血染めの紋章

血染めの紋章

二・二六事件の首謀者の1人として銃殺刑となった実在の人物、磯部浅一を主人公に青年将校たちが決起にいたった背景とクーデターの失敗までを描いた、かわぐちかいじの初期作品。

正式名称
血染めの紋章
ふりがな
ちぞめのもんしょう
作者
ジャンル
裏社会・アングラ
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概要・あらすじ

昭和9年11月20日早朝、磯辺浅一陸軍一等主計と村中孝次大尉は五・一五事件に擬したクーデターを画策した容疑で陸軍憲兵隊に検挙された。陸軍内部における統制派皇道派の対立のあおりを受けたのである。停職処分となった磯部と村中だったが、なおも統制派の幕僚たちを批判する運動を軍部内で展開した結果、上層部に危険分子と見なされ、ついには陸軍を追放されてしまう。

これにより磯部らは国家改造、昭和維新の意志をさらに強くし、軍上層部を牛耳る統制派の重鎮である永田鉄山への敵意を強めていく。

登場人物・キャラクター

磯部 浅一 (いそべ せんいち)

二・二六事件を主導した皇道派の元陸軍青年将校。陸軍第一連隊の一等主計だったがクーデター画策容疑により逮捕され、同志の村中孝次とともに軍籍剥奪となる。その際、敵対する統制派の永田鉄山を暗殺しようとするが果たせず、満州の同志へのクーデター画策事件の説明を名目に単身日本を離れた。大陸では満州鉄道の工夫として労働の日々を送るが、アジア主義の美名のもと暴走する関東軍の醜悪な姿を目撃し、強い憂いを抱えて帰国。 天皇の意志を直接聞きたいという思いを募らせていき、村中や安藤輝三らとともに二・二六事件を起こす。実在の人物である、磯部浅一がモデル。

香次郎 (こうじろう)

「人斬り香次郎」と仇名される将棋好きの侠客。東京は玉の井の遊郭で出会った秋子に惚れ、彼女の恋人だった磯部浅一と対立。その際、磯部らの希求する昭和維新が「天皇の大御心にそっている」という思い込みに拠っているという急所を突き、磯部を狼狽させた。世話になっている組への義理から敵対組織の代貸を殺害したため、前橋刑務所に収監されるがのちに出所。 迎えにきた秋子と一緒に暮らすようになる。

村中 孝次 (むらなか こうじ)

皇道派の元陸軍青年将校で磯部浅一の同志。陸軍大尉だったがクーデター画策の容疑をかけられ磯部とともに軍籍を剥奪。以降は在野で活動することとなる。当初は世論を喚起しての改革を目指していたが、永田鉄山を暗殺した相沢三郎が非公開の秘密裁判で処断されたことから陸軍の現状に絶望し、武力による昭和維新を断行すべく、磯部らとともに二・二六事件を起こす。 実在の人物である、村中孝次がモデル。

安藤 輝三 (あんどう てるぞう)

陸軍歩兵第三連隊の中隊長で階級は大尉。皇道派のメンバーの1人で磯部浅一、村中孝次らの長年の同志だが、当初は部下たちを逆賊にしてしまうことへの恐れからクーデターには慎重な姿勢を見せていた。だが、奸賊を除くには決起以外ないという磯部の強い説得に負け、ついに決起部隊への参加を決意。二・二六事件において侍従長の鈴木貫太郎邸を襲撃する。 実在の人物である、安藤輝三がモデル。

栗原 安秀 (くりはら やすひで)

皇道派の陸軍青年将校で階級は中尉。磯部浅一、村中孝次とは2人が陸軍に所属していた頃からの同志で、部隊を率いて二・二六事件に参加。時の内閣総理大臣であった岡田啓介を討つべく首相官邸に襲撃をかける。実在の人物である、栗原安秀がモデル。

永田 鉄山 (ながた てつざん)

陸軍省局長にして統制派の重鎮である幕僚。陸軍大臣の林銑十郎を傀儡とし、大財閥である三井、三菱と結託。政財界の力を利用して、自らの理想とする国家総動員体制の実現を目指していた。だが、対立する皇道派の将校を危険分子として軍中枢から排除しようとしたため、国家を腐敗させる君側の奸と見なされ皇道派から命を狙われることになる。 実在の人物である、永田鉄山がモデル。

相沢 三郎 (あいざわ さぶろう)

広島県の福山第四一連隊所属の陸軍中佐。武人気質の軍人で、陸軍戸山学校(射撃や剣術などの歩兵戦技の研究と教官育成を目的とした学校)の剣術師範をしていた経歴を持つ。皇道派からの人望が厚い真崎甚三郎のシンパだったため危険人物と見なされ、真崎の更迭に前後して台湾歩兵第一連隊に転属となるが、これをきっかけに妻子を残して上京。 統制派の首魁である永田鉄山を暗殺する。実在の人物である、相沢三郎がモデル。

真崎 甚三郎 (まさき じんざぶろう)

元陸軍大将で皇道派の中心人物の1人。陸軍省教育総監だったが、皇道派の存在を危険視する永田鉄山らによって更迭された。その後、軍事参議官(軍事に関する天皇直属の諮問機関)となる。二・二六事件では青年将校たちに好意的な態度を見せるが、状況が不利と見るや彼らと距離を取った。実在の人物である、真崎甚三郎がモデル。

秋子 (あきこ)

磯部浅一の恋人だった女性。磯部のことを強く愛していたが、昭和維新に血道をあげる磯部の足手まといになることを恐れて彼のもとを去り、東京は玉の井の私娼街で女郎となった。その後、侠客の香次郎と出会い、彼と暮らすようになるが労咳に倒れる。

村中 美智子 (むらなか みちこ)

村中孝次の妹。まだ女学生だが磯部浅一に憧れており、彼の恋人だった秋子に嫉妬心を抱いている。二・二六事件の後に村中に面会するため陸軍刑務所を訪れた際、兄から磯部が獄中で記した告発文を密かに受け取り、香次郎の助けを借りて世に出そうとする。

工夫 (こうふ)

磯部浅一が大陸で出会った、満州鉄道で工夫をしている男性。軍に批判的で現地の軍人に因縁をつけられていた磯部を助ける。だが、実は関東軍に飼われているスパイで、張作霖爆殺事件における関東軍の暗躍を知った磯部を闇に葬ろうと企む。

坂田 (さかた)

磯部浅一の陸軍幼年学校の同期生。かつてはおとなしく目立たない男だったが、関東軍討匪隊(満州の匪賊を討伐するための部隊)の一員となり、殺戮の日々を送ったことから敵はおろか味方からも「赤いハイエナ」と恐れられ軽蔑される残忍な男に変貌。大陸で再会した磯部を驚かせる。

酒巻 (さかまき)

大連で賊に狙われていた磯部浅一を助けた男性。陸軍第一師団歩兵第三連隊所属の中尉で、陸軍戸山学校(射撃や剣術などの歩兵戦技の研究と教官育成を目的とした学校)時代の剣道師範が相沢三郎だったこともあって皇道派に好意的。

集団・組織

皇道派 (こうどうは)

真崎甚三郎らを中心とした旧日本陸軍の派閥。天皇の親政による国家改造、昭和維新を希求していて、農民出身の急進的青年将校にシンパが多い。政治家や財閥と結託する永田鉄山ら統制派に批判的で、軍の主導権をめぐって血で血を洗う抗争を展開するが、陸軍の主要ポストを握った統制派に徐々に圧されていく。

統制派 (とうせいは)

永田鉄山ら軍官僚を主要メンバーとする旧日本陸軍の派閥。日本を産軍民一体の総動員体制を可能にする軍事国家に改造することを目標としていて、そのために政財界に接近。陸軍の中枢である参謀本部と陸軍省の主要ポストを掌握し、敵対する皇道派の一掃を図る。

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