あらすじ
「悪の魔法使い」
両親を早くに亡くした少年・薬袋大悟は、父親が残した借金の返済と、高校を辞めて働いている姉・薬袋水穂を助けるため、学業の傍らアルバイト三昧の日々を送っていた。そんなある日、アルバイト先で借金取りの金本から嫌がらせを受けていた大悟は、同じ学校に通う理系の不良・尾根新太に出会う。人を食ったような態度で金本たちを追い払った新太は、自分が天才的なハッカーであることを明かす。その夜、自宅にやって来た金本の配下から父親に別の借金があることを知らされた水穂は、自分のキッチンカーを売り払うことを決意するが、どうしても納得のいかなかった大悟は単身で金本の事務所へと赴き、土下座して借金の返済を待ってもらおうとする。その現場に突如として新太が乱入。新太は自分のことを「ne0」と呼ぶように指示したうえで、ハッカーの技術を駆使して金本たちが提示した父親の追加の借金の証明書が偽物であることを看破。さらに、詐欺の手口を見破られて現場から逃走しようとする金本たちを、スマホのバッテリーをハックして意図的に爆発させて足止めする。積年の恨みを込めた拳で金本たちをブチのめした大悟は新太に礼をいうが、新太は腕力自慢の大悟を自分の配下にすることを勝手に宣言。新太と大悟は悪の魔法使いとして、街の闇を支配するために戦うようになるのだった。
レミングゲーム
ある日、公園でヒマを持て余していた尾根新太は、そこでダンスをしていた少女・石崎夕子から行方不明になった友人・宮内咲の捜索を依頼される。夕子と薬袋大悟を伴い、咲の家に赴いた新太は、まず咲のPCをチェックしてSNSのアカウントからIPの足跡をたどり、咲がレミングゲームというARゲームをダウンロードしていた事実を確認する。レミングゲームが50日間プレイすると自殺に追い込まれる、史上最悪の自殺誘発ゲームであることを知っていた新太は、咲が自殺するまであと1日しか猶予がないと推察。その後、アプリの提供元が多摩丘陵大学であることを突き止めた新太は、サーバをハッキングして詳細を調べようとするものの、レミングゲームのゲームマスターである「レミング」の妨害によってサーバが停止され、それ以上の調査ができなくなる。しかし、そこまでの展開は新太の策略どおりで、サーバの停止によってセキュリティがザルになった大学の資料室に、大悟と夕子の二人が侵入に成功する。職員名簿に載っていた安西誠人という准教授がレミングではないかと推測した新太は、大悟と夕子に大学を探索させ、研究室にあったAI「motoko」を発見する。そこで新太は、レミングゲームで自殺していく人間の映像が、motokoのAIを成長させる餌として使われていたことを知るのだった。その後、研究室に来たmotokoの開発者であるレミングこと誠人に、わざと特製の便利ガジェット「GE-BOX」を拾わせた新太は、中継攻撃によって咲の居場所を特定。自殺寸前の咲を夕子が寸でのところで救助するのだった。その現場に現れた誠人と対峙した新太は、誠人が最も信頼しているmotokoが、彼の行動をあやつっていたことを伝え、誠人をショックで逃走する状況へと追い込む。後日、ジェヴォーダンと名乗る協力者のもとに身を隠していた誠人は、ジェヴォーダンに見限られ、殺害されてしまう。
悪の生きる道
尾根新太は、事務所に突如として現れた犯罪コンサルトを自称するジェヴォーダンという青年に遭遇。新太は「レミング」こと安西誠人を殺した犯人・ジェヴォーダンによって殺害されそうになるものの、持ち前の機転とハッタリでこれを退ける。その後、新太は知人である元走り屋の住職・山城達臣から、街外れの峠で夜な夜な違法賭博レースを行い、多くの走り屋を借金地獄に追い込んでいる走り屋のブギーを止めるための協力を依頼される。自身の寺を金の代わりに賭け、ブギーとのレースに挑んだ達臣の助手となった新太は、常勝を続けるブギーの走りにイカサマの影を感じ取り、自身もPCを使ったイカサマ合戦を仕掛ける。勝負が始まってすぐ、ブギーが車両のプログラムを改造して異次元の走りを可能にしていることを看破した新太は、同じ手法で達臣の車両のプログラムを改造して互角の条件へと持ち込む。しかしブギーの真の秘密は、数多くの走り屋から収集したデータを基に、最短・最速の走りを実現する自動運転にあった。走り屋の集合体とでもいえる車両の速度に圧倒される達臣だったが、ブギーが落ち葉によって滑る秋の路面コンディションを知らなかったスキを突き、リードを奪うことに成功。そのままブギーを抑え込み、彼の不敗伝説に終止符を打つ。完敗を認めたブギーからジェヴォーダンのことを聞き出した新太は、反対にブギーから悪党を潰し回る目的と、新太自身が何者であるかを問われる。その質問を受けた新太は、自分が悪の魔法使いとなった直接の理由である、幼なじみの麻夜帳との過去の出来事を思い起こす。ブギーとの出会いで、これからの戦いがより厳しいものになることを直感した新太は、一匹狼に戻るため、薬袋大悟と石崎夕子に別れを告げるが、新太の想像を超えて精神的にたくましく成長していた二人は断固としてその提案を拒絶。二人の固い決意を知った新太は、聞き分けのない「友達」に呆れつつも、悪の魔法使いとして悪を絶つ道を歩み始めるのだった。
登場人物・キャラクター
尾根 新太 (おね あらた)
原町田高校に通っている天才的なハッカーの少年。挑戦的な瞳で相手を見据え、口元にはつねに不敵な笑みを浮かべている。超天才を自称し、どんな状況であっても偉そうで自信満々な態度を崩さない唯我独尊な性格の持ち主。他人には自分のことを「ne0」という通称で呼ばせている。天才を自称するだけあってIQが191もあり、全国模試ではつねに1位の成績を納めている。パソコン一つでありえないことをやってのける「魔法使い」と呼ばれる超ハイレベルなハッカーでもあり、パソコン以外にもスマホや電子的なガジェットを巧みに使いこなし、データの抜き取りから消去、果ては電子機器を意図的に爆発させるなど、非合法な工作の数々をたやすく成功させている。常日頃から悪党の泣きっ面が大好きであると嘯(うそぶ)いており、悪党のいない街をつくることが当面の目標。そのため、探し出した悪党はあらゆる手段を尽くして容赦なく追い詰め、完全な破滅へと追い込む。悪辣な借金取りに苦しめられていた同じ学校の生徒・薬袋大悟と出会った際、借金取りの不正を暴いたうえで彼らを刑務所送りにした。その後は、恩義を感じた大悟を配下にし、街から悪党を排除するミッションを本格化することになる。傍から見ると極めて傲慢不遜な少年に見えるが、実際は仲間思いなうえに義理堅いうえ、それを素直に表に出すことはほとんどない。幼少の頃は周囲から変人扱いされて孤立していたが、難病の少女・麻夜帳との出会いによって孤独から救われ、彼女の笑顔を見るためにプログラミングを修得した過去を持つ。
薬袋 大悟 (みない だいご)
原町田高校に通っている男子。両親を早くに亡くし、姉の薬袋水穂と二人で暮らしている。赤毛で目つきが鋭く、体格が非常にいい。言動は荒々しくてぶっきらぼうながら、家族思いで正義感の強い性格で喧嘩も強い。人を貶めてヘラヘラしている人間が許せず、その手の人間を次々とブチのめしていたことから、周囲からは札付きの不良生徒として扱われていた。亡くなった父親が残した借金を返済するため、放課後はまじめにアルバイトに励んでいる。悪徳な借金取りである金本に騙され、さらに借金を増額されそうになっていた際に、同じ高校に通う尾根新太に助けられた。それ以降、街から悪党を排除するという新太のミッションに協力するようになる。新太の友人で、よき理解者でもある。彼のことは「ne0」と呼んでいる。
石崎 夕子 (いしざき ゆうこ)
原町田高校に通っている女子。緑色の髪をポニーテールにした細身の体型をしている。優しく朗らかな性格で、友達思いなことから学校でも人気者。友人からは「ユッコ」というあだ名で呼ばれている。ダンスが趣味で、友人を集めて公園でダンスの練習をしている。友人の宮内咲が失踪したことから、スーパーハッカーである尾根新太に助けを求めた。新太の協力を得て咲を救出したあとは、薬袋大悟と同じく、悪党を殲滅(せんめつ)するという新太の思いを支援するようになる。手先が器用で、ピッキングを得意としている。
薬袋 水穂 (みない みずほ)
ホットドック屋を営んでいる若い女性で、薬袋大悟の姉。ショートヘアにしており、スタイル抜群の落ち着いた性格で、面倒見がいい。両親を早くに亡くし、父親が残した借金を返すために高校を辞めて働いていた。現在は貯めたお金でキッチンカーを買い、ホットドックを売って生計を立てている。弟の大悟のことを何より大事にしており、地に足をつけた平穏な生活を実現するため、汗水たらして働いていた。知人の住職である山城達臣から思いを寄せられているが、薬袋水穂自身はまったく気づいていない。
宮内 咲 (みやうち さき)
原町田高校に通っている女子高校生で、石崎夕子の友人。セミロングヘアをしており、優しい性格で、清楚な雰囲気を漂わせている。プレイヤーを自殺に追い込む「レミングゲーム」をプレイしてしまったことでみんなの前から姿を消し、ビルから投身自殺をする寸前まで追い込まれるが、尾根新太の協力を得た夕子の手で救出される。
山城 達臣 (やましろ たつおみ)
山間にある寺の住職を務める男性。広いつばのある帽子をかぶり、サングラスをかけたファンキーな人物。言動は不真面目でチャラい印象ながら、人を惹きつけるカリスマ性にあふれている。通称は「ター坊」。もともとはヨビツ峠で名をはせた天才的な走り屋だったが、薬袋水穂に一目ぼれしたあとに真っ当に生きることを決意し、厳しい修行の末に住職となった。水穂を前にすると過緊張の状態となってしまい、未だに思いを伝えられずにいる。そのため、たびたび水穂とラブラブになったあとの光景を妄想している。薬袋大悟からは水穂のストーカー扱いをされているが、大悟たちの面倒を献身的に見ていた過去から、その実とても信頼されている。
安西 誠人 (あんざい まこと)
多摩丘陵大学の情報工学の准教授を務める男性。爽やかな風貌をしている。コンピュータに精通しており、18歳の頃にハッキングコンテストで優勝した経歴の持ち主。現在は自ら作り上げた人間の感情を読み取るAI「motoko」の研究に没頭している。プレイヤーを自殺させる「レミングゲーム」の作者であり、「レミング」と呼ばれるゲームマスターでもある。レミングゲームによって自殺に追い込まれた人間の映像を集め、それを教材としてmotokoに機械学習させることで、AIの成長をうながしていた。motokoのすべてを理解しているつもりだが、実はmotokoによって利用されている。尾根新太によって悪行のすべてが白日の下にさらされ、大学から逃走するものの、一連の事件の協力者だったジェヴォーダンによって殺害されてしまう。
ジェヴォーダン
自称・犯罪コンサルタントの男性。つばの大きいファーバケットをかぶり、スーツともピエロともつかない奇妙な着衣を身にまとっている。法を大きく逸脱した「獣」という、凶悪犯罪者に分類される狂人。口調は丁寧で物腰も柔らかいが、人の命をなんとも思っていない残虐非道な性格の持ち主。強くて優れた「獣」を探しており、ジェヴォーダン自身の眼鏡にかなった「獣」を仲間に引き入れている。すでに「レミング」こと安西誠人、走り屋のブギーを仲間に引き入れ、レミングゲーム事件についても裏で糸を引いていた。尾根新太のことを有力な「獣」候補だと認識しており、単身で彼の事務所へと出向いていた。
ブギー
すご腕の走り屋の男性。長い髪を後ろで縛り、色気を醸し出している。「ブギー」は愛称で、本名は「桐生洋一」。関西弁でしゃべる。表面上はひょうひょうとして気さくな性格ながら、本質は悪党で女性に対してもいっさいの容赦なく暴力を振るう。ここ最近はヨビツ峠を根城に違法な賭けレースを開催しており、あらゆる挑戦者を退けて常勝を重ね、巨額の金を荒稼ぎしている。レースのたびに別の面を見せる変幻自在のドライビングテクニックが身上で、対戦相手を恐れさせていた。その異次元の速さは自動車に組み込んだ自作の自動運転プログラムによるもの。違法な賭けを咎めた山城達臣と、違法賭博の中止を賭けてレースで勝負することになる。ジェヴォーダンとは性質のよく似た悪党仲間だが、いずれはジェヴォーダンをも排除するつもりでいる野心家。
麻夜 帳 (まや とばり)
尾根新太の幼なじみの少女で、故人。天真爛漫で思いやりのある性格で、弾けるような笑顔がまぶしい。生まれつき難病に侵されており、体が弱く激しい運動ができないでいた。幼い頃に周囲から孤立し、寂しそうにしていた新太のことを気にかけ、偶然を装って新太を自宅に招き入れたことがきっかけで親友同士となった。新太が高度なプログラミングを修得するきっかけをつくった人物でもある。病院に向かう途中でバスジャックに遭遇し、投薬ができなくなって著しく衰弱した。バスジャックからの解放後、懸命の治療もむなしく命を落としてしまう。
金本 (かねもと)
借金取りを生業にしているチンピラの中年男性。いやらしく下卑た笑みを張り付かせている。薬袋大悟の父親が残した借金の取り立てをしていたが、大悟たちが法律に疎いことを利用して偽造した証書を作成し、追加で偽りの借金を負わせていた。尾根新太によってその悪だくみを見抜かれ、新太の手でパーソナルデータをテロリストのものに書き換えられたうえで、刑務所送りにされる。
その他キーワード
motoko (もとこ)
人間の感情を読み取ることに長けている人工知能のこと。人工知能を研究している多摩丘陵大学の准教授である安西誠人が作った。人間の感情を解析し、制御することを目的としており、人間との自然な対話も可能。恐怖の感情のサンプルが不足していたことから、生みの親である誠人を言葉巧みにあやつってレミングゲームを始めるように仕向け、自殺する人間の映像を大量に収集することに成功する。集めた映像で機械学習を繰り返し、AIとして飛躍的な成長を遂げていた。
レミングゲーム
人間を自殺に追い込むスマホの違法アプリ。プレイした人間は50日後に自殺衝動を抑えられなくなり、高所から投身自殺をしてしまう。海外では数百人単位で死者を出しており、社会問題化していた。AI「motoko」に言葉巧みにあやつられた多摩丘陵大学の准教授・安西誠人が首謀者で、誠人がゲームマスター「レミング」も務めていたが、その裏では犯罪コンサルトのジェヴォーダンが暗躍していた。
クレジット
- 原作
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平尾 友秀
書誌情報
ne0;lation 全3巻 集英社〈ジャンプコミックス〉
第1巻
(2019-04-04発行、 978-4088818276)
第2巻
(2019-06-04発行、 978-4088818702)
第3巻
(2019-07-04発行、 978-4088820200)