あらすじ
第1巻
さえない動画を配信している青年の坂本哲平は、特ダネの動画を撮るために民間軍事企業、WSECに就職した。軍事施設という事で録画用の機材は取り上げられてしまったが、哲平が左目に隠し持つ電子義眼は気づかれなかった。兵士としての訓練のため、「ワーテルロー」と呼ばれる仮想現実空間に送り込まれた哲平は、そこでスコット・ゲラー、朱可馨、アルベルト、セバスチャン・ツォラーら同期生と出会う。戦場で得点を稼ぐ事よりも、いい動画を撮りたい一心の哲平は、スコットランド人の傭兵隊長のハミルトンや、高名なナポレオン・ボナパルトらのインタビューに成功する。だが、ナポレオンの部下の手で刺し殺された哲平は、気がつけば現実世界のベッドの上で横になっていた。
第2巻
坂本哲平が送り込まれた新たなる訓練フィールド「ノルマンコンクエスト」は、11世紀のイングランドを模した世界だった。前回の「ワーテルロー」では、戦争参加に耐えられる身体能力がプログラム処理によって与えられていたが、今回は現実世界と同じ体のまま戦争に参加する事態になったため、哲平は武器を持ち上げる事すらできない。そんな中、哲平と仲間たちは指揮官であるハロルド2世の知遇を得て、行軍しながら特別な訓練を受ける事になる。しかし、ハロルド2世の主力部隊が奇襲を受けて壊滅するという、史実とはまったく違う展開が発生。手駒がなくなってしまったハロルド2世は、部下に裏切られて捕虜になった振りをして敵将のハーラル3世の陣中に赴き、不意を突いてハーラル3世にくみしていた自らの弟、トスティグを討ち取る事に成功する。さらにハロルド2世は、新たなる敵のノルマンディー公ギョームを相手にするため、ハーラル3世に対して共闘を申し入れる。
登場人物・キャラクター
坂本 哲平 (さかもと てっぺい)
大学を卒業後、3年ほど動画の配信をしている青年。年齢は25歳。WSECへの応募をきっかけに、「ワーテルロー」「ノルマンコンクエスト」の訓練に立て続けに送り込まれる事となる。大断絶の際に左目を失っており、代わりに撮影や録画機能を持った電子義眼が入っている。
朱 可馨 (じゅ くーしん)
WSECの訓練兵である若い女性。坂本哲平が、仮想現実空間「ノルマンコンクエスト」の訓練に参加した際には、唯一の女性兵士だった。台湾出身と自称しているが、実際には中国大陸の生まれ。戦意旺盛で、新兵の中で虎視眈々とトップを狙っており、同僚と慣れ合う事を好まない。哲平からは「クーちゃん」と呼ばれている。
スコット・ゲラー
WSECの訓練兵である年齢不詳の男性。イスラエルの出身で、ニヒルな皮肉屋。坂本哲平とは仮想現実空間「ワーテルロー」の訓練で出会って以来、行動を共にする事が多い。「ワーテルローの戦い」においてはひたすら逃げる事に徹し、訓練終了まで生存した。
アルベルト
WSECの訓練兵である年齢不詳の男性。ドイツ人で、貴族の血筋を引いている。セバスチャン・ツォラーと行動を共にしている事が多い。「アルベルト」と名乗っているが、ケイン・ファレルには「アルベド・ランダ」と呼ばれており、どちらが本名なのかは不明。
セバスチャン・ツォラー
WSECの訓練兵である年齢不詳の男性。ドイツ人で、貴族の血筋を引いている。アルベルトと行動を共にしている事が多い。高慢な性格で、アジア系である坂本哲平や朱可馨に対する差別意識を隠そうともしない。仮想現実空間「ノルマンコンクエスト」の訓練で一度死亡したあと、再度申し出て訓練に参加した。
ケイン・ファレル
WSECの「New Soldier Creation」部門の責任者を務める中年の男性。新兵たちの中にスパイがまぎれ込んでいるという情報を得て、坂本哲平、朱可馨、スコット・ゲラー、アルベルト、セバスチャン・ツォラーらに疑いの目を向けている。
ブラウン
WSECの「New Soldier Creation」部門を管理している若い博士の女性。「ワーテルロー」「ノルマンコンクエスト」などの仮想現実空間を作り上げた張本人であり、またレッドタピルスⅡの製作者でもある。想定外の行動で、訓練の場をかき乱すセバスチャン・ツォラーの行動を苦々しく思っている。
ハミルトン
仮想現実空間「ワーテルロー」の中に登場した、スコットランド人の傭兵隊長を務める男性。階級は大佐。坂本哲平らと遭遇した時は既に腹部に致命傷を負っていたが、ナポレオン・ボナパルトと一戦交えたいという願望から、自らの傭兵隊のスコッツグレイを率いて突貫を試みる。実在の人物、ジェームズ・ハミルトンがモデル。
ナポレオン・ボナパルト
仮想現実空間「ワーテルロー」の中に登場した、フランス軍の指揮官を務める男性。自らの陣中深くにせまったハミルトン率いるスコッツグレイを最小の被害で撃退し、その後自分の前に現れた坂本哲平に対し、英雄とは何かについての持論を展開した。実在の人物、ナポレオン・ボナパルトがモデル。
ハロルド2世 (はろるどにせい)
仮想現実空間「ノルマンコンクエスト」の中に登場した、イングランドの王を務める男性。カリスマ的な才能を持った指導者だが、割と屈託のない性格の持ち主でもある。ノルウェー軍の奇襲によって手勢を壊滅させられたため、策を弄してノルウェーの陣中に潜入し、弟であるトスティグを討ち取った。実在の人物、ハロルド2世がモデル。
トスティグ
仮想現実空間「ノルマンコンクエスト」の中に登場した、ノルウェー軍の将軍を務める男性。ハロルド2世の弟なのだが、王位を簒奪(さんだつ)するべく、ハーラル3世と手を組んで英国を侵略している。仮想現実空間の中では、一騎打ちの末にハロルド2世によって討ち取られた。実在の人物、トスティグがモデル。
ハーラル3世 (はーらるさんせい)
仮想現実空間「ノルマンコンクエスト」の中に登場した、ノルウェーの王を務める男性。トスティグが一騎打ちでハロルド2世に敗れたあと、ハロルド2世と同盟を結び、ノルマンディー公ギョームの軍勢を迎え撃つべく、ヘイスティングスに向かう。実在の人物、ハーラル3世がモデル。
集団・組織
スコッツグレイ
「ワーテルローの戦い」に参戦した、ハミルトン率いるスコットランドの傭兵騎馬隊。欧州一ともいわれる荒くれ者の集まりで、正式名称は「第二竜騎兵連隊」。史実では、ワーテルローにおいてはあまり活躍せずに敗北しているが、仮想空間上のスコッツグレイは敵中を突破、ナポレオン・ボナパルトの本陣に猛然とせまった。
WSEC
世界最大の企業であるAngle(アングル)社を親会社に持つ、大手民間軍事会社。「New Soldier Creation」という部署で、「ワーテルロー」「ノルマンコンクエスト」などの仮想現実空間を利用した新兵の訓練を行っている。
場所
ワーテルロー
史実では1815年のベルギーで起こった、ナポレオン・ボナパルトの最後の戦争である「ワーテルローの戦い」を模した仮想現実空間。WSECの訓練兵である300名ほどが、ナポレオンと敵対する側で参戦した。訓練兵たちの目的はナポレオンを討ち取る事であったが、結局誰もその目標は果たせないまま、訓練は終了する。
ノルマンコンクエスト
史実では1066年のイングランドで起こった、「スタンフォードブリッジの戦い」と「ヘイスティングスの戦い」を模した仮想現実空間。WSECの訓練兵である50名ほどが、ノルマン人を迎え撃つイングランド軍の側で参戦した。ハーラル3世の軍に潜入したセバスチャン・ツォラーの暗躍などもあって、史実とは大幅に異なる展開になっていく。
その他キーワード
大断絶 (だいだんぜつ)
10年前に発生した、人類初の大規模な文明退行。「GAYLA(ゲイラ)」と呼ばれる巨大なデバイスが空中に打ち上げられ、その影響によってAI、兵器などが機能を失った。人命の損失も少なからずあり、坂本哲平はこの際に母親と片目を失っている。
レッドタピルスⅡ
仮想現実空間「ノルマンコンクエスト」の訓練から導入された、WSECの最新鋭機器。仮想現実空間内での行動がすべて現実の体に反映される、つまり仮想現実空間で体を鍛えれば現実の体もたくましくなるという仕組みになっている。外傷や、死に至るほどのダメージなどは情報として遮断される。