想像する楽しみを奪われることを恐れ、他者に干渉されることを嫌うミステリ作家の主人公と、彼に拾われた猫の同居生活を双方の視点で描いていく、日常ホームドラマ。朏素晴(みかづきすばる)は新進気鋭のミステリ作家だが、編集者の中では気難しいことで知られていた。ある日素晴は新作の構想を練っている時、両親の墓参り先で1匹のハチワレ猫と出会う。想像力を刺激された素晴は、猫を家に連れて帰り同居生活を始めるのだった。2019年テレビアニメが放送された。
素晴は想像する楽しみを奪われることを極端に恐れるあまり、コミュニケーション能力が皆無になってしまった。彼は本の中の世界に入り込むだけでなく、自身が物語を作ることで想像の中を生きている。知識を得るのに貪欲な素晴の心をつかんだのは、1匹の猫だ。こころなしか口元が母親に似ているというハチワレ猫の名前は陽(はる)。事故で亡くなった両親の墓参り先で運命の出会いを果たした。本作の大きな特徴は人間である素晴からの視点と、猫である陽からの視点があるという点である。素晴を時に困惑させ、興味や想像力を駆り立てた行動の謎が、陽自身によって明らかにされていく。お互いに対する印象に齟齬があるところにくすりと笑ってしまうのだが、徐々に距離は近づいていく。互いに不器用なふれあいが微笑ましい。
動物が人間同様に仕事をし共生している街を舞台に、コミュ症の主人公がカフェの猫店員と仲良くなり、様々な動物や人間と出会っていくほのぼのヒューマンストーリー。影野夜子は駆け出しのイラストレーターで、人と話すことが苦手なコミュ症。ある日夜子は昼食を食べようと外に出る。落ち着いた雰囲気のカフェに立ち寄った夜子は、そこで店員として働く猫、シマちゃんと遭遇する。シマちゃんは夜子の注文を取ったり、ラテアートを作ってもてなしたりと、てきぱきと働くのだった。
夜子が遭遇した猫のカフェ店員、シマちゃんは擬人化された猫ではない。動作は完全に猫であるし、人語を話すことはない。ただ器用に台車を操り、猫の動作として無理のない範囲でラテアートをしたり、仕上げのパセリをのせてくれたりする。十分スーパー猫と言える働きっぷりであるが、夜子の住む「よもぎ町」にかぎってはそう珍しい光景ではない。ここは動物たちが人間同様に働いている姿が当たり前という、不思議な街なのだ。シマちゃんはカフェの看板猫である。マスターの指示通り働くが、お客様の膝の上でくつろぐなどの接客サービスにも余念がない。鼻チューはとてもされたい。猫カフェとはまた違った働く猫の居るお店、心底行ってみたいと思ってしまった。
品行方正だがどこか冷めている紳士な猫の主人公が、山に住んでいる見た目は化け物だが、性格は可愛らしい彼女に恋をし、交流を深めていく異種ラブコメファンタジー。ネロは紳士な猫。ある日懇親会の招待状を貰い、昔馴染みたちに再会する。その中の1人、親しくしていた女性に誘われたが気乗りせずに断ると、ネロ人に興味がないのだと指摘され落ち込んでしまう。帰り道、山の先の町への道を急いでいたネロに、親切な農夫が山には化け物が出ると忠告してくるのだった。
動物たちが擬人化され世界が舞台の作品である。ポップな画面は可愛らしく、どこか童話的。しかし、登場キャラの心理描写は細かく深い。誰かに深入りすることを避けるネロだったが、運命の出会いを果たしてしまった。相手は大きな体躯と鋭い爪と牙、角を持った化け物。どう考えても襲われて食べられてしまう展開なのだが、本作はそうはならない。化け物はただ通りがかった誰かと話をして仲良くなりたいだけのピュアなハートの持ち主だし、ネロは彼女の無邪気な様子を見て、相手をもっと知りたいと強く想い恋に落ちてしまう。化け物である彼女の描写はそら恐ろしく感じることもあるが、にっこりと笑った姿は愛らしい。外見で判断してはいけない。そんな当たり前のことを、改めて認識した。
動物たちが野生を捨て、人と同じように社会生活を送る世界で、野性を開放するためにキャンプを趣味とする主人公と、同じ趣味を持つ仲間たちが癒しを求めてキャンプ生活を謳歌する日常キャンプ漫画。動物たちも街中に住み、服を着て会社に出社する世界。繊維メーカーで働く熊の熊井の趣味はキャンプ。服を脱ぎ捨て狩りをし、自然の中で自由にのんびりすることで心を解放していた。ある日キャンプに行った先で、野生と見紛うような身のこなしの生き物と遭遇するのだった。
動物たちが人間と同じように社会生活を送る作品は数多くあるが、本作は野生から社会生活へとシフトしていった世界である。そのため、動物たちの中には本能が色濃く残っており、服を着ることを窮屈と感じ、より開放的な場所に行きたいと強い願望を抱いている者も少なくない。熊井は熊である。肉食で大柄、性格は温厚。波風を立てないタイプである。そんな彼の趣味がキャンプだ。誰もいない場所で服を脱ぎ捨て、野生の動物のように狩りをする。キャンプ自体が開放感に溢れているが、心身共に解き放たれるのだろう。熊井の表情は会社にいる時よりも数段生き生きとしている。自然は癒しであるが、野生に帰りたいのか、単純に癒されたいのか。抗いがたい本能を垣間見た気がする。
モンスターたちが社会生活を営む世界で、人間の主人公と人狼の隣人が、様々なモンスターと出会っていくオムニバスファンタジー。花村ムギはこの町に引っ越してきたばかり。街中にはモンスターたちが日常生活を送り、人間であるムギはハダカザルと呼ばれていた。モンスター世界に疎いムギをサポートするのは、隣人で人狼のペス。引っ越してきたばかりのムギは服を買おうと街に出るが、人間用の服の少なさに驚くと同時に、種族によって常識が異なることを痛感するのだった。
種族によってはモフモフの体毛を持っていることを考えると、体毛はあっても肌が出ている部分が多い人間の皮膚は、ハダカと称してもおかしくはない。人間界で人は「人間」と呼ばれているが、モンスター界ではハダカザルと呼ばれているうえに珍しい存在であるらしい。ムギもモンスターの世界の常識に困惑していたが、読者も多いに困惑するところは多い。作中に産気づいたタツノオトシゴのギョジンが登場するが、多くの外見が異なる種族が住んでいるということは、身体的な特徴も大きく異なるということだ。医療現場はさぞ大変だろうと想像に難くない。ペスは人狼なのだが、一見すると犬である。ムギを守る姿は頼もしいがどこか愛らしい。