地方都市に左遷されたエリート銀行員とバーテンダーとしての素質を持つ少女との出会いが、廃れた都市の再建、果ては世界コンペへと発展していく熱血ドラマ漫画。銀行員・鷲尾義久は東大卒でありながら、酒に対する余りにも強い思い入れから、上司との酒席で大失態をやらかし左遷されてしまった。左遷先で入ったバーでモヒートを頼んだ鷲尾はバーテンダーと諍いとなり、店を追い出されてしまう。そこで彼は、道端で怪しげな占い師に声を掛けられる。
占い師は鷲尾に「明日、お前が出会った少女とその店を大事にすれば、町は栄え、お前も都に戻ることが出来る」と予言する。翌日、鷲尾は立ち寄ったラーメン屋で「モヒートなら作れる」と言う店の娘・源ヒカルに出会う。彼女の言葉に憤った鷲尾は「君が作ったモヒートが不味かったら、明日商店街の立ち退きを裁判所に申し立てる」と宣言する。ところが、ヒカルの作ったカクテルは鷲尾の想像を超える「幸せを感じさせる」極上のモヒートだった。「美味しいカクテルには泣いている顔を笑顔にさせる力があるから」と微笑むヒカルに「そうか、君だったのか」と昨夜の占い師の言葉を思い出す鷲尾。しかし、実はヒカルは祖父に酒に触ることを禁じられていた。カクテルのレシピだけでなく歴史や逸話も盛り込まれた、初心者に一推しの逸品。
月夜に現れては消える気まぐれな屋台バーの店主と、女性バーテンダー(バーメイド)たちの奮闘を描く癒し系ヒューマンハートフル漫画。屋台バー「サテライト」の店主である月川雪は「夜に起きてるのが苦手で」の言葉通り、営業中でもつい居眠りしてしまう、ちょっと変わったバーテンダー。しかし注文が入れば、流れるような無駄のない動きで客のニーズにピタリと合ったカクテルを作る一流のバーテンダーである。2019年テレビドラマ化。
「屋台バーで最高の一杯をお出しする」をコンセプトに、その日の気分次第で屋台を営む女性バーテンダーの雪。若い女性客には人気だが、中には「バーとはダンディな男のたしなみだ」と色眼鏡で雪の店を軽く見る輩もいる。だが、彼女のカクテルを飲んだ途端、その美味しさと客へのホスピタリティの高さに驚愕。彼女の店に毎日通いたくなってしまうのだった。男性の多いバーテンダー社会ではあるが、昨今では女性バーテンダーの存在も際立ってきた。奇しくも、カクテルの語源や歴史にはいつも女性の存在があるという。バーテンダーの創り出すカクテルには彼らが敬愛する女性とのエピソードも数多い。この作品も作者がイラストレーター出身なだけあって繊細な描写技術が活きており、お酒にまつわるうん蓄も満載で、若い女性たちの間で人気が沸騰している。
「神のグラス」と称されるカクテルを作る天才バーテンダーを主人公に、彼を取り巻く客とのエピソードや人間模様をお酒を通して描いた青年ドラマ系ヒューマンストーリー漫画。8年ぶりに日本の地を踏んだ若きバーテンダーの佐々倉溜(ささくらりゅう)は、偶然入った店で、「お酒がマズイ」とバーテンダーに難癖を付けていた来島美和(くるしまみわ)と出会う。溜は自分の分のジンフィズを「これを飲んでみて」と差し出し、美和は同じカクテルなのに味が全く違うことに驚く。2006年テレビアニメ化、2011年テレビドラマ化。
美和は溜から「ショートは3口、ロングでも10分以内に飲まないと氷が溶けて味が変わる」と諭され、自分の非を認めて謝る。ホテルの料飲部に勤務する美和は、目の前にいる青年がヨーロッパのカクテルコンテストに優勝した天才バーテンダーだと知り、近日オープンするホテル・カーディナルのバーに何とか彼を引き抜きたいと「どうしてもあなたのカクテルを飲ませたい人がいる」と強引に、バーテンダーに否定的なホテル料飲部長が主催する実技試験の場へ溜を連れて来るのだが……。「世の中には絶対にお客様を裏切ってはいけない仕事がある。ひとつは医師・薬剤師。そして、もうひとつは……バーテンダー」。主人公の何気ない一言が読者らの心に大きな波紋を投じ、バーテンダーブームを引き起こしたカクテル漫画の逸品。
新米バーテンダーを主人公に、カクテルを通じて悩める客に最高のホスピタリティと癒しの空間を提供するオーセンティックバー系ヒューマンドラマ漫画。日本一のバーテンダーを目指して日々修業中の大西洋(ひろし)。女性からマルガリータを注文されるが、彼女のお気には召さず、ダメ出しをされてしまう。そんな洋だったが、閉店間際に入ってきた常連客の高橋から「一杯だけ飲ませてくれ」と頼まれ、上着を預かる。ところが、高橋の上着ポケットにはとんでもないモノが入っていた。
高橋の上着のポケットに入っていたのは、遺書だった。銀行が彼が営業する薬屋への融資を取り下げ、資金繰りが出来なくなってしまったのだ。洋の作ったマティーニを飲み干し「洋ちゃん、色々と世話になったな」と席を立った高橋に洋は「もう一杯だけ、僕の特製マティーニを飲んで下さい」と勧める。そのマティーニは度数が57度あり、高橋はカウンターに酔い潰れてしまう。翌日、高橋に旧知の元支店長から融資に応じる連絡が入り、どうにか店を閉めずに済んだ。「自殺をする前に人が最後に話をしに行くのは、妻でも友人でも恋人でもなくバーテンダーである」。このイギリスの格言が全てを語っている。バーの扉は最後の砦。バーテンダーにとって嫌な客は一人としていない。そして、彼らは決して客を裏切らない。
悩みを抱えた客たちが訪れる都内にあるバーを舞台に、彼らの願いを叶える店主特製のカクテルがもたらす不可思議な人生模様を描いた一話完結の社会派SF系シンクロニシティストーリー漫画。心に寂しさや悩みを持った人々のみが吸い込まれるように入っていく不思議なBAR「来夢来人(ライムライト)」。美しき店主である女性バーテンダー沙羅には入ってきた客の抱える悩みを即座に見抜く力があり、彼女の作るカクテルには、彼らの悩みを解決する不思議な力があった。
会社員の上杉は結婚してから5年。同期が先に出世したことで、会社の華だった妻から「私には男を見る目がなかった」と愚痴られたりと、うだつがあがらない日々を送っていた。偶然立ち寄った店のバーテンダー沙羅から「あなたの周囲にはサリンジャーに関係している人がいる気がする」と言われ、高校時代に想いを寄せていた同級生の純子のことを思い出す。彼女はサリンジャーの愛読者だったのだ。彼女は上杉との待ち合わせ場所で事故死し、「俺が行ってさえいれば」と自責の念を抱き続けている上杉は、沙羅から「このカクテルを飲めば、やり直したい過去に戻れる」と言われ、「追憶」の名のカクテルを飲み干す。果たして、上杉の願いは叶うのか。「過去をやり直せても、本人の望み通りの結果になるとは限りませんのよ」沙羅のこの呟きが全てを語っている。