あらすじ
くねくねハンティング
友達もおらず、一人で過ごすことが大好きな女子大生の紙越空魚は、趣味の廃墟探索をしていた際に、不思議な空間「裏世界」を見つける。人間関係の煩わしさから現実世界に嫌気が差していた空魚は、人間が誰もいない裏世界を探索しようとするが、そこで奇妙な怪異「くねくね」と遭遇する。見ただけで正気を奪い、体を動かなくさせるくねくねのせいで、空魚は身動き一つ取れない状況に追い込まれ、刻一刻と死を待つ身となる。しかし、そこで空魚は仁科鳥子と出会う。くねくねを目にし、窮地に陥る二人であったが、鳥子がたまたま持っていた岩塩の直撃を食らい、くねくねは鏡石を残して消え去るのだった。脅威が去ったことで、改めて二人は自己紹介をし、空魚は鳥子が大切な友達を探すために裏世界に来たことを知る。裏世界から帰り、現実世界で鳥子は空魚を探し出し、二人でくねくねを倒し、鏡石を手に入れることを空魚に提案する。裏世界への興味を捨てきれなかった空魚は、鏡石を売って得たお金を山分けするという提案も出され、渋々彼女の提案を受け入れる。勝算があった鳥子であったが、頼みの綱であった岩塩はまったく効果なし。二人はくねくねを目にしたことで動けなくなり、徐々に正気を失っていくが、空魚はくねくねを見て、認識することがくねくねを倒す方法だと直感的に理解する。空魚が見て、鳥子が攻撃することで、二人はくねくねを倒し、生還することに成功するのだった。
八尺様サバイバル
くねくねを見て、何かの影響を受けすぎたことで、紙越空魚は右目、仁科鳥子は両手の指先がそれぞれ変色してしまっていた。空魚は鳥子に連れられ、裏世界を専門に研究する研究者の小桜と出会う。小桜から鳥子の事情を聞いた空魚は不機嫌となり、彼女の裏世界探索に付き合うことを約束したものの、辛辣な態度を取るようになる。その意識の温度差を鳥子も感じ、二人の関係はぎくしゃくとしたものになる。そして二人で裏世界探索を始めたところ、二人は異様な風体の男、肋戸から声を掛けられる。怪しい肋戸の言動に警戒する二人であったが、肋戸は二人の進もうとした場所に「グリッチ」という罠があることを教え、二人を助けるつもりだったと語る。警戒を解いた二人は、肋戸が行方不明となった妻を探すために裏世界にやって来て、探索を続けていることを知る。肋戸の境遇に鳥子が共感したこともあり、空魚はまたしても疎外感を感じることとなる。肋戸に裏世界のことをレクチャーされながら二人は探索を続けるが、肋戸と鳥子は足跡を見つけ、どんどん先に進んでしまう。しかし二人が足跡と思っていたものを空魚が見たところ、それは奇妙な紋様だった。二人と違うものが見えているのに気づいた空魚は、肋戸が新たな怪異「八尺様」に近づいているのを目撃する。八尺様には周囲の人間に郷愁を抱かせ、大切な人に誤認させる力があったのだ。八尺様を行方不明の妻と認識した肋戸は、彼女に近づいた瞬間、青い光に包まれて消え去ってしまう。残された空魚も幻覚を見せられるが、鳥子の叱咤(しった)で現実に戻って来る。そして空魚は自分の右目と鳥子の指にはそれぞれ、怪異の実態を見て、触る力があるのに気づき、それで八尺様を打ち倒すのだった。
ステーション・フェブラリー
八尺様を打ち倒して現実世界に戻って来た紙越空魚と仁科鳥子は、数日後、打ち上げ会を行っていた。消え去った肋戸はそのまま行方不明、八尺様を倒して手に入れた帽子はなんの変哲もない帽子で、収穫なしと散々だった探索を振り返る二人であったが、彼らは飲み会をしていた居酒屋を出たところ、なんの前触れもなく裏世界に放り込まれる。空魚は今まで鳥子から夜の裏世界は危険と散々聞かされていたため、夜に裏世界に来ることは初めてだった。不意に裏世界に来たこともあり、装備も何もなしの状態で、二人は夜の裏世界を探索し始める。ラバや人面犬に追われるが、空魚は右目の力を使うことで辛うじて逃げ切る。そして二人は裏世界に迷い込んだアメリカ軍の兵士たちと出会うのだった。アメリカ軍は空魚たちを保護してくれたものの、出口がわからず、長いあいだ裏世界の怪異と接してきたため、精神的に疲弊し、空魚たちにも疑いの目を向けてくる。怪異の次は追い詰められた人間と息つく間もない二人であったが、アメリカ軍は人面犬に襲われ、さらに状況は混乱。銃弾もまったく効かない人面犬であったが、空魚たちは今までの経験から認識すれば倒せると考え、二人で力を合わせて人面犬を撃退する。二人はアメリカ軍から感謝の言葉を贈られるものの、兵士たちは空魚の目が異常な変貌を遂げていることに気づき、疑いをさらに深める。身の危険を感じた二人はきさらぎ駅に逃げ込み、やって来た電車に飛び込む。空魚の右目は電車に現実世界の境界面が映っており、彼女らはタイミングよくそれに手を掛けたことで、無事に現実世界に帰還する。
時空、空間、おっさん
きさらぎ駅から帰還して数週間後、紙越空魚は今までの経験から裏世界のこれ以上の探索は危険だと仁科鳥子に訴える。だが空魚の言葉は鳥子に届かず、二人の意見は対立する。そして鳥子はたった一人で裏世界を探索すると言い残し、空魚の前から姿を消すのだった。数日後、空魚は鳥子ともう一度話をすべく、小桜に相談して鳥子の家を訪れる。しかし彼女はそこで奇妙な体験をし、時空のおっさんに遭遇する。鳥子の身に何かが起きていると考えた空魚は再び小桜のもとを訪れるが、今度はそこにMIBが現れる。かつて肋戸が言っていた現実世界にも現れる裏世界の住人だと理解した二人は、最大限警戒してMIBと対峙するも、そのまま小桜と空魚は裏世界に放り込まれてしまう。小桜は実はすごく怖がりで、今までとは違う凸凹コンビで空魚は裏世界を探索することとなる。しかし、小桜は突如様子がおかしくなり、一人姿を消す。小桜を追って廃墟にたどりついた空魚であったが、そこは廃墟の姿をした巨大なグリッチであった。さらにそこで裏世界は夜を迎え、二人はさらなる危険にさらされる。MIBも時空のおっさんも、この廃墟へと彼女らをおびき寄せる罠と考えた空魚は、逆にここに鳥子がいることを確信する。そして空魚は廃墟の中で、閏間冴月の姿をした怪異に囚われた鳥子を発見。怪異を撃退し、正気を取り戻した鳥子を連れ、空魚と小桜は無事に帰還するのだった。
関連作品
小説
本作『裏世界ピクニック』は宮澤伊織の小説『裏世界ピクニック』を原作としている。原作小説はロシアのSF作家、ストルガツキー兄弟の小説『ストーカー』に多大な影響を受けており、「理解の及ばない異世界でのお宝探索」をコンセプトにしている。内容は二人の女性が怪異のはびこる裏世界を探索するホラーアドベンチャー小説で、インターネットに流布されている都市伝説をモチーフに組み込んでいるのが特徴。早川書房から刊行され、キャラクターデザインはshirakabaが担当している。
登場人物・キャラクター
紙越 空魚 (かみこし そらを)
埼玉県の大学に通う2年生の女子。年齢は20歳で、黒い髪をボブカットに整え、眼鏡をかけている。廃墟探索を趣味としており、その一環で裏世界を発見する。人間嫌いな性格のため、人間のいない裏世界を気に入り、入り浸るようになる。怪談オタクで、ネットロアや実話怪談にかなり詳しい。裏世界で仁科鳥子と出会い、彼女と裏世界を探索するようになる。当初は強引な鳥子に苦手意識を抱いていたが、根っこの部分が似通っている鳥子と次第に心を通わせる。実は本人は大したことではないと思っているが、母親とは死別、高校生時代には父親と祖母がカルト集団にはまって、紙越空魚自身もカルト被害に遭うという壮絶な経験をしている。カルト教団から逃れるため廃墟に身を隠し、その際に謎の「赤い人」に「あの人たち要らない」と答えたところ、カルト信者ともども父親と祖母も死んでしまい、結果的に彼女を悩ます存在から解放されたオカルト染みた体験をしている。彼女のおとなしそうに見えて意外とたくましく人間嫌いな性格は、この経験が反映されている。自らの欠けた部分を他者で埋める傾向があり、鳥子には自分と似た欠けた部分があると感じ、彼女に対して次第に依存するような姿を見せる。小桜からはその様を無自覚な「依存性サイコパス」と評されている。くねくね討伐の際に右目の瞳が変色し、きれいな青色となっている。右目は裏世界の存在の姿を見通す力があるが、ふだんは変色したのを隠すためカラーコンタクトでふつうの目っぽくしている。裏世界では鳥子から譲り受けた自動拳銃「マカロフ」を使う。
仁科 鳥子 (にしな とりこ)
金色の髪を長く伸ばした女性。容姿端麗で、陽気で前向きな性格をしている。行方不明となった閏間冴月を探すため、裏世界の探索を続けている。裏世界で出会った紙越空魚を強引に仲間に加え、彼女と共に裏世界を探索する。カナダ出身で、両親は特殊部隊に所属していた軍人。そのため銃火器の扱いに手慣れており、裏世界で拾った銃を使いこなす。当初は自動拳銃「マカロフ」を使っていたが、マカロフは空魚に譲り渡し、肋戸が持っていた「AK-101」を武器として愛用している。くねくねを討伐した際に、空魚を助けるため裏世界の異物に触ってしまったため、両手の指先が青く透明に変色している。それ以降は周囲の目を避けるため、指先を手袋で隠していることが多い。変色した指でなら、裏世界の怪異をつかむことができる。いつも明るく元気な様子を見せているが、実は両親とは死別しており、人付き合いが下手なため冴月以外の友達もいない。初対面の人間にも物怖じせず話す度胸はあるが、距離感を図るのが絶望的に下手なため、強引に相手と距離を縮めようとして最終的には相手に拒絶されるという、人間嫌いな空魚とは違ったタイプのコミュ障。またふだんの姿とは裏腹にかなり繊細で傷つきやすいため、小桜からも「めんどくさい女」と思われている。
小桜 (こざくら)
裏世界を研究する認知科学者の女性。小柄で華奢な体型をしている。紙越空魚よりも年上だが、10代前半くらいにしか見えない。インドア派のため、白い髪を伸ばし放題にしてシャツにズボンといったラフな格好でいることが多い。閏間冴月とは大学時代の友人で、彼女が裏世界を探索する際の最初のパートナー。ただ好奇心は強いが、小桜は恐怖への耐性が低く、裏世界が怖くて怖くてしょうがないため、最終的に裏世界の探索を断念する。裏世界の探索を断って以降は冴月との関係もうまくいっておらず、冴月の新しい相棒である仁科鳥子と知り合う。冴月が行方不明となって以降は鳥子の相談役のような立場に収まっており、たびたび鳥子に頼りにされている。冴月の紹介で、裏世界の研究をしている団体に所属しているため、そこからの援助を受けて資金力は豊富にある。鏡石など裏世界産のアイテムを多額の金で買い取っている。裏世界に行ったことがあるため、自衛用の武器としてショットガン「レミントンM870」を所持している。ただし恐がりなうえに、見た目どおり運動は不得意なため、基本的に戦力にはならない。「夜桜」という名でVチューバーとしても活動しており、その界隈ではそこそこ人気がある。夜桜の姿は、素の姿をモデルにしたら望ましくない反響があったため、色々いじったら結果的に冴月にそっくりな黒髪ロングヘアの女性の姿となっている。
閏間 冴月 (うるま さつき)
裏世界で行方不明となった女性。すらりとした体型に、黒い髪を長く伸ばして太いフレームの眼鏡をかけている。裏世界に執心していたらしく、小桜からは何度も警告を受けていたにもかかわらず、裏世界の探索を続行し、そのまま行方不明となる。男女問わず片っ端から他者を魅了する美貌の持ち主で、その有り様は小桜からは「生まれながらのアルファ・フィメール」と評されている。仁科鳥子は彼女の家庭教師の生徒であったが、鳥子も彼女に魅了され、共に裏世界を探索することを決める。
肋戸 (あばらと)
紙越空魚たちが裏世界で出会った男性。髭を伸ばし放題にし、迷彩柄のミリタリー系の衣装を身につけている。映画鑑賞が趣味で、同じ趣味を持つ美智子と意気投合して夫婦となる。しかし、結婚して1年経とうかという時期に美智子は急に失踪。わずか目を離した10秒足らずのあいだの出来事で、外出した痕跡もないという非常に不可解なものだった。美智子の捜索を続けるうちに、藁にも縋る思いで霊能力者や拝み屋に相談したところ、彼女は「神隠し」に遭ったと言われる。その後、あらゆる手段を講じて、執念の果てに裏世界を発見。裏世界を「ゾーン」と呼び、美智子を探すために必要最低限の補給以外はつねに裏世界で探索を続けている。長い時間、裏世界を探索し続けたためにグリッチの存在などを把握しており、空魚たちにそのことを教授している。一方で裏世界を探索し続けたため、精神がかなり疲弊しており、ぎりぎり正気を保っているものの情緒不安定な一面を見せる。また怪異を見るうち、人間不信になり被害妄想じみた言動をすることもある。空魚は彼の言動を支離滅裂な妄想と思っていたが、のちに現実世界でMIBに遭遇し、考えを改めている。
ウィル・ドレイク
アメリカ軍沖縄基地に所属する男性。階級は中尉で、ペイルホース大隊第三中隊の副官を務めている。ほかの兵士たちと共に裏世界に迷い込み、精神が疲弊した兵士たちの抑え役を担っている。冷静沈着な性格で人当りがよく、迷い込んだ紙越空魚たちを保護する。
レイ・バルカー
アメリカ軍沖縄基地に所属する男性。階級は少佐で、裏世界に迷い込んだ兵士たちの現時点の指揮官を務めている。合理的で落ち着いた性格をしており、兵士たちがパニックを起こさないように、最低限文化的な行動を心がけている。裏世界を、「向こう側」を意味する「アザーサイド」の名で呼んでいる。
場所
裏世界 (うらせかい)
噂に語られる都市伝説の怪異が跋扈(ばっこ)する謎の異世界。特定の条件で、特定の場所を調べると行くことができる。入ることができる場所はいくつかあり、突発的に迷い込む人間が多い。そのため「裏世界」は通称の一つにしか過ぎず、ほかにも「裏側」「ゾーン」「アザーサイド」と人によって呼称が違う。何も知らずに探索するとグリッチによって被害を被ったり、怪異に遭遇したりと危険な目に遭うため、そのまま亡くなる場合も多い。また、夜になると徘徊する怪異が増え、さらに危険度が増す。裏世界には危険が数多く存在するが、中でも裏世界が青くなった場合が最も危険だとされる。場所によっては電話で外とも連絡することができるが、会話内容が途中から支離滅裂な内容になるという謎の現象が起きる。本人たちは支離滅裂な内容を話している記憶はないが、録音したデータには本人たちの声で話している様子が記録されている。小桜と紙越空魚は裏世界を探索するうち、裏世界はなんらかの意図をもってわざと怖がらせるように作られており、徘徊する都市伝説も、迷い込んだ人間の脳にアクセスし、それを反映して作られているのではないかと推測している。
きさらぎ駅 (きさらぎえき)
裏世界に存在する謎の駅。都市伝説に語られる「きさらぎ駅」の特徴を色濃く持つ。駅員のいない無人の駅で、近くには迷い込んだアメリカ軍の野営地が築かれている。きさらぎ駅には線路が走っており、そこにはグリッチがないため安全に移動することができる。ただし、線路の先がどうなっているのかは不明で、アメリカ軍は一個分隊の兵士を線路が続くそれぞれの方向に向かわせたが、たった一人を残して全滅。その生き残った一人も正気を失い、ハミングをしながら自分の顔を切り刻むという状態になっていた。また、時おり列車がやって来るが、列車に乗るとそのままいずこかに連れ去られることとなる。一度乗車すると戻って来ることはできず、列車の中では凄惨な光景が繰り広げられていることもあり、危険を感じたアメリカ軍は探索の時以外はきさらぎ駅に近づかないようにしている。
その他キーワード
鏡石 (かがみいし)
くねくねが落とした謎の石。正六面体の鏡のような形をしているが、鏡は周囲の景色を映し出すものの、なぜか人間だけは映し出さない。既存の科学では説明できない謎の物質で、小桜は視覚を通じて人間の認識に入り込む性質を持つくねくねを、認識しつつ倒したため、くねくねとその人間の界面が破壊され、その認識が結晶化したものではないかと推測している。鏡石が人間を映さないのも、紙越空魚の人間嫌いな性質が反映されているのではないかと考えている。
第四種遭遇者 (だいよんしゅそうぐうしゃ)
小桜が便宜上使っている造語。ジョーゼフ・アレン・ハイネックが提唱した「接近遭遇」の概念をアレンジしたもので、第一種から第四種の遭遇者を定義している。第一種は単純な目撃、第二種は裏世界への侵入、第三種は怪異との接触、第四種は怪異の影響を色濃く受け、肉体に影響が表れた者に対して使っている。症状はさまざまで、くねくねと遭遇し、それを目で見て強く認識した紙越空魚は右目、空魚に生えてきた異物を触ってしまった仁科鳥子は、両手の指先が大きく変貌している。ただし、空魚たちの変貌はまだ比較的軽度のもので、重傷者は人間の形を保っていない者、変貌に耐え切れず発狂して死亡した者も存在する。また、第四種遭遇者の中には特異な力を得る者もおり、空魚の目は裏世界の怪異の姿を見通す力を持っている。
グリッチ
裏世界に存在する、なんの変哲のない空間。入った瞬間に異物に対してなんらかの現象を巻き起こす。種類はさまざまで、一瞬で対象を焼き尽くす「トースター」や、ほかにも機械の動作をおかしくするタイプが確認されている。無数に存在する「見えない地雷原」で、視覚に頼って確認することはできないため、何か物を放り込んで異常がないか確認するしか、回避方法はない。「グリッチ」の名は肋戸が付けたもので、肋戸からグリッチについて教授された紙越空魚もそう呼んでいる。米軍ではシンプルに「ベアトラップ」「地雷」と呼ばれている。空魚の右目でのみ、グリッチから銀色の光のようなものが出ているのを目視でき、見て回避することが可能。
くねくね
裏世界に出没する謎の存在。真っ白な体が関節もないようにくねくね動くという、都市伝説に語られる「くねくね」そのものの姿をしている。紙越空魚と仁科鳥子が最初に遭遇した怪異。じっと見ていると不安と恐怖が駆り立てられ、強制的に何かを理解させられて発狂する。くねくねを見た者の末期は、体中から菌糸のようなものが皮膚を突き破って生えてきて、自ら目を潰して発狂死する。あらゆる物理攻撃を無効化し、銃弾で攻撃してもまったく効果がない。くねくねはそこにいるように見えて実態がなく、視界を通じて他者に自分を認識させることで実体化する。くねくねを倒すためには、くねくねを見て実体化させたうえで攻撃する必要があるが、くねくねは見ているだけで対象を発狂させ、戦う気力を奪うため一人で倒すことは不可能。倒すためには一人がくねくねを認識し、もう一人がくねくねを攻撃する必要があり、二人以上の人間が必要となる。
八尺様 (はっしゃくさま)
裏世界に出没する謎の存在。身長は240センチはあろうかという大柄な女性で、白いワンピースを羽織り、白い帽子をかぶっている。都市伝説に語られる「八尺様」そのものの姿をしている。何もせず、「ぽ」と鳴きながらただ佇(たたず)んでいるだけだが、その姿を見ているとたとえようもない郷愁に駆られ、八尺様を大事な存在と誤認するようになる。八尺様を大事な存在と誤認して近づくと、青い光に包まれ、その者はいずこかに消え去る。八尺様の見せる幻覚は非常に巧妙で、わかっていても油断すると誤認してしまうほど強く、八尺様と対峙していれば次第に抵抗する気力も尽きて、彼女に引き寄せられてしまう。紙越空魚が右目で認識した姿は、歪んだ鳥居のようなオブジェクトで、青い光を発している。
ラバ
アメリカ軍の保有していた四足歩行型のロボット。荷運び用のロボットだったが、裏世界で遺体を運搬中にグリッチを踏んで動かなくなってしまった。アメリカ軍は仕方なく置き去りにしていたが、その後、変貌したラバは人を襲い始める。変貌後は遺体を胴体の部分から宙づりにした不気味な姿となっており、米軍からは「歩く絞首台」と呼ばれるようになっている。
人面犬 (ふぇいすどっぐ)
裏世界に出没する謎の存在。白黒の人の顔のようなものが、いくつもくっついたモヤのような形をしており、それが高速で移動して近づいて来る。顔は人の不安を煽るような表情で、見ている者の精神を徐々に消耗させていく。アメリカ軍は「人面犬」の通称で呼んでおり、夜毎に訪れる人面犬を追い払うため、よく攻撃を行っている。
時空のおっさん (じくうのおっさん)
裏世界にかかわり合いのある謎の存在。つなぎを着た中年男性の姿をしており、都市伝説に語られる「時空のおっさん」に近しい存在とされる。どことも知れぬ誰もいない空間に迷い込むと、どこからともなく現れ、警告だけ残して迷い込んだ人間を元の場所に戻すという、謎の行動を繰り返している。裏世界にかかわり深い人間の前に現れることが多く、迷い込んだ異空間は現実世界と裏世界の中間領域と考えられ、紙越空魚は「おっさん世界」と呼んでいる。迷い込んだ人間に警告して送り返すが、警告も不安を煽るもので、むしろ挑発しているのに近い。このため空魚は、時空のおっさんはわざと挑発して関心を強くさせ、裏世界のより深い場所に人を誘い込む罠のようなものだと推測している。
MIB (えむあいびー)
裏世界にかかわり合いのある謎の存在。時空のおっさんと似た存在だが、こちらは現実世界にも現れる。都市伝説で語られる広義の意味での「メン・イン・ブラック」で、宇宙人やUFOを発見した者の前に、政府のエージェントを名乗って現れる。しかし、そう名乗る彼ら自身もまた、よく観察すると人間とは思えない身体的特徴を持ち、奇妙な言動をしているとされる。小桜の前に訪れたMIBは中年女性の三人組だが、よく見ると体が非常に大きく、サイズの合っていない服を三人とも着ていた。人間の恰好をして、ある程度は人間的な行動をするが、人間的な反応はせずに不安や恐怖を煽る現象のような存在。そのため会話は成立せず、無視をしているとドアを叩きまくったり強行的な行動を取り始める。また体を肥大化させたり、対象を裏世界に放り込んだりといった行動を取る。
クレジット
- 原作
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宮澤 伊織
- キャラクター原案
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shirakaba
書誌情報
裏世界ピクニック 13巻 スクウェア・エニックス〈ガンガンコミックス〉
第9巻
(2022-09-12発行、 978-4757581333)
第10巻
(2023-03-10発行、 978-4757584655)
第11巻
(2023-09-12発行、 978-4757587854)
第12巻
(2024-03-12発行、 978-4757590953)
第13巻
(2024-10-10発行、 978-4757594678)