概要・あらすじ
第二次世界大戦中に日本近海に沈没していたドイツの潜水艦が引き上げられた。積荷は男性と女性の2体のミイラの棺だった。考古学の権威で湘南大学教授の岸田と、その片腕の早乙女森、岸田の娘の岸田衿子がミイラの引き上げに立ち会っていたが、クレーンの鎖が切れる事故が発生。これにより、女性のミイラの棺が空気に触れ、腕輪などの装身具以外はすべて風化してしまった。
残った男性のミイラは、湘南大学に運ばれて調査されることになったが、ある嵐の夜、ミイラが甦って人を襲い始める。
登場人物・キャラクター
岸田 衿子 (きしだ えりこ)
20代前半のアマチュアダイバーの女性。父親は考古学教授の岸田。ふわふわのロングヘアで、可愛らしく明るい性格をしている。高校時代は早乙女森に家庭教師をしてもらっており、その時から彼に好意を寄せているが、森には子供扱いされている。女性のミイラのサリアが身に着けていた腕輪を腕にはめたきり抜けなくなり、ミイラに狙われることになる。
早乙女 森 (さおとめ しん)
考古学界の若手として活躍する研究者の男性。岸田の片腕として、一緒にミイラの研究をしている。すらりとしてハンサムで、岸田衿子の女友達からも人気が高い。密かに衿子に想いを寄せている。しかし、研究者として一生を砂漠に捧げる覚悟を決めているため、衿子を巻き込めないと考えて、自身の想いを封じ込めている。一緒に研究ができるという理由で、考古学界のホープと呼ばれる鳴海麻矢と婚約している。
岸田 (きしだ)
湘南大学の考古学専門の教授を務める壮年男性。若手の早乙女森とともにミイラの研究をしている。白髪を後ろに撫でつけた髪型で、眼鏡をかけた威厳ある風貌をしている。娘の岸田衿子には甘く、潜水艦の引き上げ現場にも、森とともに同行を許す。
転 (ころび)
県警に所属している警部。くせ毛に太い眉、割れた顎を持つ中年男性。スーツにトレンチコートを羽織っている。湘南大学で起こったミイラ盗難と殺人事件の調査に訪れる。当初はミイラが動いて殺人を犯している、という早乙女森の説を信じなかった。しかし、実際に岸田衿子がミイラに襲われている場面を目撃し、森の言葉を信じるようになる。 被害者が増えて「湘南大学殺人事件捜査本部」が設置されてからは、県警本部長にミイラのことを訴えるが、信じてもらえずにいる。
研究員 (けんきゅういん)
湘南大学の若い研究員の青年。背が低くボサボサ頭で、大きな眼鏡をかけて白衣を着ている。早乙女森と仲がいい。ミイラから採取されたクロレラの培養を任された。自分の飼っていた熱帯魚の水槽にクロレラを入れたところ、海水と暗闇によって遮光合成してクロレラが増殖することを確認。森、鳴海麻矢とともに、湘南大学学生課の喫茶室でミイラの謎を推理した際には、オットー・ワールブルグがクロレラ研究に関与していたのではないかと言い出す。
ミイラ
5000年前の男性のミイラ。生前はサリアを愛し、彼女に仕えた戦士であった。脳、内臓などすべてが残ったままミイラとして保存されていた。棺の引き上げの際、クレーンの鎖が切れて海中に落ちたことにより、体に詰められていたクロレラが海水に触れて活性化。その後、湘南大学に移送されて調査されるが、クロレラが活性化したことにより復活を果たし、サリアの腕輪を追い求めて彷徨(さまよ)う。 ミイラ信奉者からは「ファラオ」と呼ばれる。
サリア
5000年前の女性のミイラで、当時の王女。自身に仕えていた戦士(生前のミイラ)と身分を超えて愛し合っており、戦士から贈られた美しい腕輪を、死後も身に着けていた。棺が開いた際に新しい空気に触れて、腕輪を含む装身具以外は風化して消えてしまう。
ミイラ信奉者 (みいらしんぽうしゃ)
某教団の熱狂的ミイラ信奉者。肩ほどまで伸ばした髪型をした中年男性。頭に組み紐を巻き、貫頭衣のような時代がかった服を身に着けている。ミイラを「ファラオ」と呼んで復活を心待ちにしていたが、ミイラに殺される。
鳴海 麻矢 (なるみ まや)
T大学考古学研究室に所属する才媛。早乙女森の婚約者。黒髪のロングヘア、スタイル抜群の美人で、「考古学界のホープ」と高く評価されている。森の岸田衿子への想いに気付きながらも、自分ならどこまででも森について行き、彼とともにに一生を研究に捧げることができると思っている。
県警本部長 (けんけいほんぶちょう)
県警の本部長を務めている中年男性。七三分けで眼鏡をかけ、チョビひげをはやしている。湘南大学で起こったミイラ盗難と殺人事件の被害が拡大するに伴って設立された「湘南大学殺人事件捜査本部」を指揮する。何かと偉そうな性格、かつ現実的な考え方の持ち主で、早乙女森や岸田衿子、転がどんなにミイラが犯人だと説明しても、まったく信じようとしない。
守衛 (しゅえい)
湘南大学の守衛を務めている若い男性。顎ひげを生やし、大柄でがっしりとした体格をしている。早乙女森とは顔見知り。嵐の夜に湘南大学内の見回りをしていた際、溝に落ちて長ぐつに水が大量に入ったため、歩くたびに水の音がした。それで、森と岸田衿子にミイラと間違われてしまう。
まさ子
湘南大学学生課の喫茶室のウェイトレス。廊下で倒れていた岸田衿子を助け、喫茶室の控室で休ませる。早乙女森、研究員とも親しく、クロレラについて熱く語る研究員のコーヒーに、まさ子がウィスキーを入れたのではないかと、森に冗談を言われる。
オットー・ワールブルグ (おっとーわーるぶるぐ)
ユダヤ人の生物学研究者の男性。「クロレラの父」と評される。ナチス・ドイツの時代にもかかわらず、殺されも追放もされなかった。その理由は、クロレラの変種によって死んだ人間を甦らせる研究をしていたのではないか、と研究員に推論されている。実在の人物、オットー・ワールブルグがモデル。
場所
湘南大学 (しょうなんだいがく)
ありとあらゆる学部、学科を持つ新興の私立マンモス大学。岸田、早乙女森、研究員が所属している他、守衛やまさ子が働いている。沈没した潜水艦から引き揚げられたミイラが運び込まれ、考古学部のみならず、医学部、理学部、工学部、海洋学部なども研究に協力していた。病原菌のテストや、クロレラの培養も、この湘南大学で行われた。
その他キーワード
腕輪 (うでわ)
サリアの棺に残された装飾品の1つ。5000年前に戦士だったミイラが、王女のサリアに贈った腕輪。非常に美しく、立派な細工が施されている。岸田衿子が思わず腕に着けるが、それきり二度と取れなくなってしまった。ヤスリや糸のこ、あらゆる酸、ダイヤのガラス切りでも切ることができない。蘇ったミイラは、この腕輪を追い求めて彷徨う。
クロレラ
ミイラの包帯と皮膚の間に詰められていた謎のクロレラ変種。海水と遮光合成、反(アンチ)光合成で増殖する。見た目は緑色のゼラチンに似ていて、肉の腐ったような臭いがする。ミイラが蘇ったのはこのクロレラが原因と考えられている。