あらすじ
巨大少女
オシャレが大好きな中学2年生の女の子・三輪しげるは、親の都合で離島に住む祖父・三輪のじいちゃんと同居することになった。青い海に囲まれた小さな島は、ネットインフラは整備されているものの、コンビニエンスストアもファミリーレストランもない退屈そうな場所だった。ここでの生活を考えるだけで気が滅入ってしまうしげるだったが、引っ越してきた当日、しげるはこの離島に住んでいる巨大な少女・藤田みくるを目の当たりにする。人前に出ることが苦手なみくるは、あいさつだけしてその場を去るが、しげるは身長15メートルを超えるみくるに驚きながらも、顔が小さくスリムでモデル体型であることに注目して、目を輝かせる。さらにみくるが自分と同じ中学2年生であることを知り、しげるにとって退屈しかないと思っていた離島での暮らしは、一気にバラ色へと変貌する。みくるとなかよくなりたいという願うしげるは、自分の得意ジャンルであるオシャレで気を引こうと、髪のまとめ方やアクセサリーなどを駆使して彼女に接近。すると、かわいいヘアスタイルや髪飾りに興味を持ったみくるは、ブルーシートを身にまとい、きれいに飾った髪で堤防をランウェイに見立てて颯爽と歩く。その姿はモデルさながらで、興奮したしげるはそんなみくるを撮影した動画を、そのままSNSにアップロードしてしまう。その動画を見たテレビ局の取材クルーが離島に押し寄せるが、マスコミはみくるを巨大な怪物として面白おかしく扱おうとしていることを知ったしげるは反発し、取材クルーを追い返そうとする。そんなしげるの姿を目にしたみくるは姿を現し、自らの手で取材クルーを船に乗せ、島から追い出すのだった。自分たちの身に起きたことに驚き、整理しきれないままの取材クルーたちは、新たな取材を行おうとしたその時、巨大少女について新しい動画がアップロードされる。それは、相川りんがアップロードしたものだった。りんは、みくるの動画が作られるまでを具体的に紹介したメイキング動画を作成することで、世間に対して巨大少女の姿がCG処理されたものであると思わせることに成功。これにより取材クルーも新たな取材を断念し、一連の騒動は鎮静化するのだった。その後、新学期が始まり、三人の中学校生活は想像以上に刺激的で楽しいものとなる。そんな中、しげるはみくるが暮らしていくうえで不便なことが多い点に気づき、改善に奔走する。
欲しい物
巨大少女・藤田みくるは、自宅の倉庫で睡眠中、壁に頭をぶつけて目を覚ます。この1年間で5メートルも身長が伸びたため、自宅の中に体を納めるのも大変なみくるは、もしかするとまた体が成長してしまったのではないかと危惧。すぐに膝の高さを確かめるものの、どうやら体の大きさは変わっていないようで、安堵のため息をつく。小さな布団をいくつも縫い合わせて作られた専用の布団を折りたたむと、みくるはいつもどおり滝の水で顔を洗い、島民が運んでくれた朝ごはんを食べる。しかし、みくるにとって小さな豆粒サイズに過ぎない朝ごはんでおなかが満たされることはなかった。それからみくるは、三輪しげるに習った方法で髪を編み、近くにあったツル性の植物を使ってかわいらしく結ぶが、すぐにほどけてしまう。そしてみくるは、自分も髪ゴムが欲しいとつぶやく。みんなにとって簡単に手に入るものも、みくるにとってはなかなな手に入らないものが多かった。自分が写るサイズの鏡、足が伸ばせる部屋と布団、雑誌に載っているような洋服や下着など、欲しいものはいくつでも思いつく。クリームやフルーツたっぷりのスイーツも食べたいし、焼き肉をおなかいっぱいになるまで食べたいし、スマートフォンも欲しかった。みくるはそんな夢を思い浮かべるものの、自分の手の大きさを目の当たりにし、そんな夢が叶うわけはないと落ち込んでしまう。だがみくるは、登校してきたしげると相川りんから、パンツ用のゴムを編んで作った巨大な髪ゴムをプレゼントされ、欲しいものが一つ手に入ったと驚喜する。りんとしげるという友達の存在によって、思いがけず願いが一つ叶ったことで、みくるは笑顔を取り戻すのだった。
登場人物・キャラクター
三輪 しげる (みわ しげる)
とある離島の中学に通う2年生の女子。親の都合で、離島に住む祖父・三輪のじいちゃんと同居することになった。もともと都会暮らしで、コンビニエンスストアやファミリーレストランが生活するうえで欠かせないと考える、生粋の都会っ子だった。愛読書は、中学生向けの月刊ファッション誌「Cuteen」。オシャレが大好きで、将来は読者モデルを夢見ている。素直な明るい性格で、何事にも積極的に振る舞う。離島に引っ越して日に、藤田みくると出会って友達になりたいと思うようになり、自分の得意ジャンルであるオシャレでみくるの気を引こうと試行錯誤して彼女と親しくなった。みくるの写真をSNSにアップロードしたことで、テレビ局の取材クルーが離島に押し掛け、みくるに迷惑をかけてしまう。しかし、クラスメートの相川りんと共に、みくるとの付き合い方を学び、彼女が日常を送るうえで不便なところを改善しようとしている。中学校にはクラスメートが三人しかおらず、動画配信部を作ろうと奔走するが、みくるとりんが反対しているため、実現には至っていない。みくるの手が大きすぎて雑誌をめくることができないため、長い物差しの先に指サックをかぶせたものを用意し、「めくり棒」と名づけて彼女にプレゼントした。
藤田 みくる (ふじた みくる)
とある離島の中学に通う2年生の女子で、身長が15.7メートルもある巨大な少女。相川りんとはクラスメートで、小学生の時からなかよくしている。離島に引っ越してきた三輪しげるの存在が新たな刺激となり、少しず... 関連ページ:藤田 みくる
相川 りん (あいかわ りん)
とある離島の中学に通う2年生の女子。藤田みくるとはクラスメートで、小学生の時からなかよくしている。顔のそばかすと強情なくせ毛にコンプレックスを抱いている。なかなか素直になれないところがあるが、実際は友達思いの優しい性格の持ち主。父親の仕事の影響で、動画編集に関して造詣が深い。転校生の三輪しげるがなんの承諾もなくみくるの動画をSNSで配信した際には、その影響でテレビ局の取材クルーが大挙して押し寄せてきた。みくるが危険だと察し、しげるがアップロードした動画がCGであるかのようにダミーのメイキング動画を作成し、ネット上にアップロードすることで騒ぎの沈静化を図った。しっかり者で、みくるの将来を誰よりも心配している。また、離島に高校がないため、みくると過ごせる日々はあと2年足らずということも認識しており、今を大切に過ごしたいと考えている。みくるがファッション誌に夢中になっていた際も、離島から出ることができないみくるには酷だと考えて、一方的に雑誌を取り上げようとした。しかし、これらの考えがみくるに寄り添っているようでいて、みくるの気持ちを置き去りにした独りよがりな考えであることに気づく。それ以来、中学生活を大切に過ごすという基本的考えのもと、三人で和気あいあいと過ごす時間を楽しめるようになった。制服のスカートの下は、いつもジャージを着用しているジャージ愛好家。そのため、ある時しばらく着ていなかった私服のほとんどが、成長と共にサイズが合わなくなったことに気づき、慌てて服を新調し直すことになった。しかし好みのデザインは、普段着にするには恥ずかしいデザインとなり、結局私生活のジャージを着続けている。
三輪のじいちゃん (みわのじいちゃん)
三輪しげるの祖父。離島では町会長を務めており、住民たちからの信頼は厚い。特に藤田みくるに対しては、自身が中心になって住環境の改善などに向けて尽力している。みくるの食事は、本土の企業に自らが掛け合った結果、消費期限ぎりぎりの商品を送ってもらうことが可能となり、それで賄っているものの、それでも量的に足りていないのが現状。日々成長するみくるをフォローすべきことは山ほどあるが、資金不足もあって、なかなかフォローしきれていない。資金に関しては、議員に掛け合って議会に働きかけ、なんとか融通してもらおうとしているが、「みくるを一人の人間として扱う」という基本的な考えが邪魔をする形となり、特別な支援は得られない状況となっている。
一色 さな (いっしき さな)
離島の中学校に新たに赴任してきた教師の女性。離島の分校は初めての経験で、失恋の勢いだけで辞令を受けてしまった。自分以外の教師は夫婦で赴任している佐野先生二人のみで、宿舎は校舎という絶望的な状況に、新学期初日にして早くも不安を感じている。ちなみに離島には新たな出会いを求めてきたものの、そもそも若い男性がいないことに遅ればせながら気づいて愕然としている。お酒が大好きで辛党。
ケンタ
とある離島の小学校に通う6年生の男子。ヤンチャないたずら坊主でスカートめくりの常習犯。簡単には手が届かない藤田みくるに対しても、椅子とほうきを使うなどしてスカートめくりに勤しんでいた。根っからのお姉さん好きで、年下の女子のスカートは決してめくらない。相川りんとみくるの小学校の卒業式の日、うっかり熱を出して欠席することになり、最後のスカートめくりができなかったことが、大きな心残りとなっていた。そんな中、小中合同の合唱祭で久々にりんやみくると会うことになり、自分の気持ちにけじめをつけようと心置きなくスカートめくりをした。だが、想像以上に成長していたみくるのスカートをめくろうとして、つかんだスカートの端から落ちそうになった。とっさに気づいたみくるによって救われたが、危うく命を失うところだった。ケンタにとってスカートめくりはあいさつのようなものだったが、それ以来スカートめくりはしないと誓った。
ひなこ
とある離島の小学校に通う女子で、ケンタの妹。ぱっつん前髪でひとまとめにしている。兄が6年生になってもスカートめくりを続けている理由を、三輪しげる、藤田みくる、相川りんに語って聞かせ、ケンタのスカートめくりへの思いを代弁した。その語り口には、妙な説得力と迫力がある。
ヨシ
離島で暮らす老齢の女性。離島で唯一の商店「丙太郎商店」を営んでいる。お米や日用品、文具、燃料までなんでも取りそろえている。ある時、三輪しげるから、月刊誌「Cuteen」を置いてほしいという要望を受けたが、一見さんのいうことは聞けないと突っぱねた。実は、三輪のじいちゃんを慕っており、じいちゃんが買い物に来た際には、料金はいらないと品物をタダであげようとするほど。その後、しげるが三輪のじいちゃんの孫であることを知り、しぶしぶ雑誌を仕入れることになった。
場所
離島 (りとう)
青い海に囲まれた小さな離島。過去に化学物質の流出事故があり、テレビ局による取材の影響で風評被害に遭い、漁業どころか観光業もすたれてしまう。コンビニエンスストアやファミリーレストランはなく、お店といえばお米や日用品から、文具、燃料までなんでも取り扱う「丙太郎商店」だけ。島内には源泉が海に流れ込んでいる場所があり、海に面した絶景の温泉となっているが、利用者は少ない。その掘っ立て小屋も、しょっちゅう波にさらわれる関係で、修理が追い付かない状態にある。島の住人も若い人はあまりおらず、島での暮らしものんびり穏やかな空気が漂っている。ただし、ネットインフラはきちんと整備されており、早期引退したいわゆるIターン世帯が増え始めている。島内には空き家が多くあり、都会から人を呼ぶことを目的に宅地を造成したものの、空き地のままになっている場所も多く、販売状況は芳しくない。子供は、中学生の三輪しげる、藤田みくる、相川りんの三人、小学生のケンタとひなこの五人だけとなっている。また、みくるを養うには莫大な資金が必要で、日々成長するみくるに合った制服を用意するのも大変。これに関しては、三輪のじいちゃんが中心になり、議会に働きかけるなどしてなんとか資金を募ろうとしているが、あまりうまくいっていない。
書誌情報
ちっちゃい島のでっかいガール 3巻 講談社〈モーニング KC〉
第1巻
(2022-02-09発行、 978-4065268797)
第2巻
(2022-05-11発行、 978-4065278604)
第3巻
(2022-09-14発行、 978-4065292334)