世界観
東京の下町が舞台となっており、川本ひなたら三姉妹の暮らす三月町は東京の月島がモデルになっている。作中では実在する月島の景色が確認できる。登場する将棋会館は千駄ヶ谷に実在する建物と同様で、内装や掛け軸に至っても取材の元に描かれている。『3月のライオン』公式ホームページでは、月島と千駄ヶ谷それぞれの「空想お散歩MAP」が無料配布されている。
桐山零が活動する将棋界については、現役棋士である先崎学八段の監修の元、綿密な取材によってリアルに描かれている。実際に将棋会館で起きた出来事を作中で表現することもあるようだ。単行本に収録されている先崎学八段の「ライオン将棋コラム」では、作中の表現を踏まえ、将棋のルールや戦術、将棋連盟の雰囲気、現役棋士について解説している。
Facebook、TwitterなどのSNSの使用方法やいじめ問題など、現代日本ならではの話題にも深く触れている。作者である羽海野チカ自身もSNSを活用しており、Twitterでは川本ひなたの中学生生活を描くのに「最近の学校給食では牛乳は瓶入りかパックか」といった質問も投げかけている。
作品が描かれた背景
インタビューでは、羽海野チカが将棋と漫画の間に共通点のようなものを見出し、そこをテーマにしようとしたと語っている。また、前作の『ハチミツとクローバー』は「社会に出るまでの自分」、『3月のライオン』は「社会に出てからの自分」を描いている気持ちだという。棋士の少年をテーマにすることは、『ハチミツとクローバー』連載時から構想があり、実際に前作の後半では登場人物たちが将棋をするシーンがある。
作品構成
大きく分けると、三月町での出来事や学校生活を描いた日常と、棋士として活動する仕事のふたつのパートで構成されている。しかしどちらも桐山零の主観を中心に描かれており、明確な区別がされているわけではない。三月町や学校では、川本ひなたら三姉妹をはじめとする人々との関わりから、家族愛や友愛、愛情といった人の関係性にともなう感情について描写されることが多い。対して棋士としての活動シーンでは、対戦経過に合わせて相手棋士の経歴や思考、将棋に掛ける思いといった、個人の内面に迫った心理描写が多く登場する。仕事での出来事が日常でも尾を引いたり、逆に日常での出来事によって仕事に対する思いが改まったりなど、ふたつのパートが互いに影響し合い、混じり合うことで、個人としての桐山零の「生活」や「成長」を描いている。
あらすじ
東京の下町に位置する川沿いの町・六月町にひとりで暮らす少年・桐山零。幼い頃に家族を事故で亡くし、父の友人であるプロ棋士の家に内弟子として引き取られ育った彼は、生きるために将棋に没頭し、史上5人目の中学生プロ棋士となる。義理の姉に言われた「家も無い」「家族も無い」「学校にも行って無い」「友達も居無い」「アナタの居場所なんてこの世の何処にも無い」という言葉を否定することができず、自身の居場所を得るためにプロになることを志したのだ。他人の家で育ったことから、自身を「カッコウのひな」にたとえ、心に深い孤独を抱きながら人とのかかわりを極力避けて過ごしていた。
17歳になり、1年遅れで高校に通いながらプロ棋士として活動する桐山零が、ひょんなことから出会った三月町の川本あかりら三姉妹と交流することで、ゆっくりとその孤独を融かしていく。
高校1年生(17歳)(第1巻Chapter.1~第5巻Chapter.44)
プロ棋士・桐山零の今日の対戦相手は、将棋の師であり義理の父でもある幸田氏だった。対局を終え、ひとりで暮らす六月町に帰ろうとする零の携帯に、川本ひなたから夕食への招待メールが届く。零は遠慮を感じながらも、川本あかりら三姉妹の住む、温かな三月町へと向かう。
目まぐるしい川本家、何かとちょっかいを掛けてくる将棋好きな高校教師・林田高志、同じくプロ棋士として活動する二海堂晴信らに振り回されるように、零の生活は変化していく。
高校2年生(18歳)(第5巻Chapter.45~第9巻Chapter.94)
A級棋士島田開の研究室に入り、将棋への思いを新たにした零。対して学校生活では、進級はしたものの変わらずひとりで過ごすことが多かった。そんな零に、担任教師を外れてしまった林田高志は「将棋部を作ろう」と持ち掛ける。将棋、部活動と充実した日々を送る零。しかしある日、いつも元気な川本ひなたが泣きながら帰宅した。通っている中学校でいじめがあったのだ。
高校3年生(19歳)(第10巻Chapter.95~)
部員がみな卒業し、また学校でひとりになってしまった零。しかし以前と違い、気持ちは軽いものだった。零の高校に川本ひなたが入学してきたのだ。
頼り、頼られることを経験し人として成長していく零。そんな時、川本家の祖父が倒れて入院する。他人の家の買い出しを疑問なく行う自分を不思議に思いながら、川本家を訪れると、そこには見知らぬ男性が居座っていた。それは5歳になる川本モモが生まれる前にこの家を出て行った、三姉妹の実の父親だった。
メディアミックス
タカラトミー「和おもちゃ根付」「トレーディングアクリルキーホルダー」「アイシングクッキーストラップ」(ともにガチャアイテム)
Re-MENT「ひなたのたからもの」(トレーディングフィギュア)「チクチク手芸マスコット」(トレーディングマスコット)
BUMP OF CHICKENのシングルCD『ファイター』
『3月のライオン』愛読者であるロックバンド・BUMP OF CHICKENが同作のために書き下ろした楽曲で、コミックス10巻の特装版に付属された。また、同楽曲の配信版では、羽海野チカが書き下ろしたスピンオフマンガ『ファイター』を読むことができるシリアルコードが添付された。このスピンオフはコミックス11巻に収録されている。
J:COMとコラボレーションした将棋大会「J:COM杯3月のライオン 子ども将棋大会」(全国7都市にて開催)
ロッテ雪見だいふく×3月のライオンコラボレーション
3月のライオン×11人の棋士「人生を、戦う者たちへ。」スペシャルポスター(2015年)
コミックス11巻発売を記念し、現役棋士11人とコラボレーションポスターが制作された。
テレビアニメ
2016年テレビアニメ化。10月8日から2017年3月までNHK総合にて放映。その後、2017年10月から2018年3月まで第2シリーズが放映。
実写映画
2017年実写映画化。3月18日に前編、4月22日に後編が公開。監督は大友啓史が務め、主人公の桐山零を神木隆之介が演じる。
評価・受賞歴
第4回「マンガ大賞2011」大賞受賞
第35回「講談社漫画賞」一般部門受賞(2011年)
第18回「手塚治虫文化賞」マンガ大賞受賞(2014年)
第24回「文化庁メディア芸術祭 」マンガ部門大賞受賞(2021年)
登場人物・キャラクター
桐山 零
黒縁眼鏡をかけた痩せ型のおとなしい少年。幼少の頃より将棋を始め、中学生でプロ棋士となった。小学生の時に家族を亡くして天涯孤独となり、引き取られた先の幸田家でも自分の居場所を見つけることができず、心に深い傷を抱えていた。中学卒業後に幸田家を出て東京の下町で一人暮らしをしていたが、ある日偶然出会った川本家と交流を深めるなかで成長を見せていく。 棋風はオールラウンダーで、同じプロ棋士の島田開からは名人・宗谷冬司と似た感覚の持ち主だと言われている。
川本 あかり
三月町に住む川本家の長女。死んだ母親の代わりに家事を担当し、妹たちの面倒を見ている。昼は祖父の経営する和菓子屋・三日月堂を手伝い、夜は週に2回ほど伯母の経営する銀座のクラブ・美咲でホステスとして働いている川本家の大黒柱。泥酔していた桐山零を介抱して以来、彼を気にかけるようになり自宅に招いている。 料理が得意。
川本 ひなた
三月町に住む川本家の次女。女子高生。長い黒髪を二つに分けて結んでいたが、現在はボブカットにしている。明るくおっとりとした印象を受けるが、いじめられ悩みながらも自分の意志を貫き通す真っ直ぐで強い一面も持つ。勇気ある彼女のことを桐山零は自分の過去を救ってくれた恩人だと話し、「彼女のためならばなんだってするつもりです」と吐露している。
川本 モモ
三月町に住む川本家の三女。保育園に通っている。和菓子屋を営む祖父・川本相米二の「大福のなかに何が入っていると嬉しいか」との質問に「ガム」と答えるなど天真爛漫。幼いため泣き虫でわがままだが、素朴な子供らしさで周りを和ませるマスコットのような存在。作中に登場するアニメのキャラクター・ボドロに体型が似ている、プロ棋士の二海堂晴信に懐く。
川本 相米二
川本家の祖父。三月町にある和菓子屋・三日月堂の店主を務めている和菓子職人。孫娘たちのことを一番に考えており、なかでも三女の川本モモを溺愛している。自身も将棋を指しており、プロ棋士の桐山零の対局には関心を示している。ある日、三日月堂の作業場で倒れ、数日入院してしまう。
二海堂 晴信
プロ棋士。幼少期の対局をきっかけに、桐山零の「終生のライバル(心友)」だと自称している。A級棋士である島田開の弟弟子であり、零と同じく島田の研究会に所属している。ぷっくりとしたふくよかな体型は、腎臓を患っている影響から。常に執事の花岡がついており、彼の健康状態をいつも気にかけている。
島田 開
A級棋士。痩身で頭髪が薄く胃痛持ちと、幸が薄そうな印象に見える。桐山零を自らが主催する研究会に誘い、同じく研究所に所属している弟弟子の二海堂晴信は「坊」と呼んでいる。故郷や将棋にかける情熱は凄まじく、タイトルホルダーとなって故郷に錦を飾ることを目標としている。名人の宗谷冬司とは同じ年齢で奨励会の同期の関係。
幸田
プロ棋士。桐山零の実父の友人で、身寄りのない彼を内弟子として幸田家に引き取った。実子である幸田香子と幸田歩よりも養子の桐山零に将棋の才能を見出したことで反感をかってしまうが、幸田自身は理解できていない。最近は家に帰ってこない香子との親子関係に悩んでいる。
幸田 香子
幸田家の長女で桐山零の義姉。将棋一家に生まれたため幼い頃から将棋を指していたが、その才能に区切りをつけた父親により奨励会を辞めさせられたことで桐山零との溝をさらに深めていく。過激で直情的な気性を持つが、時折弱さを見せることもある。既婚者の後藤に好意を抱いている。
幸田 歩
幸田家の長男で桐山零の義弟。桐山零に将棋の腕を追い抜かれて落ち込み、幸田香子と同じく父親により奨励会を辞めさせられたことで、部屋にこもってテレビゲームばかりするようになった。才能を持つ桐山零を妬み、彼に対して辛辣な態度を取る。
リスポッケ先生
『3月のライオン』に登場する、教育番組のキャラクター。見た目は普通のリスで、いつもドングリを持っている。司会のお姉さんのポケットに住んでいるという設定がある。川本ひなたと川本モモが好んで見ており、ひなの持つ鍵にはリスポッケ先生のキーホルダーが付いている。
宗谷 冬司
桐山零と同じく中学在学時にプロ棋士となり、作中において史上最年少で名人位に就いた天才棋士。透明感のあるミステリアスな存在で、桐山零は「神さまの子供」と称している。ストレスが原因とされる突発性難聴の障害を抱えており、「聞こえる」「聞こえない」を行き来している。
柳原 朔太郎
棋匠のタイトルホルダー。日本将棋連盟の会長を務める神宮寺崇徳とは「徳ちゃん」「朔ちゃん」と呼びあうほど仲が良い。飄々と明るい性格だが、老いつつも現役で戦っている将棋への闘士は底なし。A級棋士の島田開とのタイトル戦に勝利し、棋匠の永世位を獲得した。
隈倉 健吾
A級棋士。隈倉健吾が対局中にケーキを食べる「おやつタイム」が名人戦の名物となっている。名人戦の第69期では、あと一勝で名人位奪取というところまで上り詰めるも宗谷冬司に敗北してしまう。その後、泰然とインタビューに答えていたが、部屋の壁を破壊するほど悔しさを露にした。
後藤
A級棋士。剛直な風貌と危なげな空気も持つが、同じプロ棋士の島田開が馬鹿にされたときは怒りをあらわにした。長期入院中の妻がおり、好意を向けられている幸田香子に対してはそっけない態度をとっている。また、そのことが原因で桐山零に詰め寄られた際、暴力をふるった。
辻井 武史
A級棋士。「ドロ試合だけにドロー」「(天童市のイベントで)ラブミー・テンドゥ」とダジャレが好きで、対局中もよく呟いている。また、テレビに映りたい一心でインフルエンザを隠して立会人をしようとして隔離されたことも。奇行・珍言が目立つが 眉目秀麗なので「残念なイケメン」と言われている。
土橋 健司
A級棋士。名人の宗谷冬司とは幼少期からのライバルで、第70回名人戦では挑戦者となり対局するが、フルセットの末に敗北。生活のほとんどを将棋の研究に費やしており、A級棋士の島田開が「自分の努力など自己満足の範疇だったのでは」と話すほどの努力家。
林田 高志
桐山零が通う私立駒橋高校の教師。校内で孤立している桐山零を気にかけ、担任から外れた二、三年生時も一緒に昼食を食べるなど面倒を見ていた。将棋好きで、将棋雑誌・将棋世界の詰将棋サロンページに投稿作品が採用されたこともある。
野口 英作
桐山零が通う私立駒橋高校の生徒。桐山零より一つ上の学年だが、天然パーマと髭を生やした外見、落ち着いた雰囲気から年上に見られることが多い。放課後理科クラブ(放科部)の部長で、「学校で自給自足は可能か」をテーマに数々の実験を行っていた。
高橋 勇介
川本ひなたの元同級生。実家は牛乳屋を営んでいる。将来はプロ野球選手を目指しており、中学卒業後は推薦で四国の高知義塾へ進学した。中学時代に川本ひなたがいじめられていた際、昼休みにキャッチボールへ誘っていた。
三角 龍雪
B級棋士。桐山零の良き先輩であり、「スミス」と呼ばれ棋士たちから親しまれている。180cmもある長身で、服装は柄物のシャツやネクタイ、髪型はボブカットとオシャレな格好。A級棋士の後藤との対局に敗北した後に子猫を拾い、「いちご」と名づけて可愛がっている。
横溝 億泰
B級棋士。指導将棋が上手く、大盤解説でもいつも飄々と軽快に解説している。B級1組の順位戦最終局で疫病神と疎まれる滑川臨也に敗北し、B級2組への降級。その対局がトラウマになり調子が戻らずにいたが、雑誌のインタビューで滑川の心情を知る。
誠二郎
川本家の父親だが、現在は家を出ている。つまづくととことん脆く、自分の弱さを他人へと責任転嫁し続け、浮気をきっかけに離婚へと至った。離婚後は音信不通だったが、川本相米二が入院した直後に川本家を訪れて、新しい家族との同居を提案する。
高城 めぐみ
川本ひなたの元同級生。川本ひなたのクラスで行われていたいじめの首謀者。学年主任や学校全体によるいじめ問題への介入後、謝罪をして事態を収めるが、その態度から反省の色は見えない。また、娘を信じているという、モンスターペアレントの母親を持つ。
美咲
『3月のライオン』に登場する川本家の伯母。銀座のスナック「美咲」のママとして働いている。店のホステスに川本あかりを雇ったのも、彼女を家事と育児で家に閉じ込めないようにと考えたため。川本家に誠二郎が戻ってきたときは「あの男に好きなようには絶対させない」と話していた。
集団・組織
幸田家
『3月のライオン』に登場する一家。桐山零が引き取られた先の将棋一家。実子である幸田香子幸田歩と内弟子としてやってきた桐山零を比較し続け、家庭内にヒビが入ってしまう。罪悪感を覚えた桐山零は、一人暮らしを始めるため、中学卒業後にすぐ幸田家を出た。
川本家
『3月のライオン』に登場する一家。三月町にある古い一軒家。川本あかりと川本ひなたと川本モモの三姉妹が住んでおり、母親の美香子は早くに病死し、父親の誠二郎は浮気をして出奔している。酔い潰れていた桐山零を川本あかりが助け、今では家族の一員のように迎えている。
島田研究会
『3月のライオン』の登場するグループ。A級棋士の島田開が主催する研究会。研究会には島田開を主催に、二海堂晴信と重田盛夫と桐山零が所属している。重田盛夫と二海堂晴信は指し手について激しく口論することがあり、最近ではそこに桐山零も加わって島田開の胃痛をより悪化させている。
場所
三日月堂
『3月のライオン』に登場する和菓子屋。川本家の祖父である川本相米二が店主を務めており、川本家の姉妹も手伝いとして働いている。新商品のアイデア会議をした際、川本ひなたの案を元にした「ふくふくダルマ」は口コミで売り上げを伸ばし、三月町の名物として根付き始めている。
イベント・出来事
放課後科学クラブ
『3月のライオン』に登場する部活。私立駒橋高校にある部活の一つ。部長の野口英作を筆頭に科学の素晴らしさを伝えていたが、先輩が抜けて部員規定数を越えられず廃部の危機にあった。しかし、「将棋部」の桐山零が入部し、「放課後将棋科学部」として新しい部活を結成した。
クレジット
- 監修
-
先崎学
- 取材協力
-
日本将棋連盟 , 壽堂
関連
3月のライオン昭和異聞 灼熱の時代 (さんがつのらいおんしょうわいぶん しゃくねつのとき)
羽海野チカの代表作である『3月のライオン』のスピンオフ作品。日本将棋連盟現会長、第16世名人神宮寺崇徳の若かりし日々を描いた、昭和の激動の時代を駆け抜けた棋士たちの激動の記録。「ヤングアニマル」201... 関連ページ:3月のライオン昭和異聞 灼熱の時代
書誌情報
3月のライオン 17巻 白泉社〈ヤングアニマルコミックス〉
第1巻
(2008-02-22発行、 978-4592145110)
第12巻
(2016-09-29発行、 978-4592145226)
第13巻
(2017-09-29発行、 978-4592145233)
第14巻
(2018-12-21発行、 978-4592160243)
第15巻
(2019-12-26発行、 978-4592160250)
第16巻
(2021-09-29発行、 978-4592160267)
第17巻
(2023-08-29発行、 978-4592160274)