幼い頃からの夢に破れて自殺しようとした主人公が、死ぬ場所を探しているうちに猫耳の不思議な少女に出会い、妖怪の住む村へと辿り着くハートフルな妖怪ファンタジー漫画。鉄道会社に勤める31歳の宮沢ジョウジの夢は運転士だったが、現実はクレーマー対応の事務仕事ばかり。上司に運転士になりたいと相談するも「いい年でまだ夢とかばかばかしいこと言ってるのか」と一蹴されてしまう。この世に失望したジョウジは、人生最後の思い出にと電車を乗り継ぎ、田舎の無人駅に降り立つ。
「この世は最悪だと思う」と死に場所を求めていたジョウジだったが、田舎の澄んだ空気と風景に触れ、「ここで余生を送るのも良いかも」と前向きな気持ちになる。そんなジョウジの前に猫耳の少女が現れ、彼女の姿を追っていくうちに、夜にもかかわらず賑わいのある見たこともない駅に辿り着く。好奇心に駆られ「特別夜行列車 猫又駅行き」という聞きなれない電車に乗ったジョウジだったが、電車は運転士の急病により急停車し、ジョウジが運転することに。人間と妖怪が共存する何とも不思議な「猫又村」。妖怪と言うと恐ろしいイメージを抱くかもしれないが、この村の妖怪たちは人間の文明によって居場所をなくしたモノたち。現実社会で居場所をなくしたジョウジと妖怪たちの何とも不思議な共同生活は、読んだ後に温かい気持ちにしてくれる。
物に宿る念を見聞きすることのできる骨董屋の店主が織り成す、摩訶不思議な歴史ファンタジー漫画。舞台は明治の末。骨董屋「夢堂」の主人で京都一の鑑定士と誉れ高いゆめじいさんの元には、日々様々な古道具や骨董品、人形などが持ち込まれる。しかしながら、どんな優れた贋作や腕利きの詐欺師をもってしても、ゆめじいさんの鑑定眼を欺くことはできない。なぜなら、ゆめじいさんには他の人にはない特殊な能力が備わっているからだ。
長く人に愛でられ、大切にされてきた物にはその持ち主の「念」が宿ると言われる。ただ、念には様々な種類があり、中にはその物を所有するすべての者に呪いや災いをもたらす場合もある。主人公のゆめじいさんはあらゆる物に宿る念を感じる能力を持っており、また「物には在るべき場所がある」という強い信念の持ち主でもある。それゆえ、素人目からすると小汚い、何ら価値のない雛人形でも、そこに宿る強い念を感じた時には法外な値段で買い取り、その人形にふさわしい相手に渡すのである。先に挙げた雛人形は、その顔が亡くなった母親に似ているという理由から幼い兄妹の手に渡った。前の持ち主には災いをもたらした人形は、在るべき場所である幼女の胸に抱かれて優しい顔に戻っていた。作者独特の世界観に包まれた切なくもあたたかで優しい作品。
夢や希望を失い路頭に迷った人々が、不可思議堂という店で買った「特別な商品」で失った人生を再建していくファンタジーヒューマンドラマ漫画。事故や災害で親を失った子供たちを育てる施設「あすなろの里」で働く阿部川雄二は、創業者である財団の当主が危篤に陥ったため、財団関係者から施設を閉鎖すると言い渡される。「残された子供たちをどうするか」と悩んでいた雄二は「不可思議堂」という店の前を通りかかり、吸い寄せられるかのように店の扉を開く。
店に入ると、中には何とも不思議な雰囲気の老若二人の女性、不可思議無量(むりょう)と穣(じょう)がいた。店内に商品が何も置いてない事に疑問を抱いた雄二が尋ねると、「この店の商品はお客さんに決めてもらう。あなたの失ったモノを売るのじゃ」と老婆の無量が答え、「わたしが力になってやろう」と悩んでいる理由を話すよう促した。雄二がすがりつくような思いで今までのいきさつをすべて二人に告白すると、「あんたが必要としている物を売ってあげるよ。少し値ははるけど。」と答える無量。雄二は騙されているのではないかと疑惑を抱きながらも、藁にもすがる思いで高額の商品を購入する。人が店を選ぶのではなく店が人を選ぶ不可思議堂は、誰もが入れる場所ではない。つまりは「神は自ら助くる者を助く」を地でいく作品なのである。
幼い頃に傭兵団に拾われて育てられた主人公が、傭兵団の壊滅によって新人冒険家の道を選択する、王道ファンタジー系冒険バトル漫画。物心付いた頃から傭兵団の中で育ち、腕の立つ傭兵となったロレン。傭兵生活にはさすがに危ない場面も多数あったが、何とか乗り越えてきた。だが、勝ち戦と思って参加した仕事が思いがけず負け戦に転化した結果、傭兵団は壊滅状態に。仲間ともはぐれてしまったロレンはある街に辿り着く。
命からがら逃げのびたロレンの目の前には「冒険者ギルド」の建物が在った。冒険者とは登録さえすれば誰でもなれ、傭兵同様に放浪しながら仕事を探して報酬をもらう職業である。ところが持ち金がほとんどなく、銅級の冒険者として登録したロレンにできる仕事は限られており、一人では危険が伴う。どの仕事を受けるべきか迷っていると、金髪の青年サーフェから「うちのパーティの前衛に入ってくれないか?」とゴブリン討伐の誘いを受ける。舞台が異世界のため、パーティの仲間には魔術師あり、神官ありと、まさに王道ファンタジー作品である。中でも神官のラピスは魔族であり凄いパワーの持ち主だが、ある理由で力を制限されている。物語は主人公ロレンとスーパーヒロインのラピスを中心に展開していく。
人間と恐竜が共存している前提の白亜紀末の北アメリカを舞台に、人が恐竜と関わりながら生き抜いていく本格恐竜系冒険ファンタジー漫画。「竜の国」と呼ばれる王国は矮人族(ナノス)の住む山王国(ナノスランド)、巨人族(ギガス)の住む大洋王国(ギガスランド)、真人族(コモン)の住む海王国・森王国・平原王国の5つの国から成り立っていた。ナノスの少年ユタは一人前の竜使いになるべく、山王国から大洋王国へと向かう海王軍の案内役(ガイド)に全く経験のない身で挑戦する。
無謀な挑戦ながらも運よく案内役に採用されたユタだったが、相棒の竜は通称「ジサマ」の老竜パキケファロサウルス。動きはゆったり、肝心な時に道草を食うなど何とも頼りない。案内役として隊商の先頭を行くユタたちだったが、道中で突然、山王国には決して現れることのない低国の竜王「ティラノサウルスレックス」の襲撃に遭う。竜王の出現に逃げ惑う海王軍だったが、なぜかユタの相棒「ジサマ」だけは竜王から逃げるどころか接近していく。「ジサマを取るか、自分の命を選ぶか」と葛藤に苦しむユタの耳元に、「大丈夫だ、恐れずともよい」との声が聞こえてくるのだが……。恐竜と人間が共に暮らしていること自体がファンタジーではあるが、単行本内には「解説コーナー」も設けられており、自称「恐竜伝道師」の作者が描く内容は非常にリアル。恐竜もテレビや映画の怪獣とは異なり、生物としてきちんと表現されている。