捨てがたき人々

捨てがたき人々

ひなびた港町を舞台に、不細工で夢も希望もない男・狸穴勇介の欲と絶望にまみれた生き様を中心に、様々な男女の愛と性、エゴのぶつかり合いを描いた人間ドラマ。社会道徳や一般的な建前を疑い、人間の真の欲望を追及する作者のテーマが凝縮された、後期代表作。

正式名称
捨てがたき人々
ふりがな
すてがたきひとびと
作者
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概要・あらすじ

職を失った狸穴勇介は、生まれ故郷に帰ってきた。金も仕事もやる気もない勇介の考えることはセックスのことばかり。新興宗教「神我の湖」を信仰している女性岡辺京子と出会った狸穴は、目先の色欲を満たすため、さも人生に苦悩しているかの様子を京子に見せ、彼女の信仰心と慈悲の心を利用する。京子と肉体関係になった狸穴は、不細工で育ちも良くない京子と自分はそっくりだと思い近親憎悪に陥るが、他にやることがあるわけでもなく、ズルズルと自堕落な関係を続ける。

登場人物・キャラクター

狸穴 勇介 (まみあな ゆうすけ)

学歴も金も無い男。貧乏で両親も不和だった不幸な生い立ち。不細工で特技も無い自分に強いコンプレックスを抱いている。無職になってしまい、故郷の港町へと帰ってきた。向上心もやる気もなく、世間一般の暮らしを営めている人間たちを恨んでいる。頭の中はセックスのことばかりで、女性を見ては妄想を繰り返す毎日。 近所の弁当屋の岡辺京子と知り合い、色欲を満たすために京子の信仰する新興宗教「神我の湖」に興味のあるふりをして近づき、強引に関係を持った。人間の本性は食べ物とセックスにしか無いと考えている虚無的な男で、京子との間に子どもができた後も、京子の叔母などと関係を持ち続けている。

岡辺 京子 (おかべ きょうこ)

弁当屋で働いている。不美人だがグラマーな肉体を持ち、特に脚は美しい。美人でないため昔から劣等感に苛まれていたが、新興宗教「神我の湖」に帰依し、幸せに生きられるようになった。善行を積んで解脱するため、狸穴勇介に仕事先を紹介するなど、親切にしてやる。狸穴の子を妊娠し、彼との結婚を決意した。 身勝手で自堕落な狸穴に献身的な態度を取り続けるが、後に神我の湖の幹部の男性と不倫関係になる。

叔母ちゃん (おばちゃん)

京子の叔母。太っているが独特の色気を持つ中年女性。居酒屋あかねを営んでいる。男運が悪く最近も新興宗教に熱中している京子のことを心配しているが、自分自身も20歳年下の男と関係を続けている。狸穴のことを毛嫌いしていたが、後に関係を持つようになる。作中で「愛ちゃん」と呼ばれたことはあるが、正式な名前は出てこない。

良江 (よしえ)

京子の母親。小さいころから真面目な性格だった。29歳で見合い結婚し、京子を産んだ。夫亡き後、最近は同年代の男性と関係を続けていた。心臓が弱い体質だったが拒食症になり、54歳にしてこの世を去った。

高橋 (たかはし)

不動産屋の中年男性。口ひげをたくわえ一見上品な物腰だが、高校三年生だった京子を襲い初体験の相手となった。その後も肉体関係を重ねており、京子を便利な存在として利用していた。しかし京子が妊娠を告げると、自分が父親かと誤解し、京子の前から逃げ出した。

瑞穂 (みずほ)

狸穴が下宿しているアパートの大家の娘。女子高生。親の前では品行方正な顔をしているが、裏では援助交際やマリファナ吸引など非行に走っている。女には若いうちしか価値が無いという醒めた諦観を持っている。

和江 (かずえ)

狸穴が京子に紹介してもらった工場に勤める女性。社長と不倫関係にあったが、和江がうっとうしくなった社長によって、従業員の吉田と結婚させられた。社長のことを今だに愛しており、夫となった吉田とは肉体関係を結ぶことを拒否し続けている。そして社長の子どもを妊娠してしまう。

社長 (しゃちょう)

工場を経営している。新興宗教「神我の湖」の信者であり、同じ信者仲間の京子の頼みをきき、狸穴を雇い入れた。おおらかで誠実そうな人物だが、妻とは長い間セックスレスで、従業員の和江と不倫関係を続けている。娘は陰で援助交際やドラッグ吸引を行なっている不良。 作中に名前は出てこない。

吉田 (よしだ)

和江の夫。社長のはからいで和江と結婚したが、社長と不倫状態で今だ愛し続けている和江に、肉体関係となることを拒否され続けている。メガネをかけたおとなしい人物で、不満を貯め込んでいたが、ある日爆発し、自宅でガソリンを頭からかぶって焼身自殺を遂げた。

正義 (まさよし)

狸穴と京子の間に産まれた男の子。すくすく育つが、成長するにつれて父親である狸穴を軽んじるようになる。

富士江 (ふじえ)

狸穴の母親。酒浸りで暴力を振るう夫と貧乏で凄惨な生活を送っていた。金のために周囲の男たちに対して売春を行なうまでになっていた。そんな荒んだ生活に嫌気がさし、息子の狸穴を置いて出て行った。現在は出来そこないの息子・草太を連れ、町から町へ流浪を続けている。

草太 (そうた)

富士江の息子。狸穴の異父弟。狸穴に似た不細工な顔立ち。性欲を押さえきれず少女にイタズラを繰り返し、警察沙汰になったことも。そのせいで富士江と草太は各地を転々としている。

小百合 (さゆり)

狸穴がよく通うそば屋で働く女性。不美人だが肉体はグラマー。ひとり娘がいるが夫とは離婚した。元夫が娘を連れ去ろうとしていたところを狸穴に助けられ、彼に魅かれてゆく。狸穴は小百合が旅館のひとり娘で裕福であることを知ると、計算ずくで関係を持つようになる。

集団・組織

神我の湖 (しんがのいずみ)

『捨てがたき人々』に登場する新興宗教。本作の舞台である港町の山の上に本拠地を持つ。教祖の名は朝日教主。愛を説き、自分を肯定し善行を積むようにという一般道徳的な教義を持つ。堕胎を禁じている。

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