あらすじ
第1巻
時は戦国時代末期。代々人殺しを生業としてきた槐一族の長には、双子の息子がいた。兄の前馗は6歳にして殺人術を身につけた天才で、後継者の器ではないと判断された弟の後馗は里を追い出され、槐一族の使用人だった源徳によって密かに育てられた。10年後、「タツマ」と名を改めた後馗は、源徳が槐一族によって殺された事を知る。源徳は死の間際にタツマに、7つの寺を巡り、それぞれの寺で修行をおさめる「易筋行」を行うよう言い残していた。タツマは「易筋行」を行う旅を続けながら、源徳の仇討ちを目指すのだった。一方、タツマを追う槐一族からは、シャムの格闘技・モエタイをあやつる兄弟が刺客として現れる。死闘の末にかろうじて勝利を収めるタツマだったが、その直後に巌流小次郎と名乗る剣豪が現れ、タツマに襲いかかる。
第2巻
からくも巌流小次郎の剣から逃れたタツマは、「易筋行」の修行のために必要な7つの寺のうち、2つ目の寺を訪れた。だがその寺の和尚から、復讐に凝り固まった身では「易筋行」をおさめる事はできないと諫められてしまう。そんな中、小次郎を仇とつけ狙う男が現れ、タツマを小次郎と誤解して襲いかかってくる。タツマはその男との戦いを通じて、復讐心に捕らわれていた自身の未熟さを痛感する。 考えを改め、タツマが寺での修行を開始してからしばらく経ち、彼の前に槐一族からの刺客、猫目が姿を現す。苦戦の末にタツマは勝利を収めるが、猫目はタツマのスキを見て逃亡。その後、猫目は同じく蓮華の里から送り込まれた刺客である不比等と合流し、再びタツマの命を狙うのだった。
第3巻
猫目と不比等に苦戦を強いられるタツマだったが、そこへ秘剣、ツバメ返しを身につけた巌流小次郎が姿を現し、タツマに加勢する。だが、小次郎の真の目的はタツマの救援ではなく、不比等とタツマの戦いの勝者と、自分が戦う事にあった。不比等があやつる槐一族の奥義「心の一法」のスキを見破ったタツマは不比等に勝利し、次いで小次郎も「易筋行」の修行で身につけた秘術で退ける事に成功する。槐一族の存在は、戦乱の世にあっていたずらに人の命を奪うだけのものと考えたタツマは、槐一族との決着をつけるため、戦いを経て意気投合した小次郎と共に蓮華の里を目指す。一方その頃、前馗もまたタツマの動きを察知し、蓮華の里での迎撃準備を進めていた。
登場人物・キャラクター
タツマ
蓮華の里で槐一族の後継者候補として生まれた青年。双子の兄、前馗との後継者争いに敗れ、蓮華の里を追われた。その後は源徳に引き取られ、彼のもとで修行を積んで独自の体術を身につけた。槐一族から送り込まれる刺客達と戦いながら、源徳の残した「易筋行」をおさめるため修行の旅に出る。幼い頃から野山を駆け巡り、動植物と触れ合って生活をしてきた事から、大自然を味方につけた戦法を得意とする。 蓮華の里にいた頃は「後馗」という名を付けられていたが、源徳よりタツマの名を与えられる。
源徳 (げんとく)
槐一族の使用人だった男性。もともとは明国の出身であり、独自の体術をあやつる事から槐一族に招かれ、その技術を伝える代わりに、槐一族で面倒を見てもらっていた。幼いタツマを連れて槐一族を離れたあとは、タツマに体術を仕込むと共に、自分の身に何かあった際には「易筋行」の修行を行う事を伝えていた。槐一族の送り込んだ刺客によって殺害される。
巌流 小次郎 (がんりゅう こじろう)
自ら編み出した剣術流派をあやつる剣豪の男性。「易筋行」の修行を行うタツマの前に現れ、その優れた体術に興味を抱いた事で戦いを挑む。剣術の達人で、大名に仕官して剣術指南役になる事よりも、人を斬る事を目的として剣を振るう。タツマとは二度にわたって戦うが、いずれもタツマの「易筋行」の秘術の前に敗れ、その後はタツマと共に槐一族と戦うために蓮華の里を目指す。 実在の人物、佐々木小次郎がモデル。
前馗 (ぜんき)
タツマの双子の兄。槐一族の後継者として育てられ、弟であるタツマが捨てられたあとは、蓮華の里の領主として里を治めていた。タツマの命を狙って猫目や不比等など次々と刺客を送り込むが、ことごとくタツマに敗れたため、蓮華の里にタツマを誘い込んで倒す事を企てる。弟のタツマとは6歳まで共に暮らしていたものの、肉親の情はまったくない冷酷非道な人物。
猫目 (ねこめ)
タツマを倒すために、蓮華の里から送り込まれた槐一族の刺客の男性。その名の通り、猫のような目をしており、伸縮自在の2挺の鎌を武器として戦う。タツマとの戦いでは鎌の動きを見切られて敗れるが、その後、戦陣「火輪の陣」でタツマに再戦を挑んだ。
不比等 (ふひと)
タツマを倒すために、蓮華の里から送り込まれた槐一族の刺客の男性。白髪だが、これは前馗に「心の一法」の修行をつけてもらった際に、恐怖を覚えた事によるもの。槐一族の持つ数々の殺人術に関心を示し、自ら実験台となる事を志願してその技術を身につけた。タツマとの戦いでは「心の一法」の間合いを見破られ敗れる。
武蔵 (むさし)
蓮華の里を目指すタツマと巌流小次郎の前に現れた謎の男性。剣豪として諸国を修行中の身であり、強い者を前にすると戦わずにはいられないという性分の持ち主。タツマはかろうじて武蔵を退ける事に成功はしたものの、もう一度戦ったら勝てないであろうと予感したほどの手練れ。実在の人物、宮本武蔵がモデル。
集団・組織
槐一族 (えんじゅいちぞく)
蓮華の里を支配する一族。一子相伝の殺人術を代々伝えており、その継承は伝承者の死をもって行われる。「心の一法」や「火輪の陣」など独自の戦闘術や戦法を編み出す一方で、シャムのモエタイなど海外の格闘技を取り入れたり、殺人術の進化・発展に余念がない一面もある。
場所
蓮華の里 (れんげのさと)
槐一族が支配する集落。この里で生まれた者は暗殺者として育てられる宿命にあり、槐一族と共に各地で戦乱を引き起こす元凶となっている。蓮華の里は周囲を山に囲まれた天然の要塞であり、外敵からの侵入の折には、里全体を戦陣として使用する事もできるため、防御力に優れた地形となっている。
その他キーワード
易筋行 (えっきんぎょう)
インドから明国に伝わる、大陸を発祥とする格闘術で、修行をおさめる事により、筋肉や骨など、人体を構成するものを強靭に作り変える事ができるようになる。日本にやって来た源徳はこの修行をおさめているが、かつて身を寄せていた槐一族には伝えず、自身が引き取ったタツマにのみ、その存在を教えた。
モエタイ
シャムの国で発展した格闘技。もともとはシャムの国における王家の護身術として編み出されたもので、その後、他国との戦争にも使用されるようになった事からシャムの国における「国技」ともなっている。膝蹴りや上段への回し蹴りなど蹴り技が主体の格闘技だが、肘打ちなど手技も多彩で、組み技が主体の戦国時代の日本では返し技が存在しないといわれている。
火輪の陣 (かりんのじん)
槐一族が編み出した戦陣。複数の兵士が二重に輪を作るように標的を囲み、外側の輪と内側の輪とで異なる動きをする事で標的を惑わせながら接近する。陣の一部が破られても、すぐに別の兵士を補う事ができる攻防一体の戦陣であり、標的となった者は逃げ場を失う。
心の一法 (しんのいっぽう)
自身の気合を相手に飛ばし、その相手の動きを封じる槐一族の奥義。相手との距離が近いほど強力な気合を飛ばす事ができる。不比等が使用した場合は、相手の筋肉を萎縮させて動きを止めるものだが、熟練者の前馗は、相手の心臓をも止める事ができるほど強力な気合を発する事ができる。
ツバメ返し (つばめがえし)
巌流小次郎が操る秘剣。小次郎が、タツマとの戦いに一度敗れたタツマを倒すために編み出した。上段から剣を振り下ろした直後、瞬時に手首を返して逆方向に斬りつけるという技で、想像を絶する速度の二連撃により、相手に剣をかわすスキを与えない。