概要・あらすじ
時は平安時代。桜は和泉の国で女房の淡海や、友人の朝霧と共に暮らしていた。ある日、許婚の王良親王からの使いと名乗る青葉が桜のもとを訪れる。王良親王からの言づては「都に来て、正室に迎えたい」というものだったが、会ったこともない王良親王と結婚できないと騒ぐ桜。ついには結婚が嫌で家出を決行するが、知り合いの巫女である白夜と交わした「満月をけして見ない」という約束を家出中に弾みで破ってしまう。
その際、桜は妖古に出会ってしまうが、危ういところを青葉に助けられる。そして白夜から、桜はかぐや姫の末裔であり、また妖古を倒せるのもかぐや姫の血を引く、桜だけであることを教えられるのだった。
登場人物・キャラクター
桜 (さくら)
都から遠い和泉で暮らしていた14歳の少女。命字は「滅」。かぐや姫の孫にあたり、月の国の住人でもある。普段は茶色い髪だが、体内から血桜を出すと銀色に染まり、完全な月の国の住人となる。血桜を用いて妖古と戦い、妖古を滅ぼす宿命を持つ。幼い頃から、白夜に「決して満月を見ないように」と言われていたが、家出の最中に満月を不意に見てしまい、月の国の住人として覚醒する。 青葉が好きだが、幼い頃は槐と恋仲になりたいと思っていた。
青葉 (あおば)
桜の生まれた時からの婚約者である、17歳の青年。命字は「生」。雷を扱う術師で、幼少の頃に狼の血を混ぜた毒を盛られたことから、血の呪いを受け、白い狼に変身できるようになった。当初は桜の婚約者の名前である王良親王の代理として現れたが、のちに自分自身が王良親王であることを明かす。東宮ではないが、皇族の一人として国を憂う気持ちが強く、妖古を憎んでいる。 桜や幼なじみの琥珀、疾風の前では彼本来の明るく屈託のない表情を見せることが多い。
朝霧 (あさぎり)
桜の友人の小さな妖で、その正体は雪女。朝霧としては友人というより、桜に仕えているつもりでいる。命字は「優」。見せ物屋に連れて行かれるところを幼少の桜に助けられ、以来桜の側にずっといると決めた。本来の姿は桜とかわらない大きさだったが、妖の血を飲んで血の呪いにかかった。優しい性格だが、かつて恋人だった右京の前では残忍な一面を見せることもある。 雪夜村の出身で、雪夜村を滅ぼした張本人。
白夜 (びゃくや)
桜の秘密を誰より知っており、桜の許婚として青葉を選んだ巫女。いつもは小さな老婆の姿でいるが、術により美しい女人の姿に変わることも可能。実は桜と同じく月の国の住人。月にある月の宮の創始者であり、血桜も月泉水も彼女が作ったものである。
琥珀 (こはく)
忍びの里の8代目の頭領の娘で、次期頭領に最もふさわしいと言われている少女。青葉、疾風、朱里とは幼なじみ。疾風のことが好きだが、彼を蛙の姿にしてしまった後悔から、思いを告げられずにいる。青葉にも恋とも兄とも言える感情を抱いている。基本的に元気で、桜たちのムードメーカー。
疾風 (はやて)
琥珀の幼なじみの忍びの少年だが、現在は琥珀のせいで蛙の姿となっている。蛙にされていなければ、次期頭領であった。青葉とは幼なじみであり、乳兄弟でもある。満月の夜から次の夜まで蛙から人間の姿に戻ることができ、その間に琥珀に愛を囁くも殆ど玉砕している。桜たちのマスコット的存在。
淡海 (おうみ)
和泉に住んでいた時に桜のお世話をしていた女房。命字は「信」。青葉の屋敷に移ってからも桜のお世話をしているが、妖が苦手なため、朝霧にはつらくあたることもある。桜が月の国の住人だと知った時、桜に「化け物」と言ってしまったことを後悔している。両親を妖古に殺されているため、今は遠縁の中納言が身元保証人。
中納言 (ちゅうなごん)
槐と内裏の仲介役をしていた男性。槐に頼まれ、淡海を使って桜の周囲を探らせていたが、そのうちに野心が膨らみ桜を殺そうと画策していた。しかし、桜を大事にしている槐にこの企みがばれ、槐によって殺される。
藤紫 (ふじむらさき)
東宮で、青葉の叔父にあたる。命字は「欲」。東宮だった青葉の兄が殺され、他の親王たちも権力争いに負けてしまったため、自動的に彼が東宮に選ばれた。青葉が桜の許婚でなければ、青葉が東宮になっていた。青葉とは仲が悪く、桜を正妃に迎えようと何度も接触してくるため、その時は青葉は本気で藤紫のことを拒絶する。
槐 (えんじゅ)
桜の兄であり、幼名は「戒」。かつて水牢に閉じ込められたことから、今の朝廷への復讐に動いているため、朝廷を守ろうとしている桜たちは敵対している。桜を月へ戻すために彼女を狙う傍ら、兄として桜を非常に大切に思っている。そのやり方は瑠璃条を怒らせるほど過剰な兄妹愛だった。桜は以前の兄とは違うと、兄を切り捨てることができたが、槐はずっと過去に囚われ、桜のためだけに動いている。
瑠璃条 (るりじょう)
月の国の住人の一人。毒性を持った瑠璃のような石を素体にして、葉っぱで作られた人を模して作られた人形。槐によって桜と同じ顔に作られた。槐と出会って体をもらうまでは瑠璃に似た石だったが、毒を持っていたため、周囲の者を殺してしまう特性があった。体が葉っぱであるため、水分を求め、一日一回は水につからないと体が保てない。 槐が優しくしてくれている理由は、自分が桜と同じ顔をしているからだということに気づいており、「本物」の桜を憎んでいる。しかし、疾風と通じていることを疑った槐によって、槐のもとを放り出された際に桜に助けられ、以降は桜に忠実になる。
朱里 (しゅり)
月の国の住人の一人で、抜け忍の青年。疾風と琥珀の幼なじみ。破斗と共に密かに槐を追っていた。それがバレそうになったため、破斗を殺したふりをして槐に取り入り、月泉水を飲んで月の国の住人となった。しかし、槐のために働くふりをしつつ、槐の側で情報収集するという当初の任務を継続している。
右京 (うきょう)
月の国の住人の一人で、雪夜村出身の男性。命字は「真」。朝霧の恋人だったが、朝霧が村を滅ぼしたことを知り、彼女を探していた。朝霧を追ううちに彼女に対しての憎しみの心を槐に漬け込まれ、槐の手下になった。憎しみを顕わにしながらも、かつて恋仲だった朝霧に密かに想いを寄せていた。朝霧と再会したことで槐のもとを離れようとしたがそれは果たされず、槐の手によって殺される。
舞々 (まいまい)
月の国の住人の一人で、15歳の美少年。命字は「美」。可愛らしい容姿をしているため女の子のように見える。「舞々」は偽名で、本来の名前は「でん」。生まれてすぐに負った顔の火傷を槐の月泉水で治してもらったため、彼に恩を感じて付き従っている。自分の美しさに絶対の自信と執着心を持っている。白夜と戦って破れ、のちに出会った百合が自らの姉だと分かると、槐のもとを出奔する。
破斗 (はと)
朱里の兄である忍びの青年。朱里と共に密命を受け、槐の動向を探っていたが、それを見つかってしまった。その時、咄嗟に破斗は朱里に殺されたように見せかけて自害。これにより朱里は槐の信用を得て、その懐に入ることに成功した。
百合 (ゆり)
右大臣家の娘。命字は「美」。美しいものが好きで、周囲の女房たちにも美しさを追求するように求める。右大臣の実の娘ではなく、右大臣の正妻が亡くなった娘とそっくりな娘を人買いから買ったという経緯がある。本来の名前は「りり」で、舞々の姉であった。
まい
舞々が「でん」と呼ばれていた幼少期に出会った、初恋の女の子。子供ながらに美人で、顔が火傷で爛れていたでんにも優しく接した。舞々が女装やメイクをして美しさに固執していたのは、まいのようになりたいとの思いからだった。
細雪 (ほそゆき)
雪夜村での朝霧の親友の女性。彼女も他の雪女たちと同様に右京に想いを寄せていたが、朝霧の前では隠していた。朝霧を人身御供に推薦したのは細雪で、朝霧を英雄にしたくない、かといって右京も取られたくないという思いで、朝霧の人身御供への道ゆきの際に襲いかかり殺そうとした。
霜二 (しもに)
雪夜村の長の娘。右京に好意を抱き、いつも彼につきまとっていたが、朝霧が人身御供として捧げられる際に、朝霧と右京との仲を認めた。細雪に襲われている朝霧を救い、ご神木までの道ゆきを助けるなど、勝ち気だが、人を思いやる心を持った女性。
かぐや姫 (かぐやひめ)
血桜の持ち主で、桜の祖母にあたる女性。綺麗な銀髪と金の目を持ち、本来の姿を現した白夜と似ている。槐によって不完全な形で復活させられ、ただの破壊衝動にかられた妖古と化してしまった。
集団・組織
月の国の住人 (つきのくにのじゅうにん)
槐の率いる反帝集団、または月泉水を飲んだ者たちのことを指す。また、白夜や桜、槐など元々の月の国の住人の血縁者のことも含む。不老不死の存在で、月の力を使うと髪が銀色になり、特殊な術を扱えるようになる。槐は普段から髪が銀色で、常にこの月の力を放出している。
場所
和泉 (いずみ)
幼い頃の「戒」と呼ばれていた頃の槐や桜が住んでいた場所。戒がいなくなってからは、桜と朝霧、淡海が共に暮らしていた。調度品や建物は王良親王である青葉からの援助によるもので、青葉の庇護のもと生活していた。桜にとっては幼少期を兄と過ごした馴染み深い場所。
水牢 (みずろう)
「戒」と呼ばれていた頃の槐が先帝に入れられた水牢。不老不死の月の国の住人にとっては、死ねる場所ではなく、何度も死にそうになっては、息を吹き返すという恐怖を味わった。桜も現帝によって水牢に入れられ同じ苦しみを味わうが、槐に助けられた。
修羅幽玄殿 (しゅらゆうげんでん)
槐たちが根城にしていた場所。大きな岩場をくり抜いて作られており、中には容易に入れない。また、侵入できる場所には結界が張ってあり、白夜の術を用いてもすぐに感づかれるほど警戒度も高い。
雪夜村 (ゆきやむら)
朝霧と右京の故郷で、細雪と霜二がいた場所。雪夜村の伝説通りに人身御供になる時に、伝説にあった神様が妖古であったこと、その妖古が雪女の魂を食らっているだけだったことを知った朝霧が力を解放したことが原因で、壊滅している。
その他キーワード
血桜 (ちざくら)
かつてかぐや姫が使ったとされる秘剣で、妖古を切るために作られた。切られたものは桜の花びらになる。血桜自身が己の主だと認めたもの以外にはうまく扱うことができず、桜も初めはうまく使えずに苦労した。普段は姿を消しているが、必要に応じて桜は血桜を手から呼び出すことができる。
月泉水 (げっせんすい)
不死山から湧き出る水。月の水であり、これを飲んだ人間は月の国の住人になった証として額に印が現れ、不老不死となる。月泉水の湧き口に血桜を刺して回すと、月の国の住人をすべて殺すことができる。
妖古 (ようこ)
妖の中でも凶暴で、人を食らうもののけ。不老不死だが、月の国の住人とは違い、破壊衝動にかられ手当たり次第に人や物を襲う。結界などで阻むことは可能だが、血桜でないと完全に滅ぼすことはできない。そのため、血桜の使い手であるかぐや姫の血を引く者は妖古の天敵ともいえる存在となる。
命字 (みことじ)
生まれた時に占われる一文字の漢字。桜は「滅」、青葉は「生」などさまざまな命字があり、この命字にはその人の運命のすべてが印されているとされる。命字の運命からは誰も逃れることができず、人間以外、例えばもののけにも命字は存在する。
血の呪い (ちののろい)
妖の血を飲んだことによる呪い。青葉と朝霧がこの呪いにかかっている。妖の力を使うことができるようになるが、そのたびに呪いが進行して呪いの証である痣が広がっていく。青葉は狼の姿になるたびに、朝霧は本来の姿である雪女の力を使うたびに、呪いが進行していく。
雪夜村の伝説 (ゆきやむらのでんせつ)
峠の森にとても大きな木があった。ある日、雪夜村の男が景色を見ようと木に登ると突然火の手が上がり、男は焼け死んでしまった。村の男たちがこの木を伐ろうとしたが、全員が燃えて死んでしまう。すると、村で一番霊力の高い雪女が「あの木はご神木。人身御供となって私が神様の祟りを鎮めましょう」と語り、生け贄となって神木に身を捧げると、男たちが燃えた灰の中から一人の男児が生まれた。 それ以降、村では毎年ご神木に人身御供を捧げるようになった。