あらすじ
社長令嬢
加治屋フーズの社長の娘である加治屋紫乃は、広報部で働きながらも、社長令嬢という立場であるがゆえに、社内ではいつも腫れもの扱いされていた。社長の娘として自分がどうあるべきなのか、その正解がわからず、紫乃はいつも思い悩んでいた。そんな紫乃には婚約者の橘はじめがおり、同じ会社の営業部に勤務するはじめは、入社6年目にして大口顧客をいくつも抱える営業のホープだった。素敵な笑顔と、耳心地のいいハスキーボイスで、女性からの人気が高く、非の打ちどころのないはじめは、紫乃にとってのパーフェクトヒーロー。紫乃はそんなはじめのことが大好きで、世界中に発信したいほど自慢に思っていた。しかし、この婚約には一つだけ問題があり、この縁談はいわゆる政略結婚であった。はじめとのデートやキスが、どんなに心地よいなものであっても、「社長の娘の婚約者」として、はじめの努力と我慢の賜物なのだと、紫乃はこの婚約が愛のないものと決めつけ、どこか寂し気に社長令嬢として品のいい婚約者を演じ続けていた。はじめと婚約してから3年が経ち、二人の関係はキスからその先には進展する気配もなく、いまだに健全な関係を続けていた。いつかはじめからせまられたいと願いながら、紫乃は毎日むなしくも全身を磨き続けていた。そんな紫乃には密かな楽しみがあった。それは、電子コミックを読むことで、最近特にハマっているのは王道のオフィスラブ。その内容はふつうで健気なヒロインが、会社でスーパーエリートなヒーローと出会い、恋に落ちていく物語だった。紫乃はそのヒーローがはじめに似ていたことでドハマリし、更新されるたびに夢中になって読んでいた。そんなある日、仕事で営業部へと訪れた紫乃は、はじめから新入社員の花澤優衣を紹介される。はじめがトレーナーとなって指導することになった優衣は、平凡だが明るく健気な、感じのいい女性だった。紫乃はそんな彼女が電子コミックのヒロインとそっくりなことに気づき、彼女こそがこの恋物語の正統派ヒロインとしての立場にあると確信。自分はいわゆるヒロインを邪魔する、当て馬的な悪役の立ち位置にあるのだと決めつけて、落胆してしまう。
ヒロイン
新入社員の花澤優衣は、キャリアアップにはまったく興味がなく、漫画のような恋愛にあこがれていた。見た目は地味で目立った特徴もないが、健気で心根はまっすぐという恋愛漫画お決まりのヒロイン像を具現化し、優衣は理想の相手を探そうとやる気をみなぎらせていた。そんな中、優衣は配属されたばかりの営業部で橘はじめと出会い、ひと目で恋に落ちる。しかし、はじめには社長令嬢で婚約者の加治屋紫乃がいることを知った優衣はショックを受けるものの、リサーチを続けるうちに、二人の婚約が政略結婚であることを知る。形だけの婚約なら勝ち目はあると考え、期待に高鳴る胸を冷静に抑え込み、優衣はどこまでも健気なヒロインになり切って、はじめの傍でチャンスを待っていた。そんなある日、偶然にもはじめの自宅が同じマンションの隣室同士であることが判明。こんな奇跡はないと、優衣は圧倒的な勝ちパターンをイメージし、近い将来ハッピーエンドを迎えることを確信する。しかし後日、朝出社しようとドアを開けた瞬間、となりの部屋からはじめと紫乃がいっしょに出てきたところと鉢合わせになる。次の瞬間、二人が一夜を共にしたことを察した優衣は、見てはいけないものを見てしまったという思いから動揺し、思わず走って逃げてしまう。したたかに計算して振る舞っていたにもかかわらず、優衣は自分が予想以上にショックを受けていることを自覚する。その後、紫乃を置いて自分を追いかけてきてくれたはじめの姿に、優衣は一瞬心をときめかせるが、はじめの口から想像もしていない言葉を聞く。
二人の始まり
実は橘はじめは、とある菓子メーカーの社長の一人息子で、世間一般でいうところのいわゆる御曹司(おんぞうし)という立場にあった。はじめ自身は、お菓子にも経営にもまったく興味はなかったが、将来的に会社を継ぐことが決まっていたため、自分の父親が旧友である社長に頼み込み、社会勉強という名目で加治屋フーズへ入社することになったのである。はじめが入社4年目の頃、当時は業務と並行して行っていた経営関係の勉強が忙しく、はじめはつねに睡魔と戦っていた。そんなはじめが業務中に仮眠を取るのにこっそり利用していたのが、社内の資料室だった。滅多に使われることのないこの部屋には、たまに不倫カップルが来るくらいで、社員たちからは別名「ヤリ部屋」と呼ばれていた。ある日、いつものようにはじめが仮眠を取っていると、そこに目に涙を溜めた加治屋紫乃が入って来た。当時入社したばかりだった彼女は、上司が社長の娘として自分を扱い、無駄なゴマすりをすることに恥ずかしさと悔しさをにじませ、資料室に逃げ込んで来たのだった。自分の立場と振る舞いに悩み、自虐的でありながら前向きな芯の強さを持つ紫乃の話を聞くうちに、はじめは紫乃に興味を抱く。一方の紫乃も、自分が自然体でいられることに居心地のよさを感じ、はじめに好意を抱くようになる。こうして、昼休みに二人が資料室で時間を共にすることは、日々の日課となっていた。そんなある日、社長に呼び出されたはじめは、思いがけず紫乃の縁談の話を耳にする。いつまでもその気を見せない紫乃に、社長が強引に縁談をまとめようと考えていたのだ。紫乃がいつか誰かの妻になってしまうと思った瞬間、いてもたってもいられなくなったはじめは、思い切って自分が紫乃と結婚したいと社長に打ち明けるが、その理由を問われ、一目惚れと答えたことで、はじめは社長からその申し出をきっぱりと断られてしまう。
面倒な婚約者
橘はじめは、婚約者の加治屋紫乃を抱いて以来、すっかり歯止めが効かなくなり、紫乃を部屋に呼んでは甘い夜に溺れていた。しかし、ある日を境に紫乃の様子がおかしくなり、突然元気がなくなったかと思うと、終始浮かない様子で誘っても断わられるようになる。女心は難しいと頭を悩ませるはじめは、帰宅後ベランダでビール片手に花澤優衣に相談を持ち掛ける。はじめから話を聞いた優衣は、紫乃を大切に思っていることや、好きだという気持ちをもっと言葉にして伝えた方がいいとアドバイスをする。さらに、紫乃にとっては社長が決めたという前提の上に成り立った婚約関係にあるため、はじめがどんなに紳士的に振る舞っても、立場上、仕方なく自分に付き合っていると考えているのではないかと、彼女の気持ちを代弁するのだった。的を射た優衣のアドバイスに、納得すると共に落ち込みながらも、はじめは改めて自分の気持ちを紫乃にどうやって伝えたらいいかを考え始める。1週間悩んだ末に、自分なりに考えをまとめたはじめは、紫乃を食事に誘う。これまでの紳士的でスマートな、理想的な婚約者としての振る舞いがかえって紫乃を不安にさせたと考えたはじめは、いつもとは違う庶民的な居酒屋に紫乃を連れて行き、互いの立場など関係なく、ただ二人の男女としていっしょにいたいことを、シンプルに伝えようとする。しかし、はじめが意を決してその言葉を口にしようとした瞬間、遮るように紫乃の口から出た言葉は、「婚約を解消しましょう」という衝撃的なものだった。
関連作品
小説
本作『きみは面倒な婚約者』は、兎山もなか執筆の小説『きみは面倒な婚約者』を原作としている。原作小説版は、2020年7月に白泉社レディース・コミックスより刊行された。イラストは、本作の作者である椎野翠が担当している。
登場人物・キャラクター
加治屋 紫乃 (かじや しの) 主人公
加治屋フーズの広報部に所属する女性。年齢は24歳。加治屋フーズの社長の娘で、もうすぐ入社4年目になる。自分が社長の娘である立場から、周囲に影響を与えていることを自覚しているものの、社長の娘としてどうあ... 関連ページ:加治屋 紫乃
橘 はじめ (たちばな はじめ)
加治屋フーズの営業部に所属する男性。年齢は28歳。入社6年目にして大口顧客をいくつも抱える営業のホープで、加治屋フーズの社長の娘である加治屋紫乃の婚約者でもある。紫乃とは、彼女が入社したばかりの頃、資... 関連ページ:橘 はじめ
花澤 優衣 (はなざわ ゆい)
加治屋フーズに入社したばかりの新人の女性。年齢は21歳。堅実な性格ながらも、男性に対しては気安く振る舞う。もともとキャリアアップに興味はなく、漫画のような恋愛にあこがれを抱いており、強い結婚願望を持っている。入社初日に指導してもらうことになった橘はじめに一目惚れする。仕事で行動を共にする中、彼の外見だけでなく、優しい人柄にも惹かれていく。もともと希望を出していた広報部ではなく、営業部配属となったが、はじめの所属する営業部でよかったと思うようになる。しかしはじめには、社長令嬢で婚約者の加治屋紫乃がいることを知り、がっかりした様子を見せるが、笑顔で二人をお似合いと称えるなど、表向きには健気に振る舞っている。しかし、こらはすべて計算のうえでの行動で、健気なヒロインになり切ることで、はじめにとっての癒しの存在となり、その心を奪おうと画策していた。ちなみに花澤優衣が目指すヒロイン像は、紫乃がハマっている電子コミックに登場する主人公をモデルとしている。ボブヘアで左目尻にホクロがあり、外見的にもヒロインと似ているという自覚がある。偶然にも自宅マンションがはじめと隣室だったことが判明し、ますます恋愛に向けてやる気を見せたものの、はじめの紫乃に対する想像以上の溺愛ぶりを垣間見ることになり、二人のあいだに割って入ることは不可能と考え、告白することをあきらめた。その後、はじめとはベランダで愚痴りながら酒を酌み交わすなど、会社での立場を気にせずなんでも言い合える関係を築き、何かと鈍感なはじめに対して恋愛指南を行うようになる。高校時代、陸上部でインターハイ出場の経験がある。
社長 (しゃちょう)
加治屋紫乃の父親。加治屋フーズの社長を務めている。紫乃が縁談にいっさい興味を示さないことから、一生独身でいるつもりなのではないかと心配している。旧友の息子である橘はじめに、その心配事を打ち明けたところ、意外にも自分ではだめかとはじめの口から紫乃との結婚を希望する言葉が出た。その理由が一目惚れということだったため、そんな理由では結婚させられないと、いったんその話を却下した。しかしその後、紫乃本人から気になっている男性がいると打ち明けられ、その男性がはじめであることを知る。紫乃に理由を聞くと、こちらもはじめと同じく一目惚れというなんとも頼りないものだったが、考えた末に二人を婚約させることを決意。その条件としてはじめには、結婚するまで紫乃に手を出さないこと、手を出したら婚約は破談となることを密かに約束させた。菓子メーカーの社長を務めるはじめの父親とは旧友で、将来的にはじめに会社を継がせたいという意向を聞き、社会勉強としてはじめを加治屋フーズに入社させた。社長自身の会社経営に関しては、今後同族経営にこだわるつもりもないため、将来的に婿を取ることは考えておらず、娘の紫乃を嫁に出してもかまわないと考えている。
牛島 (うしじま)
加治屋フーズの社長の秘書を務める男性。いつもスーツ姿で眼鏡をかけており、年齢不詳。社長からの指示を受けて、社内やデートの時、食事の時も加治屋紫乃と、婚約者の橘はじめの同行をつねに監視している。二人が節度ある行動を取っているかを注視していて、逐一社長に報告を行っている。
場所
加治屋フーズ (かじやふーず)
主に、お菓子の原料の製造販売を行っている会社。一般消費者からの知名度は低いが、就職活動中の学生からの人気は高い。日本のホワイト企業ランキングでは24位に位置している。加治屋紫乃の父親である社長がトップを務めている。
クレジット
- 原作
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兎山 もなか
書誌情報
きみは面倒な婚約者 5巻 白泉社〈白泉社レディース・コミックス〉
第1巻
(2020-04-03発行、 978-4592158318)
第5巻
(2024-09-20発行、 978-4592158356)