作中最強の棋士、塔矢行洋名人が、後に棋士となる幼き日の息子の塔矢アキラに向かっていったことば。
将棋棋士の羽生善治名人は、「才能とはなにか」と問われた際、「才能とは情熱や努力を継続していく力」と答えている。
塔矢名人と羽生名人、全く同じことをいっているわけだ。
もちろん、努力をいくら続けても情熱をいくら持ち続けても、誰しもがプロ棋士になれるわけではないし、プロ棋士の中でも全員が名人になれるわけではない。
囲碁や将棋は独創の世界ですので、結果として敵わない相手がいるというのは厳然たる事実として存在する。
しかし、だからといって努力や情熱が無駄かというと、当然そんなことはない。
最高峰の名人が言うからこそ、響くことばである。
瓢々とした策士家、桑原本因坊のことば。
ヒカルやアキラの将来を見据えて放った、なんとも含蓄に溢れることばである。
囲碁には棋譜というログのようなものが残る。
棋譜とは両対局者がどういった手順で石を打っていったかを記録するもので、棋譜さえあれば100年、200年前の碁を再現することだって可能なのだ。
棋士たちはみな、勝ち負けはもちろん、100年後にも残る美しい棋譜をつくることを目標に碁を打つという。
この美しい棋譜というのは、当然一人ではできない。
自分を高めてくれる最高の相手があって、はじめてできるものなのだ。
いざという時、相手のミスを祈るのか、相手の最善手に武者振るいをするのか、そこで勝負師としての資質、人としての器が問われるのである。
真剣勝負の世界だからこそ生まれる名言、改めて『ヒカルの碁』を読み返してみたくなったのではないだろうか。