訳「これが、都から東へ行く人も、都へ見送ってここで別れ、知っている人も知らない人もここで会うという、逢坂の関なのですね」
第十首、蝉丸の歌。
百人一首には「逢坂」ということばがよく出てきて、この歌もそのひとつになる。
「行く・帰る」、「別れ・逢ふ」、「知る・知らぬ」という対句の表現が効果的に使用されており、また句の頭の「これやこの」で、蝉丸自身が逢坂の関を例に挙げて世の中全体を俯瞰し、憂いている様子がよく表現されている。
また、蝉丸は琵琶、芸能の名人として、芸能の神様としても崇められています。
訳「神代にも聞いたことがありません。龍田川を真っ赤な紅葉が覆い水を染め上げるのは」
第十七首、在原業平朝臣の歌。
漫画「ちはやふる」の名も、この歌から名づけられている。
この歌は五句目の「くくる」を「くぐる」とする解釈もあり、その場合は「龍田川を真っ赤な紅葉が散りばめ、その下を水が潜り流れることは」となる。
この歌は業平のかつての恋人である二条后に献上する屏風に描かれたものであるので、色彩を考えると解釈としてはこちらの方が適切なのではないかという考えを推す人もいる。
訳「小倉山の峰のもみじ葉よ、もしお前に心があるならばもう一度主上の御幸があるはずだから、その折までどうか散らずに待っていておくれ」
第二十六首、貞信公の歌。
「みゆき」には上皇の「御幸」と天皇の「行幸」が重ねられている。
「もしお前に心があるならば」というところが、叶わずとも願ってしまう悲哀を感じさせる。小倉山はこの貞信公の歌をもってして一躍紅葉の名所として名を馳せるようになったと言われている。
百人一首には、素敵な歌がたくさんあるので、どんどん紹介していきたいと思う。