永遠の野原

永遠の野原

17歳の男子高校生で弟の古屋 二太郎と、SFホモ小説家の姉の古屋 一姫の家にやってきた捨て犬のみかん。姉弟と1匹の暖かな世界を描いた日常の愛の物語。みかんの成長と一緒に、二太郎も大人になり、一姫も愛を知っていく。1巻と2巻は、ぶ~けコミックス、3巻から16巻までは、ぶ~けコミックス ワイド版にて出版。全45話。1991年 第15回 講談社漫画賞 少女部門受賞作。

正式名称
永遠の野原
ふりがな
えいえんののはら
作者
ジャンル
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あらすじ

第1巻

古屋 二太郎は高校2年生。姉の古屋 一姫と大きな一軒家に2人で暮らしている。一姫は小説家だが、少女向きSFホモ小説を書いているため、二太郎は恥ずかしくて友達にも言えずにいる。約半年前に、それまで飼っていた愛犬カキが11才で病死してしまった。別れがつらいから、もう動物を飼うのはやめようと言っていたのに、ある日、一姫は犬を連れてきた。そして名前をみかんとつけた。みかんは一姫に対してはおとなしいのに、なぜか二太郎に対しては狂暴だった。一姫と二太郎の父は亡くなり、母は再婚して別に暮らしていた。二太郎は一姫のことを、現実的な自分と違い夢の世界に生きているような人だと思っていた。だから一姫を自分が守らなければと思っていたのだった。ある時、一姫の友人だという柳 良次という男が現れる。柳は家から近い工事現場で働いていた。どうみても友人とは違う気がする二太郎だった。毎日、家にやってくる柳を二太郎は面白く思わない。しかし、一姫の嬉しそうな顔を見て少しずつ柳を受け入れるようになっていく。(永遠の野原)

死んでしまった愛犬カキの思い出に縛られていた古屋 二太郎だったが、姉の古屋 一姫やその恋人の柳 良次、新しく家族の一員となったみかんによって、少しずつ前を見ていけるようになった。だが今度は、一姫が恋人の柳とすれ違い冷戦状態になってしまう。そんな中、二太郎は同じクラスの野沢 ひとみに絡まれるようになる。クラスメイトに冷やかされつつも悪い気はしない二太郎だったが、野沢の本命は二太郎ではなく、二太郎といつも一緒にいる石田 太だった。野沢のことを好きになったのかもわからないまま、失恋した二太郎。その姿を見て、恋は駆け引きで先に好きになった方が負けと言っていた一姫が、自分から柳に電話をかけた。そして二太郎は自分の思うようにならなかったみかんに対して、無理をさせることをやめたのだった。(純毛ブランケット ー永遠の野原・Ⅱー)

第2巻

石田 太古屋 二太郎の親友だ。二太郎の姉で小説家の古屋 一姫曰く、背が高くて男っぽくて無口なくせに存在感がある人物。同じクラスの野沢 ひとみも一姫と全く同意見であった。二太郎と太は性格も見た目も正反対なのになぜか仲が良い。二太郎が、最近古屋家の飼い犬みかんのご飯を奪いにくる毛並みの良い猫のことを話すと、太はみかんに会いに来ているんじゃないかと言った。犬と猫でケンカばかりしているのに、どうしてそう思うのかと不思議がる二太郎だった。ある時、太と二太郎はケンカした。そして二太郎は初めて、太は遠いようで近い存在だったことに気付く。みかんもまた猫のことが気になって、ご飯を少し残して待っているのではないかと思った二太郎だった。(太というやつ ー永遠の野原・Ⅲー)

古屋 二太郎の姉、古屋 一姫は少女向けのSFホモ小説作家で、日々、苦しみながらも創作活動をしている。書けない時は二太郎に八つ当たりし、胃が痛くなるほど悩むこともある。一姫が仕事に没頭し始めると、みかんも張り詰めた空気を察知して神経質になり、ちょっとしたことですぐに吠えるようになった。近所からみかんの鳴き声の苦情が入り、言い返していた一姫。内緒にしていたのについ自分の仕事は作家だと話してしまった。後日、近所の婦人会の何名かが押しかけてきて、一姫の書いた小説を一方的に論評しはじめた。それを聞いて一姫は、更に書く自信を失っていく。そして、吠え続けるみかんに手を挙げてしまい、自己嫌悪に陥る一姫。二太郎はそんな一姫のことをとても気遣っていた。そんな時、修学旅行の引率で稚内に行っている柳 良次から電話が入る。どんなに世話を焼いても、恋人の柳には敵わないと気付いた二太郎だった。だが一姫はそんな二太郎の気遣いにも気付いていて、自分の周りの愛しい者たちに助けられていることに感謝するのだった。(役たたずの姫 ー永遠の野原・Ⅳー)

いつもSFホモ小説ばかり書いている古屋 一姫が、初の自伝的小説として男女のラブストーリーを書くことになった。モデルは自分と恋人の柳 良次。高等学校で美術の産休教師をしている柳は、学校の生徒たちに一姫とのことを知られてしまい冷やかされる。連載が掲載されるたびに、自分と一姫の思い出である小説の内容に振り回される柳。そして、今、会っているこの瞬間の時間も、小説になって本屋で売られるのではないかと思うと、素直に一姫に接することができなくなっていった。すれ違っている姉の一姫と柳のために、二太郎は少し寂しく思いながらも、柳の元へ行って一姫の想いを伝えるのだった。そんな二太郎にもついに春がやって来た。(ハッシャバイ ー永遠の野原・Ⅴー)

第3巻

古屋 一姫古屋 二太郎姉弟に飼われている犬のみかんは、お風呂が嫌い。毎回、二太郎はあの手この手でみかんを捕まえようとするが、逃げられてばかりだ。そんなみかんも散歩をねだるようになるなど、日々利口になっていく。みかんが成長するに連れて、二太郎も少しずつ大人になってきた。二太郎は学校帰りの電車の中で時々見かける田中 真理子(通称マリコ)のことが気になっていた。そしてある時、二太郎は思い切って彼女に声をかけたのだった。後に、マリコと同じ電車に乗っていた二太郎は他の乗客から痴漢に間違えられる。誤解されたくない二太郎はどうしてもマリコに言い訳をしたくて待ち伏せた。二太郎の話を聞いてくれたマリコは、信じると言ってくれたのだった。(セクシュアル ー永遠の野原・Ⅵー)

学校帰りの電車の中で、田中 真理子(通称マリコ)に一目惚れをした古屋 二太郎。偶然にも本屋で見かけ、近くに住んでいることを知った。マリコの存在は二太郎の中で日に日に大きくなっていった。そして、電車で話しかけることができるほどまでに近付くことができた。二太郎の頭の中のマリコは理知的で、おしとやかなお嬢様。しかし、現実のマリコはパンクバンドの追っかけをしていて、部屋中がぬいぐるみであふれている女の子だった。マリコも周りの女子高校生たちと何ら変わらないと、二太郎は勝手に落ち込んでいた。初めてのデートで二太郎とマリコは映画館に行った。ところが、映画館でマリコの長い髪が原因でトラブルが起きる。そのせいでマリコは途中で帰ってしまった。次の日から、マリコはいつもの電車に乗ってこなくなった。(き・れ・い ー永遠の野原・Ⅶー)

第4巻

古屋 二太郎の人生2回目のデートは公園へのサイクリングだ。犬のみかん田中 真理子(マリコ)の愛犬のゴンも一緒だ。二人きりでゆっくり過ごすのは初めてだったが、二太郎はマリコに家のことや小さい頃のことなどを話した。みかんは拾われてから、あちこちたらい回しにされたことで人間不信になっていた。二太郎がほんの少し離れただけで、みかんは以前の置き去りにされた日のことを思い出して不安になった。みかんに信用されていないと感じた二太郎は、やり切れない気持ちになるのだった。ある日、食べ物の入った熱い鍋をひっくり返してしまったみかんは、火傷をしてしまう。病院に連れて行っても怯え続けるみかんに、二太郎は守ってあげるから大丈夫と言い聞かせる。(みかんバスケット ー永遠の野原・Ⅷー)

古屋 一姫はSFホモ小説を書く作家であったが、初のラブストーリーを書いた。作品は思いがけずとても好評で、初めてマスコミのインタビューも受けた。新しく長期の連載をもらったのだ。それまで自分の書いたものに自信がなかった一姫だが、周囲の良い評価を聞き、書くことへの自信を深める。その姿を見て、一姫が遠くに行ってしまいそうに感じた恋人の柳 良次は教員採用試験の勉強を始め、指輪を贈ってプロポーズする。しかし、一姫は今のままが最高に幸せだとプロポーズを断るのだった。忙しくなった一姫は、柳に連絡をするのを忘れるようになったが、その頃、柳のアパートの部屋には一姫ではない、他の女の姿があった。一姫と柳はお互いのことを思いやり、努力をしていたが、裏を返せば自信のない自分を相手に知られるのが怖くて努力をしていたと気付く一姫だった。(永遠の恋人 ー永遠の野原・Ⅸ-)

第5巻 

古屋 二太郎のクラスメート、野沢 ひとみは退屈な夏休みを過ごしていた。大好きな石田 太に会えないために妄想全開の毎日だ。ある日、太からひとみに電話がかかってきた。遊園地に行かないかという誘いだったが、実は二太郎が気を利かせてWデートになるようにしてくれたのだった。一緒に遊園地の中を歩くひとみに太は冷たくも優しくもし過ぎないよう気を遣う。ひとみは心が痛み、さらに太が過去の恋に心を痛めていることを知る。ひとみは精一杯太を慰めるのだった。(失恋の達人 -永遠の野原・10-)

近所の犬は消防車のサイレンの音を聞くといつも遠吠えをする。それに比べて古屋家の犬・みかんは夢を見て爆睡している。野生味のかけらもないみかんに、古屋 二太郎はガッカリするが、田中 真理子(通称マリコ)には狂暴な犬より素敵と言われて、少し犬としてのみかんを認めることができた。ところが、二太郎とマリコが話をしている時、みかんは木の上の巣から落ちた雀のヒナに飛びかかってしまった。少しでも狩猟本能があったことを発見して、喜んだ二太郎だったが、マリコは嫌悪感を表した。女子校に通っているマリコは、男性の感覚に対する免疫が無く、二太郎の男の部分を受け入れられなかった。そんなマリコを見て、二太郎の中の男の部分が少し意地悪をしてしまった。体の奥の遠い声に従うのは、柵の中 だけにしようと思う二太郎だった。(遠い声 -永遠の野原・11-)

第6巻 

突然、田中 真理子(マリコ)が石田 太と一緒に古屋家にやってきた。マリコとはケンカ別れをしていた。彼女のことを考えまいとしても頭から離れずにいた古屋二太郎だったから来てくれたことを喜んだ。だが二人が一緒にいるところを見て、二太郎はかつて野沢 ひとみとの間にあったことを思い出した。二太郎はひとみが自分のことを好きなのではないかと勘違いした過去があったのだ。野沢 ひとみはいつも二太郎に絡んできていたが、それは二太郎が好きだからではなかった。いつも二太郎の近くにいた本命の石田 太の傍にいることが目的だったのだ。マリコのことが好き過ぎる上に、自分に自信が持てない二太郎は、今回もまたマリコは二太郎のことではなく太のことが好きなのではないかと、疑ってしまったのだった。みかんは散歩に行けずに怒っていたが、太から豚骨スープをとったあとの骨をもらって大喜び。ところが、みかんは骨を土の中に埋めてしまう。太は気に入らなかったのかなと思った。大事なものは隠すみかんだった。しかし、二太郎は隠せない。太やマリコ、ひとみも来て楽しく話している二太郎は、みかんを放っておいたので報復される。たくさんの友達がいていいわねと姉の古屋 一姫に言われたが、二太郎には恋人がいる一姫の方が羨ましかった。(ジェラス・ガイ -永遠の野原・12-)

 ペット雑誌の表紙にとても可愛い盛りの子犬が載っている。可愛い時期はみかんにもあったはずだが、古屋 二太郎と古屋 一姫は知らない。そこで、小さい頃のみかんの写真を取り寄せてくれるよう、一姫の恋人の柳 良次に頼んだ。ある日、古屋 二太郎と古屋 一姫は、みかんを連れて姉弟で駅に向かっていた。一姫は恋人の柳 良次に会いに行くために、二太郎はみかんと一緒にマリコさんに会いに行くためにだ。みかんの小さい頃の話をしながら歩いて駅に着いたら、駅前でティッシュ配りのアルバイトをしている男女がいた。それを見たみかんは、男の方に突進して行った。なぜならその男は小さい頃、数日間だけみかんを飼ったことのある阿南という男だったからだ。そのみかんの小さい頃を知る前の飼い主の阿南は田中 真理子(通称マリコ)の幼馴染だ。自分よりも2歳年上の北大路 華子と一緒にアルバイトをしていた。阿南は、駅についた時に飛びついてきた犬が、ほんの数日一緒にいたみかんとわかった。自分のことを覚えていてくれたことがうれしかった。一姫は柳の高校時代の友達に会って、少し寂しい思いをしていた。過去の柳と一緒に過ごしていた時間を羨ましく思った。そして、柳の友人である矢野も恋人と別れたばかりで、幸せだった頃を思い出していた。(昔の君に会いたい -永遠の野原・13-) 

古屋 二太郎は友達以上恋人未満の田中 真理子(通称マリコ)のことが、本当に大好きだ。20分以上、彼女の写真を見つめていられるほどだった。二太郎の親友石田 太と姉の古屋 一姫は二太郎の誕生日ケーキを作った。何度も失敗を重ねてやっと成功したのだった。そして駅でみかんに再会した阿南は、こっそり古屋家にやってきてはみかんに会っていた。だがある日、少しだけと連れだしたみかんがいなくなってしまった。二太郎の家でケーキを作った後、一緒に帰った太とマリコ。強風で飛んできた看板が、マリコにぶつかりそうになったのを、太が腕一本で庇った。何となく変な気持ちになったマリコはその気持ちの正体に気付かないまま遠くから太を見つめていた。そしてそんなマリコを二太郎が見つめていた。(あらし -永遠の野原・14-) 

第7巻 

古屋 二太郎は嵐の中いなくなった愛犬のみかんを探しに外へ出た。二太郎は雨に打たれて高熱を出し道端で倒れてしまう。そこを通りがかった阿南が二太郎を家まで連れ帰ってくれた。二太郎は寝込んでいて、小説家である姉の古屋 一姫も締め切りに追われ、みかんは誰にもかまってもらえずに暴れていた。雨の中で見たある光景が忘れられない二太郎だった。田中 真理子(通称・マリコ)までもが石田 太のことを好きになったのかと苦しんでいたら、マリコが家を訪ねてきてくれた。マリコは自分の生まれたばかりの太へ思いに気づいていた。この気持ちを心の奥にしまって二太郎に会いに来たのに、お見舞いに来た太と会ってしまう。マリコの反応を見て、マリコの太に対する気持ちを確信した二太郎は、思わずマリコを言葉と態度で傷つけてしまう。そして、別れようと言った。(猛犬注意 -永遠の野原・15-) 

お互いが大事な存在だとわかっているのにすれ違い始めている古屋 二太郎と田中 真理子(通称・マリコ)。マリコは懸命に二太郎を好きでいようとするが、太のことが気になっている。そして二太郎は、マリコが親友の石田 太のことを気になっていると気付いて、どうしていいかわからず太を避けていた。そしてただマリコのことだけを考えていた。学校に行って久しぶりに太と顔を合わせた二太郎だったが、いつもと同じように接することができた。そんな二太郎に太は、相談があると言ってきた。そこで、学校が終わってから古屋家で会う約束をしたのに、二太郎は途中で会った阿南を連れて帰り、太と話ができない。明日、話を聞くからと言った二太郎に、明日なと言った太は次の日行方不明になった。(モア -永遠の野原・16-)

古屋 二太郎の親友の石田 太が行方知れずになって四日が過ぎた。野沢 ひとみは心配して、二太郎の家に来ていろいろ話すが、二太郎はひとみを振り切り模試に向かう。その途中の電車内で、二太郎は反対側のホームに立っている太に似た男を見かけた。思わず電車を降りて追いかけるが、結局、その男が太だったかどうか確認できなかった。遅刻をして模試も受けられず、二太郎は家に帰ってみかんと散歩に出る。考え事をしながら歩いていた二太郎は私有地に入ってしまったことに気付かなかった。どこかから獣の唸り声が聞こえて振り返ると、見知らぬ犬が二太郎に牙をむいていた。犬を飼っているとつい忘れてしまうが、犬は人間を襲うこともある獣だ。二太郎が万事休すになった時、愛犬のみかんがその犬に噛みついた。みかんとその犬のケンカを止めてくれたのは、二太郎が小学生の頃の友人、山口だった。山口とは仲良くしていたけれど、ちょっとしたケンカが原因で話をしなくなっていた。二太郎は久しぶりに山口と話し、和解できてとても気分が良かった。だがその二太郎を次に待っていたのはマリコからの別れの言葉だった。(千の針 百のナイフ -永遠の野原・17-)

第8巻

ある夜、古屋家に電話がかかってきた。作家である古屋 一姫の担当編集者からだった。それは、初めて書いた自伝的小説の『永遠の恋人』が若手作家に贈られる集栄賞にノミネートされたという知らせだった。一気に浮かれる一姫に対し、先刻、田中 真理子(通称マリコ)から別れを告げられた古屋 二太郎は落ち込んでいた。勉強も手に付かず眠ることもできずにいるのだ。マリコが行方知れずになっている石田 太と、何かあったのだと思い込んでいたのだった。次の日、学校に行った二太郎は、太が登校しているのを見かけた。その瞬間、二太郎は太に殴りかかっていた。しかし、太が行方知れずになっていたのはマリコが理由ではなかった。調理師になるため調理師学校に行くという進路を両親に反対されたからだった。家を出て自活すると覚悟を決めた太だ。残りの高校生活はアルバイトをして学費と生活費をまかなうと言う。さらに、卒業したら1年くらいで調理師学校に行くための学費を貯め、自力で学校に行くつもりだと言うのだった。みんなが前を向いて、目標に向かってしっかり進んでいることに気付いた二太郎は、自分も頑張ろうとマリコとの別れを受け入れた。そしてマリコは太への気持ちを誰にも言わずに、心の奥にしまい込んだ。(なにも言わない -永遠の野原・18-)

古屋 二太郎のクラスメートの野沢 ひとみは、長いこと石田 太に片恋中だ。いつも太の姿を探し、目で追い、後ろ姿ばかり見つめている。そんな毎日でも、ひとみは幸せだと思っていたが、ふと相手から想われるというのはどんな気持ちになるのだろうと考えた。ある日の朝、学校に行くとひとみの靴箱に手紙が入っていた。差出人は、中井 縫之介と書いてあった。初めてもらったラブレターに、舞い上がっていたひとみだった。そして、縫之介から会いたいと二通目のラブレターをもらったとき、好きな人がいることを伝えるために会いに行った。もちろん、ハッキリ断りに行ったのだが、話をしているうちに、一瞬、ひとみの胸がざわついた。一緒にお茶を飲むと、縫之介と太は全てが正反対に感じる。どんな場面でも太と比べてしまっているひとみだった。それでも、好かれているというのはうれしいものだった。ひとみは縫之介とコンサートに行った帰り、出前途中の太に会ってしまった。仕事をしている太を見ることができて、喜ぶひとみ。だが一緒にいた縫之介のひとみに対する気持ちを察した太は、遠回しにひとみは無神経だと言うのだった。(モテたことなんかない -永遠の野原・19-)

古屋家の愛犬みかんは、推定1歳4か月のメスでそろそろお年頃。近頃は、お散歩途中にいろいろなオス犬が、みかんに寄ってくる。獣は直感で相手を選ぶが、人間はそうはいかない。石田 太に言われた一言で傷付き、嫌われたと思っていた野沢 ひとみだったが、次の日、学校で会った太は謝罪をしてきた。太に言われてひとみは自分が無神経だったことを反省した。少しずつでも太にふさわしい女性に近付けるように、頑張ろうと決心したひとみ。まずは、中井 縫之介に謝らなければと学校内を探し回った。その縫之介は17年間、誰かを好きになったことがなかった。いつも告白されて付き合い始めるが、好きにはなれなかった。初めて好きになれるかもしれないと思えたのが、ひとみだったのだ。そのひとみに対する接し方に変化が出てきた太に気付き、直球で告白をするひとみ。友達としてではなく、女性として見てほしいと言うと、太はできないと断るのだった。だが、太の心の中にひとみの存在が小さくにでもあったことに気付いた古屋 二太郎は、何かと二人をくっつけようとする。(恋なんかしたことない -永遠の野原・20-)

第9巻

季節は冬になった。古屋 二太郎の大学受験勉強は大詰めを迎えた。古屋家に来たばかりの頃のみかんは、一人で寝ることが多かったが、今は、二太郎と一緒に寝るのが日常のことになっていた。どうしても二太郎と一緒に布団に入って寝たいみかんは、傍にいて二太郎が寝るのを待っていた。振り向いてくれない愛しい恋人を待っているかのようだ。二太郎のクラスメートの野沢 ひとみに、ラブレターを出した1年後輩の中井 縫之介は、毎日執拗にひとみが惚れぬいている石田 太に、小学生レベルの嫌がらせをしていた。ついに我慢の限界がきたひとみは、縫之介のところに行った。話をしたいと言われ、縫之介の家に連れて行かれたひとみ。そこで、二太郎を待ち続けるみかんと同じ目をしている縫之介に気付いた。大好きな気持ちは犬も人も同じだ。だが、人の気持ちはどんなに永遠を願っても変わっていくことがあるのだ。(キスミー -永遠の野原・21-)

クリスマスが来て、冬休みが始まった。大学受験までもうすぐになっても、古屋 二太郎の生活リズムは変わらない。朝の5時半に起きて愛犬みかんの散歩から始まり、そして愛犬みかんの夜ご飯の世話で1日が終わる。全然、勉強に集中できなくて、ストレスがたまっていた二太郎だった。みかんの前の飼い主である阿南が、年末年始に行われる塾の短期集中合宿に参加しないかと言ってきた。何とかみかんを預ける先を見つけ、向かった合宿先には、田中 真理子(通称マリコ)の幼馴染である大学生の北大路 華子がいた。もうマリコとは何の関係もないと言い切った二太郎に、華子は少し微笑んで、そして喝を入れた。その華子のことが好きな阿南は、報われない恋をしている華子のことを想って苦しんでいた。だが華子は、振り向かいてもらない永遠の片恋でいいと言った。明日で合宿が終わるという日の夜、二太郎は心配でみかんを預けていた阿南の知り合いのところに電話をした。電話越しの声だとわからないみかんは、二太郎が帰って来たと思い預かってくれていたところから逃げ出してしまう。行方不明になったみかんは、派出所の警察官に抱かれて戻ってきた。みかんを派出所まで連れてきてくれたのは、マリコだった。(病める時も 貧しき時も -永遠の野原・22-)

行方不明になった古屋家の愛犬みかんを助けてくれたのは、田中 真理子(通称マリコ)だった。もう会わない、受験に専念する、とマリコと別れた夜に誓った古屋 二太郎だったが、迷子になった古屋家の愛犬みかんを保護してもらったお礼を言いたいと思った。だがそれは、みかんを口実にマリコに会いたいということだと、二太郎はわかっていた。マリコの住む町まで、みかんを連れてサイクリングしてきたが、途中で自転車のタイヤがパンクしてしまった。勢いでここまで来たが、二太郎は気付く。本当の自分は結局、何もできないダメな自分だと。誓ったことも守れずに、ここまで来てしまった自分が情けなかった。二週間の冬休みが明け、いつもの日常が戻ってきた。冬休み中も、石田 太に全力投球していた野沢 ひとみは、太に手編みの手袋を編んできた。だがひとみが想いを込めて編んだ手袋を前に、気後れしてしまう太だった。一方、マリコの幼馴染で阿南の想い人の北大路 華子は、アルバイト先の塾の講師をしている上条を好きな気持ちが抑えられずに、上条の家に行って叫んでしまう。自活して頑張っている太のことを、良く思わない中井 縫之介。以前に手に入れたひとみの髪ゴムを、太のアルバイト先の中華料理店で食べた料理の中にわざと入れた。(うぬぼれ鏡 -永遠の野原・23-)

第10巻 

田中 真理子(通称マリコ)は、子どもの頃祈りを聞き入れてくれたマリア像に祈っていた。好きだったのに酷く傷付けてしまった古屋 二太郎のことを、ただ祈り続けていた。そしてその二太郎は、マリコに会うために受験勉強を頑張っていた。二太郎のクラスメートの野沢 ひとみは推薦での進学が決まっている。ひとみは勉学に励む二太郎をよそに、愛しの石田 太にプレゼントする手編みの手袋の制作に励んでいた。出来上がった手袋には、ひとみの太への想いが込められている。2人を見ていて羨ましいと思う二太郎だった。ある日、帰りの電車で二太郎はマリコと会ってしまった。だがその時は、二太郎の家に行くために太も一緒に乗っていた。二太郎、マリコ、太の間に気まずい空気が流れたまま電車は降車する駅に着いた。二太郎の横をすり抜けドアへ向かうマリコは、頑張ってくださいと二太郎に声をかけて電車を降りた。大学受験の日、二太郎は知らないままに、マリコはどこかに引っ越してしまったのだった。(ごほうびちくわ -永遠の野原・24-)

 田中 真理子(通称マリコ)の引っ越し先はわからなかったが、郵便局には転居届が出ていると聞き、古屋 二太郎はマリコへ手紙を書いた。姉の古屋 一姫は初めて書いた自伝的小説が集栄賞を受賞した恋人の柳 良次と一緒に受賞パーティーに出るつもりらしい。姉弟二人で長いこと頑張ってきた二太郎は、捨てられた子犬のような気分になるのだった。少し前に二太郎は川の中洲で鳴いている子犬を助けて連れて帰った。名前を小梅と名付けて世話をしていたが、古屋家の愛犬みかんは、小梅のことを嫌っているようだった。急に来た新参者に、二太郎の愛情を奪いとられたような気がして、つらい思いをしていたみかん。小さい小梅のことばかりを心配していた二太郎は反省をした。みかんが怪我をした。二太郎は必死に精いっぱい世話していた。何日かして治った時、みかんは自分よりも先に小梅の世話をした二太郎を取り戻すために自傷行為に及んだ。今まで一人占めしていた二太郎からの愛情を、誰にも奪われたくなかったからだ。そんなみかんを見ていて、二太郎は自分よりも恋人の柳を選んだ一姫のことを思い出していた。両親の愛情を奪い合っていた一姫と二太郎。父が他界して母が再婚し、二人で分け与えながら暮らしてきた日々。その一姫には、全てを分け合う柳という恋人ができた。そして二太郎は、やはりマリコと全てを分け合うようになりたいと願うのだった。(きみにあげたい -永遠の野原・25-) 

古屋 二太郎が保護した野犬の子犬は、小梅と名付けられて古屋家で飼われていた。だが、先に飼われていた愛犬みかんのヤキモチが酷く、小梅の里親を探すことにした。初めは二太郎の親友の石田 太が飼うことになっていた。しかし、太は安アパート暮らしでアルバイトと調理師学校に通っている。野沢 ひとみは太には大変すぎるから自分が飼うと言い出した。だが、ひとみの母は動物アレルギーで、実際飼うのは難しかった。そこへ、ひとみに会いに来た後輩の中井 縫之介が引き取ることになった。最初は、初めて犬を飼うことに、楽しい気持ちが大きかった縫之介だった。だが、しつけの難しさに直面して、小梅を怯えさせてしまう。ご飯も食べなくなった小梅に、どうしていいかわからず、縫之介はひとみに電話をして助けを求めた。再び、二太郎に引き取られた小梅は誰かを待っているかのように、ずっと窓から外を見ている毎日だった。縫之介が迎えに来てくれるのを、待っているようだった。(マイフェアレィディー -永遠の野原・26-) 

第11巻 

田中 真理子(通称マリコ)は、幼馴染の北大路 華子とティッシュ配りのアルバイトをしていた。そこへ古屋 二太郎によく似た男性が通りかかり、びっくりするマリコ。でも人違いだった。そのあと同じように二太郎と間違って声をかけた石田 太を見かけて、思わず華子の後ろに隠れた。合格発表をなかなか見に行けないでいた二太郎のところに、太が訪ねてきた。その後、二人で見に行くことになって向かっている途中、二太郎はマリコを見つけた。久しぶりに会ったマリコは父親の会社が倒産したこと、大学には行かないことを二太郎に話した。マリコと別れた後、太と見に行った発表の結果は合格だった。大喜びの二太郎だったが、太は横浜の中華街にある店の見習いに行くことになっていた。野沢 ひとみは私立大学へ、二太郎は市立大学へ進学する。皆それぞれの道に向かって進み、離れ離れになってしまう。寂しい気持ちを胸の奥に押し込んで、二太郎はまたマリコと会うことに決めたのだった。(ねじりんぼう -永遠の野原・27-) 

羽も生えていないのに、風のように飛べる夢を見た古屋 二太郎。田中 真理子(通称マリコ)と友達の関係に戻れた二太郎の心の中を、表しているかのような夢だった。マリコから石田 太のことが苦手だと聞いた二太郎は、太のことを話さないようにすると言った。だがどんな場面であっても、太の存在は大きく、二太郎から離れてはくれなかった。姉の古屋 一姫はというと、大きな賞を受賞した後、何も書けずにいた。前作を超える作品を書かなければと、思えば思うほど何も言葉が出てこなかった。そこへ新しく担当になった編集者の岩本が訪ねてくる。勢いのある岩本の言葉に、更にプレッシャーを感じた一姫だったが、後に優しく後押ししてくれるような言葉をかけてもらい、心が軽くなったのだった。二太郎の合格祝いと太の送別会を兼ねてのバーティ―を計画している野沢 ひとみ。二太郎がマリコを呼ばないことに何かを感じるものの、中井 縫之介も参加することになった。仲良くなった古屋家の愛犬みかんと縫之介の愛犬小梅のおかげで楽しい時間を過ごしていたところに、マリコから電話がかかってきた。太が来ているとわかっていてかけてきた電話。そして次の日、合格祝いと送別会を兼ねたパーティーが行われる少し前に、手作りケーキを持ってマリコが訪ねてきた。二太郎に会いに来たのではなく、太に会うために。マリコは太を好きな気持ちが抑えられずに、ついに好きだと言ってしまった。(飛ぶ夢を見たよ -永遠の野原・28-)

 第一希望の吹田市立大学、英文科に合格した古屋 二太郎。入学式を終え、少し落ち着いてくると二度目のキツイ失恋を思い出してしまう。何かをして忙しくしていないと、思い出してつらいので、久しぶりに小説でも書いてみようかと思う二太郎だった。初めての講義でLL教室に入った二太郎は、入学式後のサークル勧誘で声をかけてきた、文芸部3年の白川 渚に会った。二太郎の姉で小説家の古屋 一姫が嫌いという割には、一姫の作品を殆ど読んでいる白川。恋愛経験の少ない一姫の作品をけなしてばかりだ。そんな白川に二太郎は、経験したから書けない恋もあると話した。マリコに手酷く振られ、太とも気まずいまま別れ、二太郎は大学生活を楽しめずにいた。のどに小骨が刺さったように、いつも気になっていた。そんな二太郎を見かねて、白川が文芸部の飲み会に誘ってくれた。英文科の講師であるジョンソン先生と、何かあったらしい白川は、酔った勢いで二太郎をラブホテルに誘ってしまう。そして、2人はラブホテルに入るところを野沢 ひとみに見られていたのだった。(ゴハンをのみこめ -永遠の野原・29-)

第12巻 

古屋 二太郎はラブホテルの一室にいた。バスルームでシャワーを浴びているのは、大学の先輩で文芸部の白川 渚である。どうしてこんなことになってしまったのか悩みつつも、二太郎は白川がバスルームから出てくるのを待っている。だがバスルームの中では、白川が自分のコンプレックスを目の当たりにして悶絶していた。お互いがコンプレックスを抱いていることを話したあとは、2人で室内のプールで泳ぎ続けた。次の日の朝、無断外泊をした二太郎を救うべく、白川は二太郎と一緒に古屋家に行った。だがそれは口実で、白川は作家である一姫に興味があったのだ。本当はデビューの頃から一姫のファンだった白川。あまりに好き過ぎて、書く文章が一姫の影響を受けていたことを一姫本人に指摘される。そして白川は、そのせいで以前応募した作品が賞を取れなかったことを知った。書くことに自信を持ち切れなかった白川。親友の石田 太に何も勝てるところがないと自分を卑下する二太郎。そして野沢 ひとみは太と離れてしまったことで友人でしかいられなかった自分は忘れられてしまうのではないかと心配していた。皆それぞれにコンプレックスを持ち落ち込んでしまうのだった。(ミス・コンプレックス -永遠の野原・30-) 

古屋 一姫は、苦悩していた。仕事が進んでいないこともあったが、いつも正確にきていた生理が、もう6日も遅れていたからだった。そして一姫は、果たして自分は子どもを望んでいるのかと考える。周りを見ると子育てで苦労している母親ばかりが目に付く。小説を書く時間も、自由な時間も、何もかもなくなってしまう気がする。こどもがエイリアンに見えてしまう一姫は、自分に人間的な欠陥があるのだと思った。意を決して薬局に行き、妊娠検査薬を買おうとした時、お腹に激痛が走った。あまりにも強い痛みに座り込んでしまった一姫。薬局の人に心配されつつもトイレに入った一姫は、遅れてやってきた生理に安堵した。帰り道、あんなに怖いエイリアンに見えていたこどもたちが可愛く見える。いないとなったら惜しいと思う一姫だった。道端でうずくまっている着物姿の女性を見かけて声をかけた一姫は、その人が妊婦だと知り動転する。気付いた周りの人たちが介抱する中、病院に連れて行くための車を止めてくれたのは、横浜にいるはずの石田 太だった。一姫が何故か付き添いをすることになり、一緒に行った産婦人科の病院で、強い痛みと共に生理が来たと話したら診察を受けることになった。結果は初期流産だった。一姫は、妊娠したことにも流産したことにも気付かなかったのだ。自分はエゴイストだと、自分自身を責める一姫だった。そして話を聞いた柳は、一姫のせいじゃなく、そういう運命だったのだと一姫を慰めた。(カッコーの母 -永遠の野原・31-) 

夏休みの海で野沢 ひとみはアルバイトをしていた。もちろん、横浜にいる石田 太に会いに行くための資金を稼いでいたのだった。手土産は古屋 二太郎だ。ひとみは、太がいちばん喜んでくれるお土産は、二太郎だと考えたのだ。そして、二太郎とひとみと愛犬みかんの2人と1匹は、横浜へと向かった。だが横浜のお店を太はクビになっていた。店主と、家出していた店主の娘が妊娠して戻ってきたことのケンカに巻き込まれたのだった。他の従業員の話によると、太は元居た店に帰ったらしい。慌てて以前住んでいた安アパートに向かった二太郎とひとみとみかんは、そこで太と再会した。そしてそこでは、クビの原因となった家出娘が破水していた。大騒動の後、赤ちゃんは無事に産まれた。ひとみの大活躍だった。今は恋愛に興味を持てない太だったが、ひとみの愛はパワーよという寝言に、妙に説得力を感じたのだった。(筋肉少女 -永遠の野原・32-)

第13巻 

古屋 二太郎は大学のサークルの先輩である白川 渚と、愛犬みかんの散歩に行った。二人で将来の話をしていた時、出前途中の石田 太が近くを通った。自分で決めた将来の夢に向かって、真っ直ぐに生きている太を見て、落ち込む二太郎と白川であった。大学3年の白川は小説家を目指して出版社に原稿を持ち込んだ。だが現実は甘くない。自信をなくした白川は、好意を持っている妻帯者のジョンソン教授に会いに行くために、二太郎を一緒に連れて行こうと古屋家を訪れる。ところがそこには、以前、道端でうずくまっているところを古屋 一姫に助けてもらったミチコ・ジョンソンが来ていた。ジョンソン夫人が妊娠していると聞いた白川は、彼女にジョンソン教授の愛人になりたいと言う。そこで、妻としての覚悟を聞いた白川は、自分がどんなに軽い考えしか持たない人間なのかを知った。そして、逃げるのをやめて、再び出版社に向かったのだった。(まほうのコンパクト -永遠の野原・33-) 

石田 太のアパートに向かう途中の電車の中で、古屋 二太郎とその友人の野沢 ひとみは、メガネをかけて電車の真ん中で踏ん張って立っている女子中学生を見ていた。つり革にもつかまらず、足を肩幅以上に開いて電車の揺れに耐えていたので、二太郎が席を立って譲ったのだが、拒否された。彼女は見た感じ、強度の潔癖症のようだった。大学生になって、家庭教師のアルバイトをすることにした二太郎。訪れた家で会った二太郎が教える子は、電車で会ったあの女子中学生だった。おまけに、その子の名前は西宮 毬子といった。毬子は教えている時も、指が少し触れただけで過剰な反応をし、近付くと息を止めるような状態だった。だが、話を聞いてみると男の人と話すのが苦手だということもわかった。扱いづらい女の子だと思っていた二太郎だったが、話していくに連れ、普通の女の子だというのもわかった。だが安心したのもつかの間、毬子の母も隠してはいたが、実は毬子以上の潔癖症だった。二太郎が帰った後は、家中を完璧なまでに掃除していたのだ。それを見てしまった二太郎は走って帰ってしまったのだが、夜に毬子が古屋家を訪ねてきた。昼間に母親が二太郎のことを汚いと感じ、必死に掃除をしていたことを謝るためだった。一生懸命に謝罪する毬子に、二太郎は少し心が動いた。(二太郎 遂にモテる -永遠の野原・34-) 

古屋 二太郎は中学1年生の西宮 毬子の英語の家庭教師をしていた。毬子は極度の潔癖症だ。それは母親の影響が大きかった。毬子の母は、一時期一緒に住んだ姑がとても物を大切にする人で、使い捨ての物も使った後にとっておくような人だった。それが嫌でたまらなかった鞠子の母は、全ての物を綺麗にしないと気がすまなくなっていた。そしてそれを見て育った毬子が、同じように潔癖症になってしまったのは、仕方のない事だった。思春期に入った毬子は、それまでは平気だった父親に対しても、生理的嫌悪を感じるようになってしまった。父親が傷付いていたことはわかってはいたが、どうしようもなかった。毬子は同じクラスの男子に対しても、同じように感じるようになった。学校で、男嫌いと言われ始めた頃に、大学生の二太郎と出会った。6歳年上の二太郎は、毬子にとっては父親以外の初めての大人の男性で、憧れてしまうのは当然だった。自分の周りを綺麗にすることは当たり前だったが、二太郎に恋をしてしまった毬子は、自分自身をも綺麗にすることに一生懸命になったのであった。(抗菌セーラー服 -永遠の野原・35-) 

第14巻

古屋 二太郎が通う吹田市立大学では学校祭が近づいていた。二太郎が所属する文芸部は学校祭でたこ焼き屋を出店する。二太郎は部の代表として、保健所に検便を提出しなければならなくなった。二太郎は西宮 毬子の家庭教師のアルバイトも順調に続けていた。英語が好きになり、予習も頑張っている毬子を見て、教えている二太郎もうれしかった。その毬子から二太郎は、プレゼントをもらった。手作りの大きなリュックで、二太郎のイニシャルである『N.F』という文字が入っている。英語を好きになってくれたのだと思って嬉しかった。そしてプレゼントの後は夕食に誘われ、さらにビデオを観たりゲームをしたりと、勉強を教えるというよりも毬子のボーイフレンドになってしまっている気がする二太郎だった。学校祭の前売券を渡すために石田 太のアパートを訪ねた二太郎。同じく学校祭でおでんを作る予定の野沢 ひとみが、太に味を見てもらいに来ていた。ずいぶん雰囲気が良くなってきた太とひとみであった。二太郎の姉、作家の古屋 一姫も、恋人の柳 良次とうまくいっているようだった。二太郎が1人寂しく試作品の冷えたたこ焼きを食べていると、玄関のチャイムが鳴った。毬子が手作りのクッキーを作って持ってきてくれたのだ。毬子の存在が二太郎を安心させてくれた。学校祭に毬子を誘った二太郎は、文芸部の先輩たちに冷やかされながらも、連れてきて良かったと思った。毬子は、二太郎からリュックのお礼にもらったブローチをつけていたのに、どこかで落としてしまった。捜し歩いていると、ブローチを見つけて拾ってくれた女の人に出くわした。太に会えるかもしれないと、学校祭に来ていた田中 真理子(通称マリコ)だった。(宅配ボーイフレンド -永遠の野原・36-)

学校祭も終わり、二太郎と教え子の毬子の関係が少し変わりつつあった。毬子は大胆になっていき、二太郎の大学まで会いに来るようにもなった。そんな中、二太郎の親友である太が働く中華料理店で、マリコがアルバイトとして働くことになった。店主や他の店員には良く思われているマリコだったが、太はマリコを恋人にすることはないとハッキリ言った。二太郎に恋をしている中学1年生の毬子は、可愛くなりたいとメガネをコンタクトにした。おさげだった髪を縦ロールのツインテールにした。そして、12月24日のクリスマスイブに二太郎をデートに誘うのだった。毬子の母にも頼まれ、デートをすることになった二太郎。毬子の気持ちに応えなければ、好きにならなければと思うの二太郎だった。昔、マリコが二太郎に強く惹かれていたのを二太郎は知らない。太の働く中華料理店にアルバイトで働くようになったマリコは、自分の気持ちがコントロールできずに苦しんでいた。嫌われても迷惑がられても、太の傍にいて自分の気のすむまで見つめると言い放った。太がアパートに帰ると、野沢 ひとみからのプレゼントがドアのノブに掛かっていた。お礼を言いにひとみの家まで行った太は、ひとみと一緒にいるとホッとする自分に気づく。二太郎は毬子とデートしたあと、徹夜で文芸部から頼まれた原稿の校正を行った。やっと終わって寝付いたところに毬子が訪ねてきた。徹夜でボロボロの二太郎を見て、毬子は自分を優先してくれて嬉しいと言った。それを聞いた二太郎は何かわからない違和感があったが、とにかく今は寝たかった。(エゴイスティック -永遠の野原・37)

二太郎が家庭教師をしている、中学1年生の毬子は恋をしていた。相手はもちろん二太郎だ。当たり前のことだが、クラスの男子と比べると二太郎は大人で、毬子のどんなわがままも受け入れてくれる。それは二太郎も毬子のことが好きだからではないことに毬子は気づいていない。自分の恋心が膨らんでいくのをただ楽しみ、気持ちに酔っていた。1週間に1度しか会えないことが、苦しいと嘆く毬子。明日はやっと会えると思っていたところに、二太郎から風邪をひいたので明日は休ませてほしいと電話が入る。毬子は母からおかゆの作り方を教わり、古屋家にかけつけた。二太郎と同じく風邪をひいていた姉の古屋 一姫に冷やかされながらも、悪い気はしない二太郎だった。美味しいおかゆを作って食べさせ、古屋家の愛犬みかんの散歩もこなし、毬子は二太郎の役に立てていると自己満足していた。クラスの男子の一人が、毬子のことが好きで告白しようとしたが、毬子は二太郎以外の男は未だに気持ち悪く思っていた。男子に掴まれた手を振りほどいて逃げ、これでもかというくらいに洗うのだった。テスト前のある日、クラスの女子が編み物をしていたのを見かけた毬子。編み方を教えてもらって、二太郎にあげるために頑張って編んだ。毬子に告白してきた同じクラスの男子は、めげずに毬子に話しかけてくる。しつこいヤツは嫌いだと思う毬子だった。編み物に時間を費やした毬子のテストの結果は散々なものだった。家庭教師をやめると二太郎に言われて、毬子は泣き叫んだ。自分の感情を自分で抑えられなくて、バカみたいだとわかっていても、どうしようもなかった。(あなたのために -永遠の野原・38-)

毬子は、家庭教師をしてくれている二太郎のことが好きだ。片恋だとわかっているが、それでもあきらめてはいない。毬子のことを好きだと言ったクラスの木村くんも同じだった。毬子に避けられ続けてもあきらめない。本当の好きというものを、木村くんに説明する毬子。だが、思いつめた好きを抱えている毬子と、楽しく軽い好きでいいと思う木村くんとは、どこまでも解り合えなかった。バレンタインデーが近いので、一姫は恋人の柳 良次にチョコレートケーキを焼いていた。何度も試作品を作り、それを二太郎がひたすら食べていた。ある夜、話があると親友の太が二太郎を訪ねてきた。柳のためにケーキを焼く一姫の話を二太郎から聞き、羨ましいという太。その太の話の内容は、太の働く中華料理店でマリコが働いているというものだった。店にくれば会えると言った太に、二太郎はマリコが困るから行かないと言った。その頃、マリコは太のアパートの部屋の前にいた。バレンタインデーの日、毬子のクラスの女子は盛り上がっていた。毬子のことが好きな木村くんは、毬子からのチョコレートを待っていた。だが、木村くんの分はないと言い切られ、寂しそうに去って行った。 (すき -永遠の野原・39-)

第15巻

大学受験を控えた中井 縫之介の愛犬小梅が、ある朝、血便をした。その日は縫之介の大学受験の日であったが、迷いもせず小梅を抱いて動物病院に走った。結果、縫之介は受験できずに浪人した。小梅に受験勉強をしていた縫之介のストレスがうつったのだろうという診断だった。高校生でもない、大学生でもない1年間の時間を手に入れた縫之介。だが両親、特に父親は小梅のせいで、縫之介が浪人することになったことをひどく怒った。父親に小梅を保健所に連れて行けと言われ、反抗する縫之介。高校の先輩で、縫之介が行くはずだった大学に進学している古屋 二太郎。高校に在学していた頃から好きで、卒業後は地元の短期大学に行った野沢 ひとみ。そのひとみが大好きな石田 太は中華料理店で修業中、とみんなそれぞれ忙しくしていた。二太郎は古屋家の愛犬みかんを連れて、縫之介に会いに行った。縫之介の小梅への異常な執着に気付き、受験を棒に振ったことを後悔していることを知る。それを縫之介自身も気づいていた。ただ大切な小梅を守ってやれるのは、自分しかいないこともわかっていた。縫之介は後悔したが、それで良かったと思った。たくさんの時間を使っていろいろなものを小梅と探そうと思うのだった。(スウィート・タイム -永遠の野原・40-)

ある日、二太郎は勇気を出して、太が働く中華料理店を訪ねた。愛犬みかんも一緒だ。そこには、忘れたくても忘れられなかった、大好きな田中 真理子(通称マリコ)がアルバイトをしている。だが、やっと会えたマリコは人が違ったように、暗い雰囲気を漂わせていた。一緒に遊んでいた頃の思い出の服を着て、お店に通う二太郎だったが、ことごとくマリコに無視をされる。マリコが見ているのはいつも太で、二太郎はその目に映っていない。だが、太の目にもマリコは決して映らない。どんなに近くにいても、どんなに見つめても。壊れていくマリコを見て、二太郎はどうにかしたいと思った。だが、今のマリコにとって二太郎は、必要な存在にはなれなかったのだ。振り向いてもらえない淋しさが、体の中に毒のようにたまっていく。太に頼んで営業終了後の掃除を、二太郎はマリコと二人でさせてもらった。マリコと久しぶりにちゃんと話をすることができた。マリコも苦しんでいた。自分の気持ちに戸惑い、太への想いに振り回されて、身も心も疲れていた。二太郎に話したことで、心が楽になったマリコは、少しだけ毒が抜けたようだった。二太郎に向けた笑顔は、昔の思い出の中のマリコではなく、今、ここにいるマリコの笑顔だった。マリコと同じように、自分に都合のいい妄想をして楽しい気分になった二太郎だったが、それでもいいと思った。(さびしい毒薬 -永遠の野原・41)

ある夜、雨の中、一匹の老犬が公園にいた。出前の帰りにその老犬を見かけたマリコは、気になって仕事が終わった後に公園に向かった。近くに用事があったからと店に立ち寄った二太郎と一緒だった。その老犬はまだそこにいた。グルグル回るばかりで、何の反応もない。マリコは迷子の犬だと思っていたが、二太郎にはそれは違うと分かった。その老犬は目が見えていなかったのだ。そのままにはしておけず、古屋家に連れ帰った老犬は、首に『フェルディナンド』と刻印したメダルを下げていた。明るいところで良く見ると、目が見えないだけではなく歯もなかった。翌朝、動物病院に連れて行くと、耳もほとんど聞こえず鼻も利いていないであろう、10歳以上のボケ老犬だと言われた。二太郎は迷い犬のチラシを作り、マリコとあちこち貼って歩いた。老犬フェルディナンドを見つけた公園の近所の家や、犬を連れて散歩している人に話を聞き、近くのお店や警察、保健所にも行った。しかし、何もわからなかった。ある日、チラシを貼っていたマリコに、ある男性が話しかけてきた。彼は大学生で一人暮らしをしているが、家族は田舎のマンションに引っ越したため、フェルディナンドを飼えなくなって公園に捨てたと言う。マリコはフェルディナンドを飼うために、犬がオーケーのアパートを探し出し、一緒に暮らし始めた。それまで何も反応しなかったフェルディナンドが、マリコの声を聞き、マリコに笑いかけるようになった。それを見て喜ぶマリコ自身もまた、笑っていた。笑顔のマリコを見て、心が安らぐ二太郎だった。(恍惚の時間 -永遠の野原・42)

第16巻

古屋 二太郎の姉で作家古屋 一姫の恋人である柳 良次は、街中で飾られているウェディングドレスを見てため息をついていた。一姫との結婚話が一向に進まないからだ。世の中の女性にとって、結婚式は人生最大の華やかなイベントのはずなのに、一姫は披露宴もやりたくないらしい。おまけに披露宴どころか式も上げたくないし、籍も入れたくない。二人で一緒に暮らすことにも難色を示す始末だ。小説家である一姫と、高校の美術の教員である柳とでは、生活のリズムがかなり違う。一日中家にいる一姫と、外で働く柳。お互い結婚すれば今までの生活のようにはいかない。一姫は全ての時間を自分のためだけに使えないであろうという不安があった。結婚し、妻としてやっていけるかどうかが分からずに考え込む一姫だった。そして何より、自分が柳にとって空気のような存在になるのが怖かった。一緒に住むようになっても、自分の存在を気にしていて欲しいと願う一姫。その気持ちを知った柳は、今の気持ちを大切にしたいと一姫に言う。先のことは保証できないしわからないが、今は一緒にいたいし一緒に生きたいと思っていると一姫に話した。(マリッジブルー -永遠の野原・43)

田中 真理子(通称マリコ)は、石田 太が働く中華料理店のアルバイトをやめた。愛犬みかんを連れた古屋 二太郎から外の明るい野原に連れ出され、一日太陽の下で過ごしたマリコ。精神的におかしくなっていた自分に気づいたのだった。そして正気に戻れたと安堵した。太が住んでいるアパートの住人に花火売りの男がいた。ある日、男は夜逃げした。そして大家さんが、男が残していった大量の花火を太のところに持ってきた。だが、あまりに大量だったので、太は二太郎と野沢 ひとみにも分けてあげようと古屋家に持って行った。花火をもらった二太郎は、それをまた、中井 縫之介とマリコにも分けてあげた。初め、マリコは花火はいらないと言ったが、縫之介がマリコの部屋に置いておいた。マリコのアパートに遊びに来た二太郎は、花火に気付きマリコを問い詰めた。大事そうに花火が部屋に置いてあったからだ。二太郎はマリコが花火を持ってきた太のことを考えていると思ったのだった。そして、つい自分は太とは違うと言ってしまう。マリコは、また二太郎を傷付けたと、部屋を飛び出した。二太郎はマリコを追った。(遠い日の花火じゃない -永遠の野原・44)

一姫の結婚は5日後に迫っていた。結局、披露宴はせず、2人きりの式を近所の神社で挙げることにした。付添え人は弟の二太郎だけだ。その日は、一姫の夫になる柳 良次の誕生日だった。引っ越し荷物をまとめている時、野沢 ひとみが買ったばかりのPHSを見せびらかしに古屋家にやって来た。もちろん大好きな太も呼んでいた。そこで話があると言い出した太。内容は横浜のお店に戻るという話だった。それを聞いて返したひとみの言葉に、二太郎は唖然とした。もう太を待たないと言ったのだ。横浜に行く別れの日、自分の存在が二太郎を苦しめていたことを知っていた太は、二太郎にもう会わないと言って行ってしまった。そして、見送りに来なかったひとみのことが気になってしまう太。見回してもひとみの姿はどこにもなかった。ところが、東京に着き電車を降りた太の前に現れたのは、更に行動力がパワーアップしたひとみだった。待つのではなく追いかけることにしたと言ったひとみ。太は参りましたと認めるのだった。その頃、野原には二太郎とマリコとみかんがいた。それぞれがそれぞれの、永遠の幸せを願っていた。(エイエンノノハラ -永遠の野原・45)

登場人物・キャラクター

古屋 二太郎 (ふるや にたろう)

高校2年生。現実的な考え方をするが、夢の世界に生きている作家で姉の古屋 一姫のことを、とても大切に思っている。父親が亡くなったあと、母親が再婚をして家を出て行ったので、姉弟二人で暮らしている。学校の帰りに乗る電車で会った女子高校生の、田中 真理子(通称マリコ)に一目惚れをした。背が低く気弱そうに見える外見がコンプレックス。以前に飼っていた愛犬カキを病気で亡くしたあとに、縁あって飼うことになった愛犬みかんに振り回されている。

古屋 一姫 (ふるや いちひめ)

SFホモ小説家で古屋 二太郎の姉。友達の友達だった柳 良次が拾った犬を引き取り、みかんと名付けて育てている。黒髪のおかっぱ頭でいつも着物を着ている。小説家だからか、二太郎曰く夢の中で生きているような感じで危うい。いつも二太郎に世話をかけてばかりいる。自分の作品に自信がなかったが、のちに伴侶となる柳とのことを書いた自伝的小説が賞を取ったことで、自信を持てるようになった。気弱な二太郎を見ると、たまに姉らしくなることがある。

石田 太 (いしだ ふとし)

古屋 二太郎の同級生の中でも、とびぬけて大人っぽく口数が少ない。性格も見た目も正反対の二太郎と何故かつるんでいる。高校生にしては背が大きく威圧感があり、いつも無表情で無感動で無関心なので、同級生に怖がられている。将来の夢は調理師になる事だが、両親に大反対されている。夢を叶えるために、家を出て一人暮らしをして、お金をためて調理師学校に通うという行動力がある。同級生の野沢 ひとみからの強大な想いに、ちょっと戸惑っている。

柳 良次 (やなぎ りょうじ)

工事現場で働いていたが、本業は美術の産休教師。鼻の下にひげを生やしている。恋人の古屋 一姫に小説のネタにされたことで、教えている生徒たちにからかわれるが、そこから一姫とのことを真剣に考え始める。結婚するために産休教師ではなく、正規の教員になるための試験を受けて合格。正式な教員となって一姫にプロポーズするが、当の一姫がなかなかその気にならずに四苦八苦する。いつも一姫を温かく見守るいい男である。

野沢 ひとみ (のざわ ひとみ)

古屋 二太郎、石田 太のクラスメート。いつも三人でつるんでいる。長くて量の多い黒髪だが、いつも耳の上で二つに分けて三つ編みをしている。クラスの中でも、ひときわパワフルな女の子である。だが大好きな太の前では、しおらしく可愛らしくなる一面も持っている。明るくて元気なキャラだが、一途に真剣に太を想い続け、太の調理師になる夢を応援している。どこまでも真っ直ぐに太に突進する行動力は、お見事というほかない。

田中 真理子 (たなか まりこ)

古屋 二太郎が電車の中で一目惚れをした女子高校生。お嬢様学校の聖メアリー女学院付属高校に通っている。いつも二太郎の降りる一つ前の駅、実在している高級住宅街の雲雀丘花屋敷で降りる。座った椅子の座席まである長い真っ直ぐな髪だったが、一度、二太郎との初デートのあとにバッサリ切ってショートヘアーにしたことがある。おっとりしていて優しい雰囲気だが、芯が強く頑固な一面も持っている。二太郎とその親友である石田 太との間で揺れ動いて、苦しんだ。

中井 縫之介 (なかい ぬいのすけ)

古屋 二太郎のクラスメートの野沢 ひとみにラブレターを出した男の子。二太郎とひとみの高校の、一年後輩である。自称、二年二組十二番、成績優秀、スポーツ万能、趣味は機械いじりらしい。今まで誰も好きになったことがなかったが、高校でひとみを見かけて好きになれそうだと思った。数多くのちょっかいをかけるも、石田 太一筋のひとみの心には届かず、却って怒らせるようなことをしてしまう。二太郎が拾った野犬の子犬に小梅と名前を付けて飼うようになる。家庭に恵まれていないせいか愛情不足で育ち、小梅を溺愛している。 

カキ

古屋 二太郎と古屋 一姫の姉弟が、みかんがくる以前に飼っていた愛犬。とても賢くて古屋家自慢の愛犬だったが、フィラリアに罹り病死してしまった。犬種はビーグルに似ている。みかんが来たばかりの頃、家から脱走して工事現場の穴に落ちてしまったことを、二太郎に知らせた心優しい犬。

みかん

産まれて間もなく、工事現場に捨てられていた。その工事現場で働いていた柳 良次が拾って、友達に声をかけたがどこに行っても上手くいかなかった。揚げ句たらい回しにされて、柳の元に戻ってきた。最後に、古屋 一姫のところにやってきて、飼ってもらえることになったのだった。たらい回しにされたせいか、始めは人間不信であった。だが、一姫と二太郎と暮らすうちに、少しずつ人間を信頼できるようになっていった。その後は、古屋家になくてはならない存在になった。生後50日で返品2回、生後2か月で返品4回、生後70日で返品5回というすごい記録を持っている。

小梅 (こうめ)

古屋 二太郎が住む町に流れる川の中州に取り残されていた子犬。母親は野犬だったため、捕獲されてしまった。鳴いていたところをみかんが気付き、二太郎が助けた。古屋家で保護したが、みかんがヤキモチを焼いて小梅を攻撃したり、自傷行為をするようになってしまったので、里親を探していたところ、同じ高校の後輩である中井 縫之介が、引き取って育ててくれることになった。後々、その縫之介にも多大な迷惑をかけることになるのだが、縫之介の愛情をいっぱいにもらって元気に育っていく。

阿南 (あなん)

柳 良次の友人の弟で浪人生。田中 真理子(通称マリコ)の二歳上の幼馴染である、北大路 華子と一緒にアルバイトをしている。古屋家の愛犬みかんの以前の飼い主。街で偶然みかんに再会してからは、頻繁に古屋家にこっそり来てはみかんと遊んでいる。ウェーブのかかった長髪でパンク系の格好をしているが、軽そうに見えて実はいい人。北大路 華子のことが好き過ぎて、悩む毎日である。古屋 二太郎の良い先輩であり、良い友達である。

北大路 華子 (きたおおじ はなこ)

古屋 二太郎が大好きな田中 真理子(通称マリコ)の、二歳年上の幼馴染。マリコとは幼稚園から一緒である。千里山大学に在学していて、アルバイトで一緒である阿南に想われている。だが華子はアルバイト先の塾の講師である上条のことを想っている。ベリーショートで長身な上にスレンダーなので、男性に間違われることもある。性格も男っぽくサバサバしているのと、目が釣り目できつい表情のため誤解されやすいが、優しい一面もある。

白川 渚 (しらかわ なぎさ)

古屋 二太郎が進学した吹田市立大学、文芸部所属。二太郎の姉で作家の古屋 一姫を嫌っているようであったが、実は全部の本を読破しているほどの大ファン。英文科の講師であるジミー・ジョンソンが好きだが、彼には日本人の妻がいる。ウェーブのかかったボブヘアーで、着ている服はいつもボディコン。男好きしそうな感じがするので、学校の教授たちの殆どと関係を持ったという噂が立っている。容姿には自信があるが、肌が地黒なのがコンプレックス。

西宮 毬子 (にしのみや まりこ)

中学1年生で、メガネをかけたセミロングの黒髪の少女。良い家庭の子供だが、母親の影響で母と共に重度の潔癖症である。古屋 二太郎が家庭教師をしている教え子である。後に二太郎に恋をして夢中になる。二太郎への恋のために自分に磨きをかけ、メガネをコンタクトにして、ボサボサの髪を縦ロールのツインテールにして可愛く激変した。中学生にありがちな独りよがりの恋ではあったが、二太郎と出会って人としても女の子としても、大きく成長した。

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