あらすじ
第1巻
とある州刑務所で精神科医をしているダニエル・ディケンズは、病んだ人間の目に並々ならぬ執着を抱き、患者を救うためではなく、医師としての立場を利用して、病んだ人間の瞳を集めていた。そんなある日、ダニエルがカウンセリングした囚人が「断罪される」と叫んで錯乱する事態が発生。彼をはじめ、刑務所の囚人がいつも酷く怯えていることに気づいたダニエルは、看守のルーシーとキャサリン・ワードにその理由を問いただすものの、キャサリンから罪人に罪が下るのは当然だと、開き直った態度ではぐらかされてしまう。それどころか、ダニエルがカウンセリング中に囚人を精神的に追い詰めて、自らの手で目をえぐらせていることを、遠回しにキャサリンに看破されてしまうのだった。自室に戻ったダニエルは、囚人から集めている病んだ目が、自分が本当に求めている目ではないことに苛立ちを募らせる。その頃、街の教会では神父が多数の信徒に啓示を与えていた。(第0話「利害」。ほか、3エピソード収録)
第2巻
神父の誘いに乗り、天使としての役割を与えられたダニエル・ディケンズは、街で偶然会ったキャサリン・ワードのショッピングに付き合う。その際に路地にある怪しげな家具屋へと立ち寄った二人は、店員として働いている双子の職人と出会う。店内に置かれた家具が、人間を素材として作られた禁忌の品であることを悟ったキャサリンは、職人から数々の家具を見せられたのち、二人の職人を罪深き者として断罪しようとする。しかし、ダニエルはそれを遮り、職人を「神の使い」として神父の計画に迎え入れ、何もかもが許されて、自由に芸術を発揮できる場を提供しようとする。ところが、職人を実際に見た神父は、二人の職人が不完全な存在であると看破。どちらか一人のみを計画に受け入れることを職人に伝えるのだった。(第4話「双子の家具屋」。ほか、3エピソード収録)
第3巻
断罪した囚人421番が残した「地獄にいる者は天国を知らない」という言葉の意味を、戯言と思いつつも、一人反芻していたキャサリン・ワード。そこにダニエル・ディケンズが現れ、キャサリンに対して自分たちの仲間になるように促す。ダニエルが拍子抜けするほど、あっさりとその申し入れを承諾したキャサリン。キャサリンは天使になる前に、自らの手で断罪し、初めて処刑すると心に決めていた「特別で可愛い罪人」と会うのだった。(第8話「初めての人」。ほか、4エピソード収録)
登場人物・キャラクター
ダニエル・ディケンズ
眼鏡を掛けた知的な青年で、州刑務所の精神科医を務めている。表向きは親身に囚人の患者のカウンセラーをしている優しい医者を演じているが、実は人間の「病んだ瞳」に異常な執着を見せる異常者。右目は義眼なため、両目の色が異なる。母親は幼少の頃に失っている。「病んだ瞳を病んだまま大切にしたい」という衝動を抑えられず、囚人をカウンセリング中に精神的に追い込み、自分で目をえぐらせたうえで自分のものにして、鑑賞している。陰鬱で、暗く沈んだ瞳が好み。生者の目はいずれ変わるという理由から、目をえぐって集めるという手段を採用するに行き着いた。現在に至るまで、無数の病んだ瞳を手に入れているが、空虚な心は満たされてはおらず、人知れず瞳集めを続けている。とあるカウンセリング中に出会った、囚人421番から、神父に会ったことで自分は満たされたという話を聞かされ、好奇心から神父のいる教会に出向く。神父に「自分が本当に欲しいもの」を見透かされて驚愕。彼の計画に乗って壮大な実験場の天使になることを承諾する。その後は自分と同じ天使になれそうな人材を、カウンセラーとして働きながら集めていた。キャサリン・ワードからは「ダニー」という愛称で呼ばれている。
キャサリン・ワード
金髪の美しい女性で、州刑務所で看守をしている。サディスティックな性格で、罪人の罪深さ、罪の醜悪さを憎悪し、死をもって断罪することが当然と考えている異常者。そのため、収監された囚人を地下にある処刑場でひそかに始末している。しかし、実際に囚人を殺害するのは幼なじみの看守のルーシーで、キャサリン・ワードは人を殺めたことは一度もない。キャサリン曰く、「淑女たるものヴァージンは大事にすべきですわ」とのこと。やっていることは残虐そのものだが、言動や立ち居振る舞いはどこか優雅で、随所にカリスマ性がにじみ出る。そのため、ルーシーからは崇拝に近い感情を抱かれているが、一方のキャサリンは、ルーシーのことを「特別で可愛い罪人」として認識している。カンも非常に鋭く、シンたちが作っていた人間を素材とした家具も、一目見ただけでそれが元は人間であると見抜いていた。のちに同じ秀刑務所でカウンセラーをしていたダニエル・ディケンズの誘いを受け、天使の一員になることを決意する。ダニエルのことも「罪人」として、いずれ裁きたいと思っており、そのことを本人にも伝えていた。ルーシーからは「キャシー」と呼ばれている。
ルーシー
眼鏡を掛けた地味な女性で、州刑務所で看守をしている。陰気で事務的な性格をしており、口数も少ない。幼なじみのキャサリン・ワードを心から崇拝しており、彼女に魅せられて同じ看守の職を選んだ。通常の業務の合間に、キャサリンが断罪した囚人を地下の処刑場で始末している。キャサリンに反抗的な態度を見せた者に対してはいっさい容赦せず、徹底的に痛めつける狂信性と残虐性を発揮する。そのため、ダニエル・ディケンズからは、体から血の匂いと死臭がすると言われてしまう。なお、キャサリンからも断罪すべき「特別で可愛い罪人」だと認識されているが、ルーシー自身はそのことをまったく知らず、キャサリンのことは微塵も疑っていない。
神父 (しんぷ)
多くの信徒を集める教会の聖職者の男性。本名は「エイブラハム・グレイ」。鋭い目をした風格と迫力のある人物で、人の心を惹きつける高いカリスマ性によって、小さかった教会の規模を拡大し、多くの信徒を獲得した。すご腕の宗教家だが、部外者からはよくも悪くも新興宗教の教祖扱いをされている。神父の前に出た者は何人もウソをつけず、心を見透かされたうえ、過去の所業が暴き出されてしまう。刑務所でカウンセリングを担当した421番から神父のことを聞かされたダニエル・ディケンズは、好奇心から彼に会いに行くものの、出会った瞬間に過去の行いや「本当に欲しいもの」を暴かれていた。この世に神が存在しないことを確信しているが、それでも神を信仰し続ける人間の信仰心に強い興味を抱いており、地下ビル内に箱庭を作って人々を集めたうえで自らが神となって試練を与え、その経過を観察するという計画を実行に移そうとしている。そのために必要な手駒として天使が必要になったため、世のサイコキラーを探し出してスカウトし、天使として迎え入れようとしていた。人間そのものには興味がなく、箱庭で起こる結果をただ見定めようとしている。
421番
州刑務所に収監されている囚人の男性で、目が据わっている。名前は囚人番号で、本名は不詳。カウンセリングしたダニエル・ディケンズに対し、「俺は満たされている」とうそぶき、ダニエルに「あんたは満たされていない」と指摘。キャサリン・ワードのことも、「小さな場所で満たされた気になっている」「地獄にいるものは天国を知らない」と酷評し、ルーシーの不興を買って拷問を受ける。過去に出会った神父に心酔しており、ルーシーを昏倒させて刑務所を脱走。神父に対し、世界の人々を満たすための革命の協力を依頼するが、拒絶されて激高。神父を殺害し、自分が神になり替わろうとする。
シン
街で家具屋を営んでいる職人の青年。黒髪の長髪で、切れ長の目をしている。双子の兄弟がおり、二人で協力しながら日々芸術的な家具作りに精を出している。オーダーを受けて家具を作成するが、その素材にオーダーした人間の体を使っていたという狂気の殺人鬼。偶然店を訪れたキャサリン・ワードの狂気性を気に入り、家具をオーダーさせて殺害しようとするものの、逆に罪人として刑務所へ連行されそうになる。居合わせたダニエル・ディケンズにサイコキラーとしての資質を買われ、天使役としてスカウトされた。しかし、神父から双子として不完全性を指摘されたため、最終的に兄弟を始末したシンが天使として選ばれる。双子の一方は右目の下に、もう一方は左目のまぶたの上にタトゥーが入っていたが、生き残ったシンには双方にあったタトゥーが入っていた。そのため双子の職人のうち、どちらがシンであったのかは判然としない。箱庭に入ったあとは、シン自身が納得のいく芸術的な家具作りに励んでいた。その際に墓守をしていたエディから墓荒らしの疑いを掛けられ、殺害されそうになる。
女の囚人 (おんなのしゅうじん)
田舎出身の美しい令嬢で、州刑務所に収監されている。お嬢様らしく、おっとりとした性格をしており、物腰も優雅。幼少の頃から厳しい教育を受けてきたため、しゃべり方や考え方がどこか浮世離れしている。田舎で暮らしていたが、家族で都会に引っ越してきた際に、ホームレスや娼婦の姿を見てショックを受けてしまう。その後、彼らを汚いものとして認識し、存在自体が許せなくなっため、殺害したうえで死体を片づけていた殺人鬼。汚いものは必ず掃除しなければいけないという脅迫観念に駆られており、一度汚れたと認識したものは他人の手を借りてでも排除しようとする。看守のルーシーからは、キャサリン・ワードが強く咲き誇る唯一の野ばらで、彼女は可憐な花になりそうな未熟なつぼみと形容されていた。
ヘンリー・マイヤーズ
州刑務所の近くの病院で働いている眼科医の男性。ダニエル・ディケンズの大学時代の知人。小さい頃から明るく社交的で、多くの人から好かれる「人生に不自由がない」すべてに恵まれたタイプ。しかし、それは表面的なもので、ヘンリー・マイヤーズ本人は熱意というものを感じることができず、何をやっても楽しいと思えない人生を送っていた。大学時代にいつも熱心に目のことを調べているダニエルに興味を抱き、それをきっかけにヘンリー自身も人間の眼球について並々ならぬ興味と執着を抱くようになった。大学卒業後に眼科医となったが、眼球に対する執着を止められなくなり、眼球をえぐり取って収集する連続殺人鬼「eye-ball killer」になり果て、世間をにぎわせてしまう。
エディ
墓守をしている明るい性格の少年で、代々墓守をしていた一家の生まれ。現在は神父の教団関係者の墓を管理し、昼夜を問わず熱心に墓を見回っている。見回りの際にはハロウィンのジャック・オ・ランタンのような被り物をして、巨大な槍を携えている。箱庭に入ったシンが自分が管理する墓を荒らし回っているとカンちがいし、殺害しようとする。誤解を解いたシンから、芸術について意見を交わすことをお願いされていた。
その他キーワード
天使 (てんし)
神父が神となって振る舞う箱庭(地下のビル)で、箱庭に送り込まれた人々に試練を与える役割を担った人物を指した言葉。神の言葉を無慈悲に実行できる、常人とは異なる精神性の持ち主が選ばれる。神父自身や、すでに天使となったダニエル・ディケンズが中心となって、天使の資質があるサイコキラーをスカウトしていた。
クレジット
- 原作
-
真田 まこと(星屑KRNKRN)
関連
殺戮の天使 (さつりくのてんし)
真田まこと(星屑KRNKRN)制作のテレビゲーム『殺戮の天使』のコミカライズ作品。記憶喪失のレイチェル・ガードナー(レイ)と殺人鬼のアイザック・フォスター(ザック)のあいだに生まれた奇妙な絆(きずな)... 関連ページ:殺戮の天使
書誌情報
殺戮の天使 Episode.0 全7巻 KADOKAWA〈ジーンピクシブシリーズ〉
第1巻
(2017-07-27発行、 978-4040692456)
第2巻
(2018-02-26発行、 978-4040697109)
第3巻
(2019-03-28発行、 978-4040655918)
第4巻
(2021-05-27発行、 978-4040643533)
第5巻
(2021-12-27発行、 978-4046808837)
第6巻
(2022-09-26発行、 978-4046814487)
第7巻
(2023-04-27発行、 978-4046821577)