出会っている。ブラックな職場環境に疑問を持ち、自分一人でも正そうとしている。上司のパワハラ行為も見逃さず、時にはクビになる覚悟で意見する。同僚や部下を気遣いつつも間違ったことはためらいなく叱責し、自分が会社にいるあいだは少しでもマシな会社にしたいと努力している。優吾からは「正直者でおもしろい奴」と評されていた。幼少期に両親が離婚しており、統合失調症を患って家に籠城する母親の知里の世話をしながら、学校にも通えない日々を送っていた。のちに知里は強制入院となり、病気が悪化して死亡した。密の持つ不思議な魅力や言動に惹(ひ)かれ、彼女が会社への復讐を終えて辞めたあとに思いを告げ、恋仲となる。この際に、密が優吾の無念を晴らすため、同僚たちに復讐していたことを知る。再婚はしていないが、共に新しいマンションに引っ越して二人暮らしをするようになり、のちに密とのあいだに子供をもうけた。その後に入社した同僚の山下晴菜からストーカー被害に遭っていたが、密に指摘されるまでまったく気づいていなかった。一時期は晴菜が原因で密から別れを告げられていたが、勝浦凛たちの協力を仰ぎながら晴菜を遠ざけることに成功し、再び密と暮らせるようになる。幼少期は両親と三人で幸せに暮らしていたふつうの少年だったが、父親の不倫をきっかけに母親の知里が精神を病んだことで家庭が崩壊。知里が夜に徘徊(はいかい)していたことで知り合った看護師のミエという女性に気に入られ、彼女からさまざまなことを教わり、助けられながら育った。しかし、薬物密売に手を出していたミエの夫から命を狙われるようになったことで彼女は去っていく。さらに隣人に刃物を向ける騒動を起こした知里も強制入院となり、のちに死亡した。高校生になった頃に、「ママ先生」と呼ばれている中年女性の養護施設に引き取られ、独学でプログラミングを学んだ。

橋本 雅也 (はしもと まさや)

鈴木優吾と同じIT企業に勤務する男性。開発部の課長を務める。パワハラ気質で部下のことをつねに見下し、優吾に暴言を吐いて追い込んでいた。このことから鈴木密の最初の復讐対象となり、誘惑しながら近づいてきた密に少量ずつの毒薬を盛られていた。これにより体を蝕まれて入院し、密に毒を盛られていたことを知らぬままに死亡した。

板橋 ともみ (いたばし ともみ)

鈴木優吾と同じIT企業に勤務する若い女性。サボり癖があり、自分の仕事を同僚や上司に押し付けることが多く、そのたびに斎藤真言から叱責されている。特に優吾に仕事を押し付けることが多かったため、これが優吾のストレスの要因の一つとなっていたことから、鈴木密の復讐対象となる。当初は鈴木陽史によって自宅周辺にゴミをバラまかれる程度だったが、いつの間にか行方不明になっていた愛猫の写真と共に生のホルモンを送りつけられ、精神的苦痛を受ける。その後は密の策略で、納品先にウイルスメールを送るという重大なミスを犯し、さらなる苦しみを受ける羽目となる。この出来事でこれまでまじめに仕事をしていなかったことを反省し、会社を辞めて専門学校でプログラミングを学び直すことになる。

佐伯 麻穂 (さえき まほ)

鈴木密たちが勤務するIT企業の社長秘書を務める女性。ほかの女性を見下し、マウントを取るような傲慢な態度が目立つ。気に入らない社員に対し、あの手この手で嫌がらせをすることから恐れられている。社内で注目され目立つ存在の密に嫉妬し、無理な企画を押し付けるなど嫌がらせを繰り返している。警察官の息子で元・暴走族の前田亜津志と交際中で、時には亜津志を使って気に入らない相手に暴行したり、脅したりすることもある。亜津志に浮気を疑われた際に、当時同じ企画メンバーだった鈴木優吾に濡れ衣同然の責任を押し付け、誤解した亜津志に優吾が殴られていたことから密の復讐対象となる。それを知らずに、亜津志を使って密をこらしめようと目論んで呼び出すも、彼女が目薬の中身を散瞳薬にすり替えたため苦しめられる。その後は亜津志と結婚式を挙げることになるが、佐伯麻穂が学生時代にいじめていた沙織と裏で手を組んでいた密と鈴木陽史によって、式の最中に浮気現場の映像を流され、式が台無しになったうえに亜津志からも別れを告げられる。

古武 一也 (こたけ かずや)

鈴木優吾と同じIT企業に勤務する男性。優吾の同僚。開発部の部長を務める叔父のコネクションで入社したため、経験や能力はまったくない。就業中はオンラインゲームで遊んでおり、まじめに仕事をしていない。優吾に仕事を押し付け、断られると創業者一族の権力を使って降格をちらつかせながら脅していた。優吾を追い込んだ一人であることから鈴木密の復讐対象となる。密と変装した鈴木陽史の策略で狭い部屋に閉じ込められ、仕事の関係者に口汚く罵倒されながら不眠不休で仕事をやらされるという、精神的苦痛を受ける。のちに叔父のもとへ帰ることはできたが、奇妙な宗教にハマってしまう。

若月 勇 (わかつき ゆう)

鈴木密たちが勤務するIT企業の若社長で、元スポーツ選手の男性。佐伯麻穂の浮気相手でもある。結婚しているが、気に入った女性社員に声をかけては浮気を繰り返している。これらの悪癖は社員たちからも周知されており、斎藤真言からは「ドスケベ社長」と呼ばれている。麻穂を通して密のことを知り、食事や仕事の話で密に近づき、やがて肉体関係を持つようになる。密のことを気に入り、麻穂に代わって新たな社長秘書になるように誘う。

坂本 和代 (さかもと かずよ)

鈴木密と斎藤真言が引っ越して来たマンションに住む中年女性。夫を肝臓ガンで亡くし、密のとなりの部屋に住んでいる。唯一の家族である一人息子とは別居しており、夫が遺したマンションを管理しながら、一人暮らしをしている。また、このマンションが建っている土地の元権利者でもある。真言からは癖のあるおばさんと嫌われているが、密から親切にされているため彼女のことを気に入り、当初は何かと密を頼ったりお茶に誘ったりするなど、積極的にコミュニケーションを取っていた。孤独感に苛まれて誰かに追われているという被害妄想やヒステリーを起こし、夜に大声で泣き出すこともあったが、密や勝浦凛との交流を通して少しずつ癒されていく。特に凛とは嫌味や口ゲンカを繰り返しながらも、祖母と孫のような関係を築いている。さらには凛を通して知り合った西川萌愛も家に入り浸るようになり、彼女たちに振り回されながらも楽しく生活を送っていた。幼少期は田舎の貧しい家庭で育ち、自分を利用して他人から金を毟(むし)り取る卑劣な両親に絶望し、家の金品を盗み出して脱走した際、墓地で「とき」という女性と出会う。とっさに記憶喪失を装ったことで、一人娘を亡くしたばかりの彼女に引き取られることになる。ときからは「エリサ」という名前を与えられ、バレエ教室の講師を務めながら、新しい人生を歩むこととなる。その後、バレエの世界で有名になっていく中、噂(うわさ)を聞き付けた両親に居場所をつき止められたことで、幸せな日々が終わりを告げる。凄惨な少女時代と息子との複雑な過去から人生経験はかなり豊富で、孫のように思っている凛や萌愛にはさまざまな助言を与えている。

勝浦 凛 (かつうら りん)

小学生の女子。鈴木密と斎藤真言が引っ越して来たばかりのマンションに住んでいる。荒れた家庭に苦しみ、飛び降り自殺を図り、密たちに保護された。ロングヘアで芯が強く勝気な性格の少女で、親友の西川萌愛をはじめ友達からも頼りにされている。実父の病死後は母親の勝浦日美子、幼い弟の勝浦俊の三人で暮らし、父親の保険金や遺族年金のおかげで金に困ることもなく生活を送っていたが、日美子が勝浦恭人と再婚したことで、その平穏な生活が崩れ始める。恭人からは性的虐待を含む暴行を受けており、さらに彼のせいで俊が事故に遭って死んだことが耐えられなくなり、自らの命を絶つことが彼への復讐につながると考えて自殺を図る。密と慎吾に助けられたことで自殺は未遂に終わるものの、事情を知った彼女の協力を得て、恭人への復讐を決意する。密に匿われながら復讐計画を練り、クラスメイトを味方に付けながら協力者を増やしていき、密を通して知り合った鈴木陽史が用意した毒草入りの料理を、恭人に食べさせることで復讐を果たす。自らの復讐を終えたあとは逃亡した恭人を監視しつつ、引き続き密に匿われながら学校に通っており、マンション内や外出時は坂本和代の孫として振る舞うこともある。また長かった髪を切り、その髪を売却したりして、さまざまな方法を駆使して収入を得ている。問題児の自分を匿ってくれた密を不思議に思いながらも、母親のように慕っている。陽史からは恭人への復讐計画の過程で盗聴や尾行などのテクニックを教わり、時には探偵の真似事をして気になった相手の動向を探っており、密の周囲をうろついている山下晴菜の調査にも参加した。子供ながら他人のウソや考えを見抜く優れた観察眼を持ち、密や陽史と行動を共にするうちに、それらの才能と勘の鋭さはさらに研ぎ澄まされていく。妊娠中の密が安定期に入った頃、和代からいっしょに住まないかと誘われるようになり、萌愛といっしょに彼女の家に入り浸ることが多くなる。

勝浦 日美子 (かつうら ひみこ)

勝浦凛と勝浦俊の母親。ガンを患った夫(凛の実父)の死後はまだ幼い俊を保育園に入れ、スーパーでパートとして働いていた。パート中に同級生だった勝浦恭人と再会し、凛に目を付けた彼と再婚することになる。恭人が徐々に暴力的な本性を現していくと共に、彼への依存と恐怖心からストレスで精神を病んでいき、凛に家事を押し付けたり暴力を振るったりと、毒親と化していく。しかし、恭人の暴力が原因で俊が死亡し、葬儀の時もまったく反省していない態度を取った恭人を見限り、一人で家を出て行方不明となる。のちに浜辺で自殺を図るも未遂に終わって保護され、自分の名前をはじめ記憶を失った状態のまま入院している。

勝浦 俊 (かつうら しゅん)

勝浦凛の弟。純真な幼い男児で、いつも凛に助けられている。母親の勝浦日美子が勝浦恭人と再婚してからは日美子から放置されることが多くなり、恭人の虐待に苦しめられながらも、作り笑いを見せることで耐えていた。しかし恭人への恐怖心に耐えきれず、大好きな電車を見に外へ飛び出したところ、踏切で事故に遭い亡くなる。

勝浦 恭人 (かつうら やすひと)

勝浦日美子の同級生だった男性。パート中だった日美子と再会し、のちに再婚して勝浦凛と勝浦俊の継父となる。一見、人当たりのいい人物に見えるが、当初から凛に警戒され嫌われていた。本性は自分勝手で粗暴な性格の持ち主。お金を家に入れることはなく、気に入った女性と遊び回るような奔放な生活を送っている。たまに帰って来ては日美子に八つ当たり同然の暴力を振るい、凛と俊のことも虐待している。俊が勝浦恭人の暴力に耐えきれなくなり、外に飛び出して事故死するも、まったく反省することなく、他人事のように思っている。俊の葬儀後は日美子と凛のことを見捨て、凛を通して知った西川萌愛の家族に目を付ける。やがて復讐を決意した凛によって食事に毒草を盛られ、俊の亡霊の幻覚を見てマンションから転落。死亡したと思われていたが西川萌美によって救出され、幻覚に怯えながら彼女に匿われる日々を送っている。ちなみにその様子は、鈴木陽史から監視アプリをもらった凛によって監視されていた。その後は萌美と逃避行を続けるが、彼女から盗み出した金を持って豪遊した際に萌明の罠にはまり、萌明が率いるカルト集団のリンチを受ける。さらに萌明の策略によって教団幹部を手にかけた殺人犯に仕立て上げられ、残った金を持って逃亡する羽目になる。

鈴木 優衣 (すずき ゆい)

鈴木密(美月)の叔母で、鈴木優吾と鈴木陽史の母親。黒髪ショートヘアの美人で、冷静で理知的な風貌をしている。姉の山本薫から美月を預けられるが、もとから娘が欲しかったということもあって彼女を本当の娘のように大切に思い、何かと気にかけていた。その一方で、薫の陰湿な行動や言動、彼女の美月に対する複雑な愛憎には疑問や恐怖心を抱いていた。薫の再婚をきっかけに家庭環境が変わった美月の身の安全を心配し、彼女をストーカーしていた少年を差し向ける。その結果、ストーカー少年によって薫たちの家が火事となり、村神圭司とその連れ子は殺害され、薫は行方不明となった。その後は美月を引き取り、彼女が優吾との子を妊娠したあとは二人の結婚を認め、生まれた美花の育児も手伝っていた。まだ赤ん坊の美花が行方不明になったショックで入院していたが、そのあいだも美月のことを心配し、彼女の幸せを願っていた。優吾が死亡した3年後に病死する。

山本 薫 (やまもと かおる)

鈴木密(美月)の母親。職業は絵本作家で、ペンネームは「美神カオル」。黒髪ボブヘアで、やや小太りな体型をしている。陰湿な性格で愚痴や自分語りが多く、担当編集者を含む周囲から心底嫌われている。見た目は母親や美月とは似ておらず、自分の容姿と異性にモテないことにコンプレックスを抱き、美人な妹の鈴木優衣には昔から嫉妬や羨望を向けることもあった。複数の男性と関係を持ち、美月の本当の父親が誰なのかわからないままで彼女を育てた。しかし、父親候補が複数いた方が子育てに便利だと考え、必要に応じて父親候補の男性に協力を求めている。仕事の邪魔になるからと仕事中は優衣に美月を預けていたが、家では美月に対して八つ当たり同然の暴力を振るったり、暴言を吐くこともある。美月の美貌を利用して主治医の村神圭司と再婚し、美月と圭司、彼の連れ子である康宏の四人で暮らすようになる。しかし圭司の関心が美月にしかないことや、彼に少女趣味があったことを悟って見限ると共に、美月への歪んだ憎悪が増していき、家庭は崩壊していく。のちに優衣が差し向けた美月のストーカー少年によって家に火が放たれ、圭司や康弘と共に死亡したと思われていたが、ストーカー少年を返り討ちにして一人だけ逃亡していた。その後は行方不明となっているが、密からは美花を誘拐した犯人であると推測されている。

村神 圭司 (むらかみ けいじ)

山本薫の主治医を務める男性。薫の娘の鈴木密(美月)に目を付けて薫と再婚し、息子の康宏と共に彼女たちの家に引っ越す。表向きは薫に優しく接しているが彼女にはまったく興味がなく、再婚したのも美月だけが目当てだった。少女趣味があり、美月をはじめ隠し撮りした少女たちの写真を隠し持っている。同居する中で美月の魅力に吸い込まれるように惹かれていく。また、男性を狂わせる彼女の魅力を危険視するようになり、同じく美月を危険視した康宏と共に襲おうとする。しかし、美月を心配した鈴木優衣が差し向けたストーカー少年に襲撃され、康宏と共に火事で死亡する。

美花 (みか)

鈴木密と同じマンションの最上階に住んでいる少女。同居しているサングラスの女性からはさまざまな約束事を強いられ、時おり八つ当たり同然の暴力を振るわれるなど、複雑な家庭環境の中で生活を送っている。密によく似た容姿の美少女で、勝浦凛と同じ年齢くらいの子供ながら、大人びた言動を取る。マンション内のプールで遭遇した凛と知り合い、対等に話せる彼女に興味を持つ。ふだんはサングラスの女性に従順な子供を装っているが、本音では彼女のことは毛嫌いしながら頭の悪い女と見下しており、彼女が自分の本当の親なわけがないと思っている。小学校には通わされておらず、車椅子に乗った謎の老人の介護をしながら、三人で暮らしている。その正体は、高校生の密(美月)と鈴木優吾とのあいだにできた実の娘。まだ赤ん坊の頃に病院で起こった事件をきっかけに何者かに誘拐され、12年間行方不明になっていた。パソコンの扱いが得意で、いつもノートパソコンを持ち歩いており、情報収集やハッキング技術にも長けている。のちに叔父である鈴木陽史を通して本当の母親が別にいることを知るが、今の生活が変わることを望まず、自分とかかわらないよう警告をしたうえで陽史の前から去る。

サングラスの女性 (さんぐらすのじょせい)

鈴木密と同じマンションの最上階に住んでいる謎の女性。美花と彼女に介護される車椅子の老人の三人で暮らしている。ロングヘアでいつもサングラスをかけた、謎多き美女。整形手術に依存しており、ふだんは美花のことを放置して顔のメンテナンスに勤しんでいる。美花に対してはさまざまな約束事を強いると共に横暴な態度や暴言が多く、彼女が少しでも逆らえば暴力を振るっている。表向きは従順に振る舞っている美花からは見下され、嫌悪されている。美花の母親ということになっているが実の母親ではなく、彼女との詳細な関係や、彼女と暮らすようになった経緯は謎に包まれている。

山下 晴菜 (やました はるな)

鈴木密が勤務していたIT企業の新人派遣社員の女性。密の退職後に派遣社員となり、斎藤真言の部下となる。黒髪ショートヘアで、地味な容姿をしている。引っ込み思案で、気の弱い性格にコンプレックスを抱いている。趣味はサーバーを自作すること。両親は幼少期に事故で亡くなっており、過保護な祖父母に引き取られて育てられた。数年前に祖父が亡くなり、現在は祖母が施設で暮らしているため、アパートで一人暮らしをしている。前に勤めていた会社が重度のブラック企業であったため、サービス残業が当たり前になっており、真言から叱責されたことで彼に思いを寄せるようになる。自分に興味がない相手しか好きになれない一方で、嫌いな相手に媚(こ)びてしまう悪癖があり、仕事中に知り合った営業の長谷川を嫌悪しながらも彼と付き合うようになる。しかし、暴力的な長谷川から無理な仕事を押し付けられたり、自宅では八つ当たり同然の暴力を振るわれることに悩み、自分の男運の悪さを嘆いている。長谷川との交際を続けながらも本音では真言への未練が強く、やがて同僚を通して知った密に激しい嫉妬を抱くようになり、変装して密の周囲や真言との関係を探るようになる。その後、真言に一方的に執着するストーカーと化していき、邪魔な密の死を願うようになる。だが、早くからストーカー行為に気づいていた密の策略によって、真言にこれまでの悪事を知られてしまったうえに、自宅で長谷川のさらなる暴力を受けて彼を殺害した。浴室に長谷川の死体を放置したままで真言を誘惑するも、彼にストーカー行為を指摘されてしまう。さらには自宅を訪れていた祖母に長谷川の死体を発見され、殺人をもみ消そうとする祖母との会話を鈴木陽史と勝浦凛によって録音されていた。その後は開き直るかのように今まで隠していた本性を現すようになるが、祖母が逮捕されたことで真言にこだわっている余裕がなくなり、逮捕や刑罰に怯えながら逃亡する羽目になる。派遣社員になる前はビデオレンタルショップでアルバイトをしていたが、暴力的な客を恐れて被害妄想が激しくなり、祖父の入院をきっかけにその客を放火で殺害した過去を持つ。それ以降も何度か犯罪行為に走っており、時には自分を貶(おとし)める人間を死に追いやっていた。

西川 萌愛 (にしかわ もえ)

勝浦凛のクラスメイトで、小学生の女子。鈴木密たちの暮らすマンションで、両親と三人で暮らしている。凛とは幼稚園の頃からの幼なじみで、親友でもある。おとなしく礼儀正しい性格で、いつも凛に助けられており、大人相手でもはっきり物言う彼女にあこがれを抱く。凛を通して知り合った坂本和代から非常に気に入られている。カルト教団の教祖である萌明を祖母に持ち、教団の秘密が隠されている家には仲のいい友人である凛すらも招いたことがなかった。母親の西川萌美には甘やかされて育ったが、彼女といっしょのままだと自分はいつまで経っても強くなれないという不安を心の奥にしまい込んでいる。堂々と浮気を繰り返す萌美を次第に嫌うようになり、彼女が勝浦恭人と駆け落ちしていなくなったことに戸惑いつつも、彼女から解放されたことに安堵している。その後は凛の助言を受け、自力で金を稼ぐ方法を学びながら、彼女と共に坂本和代の家に入り浸るようになる。放課後はピアノ教室に通っている。

西川 萌美 (にしかわ もえみ)

西川萌愛の母親。看護師を務めている。人当たりがよく優しい性格で、萌愛には愛情を注ぎながらも浮気を繰り返していた。勝浦恭人に目を付けられて肉体関係を持つようになり、萌愛を家に入れない状態が続いていた。勝浦凛に復讐された恭人を救出したあとは、彼を連れて逃亡し行方不明となった。幼少期から萌明の教団を継ぐ次期教祖候補として育ったが、暴力を含めた厳しい教育に耐えられずに適性がないと判断された。神を名乗りながら多くの者を騙してきた萌明のことは詐欺師と思っており、彼女を反面教師としてウソが許せない性格になっていく。これらの過去から、自分に正直であろうとするあまり、家族の前で堂々と浮気をするようになった。

蕪城 勇介 (かぶらぎ ゆうすけ)

個人投資家の男性。鈴木密の住むマンションの住人で、ハルカをはじめとする容姿にコンプレックスを持つ四人の女性を囲っている。投資によって得た莫大な資金で彼女たちに整形手術を受けさせ、理想の容姿に仕立て上げていた。その整形手術により、姉妹のようにそっくりな顔と黒髪の四人の美女と共に、ラウンジで過ごしていることが多い。マンション内で頻繁に騒動を起こすため、坂本和代からは厄介者のように思われている。理想の容姿の維持のために四人には何度も整形手術を強制しており、拒否した場合はこれまでの手術代をちらつかせながら脅すことで、自分から離れられないようにしていた。そんな日々に耐えられなくなったハルカとアキナが美花たちに助けを求めたことで、脱税のためにハルカたちを利用していた事実が明らかになる。

ハルカ

蕪城勇介と同棲する謎の女性。鈴木密の住むマンションの住人で、黒の姫カットのロングヘアで、まったく同じ容姿を持つアキナを含めた三人の女性と、勇介の五人で暮らしている。勇介の指示で全身整形を繰り返しており、元は自分の容姿に強いコンプレックスを抱いていた。勇介と出会う前は田舎の旅館で働いていたが、同僚や客から容姿を馬鹿にされたり、周囲から見下されていた過去を持つ。その後、同僚に熱湯を浴びせ旅館を辞めたあとは東京で勇介と出会い、整形手術代を提供され励ましてくれる彼に感謝しながら尽くしていた。しかし容姿の維持のため、整形を強制する勇介の横暴に苦しむようになる。痛み止めを欠かせない毎日に耐えられず、隣人の美花に助けを求め、サングラスの女性に気に入られたことで彼女たちのサポートを受けながら、勇介への反抗を決意する。美花の調査で勇介が脱税行為のために自分たちを利用していたことを知り、彼を見限って一人で逃亡した。

萌明 (ほうめい)

西川萌愛の母方の祖母。有名なカルト教団の教祖を務めている。物静かで知的な雰囲気をまとった老人だが、巧みな話術で人を騙す老獪(ろうかい)さと、底知れぬ狂気を秘めている。娘の西川萌美をはじめとした自分の子供には、教団の跡取りを任せるために、時には苦痛を伴うほどの厳しい教育を受けさせていた。霊能力は持っていないが、勉強を重ねることで蓄えてきた膨大な知識を組み合わせた説法を活かして神を演じるという、宗教を通した心理療法ビジネスの成功を目指している。萌美の金を盗んで豪遊していた勝浦恭人を罠にはめて宗教施設に閉じ込め、彼を利用して教団の乗っ取りを狙っていた幹部三人を始末する。

書誌情報

復讐の未亡人 11巻 双葉社〈アクションコミックス〉

第10巻

(2023-02-28発行、 978-4575858167)

第11巻

(2023-12-12発行、 978-4575859171)

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