世界観
物語の舞台は、士郎正宗の「攻殻機動隊」シリーズともとを同一とした、現実の地球とは異なる歴史を歩んだ近未来の世界。また時系列としては「攻殻機動隊」シリーズよりも前の世界となっている。第三次世界大戦や超巨大隕石の落下で地球環境が激変した混迷の時代の中、人々は科学技術を発達させ、世界には義体や電脳化といった新たな技術が出回り始めていた。環境の変化や科学技術の発達は、人々の価値観にも大きな変化をもたらしており、食べ物一つとっても天然物は不安定で安全性が低いとされ、逆に遺伝子組み換え食品は品質が安定し、安全性が高いという価値観の逆転が起きている。また、野生の魚などは環境変化でほぼ絶滅しており、クローン技術の応用による培養槽で「魚の切り身を泳がせながら育てる」のが常識となっている。義体やアンドロイドは少しずつ世に出回り始めているが、民衆の意識には偏見や誤解が根づいており、「攻殻機動隊」シリーズに比べると文化・技術として未だ未成熟な状態にある。
作品誕生のいきさつ
本作『紅殻のパンドラ』の原案は、士郎正宗が2008年7月にアニメ制作会社からの発注を受けて作ったものである。そのため当初は「攻殻機動隊」のシリーズの一つに含まれ、『GHOST URN』という企画名だった。一時制作が中止になっていたが、「ニュータイプエース」担当編集者の「士郎正宗と六道神士を合成してみよう!」という思いつきをきっかけにして再発掘された。初期企画名の『GHOST URN』の「URN」は「ギリシャの壺(あるいは瓶)」からきており、これは「パンドラの箱」を意味する言葉である。初期案では六人の悪女が、壺が割れると同時に本性が露になるという設定で構成されていたが、最終的には別の意味を持たされた「パンドラ」という言葉がタイトルに採用される事となった。執筆開始と同時期に制作された劇場用アニメ『攻殻機動隊 ARISE』とは初期案では密接な関係にあったため、『紅殻のパンドラ』は初期案から大幅に変更されたにもかかわらず、至るところで共通点の名残を見て取る事ができる。
作風
本作『紅殻のパンドラ』における「問題を抱えた素人のへっぽこ少女(笑)が主人公」「悪人を分かりやすい形にする事」などはアニメ制作会社からの意向を受けたもので、士郎正宗本人も、自分の作風から外れたものである事は自覚していると語っている。また士郎正宗は自身の絵柄が時代に合わず、「攻殻機動隊」シリーズの影響を引きずってしまう事を懸念し、明るく楽しい作品になるように六道神士に任せた事も明かしている。そのため、士郎正宗が原作者としての立場から六道神士に伝えたのは、大雑把な物語の流れとベースとなるキャラクター設定のみであり、六道神士の手により初期案から大幅に変更された設定も数多く存在する。また、六道神士の『エクセル・サーガ』からのセルフパロディネタも多い。なお、本作のコミックス第9巻以降は体調不良から六道神士は作画を退き、企画構成とシナリオに専念。それまで六道神士と共に作画にあたっていた春夏秋冬鈴が、一人で第9巻以降の作画を担当するようになった。
あらすじ
第1巻
全身が義体の少女、七転福音は、セナンクル・アイランドに引っ越す途中の船旅で、ウザル・デリラという謎の科学者と、その付き人であるクラリオンと出会う。クラリオンを自分に近しい境遇だと勘違いした福音は、彼女と友達になりたいと思いながら別れるが、その直後に大規模爆発事件に巻き込まれる。事件現場に向かうウザルとクラリオンを心配して彼女達を追った福音は、ウザルからの協力要請を受け入れ、自分を守って片腕を損傷したクラリオンの代わりに戦う事を決心する。そしてウザルによって「パンドーラ・デバイス」の使用者権限を得た福音は敵を撃退するが、事件の解決には地下で暴れまわる「B.U.E.R」を止める必要がある事を伝えられる。島の平和のためB.U.E.Rを止める事を約束する福音だったが、そんな福音が地下で目にしたのは、圧倒的な力を持つ巨大兵器ともいえるものだった。
第2巻
圧倒的な威力の荷電粒子砲を撒き散らす「B.U.E.R」に、七転福音とクラリオンは立ち向かう。危機的な状況だったが、クラリオンと福音は力を合わせる事で「ブエル(セントラルナーバスユニット)」の回収に成功し、事態を収拾する事にも成功するのだった。そしてウザル・デリラは、証拠隠滅のためブエル(セントラルナーバスユニット)のいた地下を爆破、クラリオンを福音に託して、自らは崩れ去る地下に姿を消して行った。島軍に保護された福音とクラリオンは、そのまま親戚である崑崙八仙拓美の家へ向かう。癖のある拓美とのあいだにひと悶着あったものの、福音とクラリオンはセナンクル・アイランドで新たな生活を始めるのだった。一方、ブエル(セントラルナーバスユニット)を暴走させた事で一連の破壊事件の犯人として捕まったバニーさんは、事件の黒幕にブエル(セントラルナーバスユニット)の詳細を教えていた。福音に接触し、退職金代わりに「ブエルの起動キー」を回収したバニーさんは、事件の黒幕にそれを手渡すのだった。
第3巻
崑崙八仙拓美の勧めで学校に通い始めた七転福音は、ウザル・デリラからもらった「パンドーラ・デバイス」を持て余していた。他人の力を自分のために使う事に抵抗を覚えた福音だったが、偶然出会った老婦人のアンナの危機を救うのに使用し、力を持つ事の意味を再確認。そして持っている力を正しく使うためにも、学校で学ぶ事を決意するのだった。こうして穏やかな日々を送っていた福音とクラリオンは、ある日、アンドロイドを専門に狙う窃盗団に襲われてしまう。Mr.チキンによってさらわれた福音を助けるため、クラリオンは彼等のアジトを強襲。クラリオンとの協力の末、福音は「パンドーラ・デバイス」の力を使い、窃盗団を制圧する事に成功する。アンナの危機や、窃盗団の横行といったこれらの事件は、一見関係ないように思えたものの、実はこれらはすべてセナンクル・アイランドで起きている謎の通信障害が原因だった。そして事件の裏では「B.U.E.R」を狙うイアン・クルツが、少しずつ魔の手を伸ばし始めていた。
第4巻
島全体を不定期な通信障害が覆いつつも、七転福音とクラリオンは正義漢の強い軍人であるロバート・アルトマンや、義足を使うエイミー・ギリアムと交流を深めていた。しかしそんなある日、福音とクラリオンは訪れた百貨店で謎の火災に巻き込まれてしまう。折り悪く通信障害も起きたため救出もあてにできず、偶然居合わせた島議長のジェイナス・ノース達と共に、福音は「パンドーラ・デバイス」を駆使して自力で脱出しようとする。何とかジェイナス達を非常階段に送り届けた福音だったが、そこで火災現場に取り残された幼い子供の姿を目にする。福音は制止するクラリオンの忠告に逆らって子供を助けに向かい、その直後、非常階段は壊れ、福音と子供は火災場で孤立してしまう。そして誰一人犠牲にしたくないという福音の姿勢を見たクラリオンは、一か八かの賭けに出て、二人を助け出す事に成功する。
第5巻
百貨店で起きた火災は、イアン・クルツが「B.U.E.R」の起動を試みた事が原因だった。その際に自衛機構が作動し、低出力で放たれた荷電粒子砲が地表を焼き、これが百貨店の火災につながったのだ。その事実に気づいたクラリオンは、七転福音を巻き込まないうちに解決しようと決意。崑崙八仙拓美の協力を取りつけ、さまざまな装備を手に入れたクラリオンは、単身でクルツ達が占拠する地下施設を襲撃する。拓美との交換条件により、誰一人殺さずに順調に施設を制圧していくクラリオンだったが、そこに戦闘用アンドロイド・フィアーが立ち塞がる。一方、いつもいっしょにいるクラリオンがいない事に気づいた福音は、言いようのない不安を感じていた。
第6巻
クラリオンはフィアーと激戦を繰り広げていたが、戦闘に巻き込まれそうになったバニーさんをかばい、敗北してしまう。その頃、地上ではウザル・デリラから警告のメッセージを受け取ったロバート・アルトマン、ブエル(セントラルナーバスユニット)から事情を聞いた七転福音が、それぞれ大切な物を守るため行動を開始していた。福音はブエル(セントラルナーバスユニット)の導きによって地下施設にたどり着くが、敵に見つかって処理施設に落とされてしまう。しかし福音は、処理施設で同じく落とされたバニーさんと再会し、彼女の力を借りる事で脱出する事に成功。地下施設の中心部にたどり着いた福音は、そこでイアン・クルツと対話する。クルツからクラリオンが死んだと伝えられた福音はうろたえるが、そこにクラリオンが駆けつけ、福音の危機を救うのだった。
第7巻
地下施設で再会した七転福音とクラリオンは、襲いかかるフィアーと戦う。イアン・クルツの横暴を正すべくロバート・アルトマンも島議会に掛け合い「セナンクル島警察(CPD)」を発足。地下施設に強制捜査を執行する。フィアーと戦う福音、クラリオンのもとに駆けつけたアルトマンは彼女達に力を貸して共に戦う。しかしそこで「B.U.E.R」の攻勢防壁が遂に突破され、クルツがB.U.E.Rの制御キーにアクセスするのだった。勝どきを上げるクルツだったが、それはウザル・デリラの残したトラップで世界中のネットに「フトモモ画像」を流出させてしまう。あまりの内容に錯乱したクルツは、すべてを滅ぼす事を決意し、フィアーを福音や島警察にけしかける。圧倒的な性能を持つフィアーに苦戦する一行だったが、アルトマンとクラリオンの連携、そして福音の機転によってフィアーを打ち倒す事に成功するのだった。
第8巻
フィアーが倒されても悪あがきを続けるイアン・クルツだったが、七転福音とクラリオンにあっさり無力化され、ロバート・アルトマンに逮捕される。「B.U.E.R」もクラリオンによって無力化され、一息ついた一行だったが、そこに破壊されたと思ったフィアーが襲いかかる。大破状態のフィアーは敵味方が識別できない状態でクルツを負傷させ、福音とクラリオンにも襲いかかる。最後の脅威を前に、福音とクラリオン、アルトマンは力を合わせ撃退に成功するのだった。福音とクラリオンは島の住人達の笑顔あふれる日常に戻り、二人は自分達のあいだにある絆を再確認する。一方、クルツの背後にいた秘密結社「ポセイドン」は静かに暗躍を始めていた。自らの大願成就のためにB.U.E.Rを求めるポセイドンは、次なる刺客をセナンクル・アイランドへ送り込む。
第9巻
秘密結社「ポセイドン」は「B.U.E.R」を手に入れるため、科学技術部門の大幹部、ラブリュスを送り込む。ラブリュスは騒動の最中に秘かにバニーさん達を捕らえ、自分達の手駒として懐柔するのだった。一方、そんなポセイドンの行動を「P-2501」と呼ばれる存在が観察していた。イアン・クルツの野望を挫いたのが七転福音とクラリオンだと判断したP-2501は、彼女達に接触し、時折助言を与えながら二人の行動を観察する。福音はP-2501との交流の中で自分の持つ適合者の力と向き合い、さらにその力を引き出し、人々を助けていく。しかし、そんな日常を過ごしていたある日、福音の目の前にクラリオンそっくりのアンドロイドが現れ、福音を自分のものにすると宣言するのだった。
第10巻
セナンクル・アイランドで暗躍していたのはポセイドンだけではなかった。クルツコワ達、ソ連の工作員は適合者を手に入れるため光学迷彩を使いセナンクル・アイランドで秘かに行動していたが、慣れぬ最先端装備に悪戦苦闘。適合者を探す前にほとんど自滅してしまうのだった。しかしそこに、ポセイドンの刺客、ケリュケイオンが襲いかかる。ソ連の工作員が自分達の計画に邪魔だと判断したケリュケイオンは、クルツコワ達を一瞬のうちに鎮圧する。さらに、その行動をたまたま目撃していたプロセルピナも手にかけようとしたケリュケイオンだったが、すんでのところでロバート・アルトマンに邪魔されるのだった。ケリュケイオンを撃退したアルトマンは、イアン・クルツの事件はまだ終わっておらず、島に危機が訪れようとしているのを憂う。一方、七転福音とクラリオンは崑崙八仙拓美に誘われたパーティでキース・ブルックリンと出会った。娘であるシリル・ブルックリンと会話できず、悲しみを抱えるキースの願いを叶えるべく、福音とクラリオンは自らの力を使ってキースをシリルと対面させるのだった。
第11巻
遊覧船を楽しみ、帰路に着く七転福音とクラリオンだったが、そこに突如、謎のアンドロイドが襲いかかる。クラリオンそっくりの姿をしたアンドロイドは、クラリオンの同型機であるフォボスだった。起動されず保管されていたものが何者かによって起動され、自分達に差し向けられたと判断したクラリオンは、いつもより感情的になって戦う。互角の性能を持つ二人は激戦を繰り広げるが、大技の撃ち合いをする事で揃って機能を停止。こうして相打ちとなった二人は崑崙八仙拓美に回収され、フォボスは厳重に封印される事となった。フォボスを入念に検査した拓美は、ポセイドンの存在を感じ取って警戒心を強めるが、当のフォボスは拓美のメンテナンスを利用してポセイドンと縁が切れたと、清々した態度を見せる。さらにフォボスの事が気になる福音が仲裁に入る事で、フォボスに関してはしばらく様子見する事が決まるのだった。
第12巻
七転福音に興味を示したフォボスは、クラリオンと共に彼女の日常を観察する。合理的な思考では計れない福音の日常に戸惑うフォボスだったが、福音と交流を深めていく事で少しずつ絆を育んでいく。一方、ロバート・アルトマンに捕まったクルツコワ達、ソ連の工作員は「シシュフォス刑務所」を脱獄するためMr.チキンと手を組んでいた。刑務所から無事に脱獄したMr.チキンとクルツコワ達だったが、そこでMr.チキンはクルツコワの目的が自分達が捕まる原因となった福音である事を知る。義体で苦労した過去を持つMr.チキンはクルツコワのやろうとしている事に反発。福音を守るため、Mr.チキンは警察に通報し、クルツコワと敵対する。Mr.チキンは意外にも手ごわいクルツコワを相手に危機に陥るが、駆けつけたアルトマンに救われ、九死に一生を得る。その後、クルツコワも無力化され、事態は一応の解決を見たと思われたが、そこに突如現れたケリュケイオンに、アルトマンは致命傷を負わされてしまう。
メディアミックス
TVアニメ
Studio五組とAXsiZの共同で製作され、第1話と第2話が2015年12月5日から18日にかけて全国3か所の劇場で先行上映された。その後、2016年1月から3月にかけてTOKYO MX、AT-Xほかで放送された。当時はアニメ終盤の内容が漫画の連載に追いつく内容だったため、六道神士が打ち合わせに参加し、アニメはオリジナル展開を入れつつも大筋で同じ内容になるようにまとめられている。
登場人物・キャラクター
七転 福音 (ななころび ねね)
脳以外の全身を義体化された16歳の赤毛の少女。希少な適合者の素質を持ち、その素質に興味を持った崑崙八仙拓美に引き取られ、セナンクル・アイランドへ引っ越して来た。幼い頃に事故で両親と死別しているが、七転福音自身は「ピュクシス症候群」という難病の治療の一環で電脳化していたのが功を奏して事故で生き残り、その後は義体が完成するまで脳だけの状態で過ごしていた。そのため年齢の割に無邪気で純真無垢な部分があり、福音を騙そうとしているウザル・デリラ自身から警戒心が薄いと苦言を呈されたり、ブエル(セントラルナーバスユニット)のセクハラも疑問も抱かず受け入れたりしている。義体の容姿は本来の顔を成長シミュレートしたもので素顔に近い。かわいい物好きでクラリオンの事は一目で気に入り、ウザルから正式に所有権を移されて以降もつねにいっしょに行動している。ウザルから与えられた「パンドーラ・デバイス」の力は便利だが、人助け以外で使うのには否定的な感情を持っている。「パンドーラ・デバイス」への異様な適応能力、無意識にシステム防御する「天然の防壁」、機械の仲介なしにシステムを直接掌握するなど、福音の事情を知る者は適合者の能力にくくれない別の才能を持つと推測している。
クラリオン
ウザル・デリラに作られた戦闘用アンドロイド。ウザルの趣味で猫耳を付けたメイド服を身につけており、七転福音からもその愛らしい姿を一目で気に入られた。欺瞞行動すら取れるほどの高度な人工知能を備えており、その人間らしさから福音からは自分と同じ全身義体だと思われている。当初はウザルが所有者だったが、地下施設でのいざこざを契機に福音に所有者権限が移された。福音や子供達からは「クラりん」の愛称で呼ばれている。アンドロイドであるため表情は乏しいが感情豊かで、失敗した際には悔しがったり、福音の無茶を心配したりしている。演算能力、戦闘能力は非常に高く、白兵戦から情報戦まであらゆる戦場に臨機応変に対応する。また専用武器として「夜龍」と「灰虎」という名のナイフを持ち、これを使う事でフィアーとも対等に渡り合った。奥の手として「プラズマ・ネコパンチ」という必殺技を持つが、使用すると行動不能になるなど弱点も抱えている。同型の2号機であるフォボスからは「お姉様」と呼ばれ、なにかと張り合う関係となっている。
ウザル・デリラ (うざるでりら)
表向きはレアー財団を運営する、若き実業家で優秀な女性科学者。しかし裏では、国際指名手配犯「サハル・セヘラ」という顔を持つ謎多き人物となっている。クラリオンや「B.U.E.R」を開発するなど科学者として非凡な才能を持ち、七転福音が適合者である事にもすぐ気づいた。B.U.E.Rの暴走を止める事に協力した福音にクラリオンを託し、ウザル・デリラ本人は崩れ去る地下に残って姿を消した。その後は「ウザル・デリラ」も「サハル・セヘラ」も公式には死亡されたとされるが、崑崙八仙拓美は現在の立場が面倒になって死んだフリをしただけだろうと推測している。非常にお茶目な自由人で、部下であるバニーさん達にコスプレさせたり、クラリオンをかわいがったりしている。また自分の事を「美人で聡明」と自称したり、B.U.E.Rのコンソールを自分の石像にしたり、ナルシストな言動が目立つ。幼い頃は「本社」と呼ばれる場所で生活しており、その頃は「386号」と番号で呼ばれていたが、自らの番号をもじって「サハル」と名乗り始めた。拓美とは「本社」の頃からの古い付き合い。
崑崙八仙 拓美 (ころばせ たくみ)
崑崙八仙財団の総帥。七転福音を引き取った遠縁の親戚にあたる。容姿は福音より年下の和服を着た少女だが、実年齢はウザル・デリラに近く、かなりの年上。自らを「タクミン」と呼び、語尾に「だや」と付けて話す特徴的なしゃべり方をする。当初は福音から「おばさま」呼びされていたが、この呼び方を気に入らず「ちゃん」付けで呼ぶように訂正した。対人恐怖症で普段は自宅のずっと奥に作った「セレブラム」で引きこもって生活しているが、好奇心は旺盛でブエル(セントラルナーバスユニット)や適合者の素質を持つ福音には強い興味を示している。しかしそれで一度、福音を怒らせて以降は彼女を恐れており、福音を怒らせないように行動している。電脳化しており、能力はウザルが認めるほどの天才。普段は自宅に引きこもりながら関連会社に指示を出して仕事をしている。その影響力は、セナンクル・アイランドの多くの大企業に浸透している。福音を学校に通うように諭したり、クラリオンに福音といっしょにいるための資格を説いたり、人間的に彼女達を見守っている。ウザルとは「本社」の頃からの古い付き合い。
ブエル(セントラルナーバスユニット) (ぶえる せんとらるなーばすゆにっと)
「B.U.E.R」の暗号化知能(サイファー・インテリジェンス)を搭載した中枢制御ユニットで、魂ともいうべき存在。ライオンのぬいぐるみに山羊の脚を5本くっつけたような姿で、「かわいくないマスコット」と評されている。意志を持った存在で尊大な性格をしており、自らを「魔界の哲学者」と自称する。本体から取り外されて以降はウザル・デリラの伝言でクラリオンが管理を任されているが、ブエル(セントラルナーバスユニット)が無知な七転福音にセクハラを行うため折檻されたり、金庫に放り込まれたりかなりぞんざいに扱われている。その所為で最近は暗くて狭い場所が苦手になりつつある。機械にもかかわらずかなり助平な性格をしており、自分の本体に大量の猥褻画像を保存している。イアン・クルツがブエル(セントラルナーバスユニット)の本体を奪うために暗躍していた際には、福音に事情を伝えて共に地下施設に乗り込んだ。だが実は本体に保存されていた猥褻画像が流出するのを防ぐのが目的で、奮闘空しくクルツによって「フトモモ画像フォルダ」が流出した際には激昂した。ちなみに本体には、フトモモ以外にも大量の画像フォルダが存在する模様。
イアン・クルツ (いあん くるつ)
アメリカ帝軍所属の大佐を務める男性。セナンクル・アイランドの軍事顧問を務め、島議会に圧力を掛けられるほどの影響力を持つ。セナンクル・アイランドで起きたテロリスト事件や通信障害事件、アンドロイド窃盗事件など数々の事件の黒幕で、「B.U.E.R」を手に入れるため暗躍していた。「ポセイドン」に通じており、同組織からさまざまな装備を支給されている。徹底した合理主義者で、自らを天才と自認する。優秀な人物だが、周囲の人間をすべて見下しており、作戦で出た被害も切って捨てる冷酷非情な性格の持ち主。「世界平和」を目的としていると豪語しているが、それも「優秀な自分が管理する」という傲慢なもので、ウザル・デリラからは道化扱いされていた。B.U.E.Rの強奪に失敗したあとは、錯乱してすべてを破壊しようとするが失敗。その後は逮捕されたが、暴走したフィアーに目を潰され、崩れる地下施設に取り残されて死亡した。死後は何者かに改ざんされた動画が出回り、すべての罪が押しつけられ、「フトモモ画像で世界を埋め尽くそうとしたテロリスト」として名を残してしまう。
ブリ○○・○ー○○○
ティターンTVの新人リポーターの女性。報道とアイドル、両方の世界でトップを取り、マスコミ界を征服する野望を抱くバイタリティあふれる人物で、手柄ほしさに突撃取材を行ったり、収録中の番組でアドリブを行っては周囲からひんしゅくを買っている。毎回名乗りの際に邪魔が入るため「ブリ」以降の名前は判明していない。また「純報道アイドル」や「自分を乗り越えて強くなる系アイドル」など、さまざまな肩書きを自称している。島議長のジェイナス・ノースをモデルにしたゆるキャラ「ノース君」の着ぐるみを着た仕事も行っており、行動範囲は広い。そのため、七転福音とクラリオンとは直接出会う事はなくてもニアミスしており、「ノース君」の仕事をきっかけにして福音とクラリオンが秘密を持った存在だと気づき、その姿を追っている。ノリと勢いで行動しているが、それが功を奏してイアン・クルツの事件では核心のかなり近い部分まで踏み込み、ウザル・デリラにも予想外の存在として絶賛された。クルツの事件では地下施設でゲルツェコマと行動を共にし、崑崙八仙拓美ですら予想できない大きな影響を彼等に与えている。
ゲルツェコマ
崑崙八仙拓美が開発および量産した自立型歩脚汎用ロボット。「ゲルコマ」の通称で呼ばれる。卵型のボディに、移動用と作業用の手足をくっつけた非常に簡素なデザインをしているが、これは大量生産を前提としたものであるため。豊富なオプション装備に換装する事で幅広い分野に対応可能で、高性能なロボットとなっている。拓美は自らの最高傑作と謳っているが、基本設計やデザインはウザル・デリラが担当しており、拓美はこの事をとても悔しく思っていた。ウザルがかなりの数を拓美から購入したが、「B.U.E.R」の暴走でほとんど破壊された。現在は1万機以上稼動しており、拓美の開発している「天鳥船(アメノトリフネ)」と呼ばれる存在の要となっている模様。ゲルツェコマは複数存在し、基本的に思考は均一化されるものだが、イアン・クルツの事件以降、ブリ○○・○ー○○と接触した機体を中心に「個性付き」が急速に生まれている。拓美にとってもこれは想定以上の出来事で、イレギュラーとして「ブリ」の情報を消去しようとしたが失敗している。
アンナ
七転福音とクラリオンと公園で出会った老婦人。右手が義体になっており、義体を使うリハビリに苦労していたが、全身義体の福音が「パンドーラ・デバイス」を使って公園でジャグリングをしていた姿を見て励まされた。その後、通信障害で体内の人工臓器が機能不全を起こして命の危機に陥ったが、パンドーラ・デバイスを使った福音によって助けられた。この経験はパンドーラ・デバイスを持てあましていた福音に大きな影響を与え、力を正しい方向に使う事、また、力を使うための正しい知識を学ぶ事の大切さを再確認させ、学校に通う意欲を後押しした。事件のあとも病院内でたびたび福音やクラリオンと交流している。
Mr.チキン
弟の「Mr.フライド」と共に窃盗団「チキン・ブラザーズ」を組んでいたAI泥棒。モヒカンを鶏のトサカのようにした中年の男性で、つねにサングラスをかけている。セナンクル・アイランドで起きていた通信障害を利用して、金持ちのアンドロイドを盗んでいた。相棒のニワトリ型ロボット「コッコちゃん」は、アンドロイドのセンサーを一時的に無力化する能力を持ち、多くのアンドロイドを盗んでいた。七転福音とクラリオンに目をつけ、福音をアンドロイドと勘違いしてさらうが、助けに駆けつけたクラリオンとパンドーラ・デバイスで「人形師」の力を使った福音に捕まった。実は弟が義体を使用しているが、その所為(せい)で謂(いわ)れのない迫害を受け、この経験がアンドロイド窃盗事件の動機になっていた。弟のために自力で義体を作るなど、粗野な見た目に反して義体関連の技術は豊富に持つ。逮捕されたあとはセナンクルにある「シシュフォス刑務所」に収監されていたが、クルツコワと手を組んで脱獄。そこで福音の正体が自分達と似た境遇である事を知り、彼女を守るためクルツコワと敵対した。
フォボス
クラリオンそっくりな、謎の戦闘用アンドロイド。黒い衣装に身を包むクラリオンに対して白い衣装に身を包んでいる以外は、ほとんど同じ容姿をしている。ウザル・デリラが作り出したクラリオンの同型2号機で、型番は「CLARION 00 type-02」。ただしクラリオンいわく、フォボスは個体識別名こそ与えられているが予備義体にしか過ぎず、義体を動かしているAIについては、知っている素振りを見せても知らないと答えている。ウザルの研究所がある地下施設に保管されていたが、ラブリュスによって回収。ポセイドンの次なる刺客としてセナンクル・アイランドに送り込まれたが、独断でクラリオン達の前に姿を現し、捕獲された。ラブリュスの事は「大嫌い」と公言し、捕獲された際に調べられる事を利用して自身をメンテナンスし、自由を手にした。その後は怪しい存在と周囲に疑われつつも七転福音に存在を受け入れられ、行動を共にしている。勝気で合理的な性格をしており、福音に強い興味を示しつつ、クラリオンに強い対抗心を抱いている。専用武器として金糸鋼製の大剣「煤朱雀」を持ち、戦闘能力はクラリオンとほぼ互角。
プロセルピナ・クラフトキエル
ティターンTVのレポーターを務める新人女性。裏表のないまっすぐな性格をしているがんばり屋で、新進気鋭なレポーターとして着実に人気を集めている。その実績が実り、「いけてる新人レポーター総選挙」ではベスト新人レポーター賞を受賞した。七転福音とクラリオンとは、「B.U.E.R」の被害に遭った被災者へのチャリティーイベントで出会い、顔見知りとなった。のちに番組の収録中、ベイサイドロード付近で偶然、クルツコワ達が起こしていた「お化け騒動」に巻き込まれてしまう。その際にケリュケイオンに襲われたところをロバート・アルトマンに助けられたのをきっかけにして、彼を急速に意識している。その後、プロセルピナ・クラフトキエルの方から熱烈なアプローチをしてロバートと付き合い始めた。
ラブリュス
秘密結社「ポセイドン」の科学技術部門の大幹部の女性。褐色肌で顔に傷跡があり、イアン・クルツ亡きあと、「B.U.E.R」の回収を任されている。非常に優れた知識を持つ科学者で、フィアーは彼女が開発した機体。フィアーの後継機ともいえるケリュケイオンとアイギスを従え、セナンクル・アイランドで暗躍している。ウザル・デリラとは旧知の仲で、彼女の事になると冷静さを失うほど強く意識している。
割髪 伊豆子 (わがみ いずこ)
七転福音が学校の課題で運動していた際に出会った日本人の女性。左腕と両脚が義体となっており、義体リレーの選手として活躍している。セナンクル・アイランドには、義体を前提としたオリンピック「サイバスロン」に出場するため訪れていた。義体に複雑な動きをさせるための「挙動設定(プリセットプログラム)」について詳しく、福音にも挙動設定についてアドバイスした。生身の部分が義体の部分の足を引っ張っていたり、支援チームの中で走る事以外させてもらえず疎外感を感じたり、悩みを抱えていたが、屈託のない福音とクラリオンの姿を見て励まされた。のちに福音が適合者である事を知り、彼女の言葉をかみ締めて大会に臨み、世界三大大会制覇という快挙を成し遂げた。
P-2501 (ぴーにーごーぜろいち)
秘密結社「ポセイドン」を観測する謎の存在。イアン・クルツの事件以降、七転福音とクラリオンに興味を示し、彼女達の情報を観測するようになった。少女とも少年とも取れる中性的な姿をしており、彼女達にだけ見える立体映像として二人の前に姿を現した。プログラムであるため性格は存在しないが、福音に合わせて陽気でハイテンションな口調で話し掛けた。当初は個性や性格というものは存在しなかったが、福音に「ニコちゃん」と愛称を付けられ、交流を重ねていくうちに自我を形成していく。情報を収集する事で「ポイント」が貯まるらしく、これを効率的に稼ぐために「個性」といった人間の学習が必要だと判断を下すが、上位存在である「デール姉妹」にエラーと診断されてしまう。その後は、矛盾した状況を解消するためP-2501自身の変化(アップデート)を行い、人格や個性をコピーした分身をいくつか作り出した。
シリル・ブルックリン
キース・ブルックリンとクラウディア・ブルックリンのあいだに生まれた娘。正常に出産されず、脳だけの状態となっており、現在は脳の大部分を特殊なマイクロマシン(試作型補助脳)に置換された状態で、ブルックリン邸地下にある未完成状態の「クレイドル」に保管されている。正常に成長していれば6歳くらいの年齢で、キースは反応のない我が子に向かって、絵本の読み聞かせをするのを日課としていた。キースはシリルが既に死んでいると思い始めていたが、実は生身の人間では知覚できない領域からずっと父親に呼び掛けていた。その声に気づいた七転福音が、クラリオンと協力して「クレイドル」を完成した事で無事に両親と出会う事ができた。「シリル」の名前はキースが慌てて付けた「男の子の名前」だが、シリル・ブルックリン本人は気に入っている様子。
ジェイナス・ノース
セナンクル・アイランド議会の議長を務める中年の男性。褐色肌に眼鏡をかけている。私服を肥やしていると黒い噂が耐えないが、多数の国を相手に立ち回り、セナンクル・アイランドの自治権を守る手腕を持つ優秀な人物。基本的には市民の事を第一に考える善人である。百貨店の火災でも自分達が避難したあと、現場に残った七転福音とクラリオンの事を心配していた。イアン・クルツには圧力をかけられて唯々諾々と従っていたが、ロバート・アルトマンが彼を捕らえるため「セナンクル警察(CPD)」を結成する際には、彼が持って来た自らの汚職データと引き換えに承認した。また、セナンクル・アイランドには彼をモデルにしたゆるキャラ「ノース君」が存在する。
ロバート・アルトマン
セナンクル防衛軍で働く中年の男性。階級は大尉。爽やかな性格の快男児で、困っている人を見かけたら手助けをせずにはいられない性分をしている。人助けをしている事を言及されると、笑いながら「性分でね」と返すのが癖。政治的な判断能力を持つ優秀な人物で、部下達からも慕われており、セナンクル・アイランドで起きたイアン・クルツの事件にもいち早く気づいていた。政治的な理由からクルツに手を出せずにいた事を苦慮していたが、ウザル・デリラからのメッセージを受け取って奮起。ジェイナス・ノースと交渉して「セナンクル警察(CPD)」の結成を主導し、警察としてクルツの逮捕に動いた。地下施設の戦いではクラリオンと共にフィアーと対決。七転福音の支援を受けながら、「カラテ流ジュー・ジツ」という格闘術を使ってフィアーとも互角に戦った。事件の裏で暗躍していたポセイドンの存在に気づいており、島の平和を守るため彼等に備えをしている。クルツコワ達、ソ連工作員の起こした事件以降、事件をきっかけとしてなかよくなったプロセルピナ・クラフトキエルと交際を始めている。
バニーさん
ウザル・デリラの部下をしていた女性。本名は不明。ウザルの趣味によってバニーガールの姿をしており、七転福音からは「バニーさん」と呼ばれている。ウザルによってバニーガールの姿をしない限り日常生活すらできない状況に追い込まれ、あまりの過酷な扱いに反発。同じ境遇の仲間達と共に、イアン・クルツと取引し、ウザルのいないあいだに「B.U.E.R」を勝手に起動してクルツに売り払おうとするものの暴走させてしまう。そのため、ウザルにその事がバレたあとはB.U.E.Rの暴走を鎮めるため、生身で囮役などをさせられた挙句、事件の首謀者に仕立て上げられて捕まった。その後はクルツとの取引で一時的に脱走し、本物のB.U.E.Rの起動キーを回収するため福音に接触した。ウザルのもとにいたためロボットを自作できるレベルの知識や技術はあるが、ハッキング対策に特定の方法でしか命令できないロボットを作り、自分も命令できなくなるなど詰めが甘い部分も多い。クルツには用済みになったあとは処理場に送り込まれるが、福音と共に脱出した。その後は学習してまっとうな生活をしようとするが、ラブリュスに懐柔されてしまう。
十々 八百喜 (とと やおき)
オクタクタ義体総合病院で義体専門の医者を務める男性。穏やかな風貌をした青年で、七転福音の主治医でもある。崑崙八仙拓美の指示を直接聞ける立場にあるため、福音に「パンドーラ・デバイス」を使うためのブラックボックスが多数追加されても深入りしない、物分りのいい性格をしている。義体関連の技術に関してはかなり優秀な医師で、大企業であるメガテク社の大型プロジェクトにもチームの一員として招集された。
イゴール
ソ連の工作員を務める髭面の大男。クルツコワ達と共に適合者を狙ってセナンクル・アイランドに侵入した。ケリュケイオンと遭遇した際に、真っ先に胸を刺し貫かれ、クルツコワにすら死んだと思われていたが、実は死んだフリをしてやり過ごしていた。その後、警察に逮捕され「シシュフォス刑務所」に収監されていたが、監獄生活が余りに快適だったためうっかり任務の事を忘れていた。Mr.チキンの協力を取り付け、クルツコワといっしょに脱獄したが、再びケリュケイオンと出会った事で心が折れ、クルツコワといっしょに故郷に逃げ帰った。
クルツコワ
ソ連の工作員を務める小柄な女性。イゴール達と共に適合者を狙ってセナンクル・アイランドに侵入した。最先端の装備である「光学迷彩麻酔銃」「光学迷彩工作服」「光学迷彩ずた袋」を装備し、誰にも気づかれず島に忍び込んだが、光学迷彩の所為で自分達も味方や装備の所在を見失ったり、光学迷彩を付けたまま物資の補給に行って「お化け騒動」を引き起こしたりと、間の抜けた行動を繰り返していた。しかしケリュケイオンと遭遇し、ラブリュスの計画を邪魔する存在として半死半生のケガを負わされた。その後、現場に駆けつけたロバート・アルトマンに逮捕された事で九死に一生を得、「シシュフォス刑務所」に収監されていた。監獄生活が余りに快適だったためうっかり任務の事を忘れていたが、仲間であるイゴールの連絡を受け、Mr.チキン達と共に脱獄した。右手の義体は戦闘用であるため一般人より強いが、ケリュケイオンやアルトマンには通じない。脱獄後、再びケリュケイオンに出会った事で心が折れ、イゴールと共に故郷に逃げ帰った。
ケリュケイオン
ラブリュスの開発した戦闘用アンドロイド。ドクロの仮面に黒ずくめと死神のような姿をしている。フィアーの後継機ともいうべき存在で、装備も熱光学迷彩と金糸鋼の爪と、ほぼ同じ。ただフィアーに比べて、人工知能が自己判断や会話を可能とするほど高度なものとなっている。ラブリュスに忠誠を尽くしており、セナンクル・アイランドに侵入して主人の計画の邪魔となるクルツコワ達、他国の工作員を排除していた。しかしその最中、ロバート・アルトマンに妨害されてしまう。アルトマンの捨て身の攻撃でマスクを破壊された事を「屈辱」と感じ、以降、アルトマンを主人の「脅威」と判断し、彼に対して強烈な殺意と執着を向けるようになった。
キース・ブルックリン
ブルックリン財団の総帥を務める男性。上品な老紳士だが、軍需産業の総帥という立場から黒い噂の絶えない人物で、社交界でも死の商人として色眼鏡で見られている。崑崙八仙拓美を介して七転福音やクラリオンと出会い、彼女達を自らの館に招いた。実は元生命工学系の科学者で、未成熟な状態で生まれ、脳以外の部分が失われた娘のシリル・ブルックリンを救うために行動しており、電脳化した娘と偽装空間(テラリウム)で出会うため「クレイドル」の完成を目指していた。しかしシリルが、実は死んでいるのではないかと考え、研究に挫折する寸前だった。シリルの存在に気づいた福音がクラリオンと力を合わせる事で「クレイドル」が完成し、シリルと再会を果たした。その後は妻共々憑き物が落ちたかのような穏やかな表情となり、生物学的肉体保存の分野で多大な貢献を果たすクレイドル完成の功績から「クレイドルの父」と呼ばれるようになった。実はウザル・デリラからさまざまな指示を受けており、クレイドル完成後は恩人である福音を守るためウザルの指示に従って行動している。
エイミー・ギリアム
七転福音が病院で出会った幼い少女。明るく活発な性格をしており、待合室でよくいっしょになる福音とはゲーム仲間となっている。義足を使っており、十々八百喜に懐いている。幼いため全身義体とロボットの区別がついておらず、福音の事をロボットだと思っていた。
フィアー
イアン・クルツに付き従う戦闘用アンドロイド。コートを着てサングラスをかけた大男だが、素の姿は各部にコードやセンサーが露出したメカニックな姿をしている。名前の由来は恐怖を意味する「fear」。コートは熱光学迷彩装置を搭載しており、これで姿を隠す事も可能。またコートはリミッターも兼ねており、破壊されるとその圧倒的な戦闘能力を発揮する。クラリオンと互角以上に戦う基本性能に、伸縮自在の腕と金糸鋼の爪を装備し、多脚戦車ですら一瞬で破壊する戦闘能力を誇る。ハッキング対策に「完全独立状態(スタンドアローンモード)」も搭載しているが、これを一度起動すると敵対存在を倒すまで解除できないという欠点も存在する。地下施設の戦いでクラリオン、ロバート・アルトマンの二人を相手に互角に戦ったが、七転福音の機転の前に敗北。その後は大破状態で暴走し、守るべきクルツに負傷を与えながら暴れ回ったが、最終的にクラリオンの「プラズマ・ネコパンチ」で完全に破壊された。実はラブリュスに作られた試作機で、フィアーで培われた技術はのちにケリュケイオンやアイギスを作る際に活用されている。
クラウディア・ブルックリン
キース・ブルックリンの妻。若干疲れの見える妙齢の女性科学者で、夫の会社の仮象感覚部門で働いている。偽装空間(テラリウム)でも感じられる感覚のデータ「仮象」のうち、味覚関係の研究をしており、七転福音とクラリオンが遊びに来た際には、「生身の人間」ではない福音やクラリオンでも「甘い」と感じられるケーキのデータを出して感動された。娘がいるかのように振る舞っているが、実は娘であるシリル・ブルックリンは脳だけの状態で生まれてしまったため、心を病んでしまっている。娘が偽装空間内で楽しめるように、味覚や嗅覚に関する研究を続けていたが、最近は娘の生に確信が持てず疲弊していた。福音によって「クレイドル」が完成し、シリルと触れ合う事ができて以降は晴れやかな表情となり、たびたび遊びに来ている福音やクラリオンにケーキを振る舞っている。
集団・組織
ポセイドン
世界の裏で暗躍する秘密結社。三叉の槍の紋章を象徴として掲げており、「世界平和」と「人類救済」を目的とした「アポルシード計画」を遂行している。幹部級以上の構成員は三角頭頭巾をかぶっているため素顔は不明。「商売繁盛部門」や「科学技術部門」といった幾つかの部門が協力し合って成り立っている。その正体は大日本技研と呼ばれる企業を中心にして生まれた多国籍国家。複数の企業活動によってその活動は偽装されており、外部から全貌を摑む事は困難となっている。世界の最先端のさらに先を行く科学力と、司法にすら介入する強い影響力を持ち、将来的には世界征服すら視野に入れている。「アポルシード計画のために」が組織の合言葉だが、実際に計画の全貌を知っているのは一握りのみ。ただその計画遂行に「B.U.E.R」の存在が重要な役割を果たすとされ、目下のところ、B.U.E.R入手が最重要の任務となっている。
場所
セナンクル・アイランド (せなんくるあいらんど)
最新設計の技術都市と、最高級のリゾート地が一か所に同居する人工島。現在の世界情勢の中では世界でもっとも平和な島といわれており、各界の著名人や有力者の別荘地として人気を集めている。海底火山の活動により急激に発達した火山島で、三日月のような形をした大きなメインクレーターに、小さなサブクレーターが5つくっついた独特な形をしている。近年生まれたばかりの島であるため植生や河川は発達しておらず、それらはすべて人工の物で賄っている。特に淡水は日常生活でなくてはならないが、現在のセナンクル・アイランドでは自給できないため、専用の大型淡水化プラントを作り、そこから賄っている。自治権を持ち、政治は島の議会で行われている。現島議長はジェイナス・ノースが務めており、複数の国家と安全保障条約を結び、大国の利権を利用して自治権を守っている。治安維持はセナンクル防衛軍が担っていたが、イアン・クルツの事件を契機に一部が独立。ロバート・アルトマンを中心に「セナンクル警察(CPD)」を結成した。
その他キーワード
パンドーラ・デバイス (ぱんどーらでばいす)
ウザル・デリラが開発し、クラリオンに搭載した追加型技能別義体制御アプリケーション。本来は人型ロボット用の動作補助を目的としたソフトで、銃の達人や凄腕料理人などが持つ特殊技能を用途に合わせて使用する事を可能とする。ただし開発方法が国際法に触れたためお蔵入りになり、外部への情報漏洩対策のため使用には制限時間が設けられている。当初はクラリオンが使用していたが、クラリオンが損傷したので、それを補佐するため七転福音に権限を委譲。福音の指先にある旧型の「F端子」をクラリオンの下腹部にある接続端子にくっつける事で発動させる事ができる。福音の義体にはウザルによってパンドーラ・デバイス用のモジュールが追加され、さらにウザルの趣味でパンドーラ・デバイス使用時には光学迷彩を応用した「魔法少女」的な変身が行われる。この変身には福音達の正体を誤魔化す役割も存在し、顔見知りでも変身中は見分けがつかない模様。本来は「生身の人間」には使用できないが、福音は異様な適応能力でパンドーラ・デバイスに適応している。
B.U.E.R
ウザル・デリラが稀少金属を掘削するという名目で作り出した巨大機械。正式名称は「Base of Unearth Extra RESOURCES」で、頭文字をとって「B.U.E.R」となっている。ウザルは「掘削機(ボーリングマシン)」と言い張るが、実は実用化された荷電粒子砲を搭載した兵器。巨大な球体に一つ目が付いた奇怪な姿をしており、体を変形する事で砲を露出し、荷電粒子砲を撃つ事ができる。荷電粒子砲を撃ったあとは180秒の冷却期間を必要とするが、周囲は高熱になるため生身の人間は近づく事も不可能。また荷電粒子砲の威力は圧倒で、都市を一瞬で壊滅させる威力がある。条約で「核兵器」や「BC兵器」が禁止された現代では、条約に反せず軍事的優位を取れる兵器としてイアン・クルツが手に入れようと躍起になっていたが、誤った起動方法を行ったため暴走状態に陥ってしまった。その後、七転福音達によってブエル(セントラルナーバスユニット)が切り離された事によって暴走は鎮められ、ウザルによって証拠隠滅のため海底に沈められた。ポセイドンにとっても自分達の悲願を達成する鍵として狙われている。
適合者 (あでぷた)
世界でも数名しか報告されていない特異な才能を持つ者達を指す言葉。現在ではまだ技術的に未熟とされる義体を生身の人間の体以上に自在に動かす才能を持つ人物を指し、全員が10代以下の年若い存在である事以外は情報がまったく公表されていない。七転福音はそんな稀少な才能を持つ人間の一人で、「機械に愛された存在」ともいわれる。「適合者」の名の由来は「達人(アデプト)」と「接合器(アダプター)」を組み合わせた造語となっている。
モンバス
20年前に流行ったレトロゲーム。現在のゲームは脳で直感操作(ダイレクトリンク)型のゲームが主流となっているため珍しい存在となっているが、七転福音は全身義体のリハビリの一環として始め5000時間以上やるほどはまり込んでいる。ウザル・デリラもこのゲームにはまっていた時期があり、福音がモンバスをやっているのに興味を示して出会った。福音はセナンクル・アイランドでの暮らしを始めて以降もモンバスを遊んでおり、クラリオン、エイミー・ギリアム、フォボス、島の子供達と着々とゲーム仲間を増やしている。
クレイドル
キース・ブルックリンが開発していた装置。未完成なためシリル・ブルックリンの生命維持のために稼動していたが、本来は偽装空間(テラリウム)内で長期間過ごす際に肉体を守る「託体(たくたい)」を目的とした装置だった。キースの事情を知った七転福音とクラリオンが二人がかりでクレイドルのシステムを書き換える事で完成している。完成後は、キースの手によって普及し、医療や託体の分野で多大な貢献を果たし、文字通り生命を守る「ゆりかご」となった。またクレイドルはポセイドンにとっても重要な存在らしく、開発段階でキースに資金や技術の援助でかかわっており、クレイドル完成後、ポセイドンは完成品をもとに小型化したものを量産している。
プラズマ・ネコパンチ
クラリオンの必殺技。義体の全リミッターを解除し、筋肉や関節の摩擦によって体内で生じた静電気を左手に集中・圧縮し、それを放出して敵にぶつける技。圧縮された静電気はフィアーを跡形もなく消し飛ばす威力を持つが、撃つためには3分間のチャージが必要。撃つとクラリオンにも負担が大きく、冷却しなければなないので一定時間活動できなくなるなど威力に応じた欠点も存在する。フォボスもクラリオンの同型であるため、「プラズマ・ネコパンチ」は使用可能だが、フォボスの場合は右手で撃ち出す。
義体 (ぎたい)
義手や義足のように、広い意味で人工の身体部位の呼称。手足を失った人の代替品として期待されているが、現在はまだ技術的に未熟な部分が目立つ。特に「脳と義体の情報を翻訳するソフト」である義体専用のOSは未完成状態であるため、一般人では満足に動かす事すら不可能となっている。そのため予め複雑な動作を登録し、ショートカットから行う「挙動設定(プリセットプログラム)」を作り、足りない部分を補っている。ハード面はコスト的にも性能的にも課題が多く、付けると痛みを伴ったり、使用者に負担を与える粗悪品も出回っている。また一部の市民は義体を使っている人をロボットとして差別するなど、新技術であるがゆえの偏見も存在している。そのため市民に義体を受け入れやすくするため、政府は義体に人命救助用のAEDの搭載を義務付けるなどして、市民が受け入れやすい環境づくりを行っている。
金糸鋼 (きんしこう)
衛星軌道上で精製された新素材。硬くしなやかな特性を持ち、鋼鉄に近しい見た目をしているが、これで作られた刃物は戦車の重装甲すら切り裂く鋭い切れ味を見せる。フィアーの爪やクラリオンの「夜龍」と「灰虎」、フォボスの「煤朱雀」はこの金糸鋼で製造されている。
クレジット
- 原案
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書誌情報
紅殻のパンドラ 全26巻 KADOKAWA〈角川コミックス・エース〉
第1巻
(2013-03-07発行、 978-4041206454)
第2巻
(2013-08-08発行、 978-4041208496)
第3巻
(2014-01-10発行、 978-4041209882)
第4巻
(2014-06-26発行、 978-4041016824)
第5巻
(2014-12-26発行、 978-4041016831)
第6巻
(2015-06-26発行、 978-4041030813)
第7巻
(2015-12-26発行、 978-4041037812)
第8巻
(2016-03-26発行、 978-4041039861)
第9巻
(2016-10-26発行、 978-4041048689)
第10巻
(2017-03-25発行、 978-4041054420)
第11巻
(2017-09-08発行、 978-4041060797)
第12巻
(2018-03-10発行、 978-4041065372)
第13巻
(2018-07-10発行、 978-4041071434)
第14巻
(2018-11-10発行、 978-4041076002)
第16巻
(2019-09-10発行、 978-4041086759)
第17巻
(2020-02-10発行、 978-4041090312)
第18巻
(2020-07-10発行、 978-4041097250)
第19巻
(2020-11-10発行、 978-4041108079)
第20巻
(2021-03-10発行、 978-4041111840)
第23巻
(2022-07-08発行、 978-4041128459)
第24巻
(2023-02-10発行、 978-4041128466)
第25巻
(2023-09-08発行、 978-4041141632)
第26巻
(2024-11-09発行、 978-4041152027)