概要・あらすじ
暴走族神叉の頭(ヘッド)だった火野鉄らかつての族仲間たちが、結婚や就職をして暮らす花神町。三十路に差し掛かった彼らは自分たちだけの掟を持つ家族を結成し、暴力もいとわず仲間たちを守ろうとする。だが火野鉄や家族を逆恨みする極悪な族仲間の襲撃は執拗を極め、家族はエスカレートする対立の渦中に巻き込まれていく。
登場人物・キャラクター
火野 鉄 (ひの てつ)
少年時代から悪ガキだった孤児で、中学2年の時に少年鑑別所に送られた後、暴走族神叉花神支部のメンバーとなる。その後、花神町のドン・ドンばーの住む市営アパートで夏目裕二たちと共同生活を送り、神叉総会長の渡辺満が殺人罪で捕まった後、神叉の頭(ヘッド)に選ばれた。 しかしその後、恋人だった藤本キリの妊娠を機に族を引退。花神町で妻と子供二人を抱え、建設作業員となって働いてきた。しかし31歳の時、かつての族仲間との再会などをきっかけに、感情を押し殺して生きていくことを止め、自衛のためなら暴力もいとわぬ家族を結成。みずからも体を張って家族を守ろうとする。 性格は陽気で義理堅い一方、キレると凄まじい凶暴さを発揮。さらに15分も我慢しきれないほどの性欲の持ち主で、暴走すると見境なく女性を犯しまくり、そのたびに妻から手ひどい仕打ちを喰らっている。かつての族仲間の襲撃を受けてからは家族を守りきれず、宿敵の五十嵐けんを追うことに執念を燃やして暴走。破滅への道を踏み出してしまう。
火野 周平 (ひの しゅうへい)
火野鉄の長男で、父親に強い対抗意識を燃やす14歳。花神中学校に共に通う幼なじみの横田真琴とは、相愛の仲である。だが父親の友人の川崎浩介から受けた過激なセックス指南が逆効果となり、真琴との性関係をうまく持てずに悩んでいる。父親に似て激情家で、喧嘩の腕っ節も強いものの、大人の暴力に抗しきれず、無力感にさいなまれてもいる。 後に神叉の頭(ヘッド)だった渡辺満の息子・若林れんを知り、喧嘩を通して親友となった。だがその友情が裏目に出て、家族を巻き込む闘争のきっかけを作ってしまう。
横田 あつし (よこた あつし)
15歳のころから暴走族神叉花神支部のメンバーだったが、最初は火野鉄と川崎浩介を嫌っていた。総会長渡辺満の弟を事故死に追い込んだことで、そのことを知る副総長五十嵐ケンに逆らえなくなり、族を引退後も粒谷を殺す現場を写真に撮られてしまい、五十嵐けんに強請られるままになっていた。 引退のきっかけは恋人だった鈴木ナオミの妊娠で、結婚後は横田デンキ店を営むと共に、二男二女の父親となっている。性格は温厚に見えて凶暴さを秘め、いったんキレると火野鉄と同様、妻にしか暴走を止められない。長女の真琴や妻がレイプの被害者になるなど不運に見舞われるが、それだけに家族とは強い絆で結ばれている。
横田 真琴 (よこた まこと)
横田あつしの長女の中学2年生で、幼なじみの火野周平に恋している。可愛い容姿とは反対に気が強く、男勝りな性格。しかし中学1年の時にチーマーの先輩にレイプされ、心に深い傷を負ってしまう。チーマーの親が有力者だったこともあって、執行猶予の判決となったことに対する火野鉄たちの怒りが、家族結成のきっかけとなった。
川崎 浩介 (かわさき こうすけ)
中学時代から火野鉄の喧嘩友だちだったイケメン男。その後、母親に捨てられ、市営アパートに住むドンばーに引き取られたことで、火野鉄たちと共同生活を送ることになった。暴走族の神叉でも火野鉄と同じ花神支部に属していた。族からの引退後は10年ほどホストとして活躍し、家族結成後は様々な女性との間に築いた人脈を使って、仲間を陰から支えている。 どんな女性も落とすルックスと性戯の持ち主だが、女遊びを重ねていた時に、心から愛した女性を病気で亡くしたため、パブのホステス、アケミのようないい女と関係を持っても深入りすることはない。
後藤 邦男 (ごとう くにお)
薊崎にある朝顔食堂の息子。経営者だが酒浸りの父親に愛想を尽かし、15歳で暴走族神叉の頭(ヘッド)の渡辺満に気に入られて入会。花神支部員となるも、副総長の五十嵐けんから腕力を見込まれて弟分にされていた。しかし新しく頭(ヘッド)となった夏目祐二を目の敵にする五十嵐けんを見限り、痛めつけて引退する。 以後、川崎浩介の紹介でパトロンを得たこともあって、イタリア料理の店などいくつもの店を経営。実業家として頭角を現し、家族の一員となった。巨漢で喧嘩もやたら強い一方、性格は無口でポーカーフェイス。元々、料理の勉強をしていたこともあり、父親の死により朝顔食堂が無くなった後は、父親を超えるカツ丼を作ることを密かな目的としている。
前田 梅 (まえだ うめ)
神叉と敵対する咲原町の暴走族醜楽會の頭(ヘッド)だったが、現在は刑事となり、管轄は花神町。暴力団と裏でつながっているらしく、極道刑事の異名を持つ。火野鉄とは酒も飲めば喧嘩もする腐れ縁の仲で、家族に対しては刑事の立場を生かしてバックアップしている。 好きになった女性をすべて鉄に寝取られたことで女に縁が無くなり、ついにはラブドールにサオリと名付け、溺愛するほどの変態ぶりを発揮することになった。
甲斐 一郎 (かい いちろう)
スキンヘッドが特徴の暴走族神叉のメンバー。花神支部長だった時に支部員の火野鉄と喧嘩を繰り返し、それが腐れ縁となって彼に支部長の座を譲り渡した。現在は15年のキャリアを持つベテラン鳶職で、火野鉄の家族にも参加。結婚もしたが持ち前の凶暴な性格が災いして離婚に至り、年に一度しか会えない14歳の一人娘・スミレを溺愛している。 スミレを怒らせてばかりいるが、それは父親と性格が似ていることを彼女が気にしているためで、本当は嫌われているわけではない。その後、かつて横田真琴をレイプしたチーマーの魔手がスミレにまで及んだため、激怒のあまりそのチーマーを絞殺して逮捕されてしまう。
ドンばー
誰も本名を知らず、ドンばーちゃんの愛称で呼ばれる花神町のドン。火野鉄たちアウトローでさえ頭が上がらない、家族の長老的存在。若いころ堂本桜一と結婚したが、子供ができなかったため捨てられる。堂本は、やがて暴力団桔梗会を立ち上げ、大物ヤクザとなった後でホームレスに見を落としている。 年老いてからのドンばーは、自分が住む花神町の市営アパートの空き部屋に火野鉄川崎浩介横田あつし後藤邦男夏目祐二ら不良少年たちを住ませて育て、彼らが家族となるきっかけを作りもした。そのためアパートはアウトロー養成施設と陰口をたたかれたが、ドンばーは実母にも勝る愛情で少年たちを見守り続けた。
夏目 祐二 (なつめ ゆうじ)
不出来な両親を持つ一人っ子だった少年時代、ドンばーを介して二つ年下の小学生だった火野鉄と知り合い、悪ガキ仲間に。中学生の時には親に捨てられ、ドンばーが住む市営アパートに引き取られた最初の一人となった。暴走族神叉に入って後は総会長の渡辺満から厚い人望を見込まれ、18歳にして19代目頭(ヘッド)の座に着いている。 恵まれなかった自分の境遇から、信頼できる者同士で家族を作ることを夢見ていたが、彼の追い落としを狙う五十嵐けんから反逆者扱いされてしまう。さらに横田あつしの身代わりとなった火野鉄対渡辺満の殺し合いに割って入り、渡辺満に斬殺されたことで、火野鉄ら多くの慕う者たちを悲しませた。
渡辺 満 (わたなべ みつる)
かつて暴走族神叉の頭(ヘッド)から力づくでその座を奪い、総会長にまでなった豪腕の猛者。圧倒的な暴力とカリスマ性を持つことにより恐怖で神叉を支配し、その後神叉を関東最大級の暴走族に押し上げている。やがて抗争を繰り返す愚かさに気付き、仲間思いの弟分、夏目祐二に頭(ヘッド)の座を譲って自分は総会長となり、200人からのメンバーをまとめていた。 だが弟の渡辺武が事故死してからは自暴自棄となり、副総長の五十嵐けんにそそのかされて夏目を殺す羽目になってしまう。逮捕されて服役後は罪の重さに苦しみ、37歳で工事現場作業員として働くなどしていた時に、火野鉄と再会して家族の一員となる。 だが偶然再会した族時代の恋人若林美也を通して、五十嵐けんの作った家族に取り込まれつつあったところを、彼女から五十嵐の悪巧みを打ち明けられて逆上。火野鉄と共に五十嵐けんの家族に立ち向かう中で、若林美也が生んでいた息子の若林れんと初めて出会う。そして死闘の果てに重症を負いつつも生還し、親子三人で和解の時を迎えた。
祖我 守 (そが まもる)
暴走族醜楽會の頭(ヘッド)前田梅の昔からの友人で、若い時に隣町から花神町に越してすぐ、憧れていた火野鉄のいる神叉のメンバーとなった。しかし醜楽會と通じていると火野鉄たちに疑われて手ひどく乱暴され、結婚後は妻が死産、さらに二人目の子供を宿して逃げた妻を殺してしまうなど、人生の階段を転がり落ちていく。 あげく覚醒剤中毒者となり、火野鉄を恨むあまり川崎浩介の女のアケミと共に火野周平を拉致。殺しかけたところを火野鉄に止められ、逮捕された。
粒谷 (つぶたに)
火野鉄たちの族仲間だった営業主任のサラリーマン。かつて親に見捨てられ、17歳の時に拾って育ててくれた保田の工場で働いていたが、期待に背いてサラリーマンに転職した後、家族からも離れようとして火野鉄たちにボコられてしまう。そのため仕事がうまくいかなくなり、家族にも逃げられ、ギャンブルで借金を重ねるなど人生が暗転。 あげく五十嵐けんにたきつけられ、横田あつしの妻のナオミをレイプして、逆上した横田あつしに斬殺されてしまう。
緒方 透 (おがた とおる)
一家心中から生き残った孤児で、孤立していた時に小学校のリーダーだった五十嵐けんに救われ、弟分となる。後に暴走族神叉の薊崎支部員となっても五十嵐けんの一派に属し、神叉乗っ取りに失敗した五十嵐けんが族を追われてからも慕い続けて追従。さらに金を調達したり、火野鉄の家族を調べたりして、献身的に彼を支え続けた。 ついには渡辺満の報復を恐れる五十嵐けんのため、殺人までも犯して暴走を止めようとするが、逆ギレされて見放される。そのうえ五十嵐けんに逆襲する火野鉄たちに追い詰められてしまうが、最後まで五十嵐けんに望みを託して自決した。五十嵐けんと川崎浩介の両方を愛した悪女、菜々子に、とどめをさされている。
五十嵐 けん (いがらし けん)
子供のころから野心家で、カメラマンに憧れていた。小中学校時代は人望も厚くリーダー格だったが、高校時代に金持ちだった父親の仕事がうまくいかなくなり、取り巻きに見捨てられる不安にかられて性格が壊れ始める。14歳の時に参加した暴走族神叉の集会で同い年の夏目祐二と出会い、また渡辺満が暴力で神叉の頭(ヘッド)の座を奪うところを見て、恐れつつも心酔。 虎の威を借りる生き方で、18歳で副総長の座に就いた。しかし総会長となった渡辺満がライバルの夏目祐二を頭(ヘッド)としたため、夏目潰しを画策。渡辺満が夏目を殺すきっかけを作ったものの、次の頭(ヘッド)の座に就くどころか、仲間たちから袋叩きにされてしまう。 以後、出所した渡辺満に報復される恐怖に脅えていたが、横田あつしを強請ったことで火野鉄たちに追い詰められた時、罪に脅える渡辺満の姿を見て恐怖を克服。一年後、35歳の時に家族を持つ火野鉄を殺すことを目的に、旧友の青木新や自分の居場所を求める渡辺満たちを巻き込み、出身地の薊崎で家族を結成する。 やがて若林れんと薊崎に乗り込んできた火野周平を捕らえ、救出に来た火野鉄や渡辺満たちとの激闘を繰り広げるが、青木新が死に、火野鉄に銃で撃たれた後に最後の時を迎える。
冬木 忍 (ふゆき しのぶ)
苧環町(おだまきちょう)にある孤児の養護施設の職員。みずからもそこで育った過去を持ち、園児たちから慕われている。11歳の時に父親に虐待されていた自分に手を差し伸べてくれた暴走族神叉の渡辺満に憧れ、暴走族玉華連の一員となった。そして15歳の時に渡辺満に再会した後、玉華連の頭(ヘッド)にのし上がり、火野鉄が総長となった神叉を圧倒している。 それでも虐待の記憶は消えず、とうとう両親を見つけ出し殺してしまう。その後、施設で働いている時に出会った若林れんが渡辺満の息子と知って我が子のように育て、親殺しの苦しみを彼には味わわせまいと決意。若林れんの義父が神叉の五十嵐けんの親友青木新だったことから、その殺意を肩代わりし、死闘の果てに殺害を果たす。
若林 れん (わかばやし れん)
火野周平が出会った渡辺満そっくりの孤独な少年で、喧嘩を繰り返したあげく親友となった。孤児だったため苧環町(おだまきちょう)の養護施設で育てられた。本人は知らないが渡辺満の実の息子である。自分と母親を虐待した義父の青木新を憎み、いつか殺すべく体を鍛えていた。後に火野鉄とも出会って家族の一員となり、義父殺しに協力すると言った火野周平との絆を深めていく中で、本来の明るい性格を取り戻していく。 やがて五十嵐けんと青木新に拉致された火野周平の救出に向かった際、実の父と巡り合う。
集団・組織
神叉 (じんしゃ)
『莫逆家族』に登場する暴走族。かつて醜楽會や玉華連などほかの族と抗争を繰り返していた暴走族で、豪腕の渡辺満が頭(ヘッド)になったことにより、関東全域に支部を持つ最大級のチームにのし上がった。だが副総長の五十嵐けんを中心とする薊崎支部と、火野鉄らが属する花神支部に派閥が分かれて反目し、渡辺満は総会長となって、和を重んじる夏目祐二に頭(ヘッド)の座を譲った。 しかし渡辺満が弟の事故死をきっかけに夏目祐二を殺したことから、逮捕された渡辺満に代わって火野鉄が新たな総長に選ばれている。その後の火野鉄の引退によって、神叉が解散したか存続しているかは不明。
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