聖女の揺籃、毒女の柩

聖女の揺籃、毒女の柩

「常世島(とこよじま)」と呼ばれる小さな孤島にある養護園「エリュシオン」に預けられたジューゴが、隔離された絶望的な状況でシスター・コレーに抗(あらが)う姿を描いたホラーサスペンス。スクウェア・エニックス「ガンガンJOKER」2018年11月号から掲載の作品。

正式名称
聖女の揺籃、毒女の柩
ふりがな
せいじょのゆりかご どくじょのひつぎ
作者
ジャンル
サスペンス
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あらすじ

いいこの作り方

両親を幼くして亡くし、幼少期から二人きりで身を寄せ合って生きてきたジューゴシローは、小さな孤島「常世島」にある養護施設「エリュシオン」に、二人いっしょに引き取られることになった。ジューゴたちを引き取ってくれたのは、園児たちから慕われているシスター・コレーだった。入所した初日、エリュシオンにやって来たジューゴとシローは、優しく美しいコレーのもとで、同じ境遇の園児たちと始められる幸せな新生活に期待をふくらませていた。だが、その夜の食事の時間、ジューゴとシローに予想外の出来事が起こる。苦手なトマトを食べられなかったシローはコレーによって「わるいこ」と決めつけられ、ほかの園児たちに拘束されたシローはかつてない屈辱と苦痛を受け、それを目の当たりにしたジューゴも強いショックを受ける。楽園の名を持つエリュシオンでは、以前からコレーの歪(いびつ)な愛情により、園児たちが支配されていたのだ。ショックですっかりふさぎ込むシローを励ましながらもジューゴは、この地獄のような場所から脱出できないかと考えていると、外に咲いているザクロの花に気づく。ミトが庭園でザクロを収穫していると聞いたジューゴは、彼女の言葉に疑問を持ち、外でアリにたかられている人間の指らしき物を発見する。ミトたちが誰かの死体を庭園に埋めていた可能性を感じたジューゴは、庭を掘り返そうとしているとコレーに発見され、彼女の部屋に招かれる。ジューゴはコレーに対して警戒心をあらわにするが、彼女は彼を恫喝(どうかつ)するでもなく、外の遺体は最近「おわかれ」をした園児だと語る。このエリュシオンでは、彼女の言うことを聞けなかった「わるいこ」は命を奪われ、ほかの園児たちによって庭に埋められてしまうという残酷な刑が執行されていた。エリュシオンの実態と残酷な真実を知ったジューゴは、楽園と称されるこの美しい施設で新たな人生を歩めると喜んでいたことを後悔し、コレーの狂気と愛に満ちあふれた地獄からシローと共に今すぐ脱出したいと考えるようになる。しかし、絶海の孤島から逃げる手段はなく、ジューゴは1週間に1便しかない定期船を待つことに決めるが、次の日の朝には新たな地獄が始まってしまう。

脱走の代償

絶海の孤島「常世島」に築かれた養護園「エリュシオン」は、ギリシャ語で「楽園」という意味だが、実態は地獄のような環境の偽りの、楽園だった。エリュシオンではシスター・コレーから「いいこ」になるためにさまざまな刑罰が行われており、時には命を奪われた園児の亡骸が、彼女たちが栽培するザクロの木の下に葬られていた。さらに入所した園児たちには「いいこ」の序列が付けられており、残酷な環境の中で園児たちは、コレーに心酔して順応しようとする者や利用する者、ひそかに彼女に反抗する者に分かれていた。異常な状況に飲み込まれそうになってはコレーの支配に抵抗し続けるジューゴは、この地獄から脱出しようと、シローには内緒でひそかに機会をうかがっていたが、そんな彼にチャンスが訪れる。それは、体は弱いが妹に会いたいと強く願うケインの提案した脱走計画だった。ジューゴは藁(わら)にもすがる思いでケインの計画に従い、食料や生活用品が常世島に届けられる定期船の荷受係を引き受け、段ボール箱に入ってひそかに船で脱出しようとする。当日、ジューゴはシローを必死に説得して段ボール箱に入り込むことに成功するが、気づいた時にはシローと共にエリュシオンに戻っていた。実は密告魔のユージンがコレーたちに告げ口をしており、ジューゴたちの脱走計画は筒抜けになっていたのだ。だが、ケインだけは脱走に成功していたことが判明し、脱走者が出たと知ったコレーは神聖なエリュシオンから脱走者を出してしまった連帯責任として、園児たち全員に罰を与える。結局は脱走できなかったケインもエリュシオンに連れ戻されてしまうが、悲劇はそれだけでは終わらず、コレーの提案で「剪定(せんてい)会」が始まる。それは今回の脱走を計画したジューゴとケインのどちらが「わるいこ」なのかを園児たちの投票で決め、投票数の多かった者が「忌み枝」として始末されてしまうという恐ろしいものだった。園内序列トップのニコの提案により、今回の剪定会はさらに残酷な投票方法となり、そのままケインの死が確定してしまう。

シスターのいない日

養護園「エリュシオン」では、「わるいこ」と決められた者には罰が与えられ、時には剪定されて命が奪われていた。地獄のようなエリュシオンでの生活の元凶であるシスター・コレーの誘惑に、表向きは従いながらも抗うことを決意したジューゴは、「いいこ」の序列が上位になったシローとは決別同然の状態になりながらも、新たな協力者のククリと共にさまざまな計画を実行に移していた。そんな中、コレーからご褒美として園児たちに与えられていたザクロアメが、園児の体と心をひそかに蝕んでいた。危険だと知りながらもコレーの甘美な愛情を断ち切れぬ者を利用しながら暗躍する陰の支配者、ニコ、コレーに心酔しながらもその高潔な理想に疑問を持ち始めたミト、そんな園児たちの思惑と狂気が絡み合いながら、偽りの楽園はさらなる混沌へ向かい始める。ある出来事をきっかけにコレーの愛情に複雑な感情を抱くようになったミトだったが、コレーからザクロアメが入った瓶の管理を任されている。その日はコレーが1日だけ常世島から離れる日で脱出の大きなチャンスだったが、留守を任されたニコとミトをはじめとする園児たちの監視下では、脱出は難しい状況だった。コレーの留守中、以前ケインが忠告していたザクロアメのことが気になったジューゴは、ククリから詳細な成分はわからないもののドラッグに近い依存性と危険性があり、食べ過ぎると何が起こるかすらわからない危険な毒物だと教えられる。そんな中、女子たちが暮らす大部屋で久々にガールズトークをしていたミトは、自室のベッドの下に保管していたザクロアメの瓶が一つだけなくなっていることに気づく。焦ったミトは瓶を盗んだ犯人をジューゴと疑うが、実際に盗んでいたのは以前からニコに思いを寄せていたあゆで、彼女は盗んだザクロアメのオーバードーズにより幻覚を見て発作を起こしていた。廊下で死にかけているあゆを発見したなつめは、ジューゴとククリにあゆを救うよう懇願するが、最悪のタイミングでニコがやって来る。

神へ至る道

危険なザクロアメの解毒剤を手に入れるべく、ククリの協力を得てニコイチカの部屋に侵入したジューゴだったが、そこでいくつか衝撃の事実が判明する。危険な予感から改めて部屋を調べようとしたジューゴは、ニコがシスター・コレーの殺害を目論んでいることを知る。生き残るべきはただ一人、偽りの楽園に支配者は二人もいらないと考えるニコは、自らの16歳の誕生日が近づく中でイチカと協力してコレーを殺害し、自分こそが養護園「エリュシオン」の新たな支配者になろうと以前から計画を練っていたのだ。一方、部屋で発見した1枚の写真からイチカとコレーが血縁者であると推測したジューゴは、ニコと組んで実の姉を殺害しようとしているイチカを説得し、ニコの参加を止めようとする。しかし、ある事情でコレーを憎んでいるイチカはジューゴの言葉に応じることなく、計画の実行日に混乱に乗じて島から脱出すればいいと提案する。イチカを心配しながらも、ククリと新たな脱走計画を練ることにしたジューゴは、船着き場近くの倉庫で三人乗りのゴムボートを発見し、ニコたちがコレーを殺そうとしているあいだに、シローと三人で常世島から脱出しようとする。だがその裏では、コレーを殺して楽園を支配するためにすべての罪をジューゴに擦り付けようと、ニコとある人物が暗躍を始めていた。そして迎えたニコの16歳の誕生日、食堂で誕生日会を終えたあとにニコはコレーに呼び出される。コレーがニコのために用意したと嬉しそうに語る最高のプレゼントは、全裸で縛られてベッドに寝かされているミトだった。しかしミトに動じることなく、予定どおりイチカと共に殺害計画を実行しようとするニコは、コレーを手錠で拘束してその片脚に刃を向ける。一方、予定どおりゴムボートで島から脱出しようとするジューゴだったが、何者かの手によってゴムボートがボロボロに引き裂かれたうえに、背後から攻撃されてククリとの合流も阻まれてしまう。ジューゴが船を用意しているあいだに園でシローを迎えに行こうとしたククリも、シローを見つけ出すことができず、さらには誤解したサイトに攻撃されて大きな足止めを食らっていた。

登場人物・キャラクター

ジューゴ

両親を早くに亡くし、弟のシローと共に養護園「エリュシオン」へ入所することになった少年。年齢は14歳。がさつで女性に対してデリカシーのない発言も目立つが、つねにシローを気遣う優しい性格の持ち主。幼少期に母親が病死し、酒に溺れて虐待に走るようになった父親からシローを守っていた。のちに父親も他界し、シローとは別々の施設に預けられる予定だったが、いっしょにエリュシオンに引き取られることが決まる。ふだんは能天気に見えるが、何かと周囲に気を配っており、どんな時でもシローを守るために奔走している。当初は美しいシスター・コレーに見とれ、理想の新生活が始まることを喜んでいたが、入所当日の夜にエリュシオンの実態と彼女の本性を知り、反抗的な態度を取りながら脱走計画を練り始める。一度はケインと協力して脱走を実行したが、実はケインに利用されていただけで、ユージンの密告もあって失敗に終わり、シローやケインもろとも園に連れ戻されてしまう。目の前で死亡したケインの遺体処理を命じられ、数々の惨劇を目の当たりにすることとなる。その後は表面上はコレーたちに従いながら、いずれはシローを連れて常世島から脱出することを目指している。そのため、協力者のククリと行動することが増え、古参入所者の中でもっともコレーを憎む彼女から数々の情報を得ながら、脱走計画を立案している。そんな中、園児たちの中の序列が4位になったシローとはほとんど話さなくなり、仕方なく距離を置いている。過去に父親の暴力からシローを守って過ごしてきたため、非常に我慢強い。だが、他人相手にも非情になり切れず、お人好しな一面もある。推理物と冒険物の本が好きで、いつかシローと旅行をするのを夢見ている。好きなものはさきイカと、ピーナッツ多めの柿ピー。誕生日は4月15日で、血液型はO型。身長は162センチ。

シロー

両親を早くに亡くし、兄のジューゴと共に養護園「エリュシオン」へ入所することになった少年。年齢は10歳。小柄な体型で気弱な性格ながら、ガサツでデリカシーのないジューゴとは対照的に、つねに気配りができるしっかり者。物心ついた頃に母親を失ってからは父子家庭で育ち、母親に代わって家事や料理をこなしていたため女子力が高く、酒に溺れる父親が亡くなってからもジューゴと共に支え合って生きていた。シローの出生が妻の死に直結したと考える父親に虐待を受けていたトラウマから、大きな物音や怒鳴り声に怯(おび)えるなど、怖がりで繊細な一面を持つ。愛称は「シロ」。虫も殺せないほどに心優しい性格で、ジューゴを慕うと共につねに彼の力になりたいと思っている。トマトが大の苦手で、一口でも食べると吐いてしまうため、ふだんはジューゴが代わりに食べている。入所してすぐにトマトを残していたことでシスター・コレーからの罰を受け、彼女の歪(ゆが)んだ愛情に困惑しながらも、父親の虐待を受けていた過去や母親の愛情に飢えていたことから、彼女の歪んだ愛を受け入れてしまう。その後も歪んだ愛情で接してくるコレーに逆らうことができず、エリュシオンの環境に取り込まれていく。やがて園内序列が上がったことでジューゴとは距離が生じ、彼が独房から出て来た頃には苦手だったトマトも克服し、部屋も別々になったために徐々に疎遠になっていく。ジューゴがケインと共に脱走計画を実行した際に、コレーが殺人にまで手を染めていることを知るが信じられず、脱走することを拒絶した。引き入れられた脱走計画が結局は失敗に終わり、再びエリュシオンに戻った際には剪定会に参加することになり、洗脳同然のコレーの指示を受けて初めて他人に刃を向けた。ケインの死後はますます序列が上がってジューゴとの距離が広がり、会話すらほとんどしなくなった。他人を放っておけない優しさを持つ反面、気持ちが他人に引きずられやすい。好きな家事は掃除と洗濯で、カビ取り作業なら延々とこなす。誕生日は4月4日で、血液型はA型。身長は140センチ。

シスター・コレー

孤島にある養護園「エリュシオン」のシスターの女性。本名は不明。真っ白な修道服をまとい、口元にホクロがある。優しく慈悲深い巨乳美女で、母性にあふれている。本当の母親のような優しさで園児たちに慕われ、愛されている。園児たちを褒める時の口癖は「花マルです」。聖母のように美しいシスターの皮をかぶっているが、その愛情は非常に歪んでおり自分基準の「いいこ」になるためと称して、さまざまな形で園児たちを支配している。そのため時に罰を与え、逆らったり問題を起こした園児の命を奪うことも厭(いと)わない。ただしシスター・コレー自身は直接手を下すことはなく、殺害や遺体の解体、埋葬作業の大半を園児たちにやらせることで、見せしめ同然の恐怖を与えている。また、自分の命令に対して従順な園児を優遇し、反抗的な者は冷遇するために園児たちに園内序列を定めており、日々の園児たちの素行に応じて序列を入れ替えている。当初はジューゴとシローからも好印象を抱かれていたが、彼らの入所初日の夜に本性を表わすようになり、ジューゴには早くもその素性を知られていた。しかし、ジューゴの口封じをするわけでもなく、あくまでほかの園児たちと共に恐怖を与えて支配し、逆らうジューゴに次々と罠(わな)を仕掛ける。その一方で、母親の愛情に飢えていたために従順になったシローを優遇し、彼の園内序列をどんどん上げていく。園内から脱走者が出た時などは必要に応じて、連帯責任を押し付けて全員に罰を与えており、重大な問題が生じた際は園児たちの投票で「わるいこ」を決定する「剪定会」を開き、「忌み枝」として剪定対象に決まった園児を始末してザクロ園に埋めている。ケインの剪定会で初めて他人に刃を向けたシローの姿を見た際は激しく欲情するなど、愛情を向けた園児が狂気に飲まれて堕(お)ちていく姿に性的興奮を覚えるほどの異常者。しかし支配された園児たちの中には、心からコレーに心酔して忠実に従う者も多い。実はイチカの実姉で、幼い彼に命令して前シスターを殺害していた。身長は160センチ。

ミト

養護園「エリュシオン」の入所者で、ククリの二卵性の双子の妹。年齢は14歳。生真面目な性格ながら自分が優秀でないと気が済まないところがあり、園児たちの中で特にシスター・コレーに心酔している。双子ながらククリとの姉妹仲は良好とは言えず、彼女からは要注意人物の一人としてマークされている。園内序列はつねに上位を保っているため個室を与えられており、他人が部屋に入ることを嫌う。ククリと共にエリート家庭で育つが、彼女のように両親に反抗せずに順応し、プライドが高く人一倍厳しい価値観を持って育った。両親に従順だったことから、よくも悪くも大人の期待に応えるように振る舞う癖がある。「わるいこはエリュシオンに必要ない」という理念の持ち主で、積極的に虐待に加担することはないものの、コレーへの忠誠心の厚さから、他者を切り捨てることもいとわない。一方で、優秀であるがゆえにシスターに利用されることが多く、努力や成果の割には不憫(ふびん)な扱いを受けている。実は重度の潔癖症で、他人に肌を見せたり触れられることを嫌悪している。その相手がコレーであっても例外ではなく、唐突に彼女の目の前で全裸になるよう言われた時は、かなりの焦りを見せていた。この出来事以来、心の奥底でコレーの崇高過ぎる理想に戸惑いや恐怖心を抱くようになる。当初はジューゴに冷たい態度を取っていたが、階段から落ちそうになったところを助けてもらったことがきっかけで彼を意識するようになり、会うたびに顔を赤くしてはツンデレのような態度を取るようになる。コレーが留守の時はほかの園児たちの監視のほかに、ザクロアメが入った瓶の管理を任されることもある。趣味はハーブの栽培で、最近は自室でミントを育てている。誕生日は9月30日で、血液型はA型。身長は162センチ。

ニコ

養護園「エリュシオン」の入所者で、古参の少年。年齢は15歳。癖のある黒髪短髪で、顔のあちこちに傷痕がある。園内ではイチカと行動していることが多く、部屋も彼と相部屋である。シスター・コレーには積極的に取り入っており、ほかの園児への刑罰にも喜んで携わっているため、園内序列はつねに1位をキープしている。何を考えているかわからない謎多き人物で、ククリからは要注意人物の一人としてマークされている。非常にマイペースな性格で、ほかの園児たちからも怖がられており、事実上、コレーと共にエリュシオンを支配する存在と化している。他人に共感することなく、同じ施設で育った園児たちへの仲間意識は皆無で、目的のために他者の尊厳を踏みにじり罰を与えることを厭わない、サイコパスを自称する。当時女子高校生だった母親によって、妊娠に気づかずに便器に産み落とされ、赤ん坊の頃からバスタブに放置されたままで育った記憶から、人肌よりも陶器の冷たさを好む。このため自室にもバスタブを置いており、ベッドではなくいつもその中で寝ている。幼少期から風呂場に入って来る虫を潰したり、犬のブリーダーをしていた両親から不要な犬の始末を押し付けられていたため、今でも似たようなことを趣味にしている。コレーの刑罰に苦しむ入所者を眺めて楽しむなど嗜虐(しぎゃく)性を見せると共に、より厳しい罰を彼女に提案したり積極的に暴力やいじめ行為に参加するなど、真正の加虐趣味の持ち主。その対象は新入りのジューゴも例外ではなく、彼には当初から恐れられると共に警戒されている。なぜかザクロアメを余分に所有しており、その解毒剤も持っているが、実際はほかの園児たちとの駆け引きや脅迫に使うための偽物であり、本物の解毒剤を持っているかは不明。コレーを気に入って心酔しているように見えるが、それは表面上だけの態度で本音では彼女を殺害してエリュシオンの新しい支配者になろうと画策している。このため自分の16歳の誕生日に、利害の一致したイチカと結託してコレーを殺害し、その罪をすべてジューゴに被(かぶ)せる計画を企てる。誕生日は11月2日で、血液型はB型。身長は170センチ。

ケイン

養護園「エリュシオン」の入所者の少年。年齢は13歳。眼鏡をかけた病弱な性格で、いつも顔色が悪く咳(せき)をしていることが多い。エリュシオンとは別の施設に入所している妹に会いたがっており、いつも写真を持ち歩いている。ふだんは根暗ながら妹の話をする時は自然と表情が緩み、笑顔を見せる。病弱なために親に疎まれながら育ち、同じ読書が趣味の妹に支えられていたが、彼女との仲のよさを怪しまれたことで別々の施設に預けられた過去を持つ。おとなしく気弱なため、いじめや罰の対象となることは少ないが、シスター・コレーの凶行には以前から不満や恐怖を抱くと共に異常性を感じている。また、控えめでおとなしい妹が施設でどう過ごしているかを心配しており、彼女に会うために常世島を抜け出したいと考えている。そのため、当初から脱走を目論んでいたジューゴに協力しようと持ちかけるが、実際は彼とシローを利用して一人でエリュシオンから脱出しようと目論んでいた。ジューゴとシローがエリュシオンに戻されたあと、結局はケインも脱出に失敗して園に連れ戻されてしまい、連帯責任の刑罰のあとはジューゴと二人で大袋に拘束され、「剪定会」の対象となる。ほかの園児たちによる残酷な「投票」の末に全身を刃物で刺されて死亡し、遺体をバラバラにされた状態でジューゴによって埋葬された。病弱なためにコレーから与えられるザクロアメの悪影響が早くから体に現れており、近いうちに自分が死ぬことを予測しつつ、ジューゴにはザクロアメに注意するよう忠告していた。好きな作家は宮沢賢治と夏目漱石。誕生日は9月7日で、血液型はA型。身長は158センチ。

ククリ

養護園「エリュシオン」の入所者で、ミトの双子の姉。ロングヘアをポニーテールにまとめている。妹のミトとは二卵性のため、あまり似ていない。ミトと共に裕福な家庭で育ったものの、本来の荒っぽく豪快な性格に反して、育ちのいい令嬢らしく振る舞うように両親から厳しい教育を受け、親の偏った価値観の押し付けに苦しみながら育った。女らしい恰好(かっこう)を嫌って男っぽい恰好をしよとするたびに両親から虐待を受けていたため、心に深い傷を負っている。エリュシオンへの入所が決まった当初は、両親の支配からようやく逃れられると喜んでいたが、両親以上に闇の深いシスター・コレーに支配され、本当の自分を隠し続けながらやり過ごしていた。しかし本音では支配から逃れ、いずれは自由になりたいと考えており、コレーに従順過ぎるミトのことも心配している。ケインの死をきっかけにジューゴの監視役として行動を共にするうちに彼の生き様に共感し、ククリ自身やミトの過去を打ち明けたのをきっかけに協力者となる。ミトを含めた複数人の園児を要注意人物としてマークしており、古参としての知識を活かしてジューゴにもさまざまな情報を提供しつつ、共に脱出計画を練っている。ニコたちがコレーの殺害を目論んでいると知ったあとは、その騒動に応じてジューゴ、シローとの三人で島から脱出する計画をジューゴと共に企てる。ふだんは敬語で話すが、ジューゴと話している時は素の男勝りな口調が混ざったり、粗い口調になったりする。また、ジューゴに対しては子供っぽさやイタズラ心を見せ、下ネタで彼をからかうことも多い。男物の服を着ることにあこがれており、一度はジューゴのシャツを借りようとしたが、虐待のトラウマから袖を通しただけで過呼吸を起こしていた。ジューゴと同様に自由を愛する一方で、世渡り上手で表と裏の顔を使い分ける大人っぽさと器用さを併せ持つ。しかし髪を結うのも苦手なほどに手先は不器用で、きれいにまとめるのにいつも苦労している。好きな色はショッキングピンク。誕生日は9月30日で、血液型はA型。身長は162センチ。

しの

養護園「エリュシオン」の入所者で、最年少の少女。年齢は10歳。ロングヘアをツインテールにまとめ、リボンを付けている。語尾に「~なの」を付けて話す。猫目と猫口が特徴で、全体的に猫を思わせるような風貌を持つ。小柄な体型で幼い見た目に反してかなり生意気な性格をしており、ぶりっ子的で挑発的な言動が多く、独房で罰を受けていたジューゴを挑発することもあった。なつめたちと共に男女共同の大部屋で暮らしている。シスター・コレーに心酔しており、彼女にはつねに従順であり、彼女に逆らう者には冷たく煽(あお)るような態度を取る。

ユージン

養護園「エリュシオン」の入所者の少年。短髪で猿のような風貌をしている。一見明るいやんちゃ坊主ながら密告魔であり、裏でほかの園児たちの弱みを握り、「わるいこ」につながる行為を見つけ次第、シスター・コレーたちに報告している。ジューゴとケインの脱走計画をいち早く嗅ぎつけ、コレーに密告していた。覗(のぞ)き魔でもあり、過去に覗き行為で罰を受けたこともある。男女共同の大部屋で暮らしているが、着替えをジロジロ覗くために同室の女子たちからは嫌われている。

イチカ

養護園「エリュシオン」の入所者で、最古参の青年。年齢は18歳。無口で無表情なうえに素性が不明で、体格も大きく反抗者への抑止力となっていることなどから、ククリから要注意人物の一人としてマークされている。部屋はニコとの相部屋で、部屋以外でも彼と二人で行動することが多い。ふだんは体の大きさを活かしてシスター・コレーを守っているが、実は彼女の実弟でもある。しかし、慕っていた前シスターを殺すようコレーに強制されてからはコレーを憎んでおり、実姉を殺すことになると理解しながらも、ニコのコレー殺害計画に加わっていた。冷静沈着に振る舞っているが、本音では幼少期から他人を傷つけることを嫌い、本来の優しい一面はジューゴにも見抜かれ、心配されていた。過去のトラウマからベッドは使用せず、布団にくるまって床で寝ている。同じ被虐児ながら、強靭(きょうじん)な心を持つニコには出会った当初からあこがれを抱き、いつも彼に付き従っている。裏方気質で特に料理を得意としており、ニコに代わって調理当番を務めることも多い。好きな調理作業は千切りと出汁(だし)取り。誕生日は1月22日で、血液型はAB型。身長は183センチ。

あゆ

養護園「エリュシオン」の入所者の少女。黒のロングヘアをワンサイドアップにまとめてシュシュを付けている。おとなしく控えめな性格ながら、夢見がちなところがある。園内ではなつめと仲がよく、行動を共にしていることが多い。なつめたちと共に男女共同の大部屋で暮らしている。極端な自然派の母親とだらしない父親のもとで育ち、添加物などを含む食品を口にすることを禁じられてきた。母親を自殺で亡くした記憶から不安障害を持ち、ドラッグに近い成分を含むザクロアメに依存するようになった。中毒になってミトが保管していた瓶ごとザクロアメを盗み出し、過剰摂取するうちに発作を起こしてしまう。一時は死にかけていたが運よく命を取り留め、周囲のおかげでシスター・コレーにも知られずに済んでいる。抑圧されて育った過去から素行の悪さにあこがれを抱き、ニコに以前からひそかに思いを寄せている。ニコ本人に恋心を見抜かれてからは、ジューゴに罪を着せようと目論む彼に利用されるようになる。将来の夢はお嫁さんで、好きな漫画は俺様系男子が登場する少女漫画。誕生日は5月11日で、血液型はA型。身長は148センチ。

なつめ

養護園「エリュシオン」の入所者の少女。園内ではあゆと仲がよく、行動を共にしていることが多い。ロングヘアをポニーテールにまとめている。あゆたちと共に男女共同の大部屋で暮らしている。七人きょうだいの長女として生まれた災害孤児で、いつも明るく笑うことを大切にしている。エリュシオンの過酷な環境の中でも笑顔を絶やさず、惨劇を耐え抜いてきた。しかし、ザクロアメの食べ過ぎで瀕死(ひんし)になったあゆを発見した時は笑顔を崩し、ジューゴとククリにあゆを助けてくれるよう泣きながら懇願した。島外に好きな人がいるため園内の男子には興味がないと公言する一方、ほかの女子の恋愛ネタには敏感。将来の夢はお嫁さんになることで、好きなおやつはおしゃぶり昆布。誕生日は1月27日で、血液型はO型。身長は153センチ。

サイト

養護園「エリュシオン」の入所者の少年。男女共同の大部屋で暮らしているが、寝相が極端に悪く女子たちから嫌われている。お人好しな性格で自分のことを無能だと信じ込んでおり、他人の影響で夢や目標をすぐにあきらめてしまうほどに自主性がなく、消防士になるという夢もシスター・コレーの発言を受けてすぐにあきらめてしまう。昔からヒーローにあこがれを抱き、悪い人間を倒すことこそがヒーローの仕事だと信じ込んでいる。ジューゴとククリのことをコレーの命を狙う悪い人間と誤解し、農具でククリを攻撃した。

ハンマ

養護園「エリュシオン」の入所者の少年。長い前髪で顔を隠し、おとなしく臆病な性格でめったにしゃべらない。体も小柄なため、園内ではまったく目立たない謎多き人物。シスター・コレーが島から出て不在の日は、こっそり電話で助けを求めようとしていたが、結局はあきらめてしまう。

前シスター (ぜんしすたー)

かつて養護園「エリュシオン」のシスターを務めていた女性で、シスター・コレーの前任者。入所したばかりの幼いイチカを温かく迎え、彼の料理の腕を褒めるなど子供好きで優しい性格で、園児たちからも信頼され慕われていた。しかし、コレーに命令されたイチカに刺されて死亡する。

場所

エリュシオン

「常世島(とこよじま)」と呼ばれる小さな孤島にある児童養護園。建物はきれいなリゾートホテルのような洋館で、ギリシャ語で「楽園」を意味する。入所者の園児たちは、庭に栽培されているザクロの木を育てて実を出荷するのを日々の作業としている。表面上は身寄りのない子供たちの楽園として、みんなが幸せに生活しているように見えるが、実際は偽りの楽園である。ジューゴとシローがやって来る前から、シスター・コレーによって園児たちが過酷な罰を強いられながら支配されており、時には「剪定会」で剪定対象となった園児の命が奪われている。また、大半の園児たちはコレーに取り入るために、いじめや凶行に手を染めており、つねにいじめや虐待に支配されている。エリュシオンにはさまざまなルールが定められていると共に、コレーが決めた独自の基準をもとにした「いいこ」の順に園児たちの園内序列が定められており、序列の低い者は部屋や食堂での席をはじめ、ふだんの生活環境においても冷遇されることになる。園内では恋愛や性行為は禁じられており、女子の生理周期などはコレーによって記録されている。常世島はかつて口減らしのために子供が流されていた島でもあり、外から流された人や物が流れ着きやすく、反対にほかの場所には流れにくい特殊な海流に囲まれている。用事がある際は近くの島の漁船に乗って移動することもあるが、食料や生活用品などは定期船によって島に届けられている。

その他キーワード

ザクロアメ

シスター・コレーが養護園「エリュシオン」の園児たちに、ご褒美として与えている謎のアメ。見た目はふつうのアメ玉で成分は不明ながら、実はドラッグに近い依存性と危険性をはらんでおり、その事実を知らない園児たちの体と心をじわじわと蝕んでいる。症状は舌に黒い斑として現れ、これが三つ現れると命の危険すら生じる。個人差はあるが過剰摂取により中毒を起こすと、幻覚や幻聴から始まる激しい体調不良や発作で倒れることもある。このような毒性を知っているニコなどは、ザクロアメをもらっても口に入れたフリをしてすぐに吐き出している。

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