あらすじ
目つき悪い子、実はかわいい子理論
田中のとなりの席に座るクラスメイトの水野は、高身長で目つきが悪く、威圧感抜群の存在だった。だが、ネット上に書かれていた、目つきの悪い子は実際はいい子で、かわいいものが大好きだったりするという「目つき悪い子、実はかわいい子理論」を妄信している田中は、自分だけが彼女のかわいらしい本当の姿を知っているのだと、鼻息を荒くしていた。そして田中は、「目つき悪い子、実はかわいい子理論」を確固たるものとするべく、水野に接触して彼女の言動を観察し始める。そうこうするうちに田中は、周囲から恐れられる孤高の存在である水野の些細(ささい)な言動から、実は優しくドジでポンコツな、愛すべきかわいらしい子であることを確信する。一方で水野には、1年生の頃に親しかったE澄という女子生徒をいじめて不登校に追いやったという不穏な噂(うわさ)があり、田中と親しいA太やB斗、C名は彼のことを心配していた。だが、田中自身はそんな噂を笑って一蹴し、クラスメイトたちと水野のあいだにある垣根を取り払おうと奔走する。そんな中、文化祭の準備において持ち前のドジっぷりを発揮した水野は、A太の機転もあって周囲にその親しみやすさを認められ、一転してクラスメイトに受け入れられるようになる。
水野さんの過去
迎えた文化祭当日、周囲に優秀な高校として知られる東高の男子生徒を、水野が殴り飛ばすという暴力事件が発生した。これは東高の男子生徒が、水野たちの高校の女子生徒を無理やりナンパして好きにもてあそびながら、優秀と名高い東高の名のもとに噓八百を並べ立てて無罪放免を勝ち取るという、東高における伝統行事に巻き込まれたC名を助けるためのものだった。だが過去の事件から、自分がかかわることでほかに火の粉がかかることを恐れた水野は、C名にきつく口止めして一人で罪をかぶり、停学処分を受け入れる。その事実を知らないクラスメイトたちが、文化祭を台無しにしたと水野に対し口々に怒りをあらわにする中、田中は居ても立っても居られずに水野の家へと走る。そこで田中は、E澄の不登校事件に関する真相を知る。そして、自分の友人を不幸にするくらいならば、人とかかわらない方がマシだという水野の言葉を聞いた田中は、それでも水野といっしょにいたいと語り、学校でクラスメイトのみんなと待っていると水野に告げるのだった。やがて停学が解け、憂鬱な面持ちで登校した水野は、クラスメイトたちに温かく迎えられる。すでに今回の一件の真相は明らかになっていたのである。そこには水野との約束を破り、勇気を出してすべてを話したC名に加え、意外な人物の助力があった。
登場人物・キャラクター
田中
水野と同じ高校に通う2年生の男子。水野のクラスメイトで、となりの席に座っている。黒髪ショートヘアで少々穏やかな性格で、特にこれといって目立つところのないふつうの少年。ネット上に書かれていた、目つきの悪い子は実際はいい子で、かわいいものが大好きだったりするという「目つき悪い子、実はかわいい子理論」を妄信している。その理論を立証するため、目つきが悪く周囲から恐れられているクラスメイトの女子、水野に接触を図り、親しくなっていく。その過程で、ぶっきらぼうに見えて優しかったり、ポンコツなところがあったりする水野の本当の姿を知り、何かとかわいらしさを感じては胸を高鳴らせている。その後は、誤解を受けやすい水野の理解者となり、彼女とクラスメイトたちのあいだにある垣根を取り払うため尽力するようになる。ちなみに、これらの行為から友人のA太には田中が水野のことを好きなのだと思われているが、田中自身は水野に対する好意は認めつつも、それが「惚れている」ということなのかどうかについては確信が持てずにいる。ちなみに、周辺からも「バカ高校」と蔑まれる高校に通っていながら、定期テストで三つも赤点を取るなど、成績は非常に悪い。
水野
田中と同じ高校に通う2年生の女子。田中のクラスメイトで、となりの席に座っている。黒髪のストレートロングヘアで非常に高身長で、何より目つきが極端に悪く、過去にクラスメイトを不登校に追い込んだという噂もあり、周囲からは怖がられ孤立している。外見や言動こそ威圧的だが本当は優しく友人思いな性格で、かつて1年生の頃に、クラスメイトだったアマノが不良女子にカツアゲされていた際に助けたことがある。だが、これが原因で不良女子に目を付けられ、結果的に当時水野と仲がよかったE澄が執拗(しつよう)ないじめのターゲットとなり、不登校に追い込まれた。さらにいつの間にか、E澄が不登校になったのは水野のせいだと噂されるようになった。水野が事態を把握したのはすべてが終わったあとで、E澄が不登校になったのも元を正せば確かに自分が発端だったと考えた水野自身は、その誤解を晴らそうとせず、それ以来、自分がかかわると周りに迷惑をかけると考えて、人との接触を避けるようになった。そんな中、ネット上に書かれていた、目つきの悪い子は実際はいい子で、かわいいものが大好きだったりするという「目つき悪い子、実はかわいい子理論」を鵜吞(うの)みにした田中に目を付けられ、何かと付きまとわれるようになる。当初は田中のことを邪険に扱っていたものの、それでもしつこく接触を持とうとする彼に次第に絆(ほだ)され、やがて彼の先導のもと、クラスメイトたちとの関係性を改善するため少しずつ心を開き、周囲とかかわりを持つようになっていく。しっかりしているように見えて、ジュースの自動販売機にゲームセンターのコインを入れてトラブルを起こしたり、スズメバチも蜂蜜を作ると思い込んでいたりと、実際は天然バカでポンコツなところがある。ちなみに定期テストも赤点ばかりだが、それは解答欄が一つずつずれていたり、試験範囲を間違えて記憶していたり、そもそもテストの科目を間違えていたりといったドジが主な原因であり、学力自体は非常に高い。
A太 (えいた)
田中や水野と同じ高校に通う2年生の男子。二人とはクラスメイト。田中と非常に仲がよく、いつもB斗、C名を含めた四人で行動を共にしている。ショートヘアをツンツンと立たせ、少々ノリが軽いながらも田中と同様に特に目立つところのない、ごくふつうの少年。1年生の頃、水野と仲がよかったE澄が彼女にいじめられて不登校になったという噂をB斗から聞き、田中に伝えた。もともとA太自身も水野のことを怖がってはいたが、田中といっしょにいることが多いため意外に水野のこともよく観察しており、件の不登校生徒の噂について、水野がそんな回りくどいことをするはずがないという田中の言葉にあっさり同調。その後、水野がクラスメイトになじめるよう奔走する田中のことを、それとなくサポートするようになる。
B斗 (びいと)
田中や水野と同じ高校に通う2年生の男子。二人とはクラスメイト。2年生に進級して同じクラスになった田中たちと親しくなり、いつもA太、C名を含めた四人で行動を共にしている。黒髪ストレートのセミロングヘアで前髪を上げ、少々クールな性格をしている。水野とは1年生の頃からクラスメイトで、彼女が周囲から恐れられ、遠巻きにされるようになった理由を知っている。それは、水野が当時親しかったE澄をいじめて不登校にさせたというものであった。そのため、当初は水野に積極的にからもうとする田中のことを心配していた。だが、一方で冷静に物事を判断する思慮深さを持ち、田中と接する水野の姿を見るうちに、彼女にいじめられたE澄が不登校になったという噂についても、何かの誤解なのだろうと判断。その後はひそかに、田中と水野のあいだを取り持つような行動を取るようになる。まだ付き合いが浅いことから、極度の人見知りであるC名には声を掛けるたびに怯(おび)えられており、深く傷ついている。
C名 (しいな)
田中や水野と同じ高校に通う2年生の女子。二人とはクラスメイト。田中と非常に仲がよく、いつもA太、B斗を含めた四人で行動を共にしている。金髪セミロングヘアで明るい性格だが、実際は極度の人見知りで、明るく振る舞うのは、1年生の頃から親しい田中やA太に対してのみ。B斗に対しては未だにまったく慣れておらず、声を掛けられるたびに「ヒッ」と小さな悲鳴を上げて怯えている。水野に対しても、軽口を叩(たた)いて距離を縮めようとしてはその目つきにすくみ上り、恐怖のあまり泣きながら退散することを繰り返している。一方で恋愛話が大好きで、恋愛がかかわることであれば水野やB斗に対しても、ある程度はふつうに話をすることができる。
E澄 (いずみ)
田中や水野と同じ高校に通っていた女子。1年生の頃は水野やB斗とクラスメイトで、特に水野と親しくしていた。だがある時、水野がアマノにカツアゲをしていた同じクラスの不良女子をとがめたことから、そのとばっちりを受けて陰で執拗にいじめられるようになった。そうとは知らない水野に心配をかけないよう、いじめられていることはおくびにも出さず、自分のドジのせいだとして、いつも笑いながら「大丈夫」と伝えていたが、のちに水野がいじめに気づいたことをきっかけに不登校になる。同時にE澄が不登校になったのは水野のせいだと噂されるようになり、彼女が孤立を深めることなった。水野が人とかかわりを持たないようになったのは、この一件が大きな原因となっている。
アマノ
田中や水野と同じ高校に通う2年生の女子。黒髪ショートヘアで、口元にほくろがある。1年生の頃は水野やB斗とクラスメイトで、不良女子に目を付けられてカツアゲされる日々に甘んじていたが、ある日、その場面を目撃した水野に助けられた。これが結果的に水野の孤立およびE澄の不登校を招いたが、アマノ自身はこの一件を機に一念発起し、テストは各教科ほぼ満点で成績はつねに学年トップ、そのうえ外部模試の全国順位ではトップ50を下回ることがないほどの才女となった。
書誌情報
目つき悪い子かわいい子 全3巻 KADOKAWA〈MFC〉
第1巻
(2022-01-21発行、 978-4046809162)
第2巻
(2022-09-22発行、 978-4046818126)
第3巻
(2023-03-23発行、 978-4046823052)