あらすじ
恋した人は殺人者
睡眠が趣味の女子大学生の木崎理世は、質素な一人暮らしの中で、布団の中の温かさだけに幸せを感じていた。そんなある日、アルバイト先のスーパーで、理世は同じくアルバイトの内田海利に声を掛けられる。日々不眠に悩む海利は、理世がどこでも眠れる特技があると聞き、安眠のコツを教えてほしいのだという。翌日、アルバイトの休憩時間にうとうとと眠ってしまった理世は、ふと目覚めると、肩にもたれかかって眠っている海利に気づく。海利自身も、自分が眠ってしまったことに驚きながら、家の布団でも眠れない切実な悩みを打ち明け、睡眠を取るために理世の肩を貸してくれないかと願い出る。それ以来理世は、アルバイトのある日には、公園のベンチで海利に肩を貸すようになる。実は理世には、両親の離婚によって離れ離れになったが、大好きな兄の徳本正己がいた。以前から海利の雰囲気が、理世がイメージしていた成長した正己の姿とよく似ていたこともあり、兄との思い出を重ねた理世は、次第に海利に好意を抱くようになる。そんな中、理世は海利にほかの人では理世の代わりが務まらなかったと切羽詰まった様子で頼み込まれ、彼の部屋へ行って、睡眠の手助けをすることになる。海利が眠りに就いたのを見届けた理世は、部屋の中に背幅の合っていないカバーの掛かった本を見つける。その本は海利の日記で、そこにはかつて殺人を犯してしまった海利が、逃亡の日々の中で警察を恐れ、自問自答する心の葛藤が記されていた。これこそが、彼が眠れない理由だったのである。想像もしなかった内容に動揺して恐怖心を抱く理世だったが、海利は小説家を目指しており、これはその草案なのだろうと無理やり自分を納得させ、目覚めた海利に笑顔で別れを告げて部屋をあとにする。すると、忘れ物があったと息を切らして理世を追ってきた海利が、あの日記帳を差し出す。それに気づいた理世が動揺を隠しきれずにいると、海利は殺人について弁明しようとする。彼の言葉から殺人が事実だったことを知った理世は、自分も殺されるかもしれないと恐怖に震え、とっさに海利を振り切って走り出す。
憎しみ
木崎理世は、大学を卒業して経済的に安定したら、兄の徳本正己を捜しに行こうと考えていた。ゆくゆくは正己といっしょに暮らせたらいいと思っていた矢先、理世から生き別れた兄について話を聞いていた立花智弘から、勝手に正己のことを調べてみたと書類を渡される。その中にあった格子模様の絵を見た理世は動揺。智弘によれば、それは2年前に神通川で発見された身元不明の遺体の背中にあったやけど痕の絵なのだという。理世の異変に気づいた智弘は、これが正己なのかと問い詰める。理世はとっさに取り繕い、これは正己ではないと強く否定してその場を去るが、あの絵はまぎれもなく正己の背中のやけど痕と同じ形であった。翌日、アルバイトを無断欠勤した理世を心配した内田海利が理世の部屋を訪れると、そこには何もかもに自暴自棄になった理世の姿があった。理世は、海利をも冷たく突き放そうとするが、布団の中で温め合い、海利に、ただそこにいてくれるだけでいいと言葉を掛けられたことで平常心を取り戻す。海利への思いが、確固たるものだと気づいた理世は、海利のすべてをいっしょに背負いたいと考えるようになる。そんな中、海利はやるべきことがあると、海利が殺した相手の遺品を処分するため、理世と共に自室へと向かう。そこにあったのは、理世にとって見覚えのある恐竜の形の小さな手作りマスコットだった。そして、あいつとのつながりはすべて処分すると言った海利は次に、「マサキ」という名前を口にする。理世は、幼い頃自分が作った覚えのあるマスコットを前に、正己が死んだこと、そして最愛の兄を殺したのは、海利だったという事実をつきつけられることになる。そして理世は、海利に対して静かに憎しみの炎を燃やし始め、自分が必ず海利を追い詰め、罪を償わせてみせると心に誓う。
理由
木崎理世は、内田海利がなぜ徳本正己を殺したのか、どうしてもその理由が聞きたかった。海利は言い渋るものの、寄り添う姿勢を見せた理世に、当時のことをぽつぽつと語り始める。海利は、同じ年の正己とアルバイト先の飲み屋で知り合った。当時、進学校に入学しながら不登校気味だった海利と、非行グループのリーダー的存在の正己は、まったく違ったタイプだったが、父親に嫌悪感を抱いているという点でのみ共通点を見いだし、定住地のなかった正己は海利の家によく寝泊まりするようになり、互いになんとなくいっしょに過ごすことが増えたのだという。窃盗や暴力、脅迫など正己の素行は日常的に悪く、そんな正己は仲間内からも恐れられる存在だったが、海利だけは正己の素行を正そうと注意を続け、奥底では正己のことを信じ続けていた。そんなある日、正己が、ナンパした女性の長谷川京香を海利の部屋に連れ込んで暴行を加え、意識を失った状態で強姦しようとしていたところに遭遇した海利は、正己を諭し、自首することを勧める。しかし、正己はまったく応じようとせず、警察に行こうとする海利を制止しただけでなく、いっしょにやろうと誘い、「お前だってお前の父親と同じだ」という、海利にとって禁忌の言葉を口にした。これが殺害への直接の引き金であったが、海利は続けて、一時の衝動ではなく、この人間は世界のために死んだ方がいいという確信を持ち、この人間が死んでも誰も悲しまないと思ったから正己を殺害したと、その理由を細かに語る。だが理世は、自分が思い描いていた兄の姿とはあまりにもかけ離れた話の内容に、猜疑心(さいぎしん)を抱いていた。こうするしかなかったと言い張る海利が、正己だけを悪者にして自己弁護しているようにしか受け取ることができず、理世はそんな一方的な話は信じられないと告げ、その場を後にする。しかしその直後、偶然顔を合わせた立花智弘から語られたのは、正己が12歳の時、窃盗で警察に身柄を拘束された記録があったというものだった。
追及
木崎理世は最愛の兄である徳本正己が殺された経緯について、内田海利はウソをついていなかったことを確信した。海利への気持ちを再認識した理世は、互いの思いを確認したのち肌を重ね、二人は愛を深めていく。一方、警察では二年前の事件で発見された身元不明の遺体について、身体的特徴と失踪時期、遺体発見時期の近さから、正己の可能性が高いと考えていた。当時一度は事故で処理されたものの、殺人の可能性もあるとして再捜査を始めており、担当する富山県警の刑事の佐久間は立花智弘と連絡を取り合い、正己の親族にDNA鑑定を頼み、結果を明らかにすべきと勧めた。関係者の心情への配慮を優先したい考えの智弘は、理世が否定していたことを持ち出し、これ以上巻き込むことに二の足を踏むが、遺体の身元解明を最優先にしたい佐久間とのあいだで意見が割れる。そんな中、地元での捜査を続ける中で、佐久間は気になる情報を手に入れる。それは、正己がいなくなる前に一番仲がよかったという海利の存在だった。当時海利がバイトを辞め、姿を消した時期が遺体発見から一週間後だったということもあり、海利の所在地を確認した佐久間は、三重へと急ぐ。アルバイトの帰り道、理世の所へと向かおうとしていた海利のもとに佐久間は姿を現し、正己との関係性について話を聞こうとする。海利は、とうとうこの時が来たかと、ずっと恐れていた事態が今現実に起きていることに内心動揺するが、それを必死に抑え込み、差し出された似顔絵を正己ではないと冷静に否定する。しかし佐久間は、それがかえって怪しいと海利をマークし始める。同時に、DNA鑑定を進めるために智弘が向かったのは、正己の妹である理世の家。理世は遺体が兄であるはずがないとDNA採取を拒否するが、優しい智弘と違い、威圧感たっぷりの佐久間は、警察に協力しない理由があるのかと理世に強くせまる。拒否することができないと悟った理世は、しぶしぶ協力を約束させられ、直後に海利は任意での事情聴取に応じることになる。
正しい形
DNA鑑定の結果、他人であることが判明したものの、立花智弘は、木崎理世が内田海利をかばったのではないかと疑いを掛け、理世はもう一度検体を採取させてほしいとせまる智弘から逃走する。ずっと逃げ続けることは不可能だと絶望する理世に、海利はすべてはもうじき終わると言い切る。それには、当時徳本正己から暴力を受け、強姦されそうになった当事者である長谷川京香の存在があった。彼女は今日になって突然海利の前に姿を現し、あの時、自分には意識があったと衝撃の告白をしたのである。実は京香は海利と正己の言い争う声で意識を取り戻し、殺人の一部始終を耳にしていたが、彼女が訴えたかったのはほかでもない、海利への感謝の気持ちだった。正己から受けた暴力により、体だけでなく、心や人間性までもが破壊され、ただの物になっていく感覚を経験した彼女は、その場で正己を非難し、自分に毛布を掛けてくれた海利の存在によって救われていた。そして京香は、たとえ人を殺したとしても、あなたは私にとって恩人でしかないと語り、海利の疑いを晴らす手助けをさせてほしいと訴える。その後、京香と密に連絡を取り合った海利は、シナリオどおりの証言をした京香のおかげで、無事疑いを晴らすことになる。その後、事実確認のために姿を見せた佐久間から事態を細かく聞いた海利は、自らの疑いを晴らす決定打となったのが、母親である内田美里の証言だったことを知り、想定外のことに絶句する。しかし、これを機にすべての疑いから解放された海利は、「内田海利」という自分自身を捨て、新たに「徳本正己」となって人生を送ることになる。それは、愛する理世と家族になるということを意味していた。
登場人物・キャラクター
木崎 理世 (きざき りぜ) 主人公
富山県出身の現役女子大学生。進学のために実家を離れ、現在は三重県で一人暮らし中。生活費を賄うために通学の合間にスーパーマーケットでレジのアルバイトをしている。趣味は睡眠というくらい眠るのが大好きで、布... 関連ページ:木崎 理世
内田 海利 (うちだ かいり)
富山県出身の男性。現在、アルバイトをしている三重県のスーパーマーケットでは、仕事ができると評判で、社員登用の話もあるものの断り続けている。実は2年前に富山で殺人を犯し、逃亡中の身である。眠ろうとすると... 関連ページ:内田 海利
立花 智弘 (たちばな ともひろ)
三重県で少年課の刑事を務める男性。木崎理世と同じアパートに住んでおり、理世に対してほのかな恋心を抱いている。理世が生き別れた兄を心のよりどころにしていることを知り、捜し出して会わせてあげたいと思うようになる。警察官という立場を最大限に利用して、理世の兄の徳本正己を捜そうとする中で、二年前の事件において発見された身元不明の遺体の情報を得る。遺体の背中にあるやけど痕を理世に確認させたが、彼女は動揺しながらも大きく否定。理世の動揺ぶりを見て、ショックを受けるかもしれない情報にもかかわらず、精査せずに開示してしまったことを後悔して、理世にあやまった。しかしこれがきっかけで、富山県警の刑事である佐久間から、遺体の身元が正己である可能性が高く、事故ではなく殺害とみられる中、なんらかの形で内田海利が関与している疑いが浮上したことが知らされ、理世の身を案ずる。その後、DNA検査の協力要請に伴い、理世と海利の関係を疑うようになる。もともと正義感が強い性格で、学生時代に幼なじみであり親友だった哲也との関係が発端となり、刑事になった。職業柄か、事情のある相手に対して親身になりすぎる傾向にあり、同僚からは肩入れし過ぎることを心配されている。
徳本 正己 (とくもと まさき)
木崎理世の兄。幼い頃に両親が離婚したことで父親に引き取られ、理世と離れ離れになった。子供の頃から背中に格子状のやけどの痕があり、左目はいつも眼帯で覆っていた。実は父親から虐待を受けていたと思われ、12歳の頃には窃盗で警察に身柄を拘束されるなど、家庭環境の複雑さから、その後の生活はどんどん荒んでいった。一時は非行グループのリーダー的存在となり、さまざまな犯罪に手を染めていたが、物事を隠匿する技術に長けていることから基本的に事件は表沙汰になっていない。高校生くらいの年齢の時に行きつけの飲み屋で、アルバイト中の内田海利と知り合った。お互いにまったく違うタイプながら、自分の親を嫌悪するところに共通点を見いだし、海利の部屋に泊まり込むなど、その後は何かといっしょにいるようになった。暴力的で、時には海利の名を語って悪さをするなど、日常的な素行の悪さが目立つが、それでも海利とはうまく付き合っていた。しかし、ある時海利の部屋にナンパした女性の長谷川京香を連れ込み、気絶させて強姦しようとしたところを海利に見つかった。警察に行こうとうながす海利を無視し、むしろいっしょに強姦しようと誘い、「お前だってお前の父親と同じだ」という、海利にとって禁忌の言葉を発したことで、海利に殺害された。また、二年前の事件の捜査において、内田潮が引き起こした準強姦容疑に関する一連の騒動をネタに、徳本正己が内田家を脅迫していたことが判明。もともと妹思いの優しさを持ち、素行が悪くなってもなお、理世が幼い頃に作った恐竜のマスコットだけは大切に持ち歩いており、いまわの際に発した言葉も妹の名前だった。ちなみに「徳本」は父方の姓。
お母さん (おかあさん)
木崎理世の母親。夫とは駆け落ちの末に結婚し、徳本正己と理世を授かった。しかし、子供が生まれても何も変わらなかったと、夫の人格を嘆いて離婚に踏み切り、理世だけを連れて実家に戻った。その後、新しい恋人ができるたびに家に帰ってこなくなり、理世を実家に置き去りにしていたことを近所中に知られても、まったく気にする様子はなかった。次々に恋人をつくっては別れ、運命の人じゃなかったと嘆いて実家に戻り、自らの悲しみを理世に打ち明けていたが、立ち直りは異常に早かった。つねに化粧をして美しく身なりを整え、子供がいるように見えないと自画自賛しては再び外に出かける、恋多き女だった。
内田 潮 (うちだ うしお)
内田海利の父親。海利が高校在学中、富山県で教育委員会の教育長を務めており、周囲からの信頼も厚かった。しかしある時、海利の担任を務める先生を酩酊状態にし、意識が朦朧としていたところを強姦した。相手からの告発を受け、DNA採取も行われることになっていたが、内田潮自身の立場を利用し、行為中の動画があることをネタに、訴えを取り下げなければ動画を公開すると先生を脅迫した。その事実を知った海利によって、パソコン内の動画が盗まれそうになるが、寸前のところでそれを阻止。そして、先生が強固に抵抗しなかったことを理由に、同意があったとして強姦は成立しないと言い張り、先生が被害届を取り下げて、すべてをなかったことにする方が傷が浅くて済むと、まるで相手を思いやるかのような言い方で海利を説き伏せた。その後、徳本正己から一連の準強姦容疑についてゆすられることになり、家族の醜聞を吹聴しているとして、海利に対しても一方的に絶縁を言い渡した。のちに交通事故に遭って半身不随になってからは、被害妄想や他害行動が多くなり、現在は施設に入所している。
先生 (せんせい)
高校の教師を務めていた女性。内田海利が高校生の時に担任を務めており、ちょっと頼りないところがあったが、何かと優秀な海利を信頼していた。海利の父親の内田潮とは、時折会合で顔を合わせることがあり、面識があった。しかしある時、酩酊状態になり、意識が朦朧としていたところを強姦され、潮から性的暴行を受けたと告発。DNA採取が行われることになっていたが、行為の最中を潮に動画で撮られており、訴えを取り下げなければ動画をすべて公開すると脅迫された。それを知った海利から、父親の潮のパソコンからデータを盗んで渡すと言われて期待するが、結局データを手にすることはなかった。その結果、海利に対してもあの父親の息子だからと失望のまなざしを向けることとなり、やむなく訴えを取り下げ、泣き寝入りすることになった。これが原因となり、教師を辞めた。
佐久間 (さくま)
富山県警の刑事を務める男性。二年前の事件において発見された身元不明の男性の遺体について調べを進めていた中、立花智弘からの連絡を受けた。身体的特徴から、遺体の身元は徳本正己の可能性が高いと考えており、関係者の協力を得てDNA鑑定に踏み切り、身元を明らかにしたいと思っている。もともとこの事件は、状況的に事故である可能性が高いと判断されていたが、最近では殺人の可能性もあると捜査が進められている。そんな中、智弘を通じて正己の妹の木崎理世と連絡が取れることがわかり、協力を要請する。その後、周囲への聞き込みを通じて、当時正己と一番仲がよかったという内田海利の存在が浮上したことで、海利が正己の死になんらかの形で関与している可能性が高いと疑い始める。理世との仲介役となる智弘が、理世への協力要請に及び腰だったため、自ら直接三重へと足を運び、理世に直接DNA鑑定への協力を打診。強い圧で理世に恐怖心を与え、強引な態度で無理やり承諾させる。また、海利は理世を正己の妹であると知ったうえで、利用するために近づいたと考えており、現在の二人の関係を危険視している。その後も容赦なく海利を追い詰め、冷酷なほどに理世をも追い詰めていく。
長谷川 京香 (はせがわ きょうか)
2年前、徳本正己にナンパされ、冷たくあしらったことが原因で、暴力を振るわれて強姦されそうになった女性。二年前の事件が、すべてが事故として処理されたと思っていたが、先日突然警察が現れ、事情聴取された際、内田海利が疑われていることを知った。当時、海利の部屋で正己から暴力を振るわれ、意識がない状態だったが、海利と正己が言い争う声で意識を取り戻していた。そのため、海利が正己を殺害する一部始終を耳にしており、二人が家からいなくなったのを見計らって自らも逃げた。その2日後、テレビのニュースを見て、発見された遺体が正己だと直感した。当時、正己から受けた容赦ない暴力により、人間性を破壊され、自分が価値のないただの物になっていくような感覚に陥るほどのダメージを受けたが、海利が無残な状態の自分に布団を掛けてくれたこと、そして正己を非難してくれたことで、かろうじて自分が人間である意識を保ち続けられた。そのため、自分にとって海利は恩人であると考えており、海利の疑いを晴らす手伝いをさせてほしいと、彼の前に姿を現す。実は警察から、詳しい話を聞かせてほしいと言われているが、2年という月日が経過していることや、もともと旅行の予定があったことを理由に、協力までの時間をもらった。その旅行の行程にはない場所へ秘密裏に立ち寄り、海利を訪ねて自らの思いを伝え、彼と密に連絡を取り合って、つじつまを合わせたのちに警察の事情聴取に応じた。
千葉 (ちば)
木崎理世と同じ大学に通う女子。日常的に仲がいいわけではないが、同じゼミ生として時折言葉を交わす程度の仲。正月に初詣へ行った際、偶然理世が内田海利といっしょにいるところに遭遇し、彼氏と紹介された。その後、理世が警察からDNA検査への協力を要請され、DNA採取を行わなければならなくなった際、自分のDNAを採取することによって、真実が明らかになってしまう事態を恐れた理世が、ランチタイムに偶然同席することになった千葉の口腔(こうくう)粘膜を採取。口紅が色うつりしないかどうかを確認させてほしいと言われた千葉は、何も知らずに理世から渡された綿棒をくわえた。大学卒業後は地元への就職が決まった。
内田 美里 (うちだ みさと)
内田海利の母親。二年前の事件で発見された身元不明の遺体が、死んだ息子でまちがいないとあらためて証言した。夫の内田潮が交通事故で半身不随になって以来、施設に入所しており、離婚を申請中。まだ受理はされていないものの、すでに新しいパートナーがいるため、過去を忘れて生きたいとの願いから、DNA鑑定は行わないことを決めた。もともと高校に行かなくなった頃から海利には手を焼いており、夫を献身的に支えて生きてきた。しかし、その潮も施設に入った今、すべてと縁を切って自分だけの幸せな時間を生きることを望んでいる。
哲也 (てつや)
立花智弘の幼なじみで親友の男子。学生時代から頭がよくてサッカーもうまかったが、両親が離婚したことで母親から我慢を強要され、サッカーをやめなければならなくなった。それ以来、次第に素行が悪くなり、近所でひき逃げ事故を起こしてしまう。智弘にアリバイ工作の協力を求めるものの、智弘からは警察に行こうと自首をうながされることになる。当初は友達だと思ったのにと逆上したが、友達だからだと逆に諭され、智弘の気持ちを理解して出頭を決めた。その後は、盗難車でのひき逃げ死亡事故ということで、少年院送致となった。当時友達として諭してくれた智弘のことを信頼しており、感謝もしている。その後は苦労しながらもなんとか仕事も見つけ、社会復帰を果たす。だが、雇ってくれた会社の社長や、母親に恩返しがしたいと言っていた矢先、日々のハードな仕事で疲れ切り、居眠り運転でガードレールにぶつかって帰らぬ人となった。
その他キーワード
二年前の事件 (にねんまえのじけん)
2年前の9月23日に、富山県の神通川支流で身元不明の遺体が発見された事件。遺体の死亡推定時刻は2日前の夜で、当日は富山市内を台風が直撃していた。肺の性状から死因は溺死と判断され、生前の損傷がいくつか見られたが、転落時および水中の漂流物によるものとされ、事故と断定された。当時似顔絵による身元の特定が試みられたが判明せず、行旅死亡人として処理された。しかしその後、所轄の富山県警捜査一課により、身体的特徴と失踪時期と遺体発見時期の近さから、遺体は徳本正己の可能性が高いと断定され、殺人の可能性もあるとして再捜査が開始された。正己の親族のDNA鑑定による身元の特定が急がれている。