あらすじ
第1巻
男子中学生の一歩の住む星河町には、「木霊」と呼ばれる不思議な存在がいる。木霊は樹齢の高い樹が年を経るうちに意思と不思議な力を持ち、人間と暮らすようになったもので、星河町の人間は約半数が木霊の血を引くといわれていた。一歩もまた木霊の血を引いており、星河町最後の木霊であるほおずきの子孫としていっしょに暮らしていた。130年前に行方不明になった夫の天馬を今でも思うほおずきの淋しげな姿に惹かれた一歩は、やがてほおずきに思いを寄せるようになる。しかし、一歩が15歳のある日からほおずきは体調を崩すようになり、ある日とうとう倒れて、目を覚まさなくなってしまう。
第2巻
ほおずきが倒れてから3年後。一歩が18歳になったある日、ついにほおずきは目を覚ます。しかし3年のあいだに、一歩はほおずきへの思いを断ち切るため望音と交際を始めており、一歩とほおずきのあいだには距離ができてしまっていた。現在の関係こそが正しいと思おうとする一歩とほおずきだったが、思いは止められず、再び惹かれあっていく。さらに一歩が、自身の前世であり、ほおずきの元夫でもある天馬の情報を探すうちに、一歩は天馬であった頃の記憶を取り戻し、「起こし」の力すらも手に入れる。覚悟を決めた一歩は望音と別れ改めてほおずきに告白するが、ほおずきは断り、一歩は家を出て、ほおずきと離れて生きる事を決意する。しかし、一歩の引っ越し当日、ほおずきは命の危機に陥る。ましろと佐和子のアドバイスにより正直に生きる事を決めたほおずきは、一歩を追いかけ、自分の思いを告げるのだった。
登場人物・キャラクター
一歩 (かずほ)
木霊の血を引く人間の少年。第1巻では15歳、第2巻では18歳で登場する。15歳の頃は前髪を眉上で短く切ったベリーショートカットの髪型で、18歳になってからは前髪を目が隠れそうなほど伸ばしたウルフカットにしている。明るく素直で、単純な性格。家族であり、直系の血族であるほおずきに思いを寄せているが、血がつながっているという理由からほおずきには相手にされず、もどかしい日々を送っていた。 しかし、ほおずきが体調を崩したのをきっかけに距離が近づいていく。子供の頃は家に木霊であるほおずきがいる事から「お化けのいる家」といじめられており、当時はほおずきの事を嫌っていた。しかし、ほおずきが時折見せる淋しげな表情に惹かれ、ほおずきが亡くなった夫・天馬を今でも愛していると知りながらも、熱心にアプローチするようになった。 ほおずきと血がつながっている事に関しては「5代も前で、いとこよりも遠い血縁関係であるから問題ない」と考えている。家族は両親と祖父、そして現在はいっしょに暮らしていない姉の透子がいる。
ほおずき
一歩の先祖で、星河町最後の木霊の女性。正体は樹齢1200年の欅の木だが、前髪を目の上で切り、顎の下まで伸ばした前下がりボブヘアに、法衣を着た若い女性の姿をして現れる。穏やかで落ち着いた性格で、最後の木霊である事も手伝い、町中の人間から非常に大切にされている。130年前、一歩から5代前にあたる人間の男性・天馬と結婚したが、ある日天馬は海で事故に遭い、行方不明になってしまった。 そのため現在でも、おそらく亡くなっているであろう天馬を待って暮らしている。直系の血縁関係にある一歩に日々熱烈なアプローチをされているが、血がつながっている事を理由に断り続けている。だが、内心では天馬の生き写しといえるほどによく似ている一歩に強く惹かれている。 しかし、一歩が天馬の生まれ変わりであるという事実は、一歩が18歳になり、ましろから聞かされるまで知らなかった。「ほおずき」という名は、天馬と初めて会った際に辺りに鬼灯がたくさんあり、闇の中で光っているようだったからという理由で名づけられた。いつも法衣を着ている理由は、天馬の死後、ほかの男性との縁談を断るために、出家したように見せたのが始まり。
望音 (もね)
一歩の友人の女子。第1巻では15歳、第2巻では18歳として登場数する。15歳の頃は前髪を真ん中で分けて額を全開にし、ふんわりとしたロングウェーブヘアを耳の高さでツインテールにしている。18歳になってからは髪を切り、前髪を真ん中で分けて額を全開にし、ふんわりとしたウェーブヘアを高い位置でポニーテールにした髪型に変えている。 穏やかでおっとりとした性格。幼い頃から一歩に思いを寄せていたが、一歩がほおずきに夢中な事に不満を感じていた。15歳の頃ほおずきが眠ってしまった際に「ほおずきが目覚めるまでで構わない」という条件で一歩と交際を始める。しかし、交際を始めてからも一歩は変わらずほおずきを思っている事を理解しており、苦しむ事になる。
入江 (いりえ)
一歩の友人の男子。15歳の頃は前髪を左寄りの位置で分けた、ふんわりとしたショートカットの髪型をしており、18歳になってもあまり髪型は変わらず、15歳の頃より少し伸びた程度になっている。プライドが高くやや他人を見下したところがあるが、根は親切な性格。もともと星河町の人間ではなく、東京都の有名私立中学に進学する予定だった。 しかし受験に失敗してしまい、腐っていたところを親の都合もあり星河町にやって来た。そのため木霊と密着した生活を送る星河町民の考え方が理解できず周囲から孤立してしまっていた。特に自分とは対照的な性格の一歩に対しては、15歳の頃は何かにつけて意地悪を言っていたが、ほおずきが体調を崩したのを機に知恵を貸すようになり、やがて友人関係になる。 18歳の頃は、3年ぶりに目覚めたほおずきとの関係に悩む一歩の事を案じている。
ましろ
近隣の山の神様「ヤマツミ」の使い。正体は蛙だが、前髪を真ん中で分けて額を全開にし、腰まで伸ばしたロングウェーブヘアの幼い少年の姿をして現れる。釣り目でまろ眉なのが特徴。髪型や、一人称が「あたし」であり「てよだわ言葉」を用いて話す事から女性と勘違いされやすいが、性別は男性。ほおずきと天馬は旧知の仲で非常に親しかったが、130年前、ほおずきが天馬のもとに嫁ぐ際に「もう会わない」という約束をしていた。 しかし、ある日災害を予知し、それを知らせるためにほおずきのもとを訪れる。ほおずきと天馬の事が大好きで、天馬と生き写しと呼ばれるほどに似ていても、内面はまるで違う一歩の事が気に入らない。そのため、何かにつけて突っかかる事が多い。
天馬 (てんま)
一歩の5代前の先祖の男性で故人。作中で容姿は描かれないが、一歩に生き写しと評されている。優しく聡明で上品で人望も厚く、当時の星河町にあたる村の期待を一身に背負っていた優秀な人物。130年前ほおずきと結婚し、ましろとも親しかったが、海の事故で亡くなった。その後魂は転生し、生まれ変わったのが一歩であるが、その事実をほおずきは一歩が18歳になり、ましろから聞かされるまで知らなかった。 好きな花は紫陽花。
佐和子 (さわこ)
一歩と透子の母親。前髪を真ん中で分けたふんわりとしたショートカットの髪型をしている。しっかり者で明るい性格。ほおずきとも非常に親しく、彼女の体調にも敏感。一歩がほおずきに思いを寄せている事は知っているが、血縁関係にあたるという理由から反対している。
その他キーワード
木霊 (こだま)
星河町にある樹の中でも樹齢の高い樹が、年を経るうちに意思と不思議な力を持つようになったもの。ほおずきは、星河町に住む最後の「木霊」である。時に人間に姿を変えて人間と恋をしたり、人間たちに混じって普通に暮らす事もある。また、木霊と人間の夫婦の結びつきは強く、たとえば人間である夫が亡くなった場合、妻である木霊はあとを追うように枯れてしまう事が多い。 そして、木霊の正体である古木を切り取って作った人形は恋のお守りになるといわれている。
起こし (おこし)
木霊と人間が結婚して子供が産まれた場合、その血を引く人間が持つ力。木霊の持つ能力の一部を受け継いだ証であり、奇跡を「起こし」たり、植物の眠った生命力を「起こし」たりする事から「起こし」と呼ばれている。星河町の町民の半分ほどには木霊の血が入っており、そのため木霊の血を引く家は皆「木霊」の漢字を変えた「兒玉」姓を名乗っている。 しかし「起こし」の力自体は、現在では農作物を育てる際に役立つ程度のものとなっている。一歩の家も、一歩の5代前の先祖にあたる天馬がほおずきと結婚した事でその力を引き継いでいたが、なぜか一歩には「起こし」の能力がない。長らくその理由は不明のままだったが、一歩が自身の前世である天馬の記憶を取り戻した事で能力は開花した。