「フロー」と呼ばれる自然現象を処理する会社で働くことになった元OLが、他の社員と共にフローの発生原因に奔走する日常系SF漫画。バイトの面接で広田フロー(株)を訪れた近藤智万(ちま)は、代表者であるヒロタから「今から仕事に出かけるから、一緒に来て」と軽トラに乗せられ現場へと向かう。そこではフローの増殖によって、道路が三叉路から七叉路へと大きく変貌していた。フローの発生源は様々だが、ヒロタはそのフローには人の思念が影響していると目星を付ける。
元来この世界の物質は安定せずゆらゆらと安定せず動いている。そしてそれが、時にバランスを崩すことがある。その現象のことを空間の浮動化、または「フロー」と呼ぶのだ。フローの調査には「しゃちょう」という名の猫も同行していた。ヒロタによると猫はフローが大好きなので、フローに関わった人物を探すことが出来るたのもしい存在なのだという。ヒロタがしゃちょうを放つと、早速一人の女子高生の元に歩み寄った。彼女にはフローの原因について思い当たる人物がいた。ある朝、自分の前を歩いている男子生徒が立ち止まった途端に霧のようなものが広がり、今の七叉路になってしまったのだという。ヒロタと智万は高校の進路指導室を訪れ、進路に悩んでいる男子生徒の存在を知る。
雨が降らず給水制限のかかった村に住む女子中学生が部活中に倒れ、目が覚めると、辺りには豊かな水と大自然あふれる景色が広がっていたというSF漫画。水泳部に所属している川村千波(ちなみ)はプールが使用禁止となっているため、猛暑のグラウンドでランニングをしていた。「こんなことするために水泳部に入ったんじゃない」と半ば自暴自棄になって加速した千波は、地面がふわふわする状態になり、ついには意識を失って倒れてしまう。
「あつい、どこか…冷たい水のあるところ」と無意識の中、千波は心の中で叫び続けていた。そして目覚めると、魚が数多く泳ぐ大きな深い川の中にいた。自然あふれる景色の中で自由自在に泳ぎ回る千波。「気持ちいい!」思わず声が出た千波だったが、突然後ろの方から「千波、千波」と自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、再び目覚めるとグラウンドの真ん中にいた。名前を呼んだのは千波を心配した先生や友人たちだったのだ。自宅に戻った千波はお風呂の湯を浴びながら「あれって本当に夢だったのかな」と未だ夢の続きのような気持ちを抱いていた。「川の向こうに村があったな。あそこに行ってみたい」。湯船に身体を委ねた千波は、またもや頭がぼんやりとした状態に陥る。そして、意識の戻った千波の目の前に現れたのは、あの「村」だった。
蟲師と呼ばれる主人公が「蟲」によって引き起こされる様々な不可思議現象と相対し、問題を解決しながら旅を続けるファンタジー系ヒューマンドラマ漫画。幼い頃から自分が書いた文字や絵を実物化出来る「神の筆」と呼ばれる不思議な能力を持った少年の元を訪ねた蟲師のギンコ。だが、少年は「僕の持つこの性質を広めてはいけないとの祖母の遺言だから」とギンコの調査を断る手紙を書いていた。2005年、2014年テレビアニメ化、2015年劇場版アニメ映画化。2007年実写映画化。
人間の中には緑や水、生命を呼ぶ体質を持った者が稀に存在する。人里離れた山奥に住む五百蔵(いおろい)しんらには昔から一人になると、この世にはない生き物が見え、左手でその形を象ると、それが命を持つという能力があった。そんなしんらの力を憂いた祖母は、左手で物を描くことを強く禁じた。しんらはその言いつけを守り、4年前に祖母が亡くなった後は、人目を避けて山奥で一人暮らしをしていたのだ。ギンコはしんらに「それは蟲の仕業だ」と諭す。タイトルとなっている「蟲」だが、私たちの知っている「虫」とは異なり、一種の生命体ではあるが、妖のように見える人もいれば、見えない人もおり、不思議な現象を引き起こす原因とされる。そのため、主人公のギンコは作中では現代でいう「霊能者的立場」で描かれている。
育ての親が蟲師だった男が義父亡きあとに偽の蟲師となり、あろうことか蟲を呼び寄せて村人たちを全滅させてしまう『歪む調べ』他、5人の漫画家による『蟲師』のスピンオフ作品集。捨て子だった律は蟲師だった義父に拾われ、仕事の手伝いをするようになる。律には義父と違って蟲を見る能力がなかったが、一緒にいることで不思議な事象を体験するうちに蟲師の仕事が分かった気になっていた。そんなある時、水害をもたらす蟲を退治しようとした義父が命を落としてしまう。
村を守ろうとして犠牲になった父に村人たちは冷たく、律は「彼らにとって自分たちなど、どうでもいい存在だったのだ」と気付いて愕然となる。父を失い、日々の生活に困った律はふと、父の遺品である、蟲を呼び込む「岩笛」を使うことを思いつき、金持ちの家を選んでは蟲を呼び込み、それを葬ることで多額の報酬を得るようになる。その偽蟲師を描いた『歪む調べ』、「ユノハナモドキ」という蟲に取りつかれてしまった漫画家を描いた『滾(たぎ)る湯』他、『組木の洞(ほら)』、『影踏み』、『海のちらちら』の5作品が収録されている。独特の世界観を持つ漆原友紀の『蟲師』を、5人の作家がそれぞれ独自の視点で創作して描いたオリジナリティあふれるアンソロジーである。