半年前に妻を亡くした高校教師・犬塚は、5歳になる娘・つむぎと二人暮らし。高校の副担任を務めながら、家事に育児に忙しい毎日。
しかし、娘との触れ合いは人一倍大切にしている。今日もまた、学校の廊下を歩いているときに窓から見えた「桜」に誘発され、つむぎを「お花見」に誘う犬塚。
そしてその花見の先で、犬塚とつむぎの二人は作品のもう一人のキーパーソン、飯田小鳥と出会う。桜の木の下で涙を流しながら「おにぎり」をぱくついている黒髪メガネの美少女。なぜかジャージ姿であるが、母と二人で花見を約束していたが、母親はドタキャン。二人分用意されていたお弁当を一人で平らげ、その「美味しさ」に涙を流していたという。その「美味しかった弁当」に興味津々なつむぎに自分の母の店の名刺を渡す小鳥。これが三人の、そして周りの友人をも巻き込んでいく「ごはん会」の始まりのベルの音だったとは、知る由もない三人であった。
2016年にアニメ化された。
月刊good!アフタヌーン連載中、コミックは最新第7巻まで発売中。
学校の仕事で遅くなった犬塚。その犬塚が帰宅して見たものは、テレビにしがみつくようにして通販番組(圧力なべの通販)に見入っている娘のつむぎの姿だった。「ママにこれ、作ってってお手紙して」と言われた犬塚は、つむぎを背負うと、先日花見でもらった名刺の連絡先へ駆けながら電話を入れる。
「娘においしいものを食べさせてあげたいんです」
最初は店が休みであることを理由に断りを入れる小鳥だったが、犬塚の「どうしても」の声を断りきれない。
だが、当のお店(ごはんやさん・恵というらしい)にたどり着いた親子を待っていたのは、あの花見の日に出会った美少女だけだった。
「確かに母はいませんが……わ、私だってごはんくらい炊けます! 」
おもむろに土鍋を用意し、お米を研ぎ始める小鳥。
「だって君……料理できないだろ」とは犬塚の心の声。
「ごはん食べるの、久々ねー」とつむぎ。
「ごはんは食べてただろ? 」と返す犬塚。
その言葉につむぎはこう答える。
「えーっと……おとうさんといっしょっていみで……」
「ああ、そう、だったっけか……」
つむぎが家で買ってきた弁当などを食べていた時、その後ろを洗濯物を抱えたり、明日の用意などで動き回っていて「いっしょに」ごはんの時間を過ごしていなかったことを思い出す犬塚。ごはんが炊きあがる間の時間に、亡き妻のことを考えて……。
そんな中、小鳥が悪戦苦闘しながらも炊きあげた「ごはん」は予想以上の味に仕上がっていた。美味しい白飯をかきこみながら、犬塚は言う。
「つむぎ、これからはこういうふうに、父さんがおいしもの作るから、いっしょにおいしく食べような」
その言葉に大喜びするつむぎと、つられて「わたしとごはんを食べませんか? 」と言ってしまう小鳥。それは三人にとってこれから長く続く「ごはん会」の始まりの予感を秘めた夜だった
さて、犬塚に「君、料理できないだろ」と見抜かれた小鳥だが、実はむかし包丁で指を切ってしまってから、包丁が大の苦手。どれくらいのむかしかはこの時点ではわからないが、その時の傷をいまだにばんそうこうでかばっているくらい、トラウマになっている様子。
たどたどしい犬塚の包丁さばきを心配しながらも、自分が包丁を使うことに関してはまだまだ一歩も踏み出せないでいる。
実はこのマンガは、そういう三人(犬塚はいままで家でごはんを作ることをしなかった、小鳥はまず包丁を使えるように、そしてまだ五歳のつむぎはこれからいろいろ……)が成長していくドラマでもある。
ハンバーグと豚汁をメニューに力戦し、力尽きて豚汁のみしか作れなかった夜。
そしてリベンジの、ハンバーグを作る夜(たまねぎのみじん切りの解説がとても面白い)。
ゴールデンウィークのピクニックのために、大量のおべんとを作る回。
風邪をひいてしまったつむぎのための、茶碗蒸しとにゅうめんを作る回。
1巻はすべて、この三人による、三人のための「ごはん会」が続いていく。
互いの立場を少しづつ意識しながら、自分の立ち位置を模索していく三人。
小鳥は、入ったばかりの高校では、まだクラスに溶け込んでおらず、いわゆる「ぼっち」ではあるが、彼女を気にしている女の子や、クラスは違うが同じ中学出身で、時折昼食時にやってくる「しのぶ」なども、話数が進むごとにすこしづつ彼らと接点が出てくることになる。「ごはん会」を通じて人の輪がひろがっていくところは定番と言えば定番だが、この作者ならではの人との接し方などが感じられて興味深い。
さらに小鳥はかなりの大食漢。育ち盛りの女子高生ならこれくらい食べても当たり前なのかもしれないが、朝ごはんはしっかり食べ、お昼のお弁当もきっちり完食するのに加え、授業中に教科書の陰に隠れてパンをほおばったり、学校帰りにラーメンを食べたりする。
この子が麺類を食すときの擬音がまたすばらしく、その「ずばばばー」という食べっぷりに思わずラーメンが食べたくなる。
6巻巻頭の「番外編」によると、「家にインスタントラーメンを常備すると無限に食べてしまうので制限中」らしい。そう発言する小鳥の隣で「無限とは……。」と思いをはせながら「づるづる」とラーメンをすすっているしのぶちゃんがまた可愛い。読んでいるこちらも思わずお腹が空いてくる、そんな作品だ。
この作品も、1話が終わると「その日作った食事のレシピ」が描かれている。
第1話は当然「土鍋でのごはんの炊き方」なのだが、自宅でも試してみたくなるレシピばかりなので、ぜひ、マンガを読んで作ってみてほしい。