概要・あらすじ
志村翔子は、2年間付き合った朝倉恒樹から別の女性と結婚を決めたことを理由に別れを告げられる。信じていた彼との突然の別れに耐えられない翔子は自殺を決意するが、自殺を決行しようとした矢先、恒樹に宛てて用意していた遺書を猫がくわえて逃げてしまう。猫を追いかけてさまよった末に翔子がたどり着いたのは、霧の中に佇む「霧の森ホテル」だった。
偶然の来訪だったはずが、ホテルの支配人は翔子の身に覚えのない予約がされていることを告げる。何もかも腑に落ちない不思議なホテルに戸惑いながらも、翔子は案内されるまま通されたスイートルームに宿泊することに。そこで次々と起こる不思議な出来事によって、彼女は知らなかった恒樹の本当の姿を知ることになる。
登場人物・キャラクター
志村 翔子 (しむら しょうこ)
エピソード「殺人のすすめ」に登場する。公園で自殺をしようとしていた女性。2年間付き合っていた朝倉恒樹が真矢と結婚を決めたことで、別れを告げられた。一途に尽くしてきた彼との別れを受け入れることができず自殺しようとしていたところ、彼に向けて書いた遺書をくわえて逃げた猫を追いかけていくうちに、「霧の森ホテル」にたどり着く。
相沢 唯 (あいざわ ゆい)
エピソード「放たれた扉」に登場する。「行かなければならないところがある」という以外のすべての記憶を失った状態で、雨の中を猫に導かれて「霧の森ホテル」にたどり着く。その後、2人の男性の間で揺れ動く心を抱えていたことを次第に思い出していく。
日高 鞠子 (ひだか まりこ)
エピソード「ラビリンス」に登場する。日高梨也子の娘で、母親を探している途中、猫に導かれて「霧の森ホテル」にたどり着いた。母親に虐待されてきたため、常に母親からの温かい愛情に飢えている。
木戸 雅也 (きど まさや)
エピソード「ブラックムーア」に登場する。世界屈指の海運会社である「木戸海運」の会長を務める男性。余命幾ばくもない入院生活を送っていたが、人生が終焉を迎える前にやり残したことをやり遂げようと、自らの意思で「霧の森ホテル」にたどり着く。
森崎 ほのか (もりさき ほのか)
エピソード「ペントハウスの住人」に登場する。出版社に勤める女性。人気作家である御園生薫に仕事を依頼するために、御園生がいると噂されている「霧の森ホテル」を探していた。その途中で野田祐一郎と出会い、ともに「霧の森ホテル」にたどり着くことに成功する。
蓮見 かれん (はすみ かれん)
エピソード「雪原のラブレター」に登場する。プロフィールがすべて不明ということで話題の女優。モデルから女優に転身して成功を収めたが、妊娠というスキャンダルを起こし、多くのメディアから追われる身となっている。
朝倉 恒樹 (あさくら こうき)
エピソード「殺人のすすめ」に登場する。優しいが優柔不断なところがある男性。志村翔子と2年間付き合っていたが、同時に付き合っていた真矢との結婚を決め、翔子に別れを告げた。当初、真矢との結婚式を海外で行う予定でいたが、突如「霧の森ホテル」で行うことに変更する。
真矢 (まや)
エピソード「殺人のすすめ」に登場する。朝倉恒樹の婚約者。志村翔子や恒樹が勤める会社の重役令嬢で、華やかな美人として社内では有名だが、はっきりした性格で強引なところがある。恒樹との結婚式は「霧の森ホテル」で執り行うことが決まっている。
東海林 亮 (しょうじ あきら)
エピソード「放たれた扉」に登場する。相沢唯が記憶を失くす前、ともに生活していた画家の男性。唯とはモデルと画家として出会い、彼女をモデルに描いた絵が賞を受賞して以来、一緒に暮らすようになった。現在では地位もお金も手にしており、ニューヨークの有名な画廊に認められている。来月からアトリエをニューヨークに移す予定で、唯も連れていきたいと考えている。 強引で、愛情表現が激しい。
設楽 槙生 (しだら まきお)
エピソード「放たれた扉」に登場する。弁護士を目指し、大学の法学部で勉強する苦学生の青年。アルバイトで生計を立てている奨学生のため、お金の苦労が絶えない。相沢唯をひたむきに愛して彼女に尽くし、想いを通わせていた。
日高 梨也子 (ひだか りやこ)
エピソード「ラビリンス」に登場する。日高鞠子の母親。最近頭痛に悩まされている。鞠子から向けられるまっすぐな愛情を受け止め切れずに苛立ちをぶつけ、それがエスカレートして虐待を繰り返す日々を送っている。
矢野 和巳 (やの かずみ)
エピソード「ラビリンス」に登場する。子供が苦手だという彼女にプロポーズするも断られ、あきらめきれずに追いかけていた青年。その途中、「霧の森ホテル」にたどり着く。
西坊条 茜 (さいぼうじょう あかね)
エピソード「ブラックムーア」に登場する。旧華族の家系の出のお嬢様で、「西条あかね」の名で売り出し中の清純派女優。テレビや映画出演で忙しい毎日を送っている。木戸雅也からの要望で、西坊条燁子の縁の娘として「霧の森ホテル」にやって来る。
西坊条 燁子 (さいぼうじょう ようこ)
エピソード「ブラックムーア」に登場する。子爵家の娘。第二次世界大戦中、昭和20年に空襲の被害に遭い、亡くなったとされている。西坊条茜にとっては大叔母にあたる人物で、木戸雅也が愛した女性。
野田 祐一郎 (のだ ゆういちいろう)
エピソード「ペントハウスの住人」に登場する。小説家を志望する青年。御園生薫のファンで、自身の作品を読んでもらいたいという一心で彼を探していた。その途中で森崎ほのかと出会い、「霧の森ホテル」にたどり着く。
御園生 薫 (みそのお かおる)
エピソード「ペントハウスの住人」に登場する。私小説からロマンス、ファンタジー、サスペンス、歴史書までなんでもOKのマルチ作家。5年前にデビューして以来、執筆したすべての作品が大ヒットしている。しかしその人物像は、男性であるらしいという不確かな情報以外、本名から年齢、連絡先に至るまですべてが完全に不明。それがミステリアスであると、更なる人気を呼んでいる。
波多野 卓 (はたの たく/すぐる)
エピソード「雪原のラブレター」に登場する。週刊誌「週刊パブリック」の記者を務める青年。蓮見かれんの妊娠スキャンダルを入手し、雑誌に掲載した張本人。その後もかれんにつきまとい、自暴自棄になったかれんと行動をともにすることになる。
村主 征也 (すぐり まさや)
エピソード「雪原のラブレター」に登場する。蓮見かれんの熱狂的なファンを自称する青年。誰も知らないはずのかれんの素性を知っているが、彼女を心配しながら、雪の中突然姿を現した謎の多い人物。
支配人 (しはいにん)
「霧の森ホテル」の支配人を務める男性。ホテルの顔であるフロントで、常に客を迎える大切な役割を担っている。そのため、「霧の森ホテル」にたどり着いた客が最初に顔を合わせる人物であり、宿泊の案内や予約内容など、その状況に合わせた案内をしている。
ベルボーイ
「霧の森ホテル」の専属ベルボーイを務める少年。宿泊にやってきた客を部屋まで案内する役割を担っている。女性客から突然キスされた際には、大声をあげてうろたえるうぶな一面を持っている。
庭師 (にわし)
「霧の森ホテル」で昼間は専属の庭師を、夜は専属のバーテンダーを務める男性。宿泊客の奥に秘めた心理を表に引き出し、さらけ出させる大切な役割を担っている。
エステティシャン
「霧の森ホテル」のお客様専属エステティシャンを務めるミステリアスな女性。右目の目じりにあるほくろがチャームポイント。エステとフルメイクのコースと称して志村翔子をまったくの別人に仕立て上げる。
バスバトラー
「霧の森ホテル」の専属バスバトラーを務める女性。宿泊客の好みに合わせ、風呂の用意を中心に、館内で快適に過ごすためのすべてのことを仕事として行っている。相沢唯の失った記憶を取り戻す手がかりを作った人物。
ハウスドクター
「霧の森ホテル」の専属医を務める女性。宿泊客が訴える不調を即座に解決する。志村翔子には睡眠薬を渡し、妊娠中の蓮見かれんの治療も行った。
猫 (ねこ)
「霧の森ホテル」に住み着いているたくさんの猫。外では人生に迷った人物をホテルまで案内し、ホテル内では物事をうまく運ばせるため、宿泊客を導く役割を担っている。
場所
霧の森ホテル (きりのもりほてる)
人生に悩み、心の迷宮をさまよう者だけがたどり着くことができる不思議なホテル。支配人をはじめ、ハウスドクターやエステティシャン、バスバトラーに至るまでホテルのスタッフはすべて「霧の森ホテル」の専属スタッフで構成されている。自分では解決できない悩みを抱え、人生の岐路に立たされた人物は、「予約客」となって猫に導かれ、このホテルを訪れることとなる。 ここでは宿泊する客の要望であれば、常識ではありえないことを含めて何でも起こりうる。