ひとりで立てる、わたしでありたい――。
彼氏がいるけど微妙な関係に疑問を感じているOL、夫に距離を感じている既婚女性、彼氏ナシ独身 etc. 色々な形の“おひとり様”を描いた共感必至の大人気オムニバス・シリーズ! (公式サイトより)
作品は「おひとり様」をテーマとしているが、単なる「今現在、シングルの女性」というくくりだけではなく、「パートナーはいるけど物理的に離れている(遠距離恋愛など)」「同じくパートナーはいるけど心が離れている(これは寂しい)」など多岐にわたることが、1巻あとがきに書かれている。担当編集者いわく「結構なんでもありってことですね」という突っ込みに作者は「逃げ道たくさん作っときました」と答えている。
Kissにて不定期連載中、コミックは最新第6巻まで発売中。
「オムニバス形式」の作品が好きな要素に「ある作品での主人公が、違う作品ではわき役を務めたりする(この逆パターンも)」ことがあり、「ああ、あの人もこの人も、同じ世界の中で生きているんだな、自分が主役の時も、そうでないときもあるんだな」と、マンガの登場人物でありながら「血の通った一人の人間」のごとく思わせてくれる所がある。
そして登場人物である彼女たち(まれに彼ら)の心の悩みは、等身大であるがゆえに「実感しやすい」ところが感情移入しやすく感じられる。
たとえば「第1話」に登場する彼女の場合、朝起きぬけの大あくびのシーンに始まり、簡単な朝ごはんを食べ、部屋の植物に水をやり、テレビのなかの「天気予報」と会話をし、電車に乗って職場(本屋さん勤務)へ出勤、そして退社、近所のスーパーやコンビニで買い物をすませ帰宅。借りてきたDVDを観ながら食事。風呂に入った後は、翌日が休日であれば、好みのワインと嗜好食品を引っ提げて指定席(ソファ)へ向かい、電話の留守番機能をオンにして「自分ひとりの空間」を作り出し、「このときのための一冊」を読みふける。
次の日(休日)はお昼頃にゆっくり目を覚まし、散歩がてらブランチ。
あとは映画を観に行くにせよ、好みの小品を求めに出かけるにせよ、日がな一日をゆっくり過ごす。
「精神的にも物質的にも豊かな生活」に思えるのだが、ある日同僚の女の子に「それってさみしくないですか?」と真正面から、真面目な突っ込みをもらってしまう。
それまでは考えたこともなかった「価値観の相違」に、ふと立ち止まってしまう主人公。そして、そういう日こそなぜか「日々のちょっとした不幸」が彼女を襲うのだ。
店長にふとした発注ミスを見とがめられたり、せっかく空いた電車の席をタッチの差で取られたり。ゲン直しに入ったとんかつ屋さんで周りの席がカップルだらけだったり。「こんな日もある」と自分を慰める主人公だが、ふとさみしさを感じて友達に電話をかけてみたところ、全員が留守だったり。
こういうことって、もしかしたら誰にでもあることかもしれないけど、だからこそ大げさに言えば「世界に自分はひとりきり」という寂寥感にとらわれてしまったりする。
そんな時、着信した「同僚の女の子」からの電話。
「今日の帰り、思いきってひとりゴハンしてみたんですよ! そしたらすっごく楽しくて」「今日ずっと山波さん(主人公の名前)のこと考えてました」
誰だって、なにがしかの一言で落ち込むこともある。でもやはり何かの一言で救われることもある。それって人生のなかでほんの一瞬の、たわいもない経験かもしれないけど、むしろその一瞬を、ひとことを、大切にしたい。育んでいきたい。作者からはそう言われているように思う。
1巻のなかで一番好きな主人公だ。
見た目も黒髪清楚な美人で、性格もおとなしめ。趣味は映画観賞、愛犬と遊ぶこと、料理、とごく普通。自分自身でも「ごく平凡」と繰り返しモノローグで語っているような性格の女性だが、劇中ちらっと部長と過去に何かあった風なことを匂わせたり、意外と平凡ではないのかもしれない。
そんな彼女がお見合いで相手に見初められ、結婚の日取りや式場も決まっていく中、唯一の心残りが「執筆中の漫画」。実はずっと「まんが女子(やっぱり平凡じゃない)」で、「これだけは」と、描き続けていた一作を完成させ、とある出版社のとある漫画賞へ応募。その漫画作品をきっかけに、彼女のそれまでの視点は一変していく。
この作品では、過去登場した人物が「続編」的な色合いを含んで再登場してくることもある。
それであれば、この「5話の彼女」にもぜひ再登場を願いたいと思っている。
谷川史子の絵柄は、「地味め」である。
キャラクターも背景もとてもシンプルに描かれている。それなのにキャラクターはみな表情豊かである。
「おひとり様」になってしまい、それまで「彼」に付け替えてもらっていた高い所にある照明の電球を何とかしようと椅子を持ち出し、その上に本を重ねて登ろうとしたとこで、すっ転んでしまう彼女の足の表情に思わず吹き出したり、顔の表情だけでなく表現されているところに愛しさが募る。
女性にも男性にも『おひとり様』には共感してもらえる内容がたくさん掲載されている。
ぜひ、読んでみてほしい。