女子高生誘拐事件をきっかけに巻き起こる、不可解な事件を描いたオカルト・ミステリー。主人公・水瀬陽夢は、誘拐されそうになったところを偶然通りかかった元探偵・三宝寺古鉄に助けられる。ところが彼女は、犯人に飲まされた謎の薬によって、不可思議な存在に取り憑かれていた。陽夢を誘拐しようとした犯行は営利目的などではなく、もっと大きな陰謀に絡んでいたのだ。やがて陽夢の周辺には、国際的なマフィア組織・三合会(トライウアド)が暗躍。事件は多くの謎を孕みながら、常識を超えた展開を見せる。
タイトルからも解るように、本作はクトゥルフ神話の世界観を本格的に取り入れたオカルト・ミステリーだ。本作には「名状しがたき神々」「無形の落とし子」「イスの偉大なる種族」といった、クトゥルフ神話ではお馴染みの旧支配者、眷属が登場。ストーリーにコズミック・ホラー独特の雰囲気を与えながら、読者の興味を惹きつけていく。主人公は、陽気で天然気味な女子高生・水瀬陽夢。彼女は誘拐犯に飲まされた薬によって、凶暴かつ常識外れの力を持つ存在に取り憑かれる。古武術の達人だが幼女が極端に苦手な元探偵・三宝寺古鉄。仕事熱心だが隠れ腐女子の刑事・奈流明日香。そして、警察に協力する天才的な詐欺師・葉山零一。個性豊かな面々の軽妙なトークを中心に、序盤はコミカルに展開。やがて誘拐犯の正体や目的が明らかになるにつれ、物語はシリアスの度合いを深め。世界の運命を左右する大がかりなものに発展する。
1944年のポーランドを舞台に、少女の復讐劇と「混沌の書」にまつわる顛末を描いたバイオレンス・アクション・ホラー。ヴァドヴィツェ村に住む少女・イルザは、侵攻してきたナチス・特別執行部隊によって母親を殺される。悲嘆に暮れるイルザは、かつて教会の神父が語った「混沌の書」の存在を思い出す。それは、あらゆる願いを叶える「本の形を取った奇跡」。やがて「混沌の書」を手にしたイルザは、「影の龍(シャッテンドラッツェ)」を召喚し、特別執行部隊への復讐を始めていく。
本作には、クトゥルフ神話でもメジャーな存在の「這い寄る混沌・ナイアルラトホテップ(Nyarlathotep)」が登場する。旧支配者アザトースに仕えるメッセンジャーでありながら、主と同等の力を持つ神格者だ。クトゥルフ神話では、千の異なる化身を持ち、様々な形で登場する。また、「這い寄る混沌」以外にも、数多くの異名を持つ。世界に狂気と混乱をもたらしつつ、変幻自在に暗躍するその姿は、カードのジョーカーさながらだ。本作における這い寄る混沌は、長身痩躯に腰まで届く長髪を持つ美青年として登場。「混沌の書」を用いて少女・エルザを惑わし、彼女を凄惨な復讐に駆り立てる。なお、本作には這い寄る混沌を追いながら、「混沌の書」を開いた者を狩る「収穫の主」が登場する。こちらはクトゥルフ神話には存在しない、オリジナルキャラだ。彼女が繰り広げるガン・アクションも、物語の大きな見所だ。
魔界の大公爵・アスタロトを中心に、悪魔たちの勢力争いを描いたオカルト抗争劇。主人公・アスタロトは、魔界の四大実力者の1人にして、由緒正しき大公爵。魔界では、帝王サタンと四大実力者の筆頭格・ベール大王の二大派閥による、危うい均衡状態が続いていた。そんな中、アスタロトが寵愛する使い魔が殺されるという事件が発生。事件の背後には、ベール派の有力者であり、四大実力者の1人・ベルゼブブが暗躍していた。この事件をきっかけに、魔界のバランスは崩れ、激しい抗争が幕を開けることとなる。
本作のベースとなっているのは、キリスト教圏における悪魔の世界観。主人公・アスタロトを含めた四大実力者・ベール、ベルゼブブ、ルキフェルといった主要キャラは、キリスト教圏の悪魔が多い。しかし、魔界の最下層である辺土界(リンボ)には、古代妖魔と呼ばれる別の種族も存在する。その古代妖魔の1人、ナイアルラトテップは、本作独自のアレンジが加えられてはいるがクトゥルフ神話の主要な神格者が元となっている。また、至高界を統べる天帝も、クトゥルフ神話の旧神に属する存在だ。ちなみに作者の摩夜峰央は、本作とは別に『トワイライト -大禍刻-』においても、クトゥルフ神話の要素を盛り込んでいる。天帝に関する設定などは本作とほぼ同じだ。
物語の舞台は、大正時代の日本と思しき場所。冴えない闇医者・木下京太郎、美貌の古道具屋店主・麻倉美津里、木下家に居候する荒事屋・長谷川虎蔵の3人を中心として、彼らの周囲で巻き起こる奇妙な事件を描く、オカルト・ホラーアクション。ストーリーは基本的にシリアス路線だが、中にはパロディネタを交えたギャグ色が強いエピソードも織り込まれている。ダイナミックなアクションなどもあり、バラエティに富んだ展開が特徴のひとつ。
本作におけるクトゥルフ神話に関連するストーリーは、コミックス第3~4巻に収録されている長編エピソード『寄群(よぐ)編』だ。このエピソードの舞台となるのは、房総半島にある寂れた漁港・寄群。この地名自体が、クトゥルフ神話に登場する神格・ヨグ=ソトースに因んだものだ。木下京太郎は馴染みの患者・刀自に頼まれ、駆け落ちした彼女の娘を探しに寄群へと足を運ぶ。一方、麻倉美津里は、寄群の近くに知り合いが営む宿があり、偶然そこに用事があった。さらに、大陸へ渡っていた長谷川虎蔵も仕事の都合で寄群へ向う。期せずして、寄群に3人が揃い踏みと相成るわけだ。そんな中、寄群へ向う道中で、京太郎は小舟が座礁している現場に遭遇。そこで彼が目にしたのは、手足を鎖に繋がれた妊婦だった。彼女は「産みたくない」と口にしながら、自ら首を切断。このショッキングな出来事をきっかけに、物語は大きく動き出す。
高校教師に扮した伝説の殺し屋の戦いを描く、ハードボイルド・アクション。主人公・ジーザスは、死神と謳われる暗殺と戦闘のプロフェッショナル。彼はある犯罪組織から1トンものヘロインを強奪し、暴力団、警察、あらゆる組織から追われる身となる。そこで彼は、自分ソックリな男・藤沢真吾の死体を用いて自らの死を偽装。海外逃亡の手筈が整うまで、ジーザスは藤沢を装って生活することとなる。ところが、藤沢は春から私立・新星高校の新任教師となることが内定していた。かくして殺し屋・ジーザスの教師生活が幕を開ける。
本作は、現代日本を舞台にしたハードボイルド・アクション漫画であり、超常的なクトゥルフ神話の神々や眷属、異種族などが直接出現するわけではない。ただし、特殊部隊や武器、施設などの名称に、クトゥルフ神話に由来するものが登場している。例えば空手大会の主団体が「HASUTUR(ハスター:クトゥルフ神話に登場する風を司る旧支配者の一柱)」だったり、秘密組織「24」傘下の精鋭部隊に「ナイトゴーント(クトゥルフ神話に登場する怪物の名前)」が存在するといった具合だ。凄腕の暗殺者が、全く畑違いの教師という仕事に悪戦苦闘しつつ、裏社会の住人たちと戦う物語の面白さはもちろんだが、クトゥルフ好きをニヤリとさせる要素が散りばめられている点も見逃せない。なお、原作者の七月鏡一は同じく自身が原作を務める『ARMS』や『闇のイージス』でも、クトゥルフに因んだ組織、地名等を登場させている。