概要・あらすじ
1945年9月9日正午、東京・新橋の焼け跡に現れた男在津龍治(ザジ)は、その日に至るまでの一切の記憶を失っていた。焼け跡で出会ったヤクザの花巻市太(イチ)を始め、様々な人々と出会い、ザジは自分の居場所と正体を探ろうとする。その後、テキヤの音輪会に拉致されたイチを助けるため、ザジは裏社会に足を踏み入れる。戦後の日本を支配しようとする中国マフィア蒼龍会の介入によって抗争は激化し、多くの人が命を落としていた。絶望のなかで、何者かの悪意によって自分が抗争の中心に送り込まれたかのような違和感を覚え始めたザジだったが、突如1945年の世界は消滅した。 一方、西暦2239年の世界を支配する人物猊下は、叛逆者ザイツ侍官たちの精神を、1945年の東京を再現した仮想空間博物空間1945(エバーランド)の中に幽閉していた。再び記憶を奪われたザイツ侍官は、9代前の先祖である在津龍治として、もう一度1945年を体験し始めるのだった。
登場人物・キャラクター
在津 龍治 (ざいつ りゅうじ)
20歳ほどの復員兵姿をした男で、額にあざのような印がある。1945年9月9日正午以前の記憶を失っている。父親の在津龍一は上海の特務機関長であり、その関係で上海で暮らしていた。従軍中は南京の参謀本部作戦部に所属。終戦後、上海マフィアに暗殺された父親の葬儀に出席し、日本へ帰国した。自分の過去や社会情勢に関する記憶は失っているが、言葉は覚えている。 また、18歳ごろに上海で意拳を体得しており、無意識的に意拳の技術を使うことができる。通称の「ザジ」は、劉斎斗が意識せずにそう呼んだことから名付けられた。寛容な性格の持ち主で、過去よりも9月9日以降に新しく知り合った人のことを大切に感じている。銀からは「最悪の運勢」を持ちながらも「あらゆるエネルギーを引き寄せて成長する人間」と評される。 関東朝本組の花巻市太たちと知り合ったことで、日本人裏社会と中国マフィアたちの抗争に巻き込まれる。実は9代後の孫にあたるザイツ侍官の精神を繋がれた博物空間内の人間。戦いの中で自分を取り巻く状況に違和感を覚え始め、次第にザイツ侍官たちの戦いを認識し始める。
花巻 市太 (はなまき いちた)
新橋に縄張りを持つ関東朝本組に所属するヤクザの男。裏社会の人間でありながら、情に厚く裏表のない性格。焼け跡で出会った在津龍治が記憶を失っていることを不憫に思い、面倒を見ようとする。博物空間1945内の人間であり、初登場時は火野零次の弟分。零次の死亡した作中二回目以降の博物空間内では、関東朝本組若頭として登場する。
劉 斎斗 (りゅう さいと)
蒼龍会に所属する中国マフィア。酷刑執行人という異名を持つ、大柄で筋肉質の男。尊大な性格の持ち主で、雇われているだけの蒼龍会に対する忠誠心はなく、独自に行動することが多い。初対面であるはずの在津龍一に既視感を覚え、同時に敵愾心を抱く。博物空間1945内に収容されたZAPの一員で、みぞおちに囚人符号(ザップコード)を持つ。
火野 零次 (ひの れいじ)
関東朝本組若頭のヤクザ。切れ長の目にオールバックが特徴の男。冷酷で好戦的な性質から、敵対勢力との抗争に臨む朝本組組長朝本義助からの信頼が厚い。戦闘では長ドスを好んで使い、誕生日別性格診断に詳しい。在津龍治の体術を見込み、島田組や蒼龍会との抗争に備えて、彼を朝本組に引き入れようとする。蒼龍会との抗争で死亡する間際、自分がZAPの一員であることに気づき、モナコの正体にも迫るが、管理官・雅修によって射殺される。
銀 (ぎん)
闇市でバーボナンザを経営する女。右目に眼帯をしている。占いが得意で、鋭い人間観察力を持つ。進駐軍に人気が高い。在津龍治のことを最悪の運勢を持つ人間だと占い、混乱を避けるために自分の家に引き取る。博物空間1945内の人間だが、ZAPと管理官のことを「違和感をもつ人間」として認識することができる。
ジーザス
焼け跡に住む、長髪でボロボロの服を着た男。予言者めいた意味不明なことを口走るため、闇市の人間からは「ジーザス」と呼ばれている。下腹部に在津龍治のものと似た印を持ち、同じ印を持つ武居信(ノブ)たちのことを「ザップ」と呼ぶ。ZAP参謀であった記憶の一部を持ち、博物空間1945内のZAPを探しだしてザイツ侍官を助けようとしているが、記憶を保持する代償として正気を失っている。
黛 環 (まゆずみ たまき)
銀の持つビルに間借りしている男。長身のオカマで怪力の持ち主だが、戦後「乙女として可愛らしく生きる」ことを誓っており、荒事を嫌う。禿げ上がって傷跡のある頭にカツラを被っている。また洋裁が得意なためか、何種類もの女性服を持っている。カツラも何種類か所持しているようで、登場するたびに髪型と服装が変わる。在津龍治にはひと目で好意を抱いた。 蒙古斑ができる位置にザジのものに似た印を持つ。
音山 象三郎 (おとやま しょうざぶろう)
テキヤ音輪会三代目の男。1945年9月9日の夜に戦地から帰還する。豪快で情に厚い性格。父親譲りの啖呵で周囲を煽り立てる術に長ける。テキヤのあり方にこだわりがあり、喧嘩より縁日が本分と考えているため、関東朝本組を中心とする抗争に関わろうとはしない。ただし喧嘩の腕は立ち、ただの張り扇で殴った相手を気絶させるほど。 博物空間1945内の人間でありながら、在津龍治とZAPたちの戦いに並ならぬ忠義心を感じ取り、協力しようとする。
木村 鉄造 (きむら てつぞう)
テキヤ音輪会幹部の老人。顔に拷問で受けた傷跡を持つ男。テキヤだが、明治時代からいくつもの修羅場をかいくぐってきた凶暴な武闘派であり、裏社会ではヤクザにも一目置かれる存在。病床の二代目音輪正二郎に代わり、音輪会を支えている。
加納 千代蔵 (かのう ちよぞう)
関東朝本組に所属するヤクザの男。花巻市太とは子供の頃から友人同士で、作中二回目の博物空間1945でイチが若頭となった時でも対等の関係。イチと二人で状況を混乱させる役回りで、猊下からは「あほすぎて悲しくなる」と評されるほど。愛車はダットサン。
黒艶 (こくえん)
上海マフィア五凶星の一人。流派は不明だが、指先で急所を狙う武術を使う男。作中一回目の博物空間1945では、蒼龍会に雇われており、関東朝本組や音輪会との抗争で現れる。二回目の博物空間では楊宝徳に雇われている。管理官のリーダー的存在であり、雅修をはじめとするほかの管理官からは「黒艶長官」と呼ばれている。 博物空間の秩序の保全を優先して行動している。そのため絶対的支配者である猊下の振る舞いに反発することも多く、たびたび上申を行っている。
雅 修 (みやび しゅう)
関東朝本組に所属するヤクザの一人。落ち着いた性格の男で射撃の名手。戦時中、同じ司令部にいた朝本義助と知り合い、その後成り行きで朝本組の構成員になったという設定だが、実は管理官の一人。在津龍治とZAPたちを監視している。作中一回目の「巡環」が起こる間際、記憶を取り戻してモナコに手をかけようとした火野零次を射殺する。
朝本 義助 (あさもと ぎすけ)
関東朝本組組長の男。中国マフィア蒼龍会との抗争に備えるため、兵力を蓄えている。戦後強引なやり口で急速に勢力を伸ばしてきたので、近辺のヤクザ島田組やテキヤの音輪会とは緊張関係にある。在津龍治の父親在津龍一に柔道を習った経験がある。
武居 信 (たけい のぶ)
床屋の男。作中二回目の博物空間1945から登場。年齢は34歳で、不思議な威厳をたたえている。焼け跡で在津龍治と知り合い、無意識のうちに彼のことを「ボス」と呼ぶ。右手の甲に龍治の額にあるものと似た印を持ち、ジーザスから「ザップ」と呼ばれる。ザジやジーザスと関わるうちにZAPたちの戦いの真相に気づき始める。 ジーザスのアジトに住み、宮地昭一と共に博物空間からの脱出方法を探ろうとする。
楊 宝徳 (よう ほうとく、やん ぱおとう)
作中二回目の博物空間1945で登場する中国人スパイ。年齢40歳ほどの男。戦後、在津龍治の父在津龍一を殺害し、特務機関の工作資金約5000万円を奪った後に来日。蒼龍会を裏で操り、新橋の闇市を華僑勢力によって支配しようと企んでいる。劉斎斗や黒艶を部下にするが、彼らと関わるうちにZAPと猊下の抗争に気づき始める。
宮地 昭一 (みやじ しょういち)
銀行の臨時職員で、ジーザスのアジト近くに住む男。作中二回目の博物空間1945で登場する。銀行に勤務しながら、戦争で持ち主のいなくなった口座を集め、資金を蓄えている。首筋に囚人符号(ZAPコード)を持つZAPの一人。偶然「巡環」による記憶のリセットを免れている。ジーザスの言葉を分析することにより、自分たちの置かれている状況を把握しはじめている。 武居信と協力して博物空間からの脱出手段と、記憶のリセットを免れる方法を探ろうとする。
モナコ
新橋の焼け跡に住む浮浪児。たびたび在津龍治の前に現れ、挑発的な言葉を投げかける。また、浮浪児たちをけしかけて龍治の荷物を奪ったり、蒼龍会に金を与えて関東朝本組との抗争を煽るなど、暗躍している。博物空間1945内の人物だが、猊下が精神を繋いでいる。
ザイツ侍官 (ざいつじかん)
西暦2239年の世界で、ZAPたちを率いて体制に叛乱を起こした男。詳しい経緯は不明だが、そのため猊下によって身柄を拘束されており、精神を博物空間1945内に住む自分の9代前の祖先在津龍治に繋がれている。
猊下 (げいか)
西暦2239年の世界の支配者で、享楽的な性格の男。叛乱を起こしたザイツ侍官を拘束し、その精神を博物空間1945内の在津龍治に繋いでいる。またZAPたちも博物空間内に送り込み、彼らが博物空間で起こる抗争に巻き込まれる様子を、大衆に向けて演劇のように公開している。
貎 (げい)
博物空間1945にエネルギーを供給する機構。巨大な獅子のような顔を持ち、言葉を話す。猊下によってコントロールされているが、独自の人格を持っているようで、ZAPたちを博物空間内に拘束したり、ザイツ侍官や猊下の精神を博物空間内の人物に接続することは反対している。
場所
博物空間1945
貎の内部に存在する空間。過去の特定の場所と一定の時間を切り取って再現する機能を持つ。再現時間が終了すると、起点となった時間に戻って再現を始める「巡環」と呼ばれる現象を起こす。管理官以外の人間が持つ記憶は、「巡環」によって基本的にリセットされる。作中に登場する博物空間1945では、東京都心の新橋周辺約10キロ四方、1945年9月9日正午から約一年間を再現している。 ZAPたちを拘束するようになってからは、猊下によって「エバーランド」と名付けられるが、本来想定していない運用によって不安定な状態になっている。管理官やZAPによる過剰な介入があった場合、緊急停止的に「巡環」を起こす。
その他キーワード
ZAP (ざっぷ)
西暦2239年の世界で、体制に叛乱を起こした集団。ボスであるザイツ侍官以外は、囚人として博物空間1945内に肉体ごと拘束されている。その際に偽の記憶と役割を与えられ、自分たちのことを1945年当時の人間だと思い込んでいる。体のどこかに囚人符号(ザップコード)と呼ばれる印をつけられている。博物空間内に再現された人間と違い、一度死亡すると「巡環」を経ても復活しない。 総数は数十人と思われる。
管理官 (きゅれーたー)
博物空間1945を管理している人間たち。1945年の人間として博物空間内に潜み、ZAPを監視している。本来は学術研究用だった博物空間を開発・管理し、過去の時空間を観察する役割の科学者である。猊下の命令に従って行動しているが、ZAPや管理官たちの介入によって博物空間が不安定になることに反発している。
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