概要・あらすじ
隠れキリシタンの村が東北にあると神父から聞いた「ぼく」がその村を訪ねると、おりしも村では数十年ぶりとなる殺人事件が起きていた。「ぼく」はやはり村に興味を抱いて調査に来ていた学者・稗田礼二郎と共に、三日前に殺された男・善次と隠れキリシタンの村に秘められた謎を追う。
登場人物・キャラクター
稗田 礼二郎 (ひえだ れいじろう)
元K大の考古学教授。“はなれ”のある東北の寒村で起きた事件を調査するため、ぼくより一足先に村を訪れていた。村のキリシタン灯ろうからケルビムの骨を発見したことから、ぼくと共に村の秘密に迫っていく。
ぼく
この物語の語り手の青年。神父からの手紙で隠れキリシタンが住むという東北の“はなれ”がある村に関心を持ち、独り村を訪れた。村人・善次の殺害事件が起こり、稗田礼二郎と共に村の謎を追う。
神父 (しんぷ)
三年前、東京から“はなれ”がある東北の村の教会に赴任してきた老神父。キリストのように十字架にかけられて死んでいた善次の死体を発見し、冒?を恐れて十字架を隠してから駐在へ通報した。
重太 (じゅうた)
“はなれ”の村に住む老人。神父からはただの精神薄弱者であると思われている。三じゅあんに言われて村の皆で善次を殺害したととれる証言をしている。稗田礼二郎が発見したケルビムの骨を「けるびん」と呼ぶ。
善次 (ぜんじ)
“はなれ”の村で殺害された青年。キリストのように十字架にかけられていた。神父によれば、精神薄弱者の多い“はなれ”では頭のいい方だったという。教会の地下におかれていた死体が消えてしまう。
三じゅあん (さんじゅあん)
“はなれ”の村に住む三人の男。重太から「三じゅあん」と呼ばれているが、本名等不明。重太によれば、村人たちを指揮して善次を殺し、十字架にかけるよう命じたらしい。
場所
“はなれ”
東北の寒村にある隠れキリシタンの村。近親婚を繰り返したためか、村人すべてが精神薄弱者として生まれてくる。「世界開始の利の御伝え」という聖書の創世記に似た異伝が伝えられている。善次の殺害事件が起こった三日後、ぼくと神父が様子を見に行くと、重太以外誰もいなくなっていた。
その他キーワード
ケルビムの骨 (けるびむのほね)
稗田礼二郎が“はなれ”の村にある隠れキリシタン灯ろうの中にある壷から発見した、謎の動物の骨。何かの動物の下顎骨と見られるが、類似の動物はいない。村の重太には「けるびん」と呼ばれている。隠れキリシタンの聖典によれば、ケルビムは生命の木を守る存在。
生命の木 (せいめいのき)
“はなれ”の村に伝わる隠れキリシタンの聖典に書かれた「世界開始の利の御伝え」において、人類の祖のひとり「じゅすへる」がこの木の実を食べたとされている。そのため彼の一族は不死になった。しかし地上に人があふれることを恐れた神によって呪いをかけられたという。宣教師が多く日本へ来ていた時代、生命の木は日本にあるという伝説がヨーロッパにあった。