第二次世界大戦が迫る時代が舞台の歴史ifストーリー。昭和8年、前年に満州王国を設立した日本は、欧米諸国との対立を深めていた。その時流の中で、大型戦艦「大和」の建造が計画される。だが、海軍少将の山本五十六は計画に反対。山本は不当に安い見積もりに疑問を抱き、その不正を暴くべく、数学の天才・櫂直(かい ただし)を海軍主計少佐に任命する。2019年実写映画化。
主人公の櫂直は、周囲からの期待が大きい天才的な数学発想を持った青年。帝大の学生だったが、家庭教師先の令嬢とのスキャンダルを疑われて退学になる。そんな彼に目を付けたのが、海軍少将の山本五十六だった。山本は、これからの戦争は航空戦が主体になると予見。しかし、過去の栄光から軍内部には、巨大戦艦建造を推し進めるムードが漂っていた。そこで、見積もりの不正を暴き予算面から計画を阻止すべく、山本は櫂を海軍に招く。軍艦の知識を持ち合わせていなかった櫂は、戦艦・長戸の寸法を自ら図り、それを元に大和建造を計画する。巨大な戦艦を「計算」するという、天才数学者の異色の戦いだ。
数学に挫折したかつての神童が、再び数学に挑む青春コメディ。横辺建己(よこべたてき)は、持前の記憶力の良さで、京都の名門・吉田大学理学部に合格するが、数学の授業で人生初の挫折を味わうことになる。板書の記憶はできても、その内容が全く理解できなかったため、入学2日目にして大学から足が遠のき、ついには留年。なんとか卒業しようと再び数学に立ち向かうことを決意するものの、理学部の友人、教授は奇人変人ばかりだった。
数学につまずいた経験を持つ人間は、世の中にたくさんいるだろう。本作の主人公・横辺もその1人だ。しかし、それまでは「数字に強い」と勘違いしていただけに、全く理解できなかった時の衝撃たるや凄まじいもの。そもそも、横辺にとっての数学とは、公式を覚えて問題を解くものだったが、数学を極めんとする者にとっては「理解するための学問」であり、「公式を覚えていなくても考えれば分かる」もの。金欠から福引で当たる確率を考え始めたり、トイレットペーパーから円の面積を考えたりする描写は見事。数学が苦手な読者でも、横辺と一緒に数学アレルギーを克服することができるかもしれない。数学について考えすぎるあまり、ちょっとズレている人々の言動も面白くて見逃せない。
天才的な数学の才能を持つ少年・関口はじめの成長物語。数学者・内田豊は、出身地の米作島に講演で訪れ、はじめと衝撃的な出会いを果たす。なんとはじめは、内田が母校の壁に書き残した数式に、独学で続きを書き足して完成させていた。彼に才能を見出した内田は、自分の住む京都へ呼び寄せ、数学者として育てることを決意。数学を通じて世界を見ようとする少年と、老年に差し掛かる数学者の魂の軌跡が感動的に紡がれる。
「数学的な才能」と聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるだろうか。老数学者・内田によると、数学にとって重要なものは「情緒」だ。「美しいものを美しいと感じるこころの目」すなわち「情緒」が、「世界に対して問いを発する」力を与えてくれると語る。そんな内田やはじめにとっては、「世界への問い」の唯一無二の表現方法が数学だと言えるだろう。内田の導きにより、数学の世界を、水を得た魚のように泳ぎ回る。とっつきにくいと思われがちな高等数学の世界だが、天真爛漫に育ったはじめの目を通すことで、学ぶ楽しさと共に、美しく心躍るものとしても読者の心に響くに違いない。
数学好きの「僕」と2人の女子高校生が織り成す、学園三角関係ストーリー。数学が趣味の男子高校生・僕は、中学時代から放課後の図書室で、数式を展開するのが日課だった。高校で数学好きの同級生・ミルカと出会い、彼女から出される問題を解く日々を送っている。そんな僕の前に、「数学を教えてほしい」という後輩・テトラも現れ、放課後の図書室で数学と微妙な三角関係が展開されていく。結城浩による人気小説シリーズのコミカライズ。
放課後の図書室で時間を過ごす男子生徒と女子生徒というと、甘美なイメージが付きまとう。しかし、本作の主人公・僕とその同級生・ミルカの会話は、数学にまつわることばかり。とはいえ、数学に興味のない人には理解しにくい会話を交わす姿は、傍から見れば恋人同士のようでもある。僕に想いを寄せる後輩・テトラが、やきもきしてしまうのも仕方ない。しかし、テトラも、恋心のみで「数学を教えてほしい」と申し出たわけではなく、数学を本当に理解したいという熱意の持ち主。数列パズルから始まって、フィボナッチ数列まで、3人の探求心は広がっていく。三角関係を見守っているうちに、読者も自然と解法へと導かれていってしまう、数学の参考書としても役立つ作品だ。
数学の知識で日常の疑問を解決する学園コメディ。数字に弱い文系女子高校生・一条まどかとバリバリの数学男子高校生・八神が織りなす、一話完結のショートストーリーだ。確率を使ったじゃんけんの必勝法や、統計のトリック、美人になれる法則「黄金律」といった、日常生活の中に潜む「数学」が次々と明らかにされていく。作者・タテノカズヒロは、『コサインなんて人生に関係ないと思った人のための数学のはなし』も手掛けた理系漫画家だ。
数学や数字に無頓着な人間にとっては気にならないようなことでも、数学にこだわりのある人間には許せない発言というものがある。たとえば、本作のヒロイン・まどかの「200%自信ない」という発言。バリバリの数学男子・八神は、数学的に誤った発言が許せなく、「200%なんて確率は存在しない」と、キレ気味に反応する。そんな八神のツッコミから始まる数学的解説によって解き明かされるのは、「残り物には福があるのは本当か」「告白するのとされるのとどっちが得か」といった日常の疑問。あるいは、「マイナス×マイナスがどうしてプラスになる?」や「分数の割り算はなんでひっくりかえす?」といった、そういえばどうしてだろう的な疑問まで。数学的ライフハックにあふれた作品だ。
江戸時代を舞台に、日本独自の数学「和算」を用いて謎を解くミステリードラマ。主人公・米倉律(よねくらりつ)の父は和算家で、現在失踪中だ。律は、算術の問題を巡って侍と言い争っていたところを、南町奉行所同心を務める中年男・深井転(ふかいうたた)に助けられる。それをきっかけに深井とコンビを組み、江戸の町で起こる難事件の解決に挑むことに。和算を使った推理を冴え渡らせるうちに、父・米倉円(まどか)失踪の謎にも迫っていく。
本作の主人公・律は、人並み外れた和算の才能を持つ少女だ。大好きな和算のこととなると、途端に夢中になり、後先考えずに行動してしまう。後に相棒となる深井との出会いも、和算がきっかけだった。円率(円周率)を用いなければ、円の面積を求めることはできないと主張する侍に対し、円率が分からなくとも、考え方次第で面積を求めることは可能だと食ってかかった律。実は、律が主張した「考え方」自体が、円周率を追求する過程そのものだった。独自にそれを考え出した律は、天才的な数学的なセンスの持ち主といえるだろう。しかし、町民が侍にたてつくのは大変なこと。深井の機転で命拾いすることになる。無鉄砲な律にハラハラもさせられるが、難題を和算で鮮やかに解決する姿には知的な爽快感を味わえるはずだ。