海神記

海神記

日本最古の歴史書と呼ばれる『古事記』や『日本書紀』において、その記述が曖昧模糊とした「神話」から現実を踏まえた「歴史」へと変わっていく4世紀後半くらいの時代を、作者による大胆な解釈によって描いた壮大なスケールの歴史長編マンガ。神功皇后や豊玉姫をはじめ、記録に名の残る実在した人物たちを含む数多くの人々が、「海童」と呼ばれる子供を中心に、日本のみならず近隣国の人々をも巻き込んだ歴史的転換の大きなうねりに巻き込まれていく姿が描かれる。

正式名称
海神記
ふりがな
かいじんき
作者
ジャンル
時代劇
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概要・あらすじ

九州の南の海で起こった海底火山の噴火と、それにともなう津波が「海人(あま)」と呼ばれる人々の暮らす村を壊滅させた時、後に「海童(わたつみ)」と呼ばれるようになる謎の子供が海から現れる。津波によって故郷を失った海人の若者、礒良は、仲間たちとともに海辺の村を移り住んでゆく過程で、度々その「海童」と再会し、やがて深い縁で結ばれていることに気づくこととなる。

「海神の子」として人々の崇拝の対象となっていく「海童」ことミケツは、海神の巫女であるオオタラシとともに多くの民衆を引き連れ「常世」を目指す旅をはじめることになり、行く先々でさまざまな諍いの中心ともなっていくのだった。

登場人物・キャラクター

磯良 (いそら)

古代日本の九州地方の南側に暮らす、主に漁で食料と生活の糧を得る「海人(あま)」の若者。両の目じりに魚の尾ひれのような入墨を入れている。海底火山噴火による津波で村が失われ、仲間たちとともに海伝いに移り住んでゆく。津波の際に海から現れたミケツを災害の象徴として怨んでいたが、アドベのイソラからミケツの舟の「舵取り」の役目を受け継いだ。 またオオタラシによってもたらされた神託によって「サイモチ」の神を鎮める役割に選ばれ、「天の逆矛(あまのさかほこ)」を武器として使用した。

ミケツ

津波によって消滅した海浜の村跡に現れた謎の少年。舟に乗せると漁獲量が増えることから、神への供物となる食物「御食(みけ)」をもたらす海神の使いと考えられ、「ミケツ」と呼ばれるようになる。海中に沈んでいた海神の宝とされる神剣「七枝刀(ななさやのたち)」を手に入れることで神威が高まり、オオタラシ率いる「常世」を目指す人々の象徴的存在となった。

オオタラシ

古代日本の九州地方で、海神の意思を人々に伝えていた巫女。もともとは平凡な海人の女房だったが、津波により夫と子供を失い巫女となった。舟で海からやってきたミケツと出会い、人々を先導して「常世」を目指す旅を行う。伊都国で阿知女から「天の逆矛(あまのさかほこ)」を譲り受けるなどして力を高めていくが、戦いの続く中、同行する民衆の窮状を回避するために統率力を発揮するようになる。 神功皇后をモデルとしたキャラクター。

アドベのイソラ

海草のような髪とノコギリの刃のようなギザギザの歯、全身にフジツボ様の甲殻類のはり付いた異様な風体の男で、ミケツの舟の「舵取り」としてともに行動していた。

浜子 (はまこ)

礒良と同郷の海人(あま)の若者。礒良とともに海伝いの旅をしていたが離れ離れとなり、穴門(あなと)国の島でトヨと出会う。

厚鹿文と迮鹿文 (あつかやとさかや)

古代日本の九州地方に大きな勢力を持っていた隼人(はやと)族の兄弟。隼人族を統べる厚鹿文(あつかや)が兄で、兄弟ともに海神の宝とされる「潮満珠(しおみつたま)」と「潮干珠(しおひるたま)」を探している。隼人族には入墨の慣習があり、ともに行動する者たちはみな顔に入墨を施している。 なお兄弟は『日本書紀』に記載されている、景行天皇が征伐したとされる熊襲梟帥(くまそたける)兄弟がモデルとなっている。

珂是古 (かぜこ)

幡(はた:凧のこと)を揚げて神の意思を伺う、胸肩(むなかた:福岡県の宗像地方のこと)の巫(かんなぎ)。凧の導きにしたがってさまざまな地を巡っており、ミケツや浜子とも関わりを持つことになる。『備前国風土記』に荒ぶる機織の女神を祭ったことが記載されている。

鮎女 (あゆめ)

黄泉に一番近い場所とされる「みみらくの浜」に暮らしていたクズナという女の娘。打ち上げられ気を失っていた礒良を発見した。父親は人間に変化したワニ(サメ)とされている。

阿知女 (あちめ)

伊都国の祭る神「天の日矛(あめのひぼこ)」に仕える巫女の老婆。普段は穏やかな性格で「ヒルメ」と呼ばれているが、神がかり状態になると荒々しい性格の「阿知女(あちめ)」に変わる。伊都国王によって引きあわされたオオタラシとミケツに、神の象徴である「天の逆矛(あまのさかほこ)」を与える。

塩土 (しおつち)

オオタラシがミケツと出会う前から側に侍り世話をしてきた白髪白髭の老人。ミケツとともに「常世」を目指す旅路においても、オオタラシが巫女として宣託を行う準備をし、オオタラシの代理として民衆の前に立つなど、なくてはならない存在。日本の「記紀神話」に登場し、山幸彦や神武天皇に助言を行ったとされる神「塩土老翁」をモチーフにしたキャラクター。

息長 (おきなが)

百済と交易を行い、大船団を持っている九州地方の豪族。ミケツとオオタラシに協力しながら、木羅斤資の力を借り、九州一帯の覇権を狙う。日本の「記紀神話」にも記載されている豪族「息長氏」をモチーフにしたキャラクター。

木羅 斤資 (もくら こんし)

百済国の将軍。左目が大きな刀傷によってふさがっている髭面の頑健な老人で、ミケツと出会いオオタラシに協力することで一帯の支配権を手に入れようとする。神功皇后の新羅侵攻に協力した人物として、『日本書紀』にも記載されている人物がモデル。

トヨ

穴門(あなと)国の潮満珠(しおみつたま)と呼ばれる島にひとり住んでいた若い女性。潮干珠(しおひるたま)というもうひとつの島に送られた姉とともに、穴門で信仰されている神「サイモチ」に仕える巫女だったが、姉は舟でやってきた乱暴者にその身を汚され自殺している。鵜を自身の「和魂(にぎみたま)」と呼び、ワニ(サメ)を自身の「荒魂(あらみたま)」と呼んでいる。 日本の「記紀神話」に登場し、「海幸山幸」の物語で山幸彦と結婚した豊玉姫がモデルとなっている。

武振熊 (たけふるくま)

穴門(あなと)国で信仰されている神「サイモチ」を怒らせた乱暴者として、牢獄に入れられていた荒々しい性格の男。ミケツとオオタラシに率いられた集団を討つための将軍として、王に任命される。神功皇后に仕えた武人として、日本の「記紀神話」にも記載されている人物がモデル。

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