あらすじ
第1巻
臼井幸は名前の通り、幼い頃から幸薄い人生を送っていた。あまりにも運のない日々の連続に、仕事に恋愛、すべてにおいて幸は投げやりだった。そんなある夜、仕事帰りに立ち寄ったコンビニエンスストアで、おにぎりやカップラーメンなど、1週間分の食料をかご一杯にまとめ買いしようとしていた幸は、そんな食事で元気が出るのかと見知らぬ男性に指摘されてしまう。翌日、いつものように朝から嫌な事にばかり見舞われた幸は、終業時間直前に頼まれた仕事のせいで遅くまで残業する事となった。その帰り道、いつものコンビニエンスストアに寄った幸は、昨夜の買い物にケチをつけて来たおせっかい男子に再び遭遇。「唐丸篤」と名乗ったその男性は、お花見中だからいっしょに飲もうと、幸を強引に近所にある縁泉寺に連れて行く。幸はそこで住職の源導と小木武徳と知り合い、困惑しながらも手作りの精進料理をごちそうになりながら、「こだわりを捨てる」という話を聞く。これを機に、幸は改めて自分の生活を見直し、自宅に帰って、しばらく遠ざかっていた料理に挑戦。以来、幸の日々の生活に変化が現れ始める。(第1話「幸せの大豆だし」。ほか、5エピソード収録)
第2巻
年始を迎え、臼井幸は、豆腐を使った常備菜作りに精を出していた。幸は、以前合コンで知り合った男性・有村幸治と、生まれて初めてのデートの予定があり、こうして食費を浮かせる事で、服やコスメを購入し、来る日に備えようと考えていたのである。だがデートの前日、寒さが募る中で節約のためにエアコンを使わずに眠りについた幸が翌朝目を覚ますと、ひどい頭痛と止まらない咳で、気持ち悪さを覚える。自分が38.9度の高熱を出している事を知った幸は、あわてて有村にデートをキャンセルする連絡を入れる。看病したいという彼の申し出を丁重に断りながらも、その優しさに感動しつつ再び眠りにつくのだった。翌日、熱はすっかり下がり快復したものの、やる気の出ない幸は、いつものコンビニエンスストアに買い出しに行く。そこで出会った唐丸篤は、幸が病み上がりである事を知り、彼女を縁泉寺に誘う。縁泉寺で幸を迎えた源導と小木武徳は、肝心な時に体調を崩してしまった事ですっかり落ち込み気味の幸に豆乳鍋を振る舞い、その作り方にならって、自分をいたわる事の大切さを話す。(第11話「自分をいたわる」。ほか、5エピソード収録)
第3巻
臼井幸は、有村幸治との初デートドタキャン騒動からしばらくして、ようやく人生初のデートを決行する事になった。この日、浅草を訪れた二人は、外国人観光客で混雑する中、ベタな観光スポットを回って歩いていた。その後、有村が抹茶アイス好きだと知った幸がリサーチした、人気の抹茶アイス専門店へと向かう。アイスクリームを食べながら、物腰柔らかな有村ともっとなかよくなりたいと、将来のヴィジョンを夢見ていた幸だったが、そこでハプニングが発生。小さな少年が、手に抹茶アイスを持ったまま、幸にぶつかってしまったのだ。今日のために準備したワンピースはアイスクリームでべとべとになり、さらに抹茶アイスがダメになってしまった事に気づいた少年は、大泣きし始めてしまう。泣くに泣けない状況の中、幸はとりあえず近所の衣料品店で替えの服を購入したものの、お年寄り用の服を身につける事になったため、デートは早々にお開きとなる。幸は、そのままの姿でコインランドリーに立ち寄り、ワンピースを洗濯しながら、もう有村は会ってはくれないだろうと、今後の事を考えて涙に暮れていた。そこへ偶然、源導が通りかかる。(第16話「透明な心」。ほか、5エピソード収録)
第4巻
新年を迎えて、臼井幸は有村幸治と3回目のデートで、初詣に訪れていた。一般的に、3回目のデートでは男性側から何らかのアクションがあるらしいと言われていた幸は、今日、自分の人生が大きく変わる事になるかもしれないと、期待に胸膨らませていた。そんな中、不意に有村に手を取られ、手をつないで歩いていると、偶然にも唐丸篤と小木武徳と鉢合わせしてしまう。幸が男性と手をつないでいる事に気づいた唐丸は、モヤモヤした気持ちになり、とっさに幸とお寺で料理する約束があったはずと嘘をついてしまう。その嘘を真に受けた有村は、自分はいいからと幸を残し帰ってしまう。呆然自失の幸は、気持ちのやり場のないまま、縁泉寺に足を運ぶ。すっかりへこんだ幸は、謝る唐丸を尻目に、黒豆でおしるこを作りながら、「3回目のデート」の持つ意味や、告白は男性がするものといった持論を展開する。それを聞いた唐丸は、自分に甘い幸の考えに憤慨し、無理矢理幸の携帯電話を奪うと、有村に寺まで来るようにと勝手に連絡をしてしまう。そして幸に、今、彼に告白して来るようにと強引に背中を押すのだった。幸は困惑しながらも、勇気を振り絞って有村に告白。自分の思いを伝える事に成功するが、そこへタイミング悪く「有村の彼女」を名乗る一人の女性が姿を現す。(第23話「私が、変わる?」、第24話「私を、作る」。ほか、4エピソード収録)
第5巻
臼井幸は、有村幸治との3回目のデートを経て、覚悟を決めて一世一代の告白をしたものの、結果は見事に玉砕。その心の傷を、幸はすっかりこじらせてしまっていた。自分は一生一人で生きていくのかもしれないと考えた幸は、シングルライフを楽しむための「ソロ活」を始める。一人映画に一人カラオケ、一人スイーツバイキングと、周囲からの誘いをすべて断って、「お一人様」に明け暮れる幸だったが、そんな彼女のもとに、唐丸篤から連絡が入る。今日は日本文化を体験できるという「お寺フェス」の日で、その手伝いをしてほしいというのだ。幸はイヤイヤながらイベントに参加するが、何かにつけて一人の時間を大切にしていると言い張る。そんな中、幸はイベントの最中に足を踏み外してケガをしてしまう。幸を心配し、せっかく介抱してくれた唐丸に対しても幸は暴言を吐き、手当てを拒絶。そこへやって来た源導は幸に、人間は一人では絶対に生きていけないという、暖かい話を語って聞かせる。(第25話「ひとりで生きられる?」。ほか、8エピソード収録)
登場人物・キャラクター
臼井 幸 (うすい さち)
27歳の社会人女性。自分の名前が「幸薄い」ことを連想させることが原因で、幼い頃からツイていないことだらけの人生を送っている。仕事にも恋愛にも日々の生活にも良いことがなく、毎日の食事は主にコンビニエンスストアで購入したお弁当やカップラーメンなどの出来合いのものばかり。何かとすぐに、他人と自分を比較しては落ち込みやすい性格で、自分に自信がない。 座右の銘は「人生期待したら負け」。すべてにおいてあきらめの境地に達していたが、唐丸篤、小木武徳、源導との出会いがきっかけとなり、生活に変化が訪れる。
唐丸 篤 (からまる あつし)
仏教系大学に通う男子学生。実家の寺を継ぐべく、「縁泉寺」の住職である源導のもとに弟子入りしている。明るく人懐こい性格で、思ったことは何でも悪気なく口にするタイプ。良くも悪くも遠慮がなく、コンビニエンスストアで買い物中の臼井幸の、買い物かごの中身を見て声をかける。
小木 武徳 (おぎ たけのり)
精進料理を学ぶため、「縁泉寺」の住職である源導に弟子入りしている男性。将来はオーガニックの店を持つという夢があり、飲食店でのアルバイトも並行して行っている。料理教室にも通っており、食に関する知識が豊富。割と女性にモテるが、本人は自覚していない。同棲中の彼女がいる。
源導 (げんどう)
「縁泉寺」の住職を務める32歳の男性。25歳の時、父親が寺の跡を継ぐことを嫌って家を出てしまったため、当時住職を務めていた祖父龍源の跡を継ぎ、住職となった。両親は離婚していたので母親がおらず、小さい頃から料理をしていたため、料理の腕や知識は相当なもの。優しく温和な人柄と、おいしい精進料理で、悩みを抱えた人たちの心を軽くする。 地域の人々からも慕われており、元住職の龍源と区別するため、「若さん」と呼ばれている。
前澤 笑子 (まえざわ えみこ)
臼井幸とは同期の女性社員。美人で明るく積極的な性格。仕事もでき、人に対する気遣いもできるため、上司からの信頼も厚い。周りからは、それが持って生まれたものであると思われがちだが、実際は自分の苦手意識を克服するために日々勉強、努力してきた結果によるもの。部屋は散らかり放題で、仕事に対する向上心も失ったダメな自分を変えたいと、幸に連れられて源導のもとを訪れる。
龍源 (りゅうげん)
「縁泉寺」の元住職。源導の祖父。89歳。自由奔放な人柄で、つい最近まで不摂生がたたって入院していた。「自分が美味いと思うものを食べて生きていく」ということを念頭に、源導の作った料理の味付けに文句を言っている。手伝いに来ていた臼井幸のことを、源導の恋人と思い込んでいる。
たけちゃん
臼井幸の大学時代の友人の女性。現在は結婚し、息子「ゆうた」と1歳5か月の娘「はるな」の母親として、忙しい日々を送っている。夫に息子の子守をお願いして、久しぶりに大学時代の友人同士の集まりに参加した。
まっちゃん
臼井幸の大学時代の友人の女性。現在はフリーランスのイラストレーターとして活躍。自身のイラストがグッズ化され、ウェブ通販で販売されることが決定している。控えめで大人しい人柄だが、友人の結婚式で知り合ったデザイナーの男性に告白され、悩んだ末に付き合うことになる。おしゃれなテーブルコーディネートや凝った料理を作ることが趣味。
有村 幸治 (ありむら こうじ)
臼井幸と合コンで知り合った29歳の男性。酒に酔って、つぶれた前澤笑子を帰宅させるため、介抱していた幸に同行した。その後、同席していた幸の同僚を経由して幸のメールアドレスを手に入れ、連絡を取り合うようになる。明るく温和で、気遣いもできる人物。
甲野 美沙 (こうの みさ)
臼井幸の勤める会社の先輩にあたる女性。会社の同僚である乙木愛美の仕事に対する姿勢に納得がいかず、乙木が無責任で甘ったれであると感じ、ストレスを溜めている。幸をランチに誘って、乙木に関する愚痴を放出。幸に同意を求め、困らせる。
乙木 愛美 (おとぎ まなみ)
臼井幸の勤める会社の先輩にあたる女性。会社の同僚である甲野美沙の自分に対する態度に納得がいかず、甲野の性格が悪いとストレスを溜めている。幸をランチに誘って、甲野に関する愚痴を放出。幸に同意を求め、困らせる。
深山 陽一 (みやま よういち)
源導の父親。龍源の息子。7年前、実家の寺「縁泉寺」を継ぐのを嫌がり、息子を置いて家を出た。現在はバイクで旅をしながら、ミュージシャンとして、細々とライブ活動などを続けている。父親に似て自由奔放で天真爛漫な人柄。息子の作った料理を食べ、素直に感動する。
堀越 (ほりこし)
臼井幸の上司にあたる女性。社内の人間にとって、しっかり者で頼りがいのある姉のような存在だった。このたび退職し、農業を始めることになった。会社に不満はなかったが、好きな仕事をしたいと一念発起した。
狩野 美空 (かの みそら)
臼井幸の勤める会社の後輩にあたる23歳の女性。新人のため、幸から指導を受けながら仕事をこなしており、仕事のペースは遅め。そのため、始業時間よりも早く出社し、仕事の遅れを取り戻そうとするなど、真面目でがんばり屋。
石田 (いしだ)
臼井幸の上司にあたる45歳の男性。もともとは、「WEB制作部」にいたが、幸のいる部署に異動になった。前の部署で築き上げたキャリアがネックとなって、いつもぼーっとしていて仕事を進めようとせず、今の部署の仕事や人間になかなか馴染もうとしない。そのため、幸をはじめとする部署内の人間を困らせている。
中布 小夜 (なかぬの さよ)
小木武徳とマクロビオーガニックの料理教室で知り合った女性。マッシュルームヘアにしている。精進料理に興味があり、最近では縁泉寺にも時々訪れる事がある。小木に思いを寄せており、自分の気持ちを叶えるために、小木と彼女を別れさせたいと考えている。そのためのアドバイスを欲し、何度も源導のもとを訪れているが、納得のいくアドバイスがもらえない事に憤慨している。
丸山 未加 (まるやま みか)
臼井幸の大学時代の先輩にあたる女性。30歳になった現在も、髪型をツインテールにして、地下アイドルとして活動中。ミソジ星からやって来たプリンセス「ミソジ☆エンジェルみかるん」という設定で、執事の「クマジ」と名付けられたテディベアを片手に持っている。ずっと売れないままアイドル活動を続けており、年齢からか体力の衰えや結婚の事も気になりだしたため、このままアイドルを続けていくべきか悩んでいる。久しぶりに幸と会って悩みを口にした事で、縁泉寺の源導のもとを訪れるようアドバイスをもらった。実家は栗農家で、アイドルをやめて農業を手伝うように言われている事も悩みの種。
臼井 美里 (うすい みさと)
臼井幸の母親。広島の田舎に住んでおり、元栄養士という事もあって、食事に関しては口うるさい。食に関して無頓着な幸の暮らしを心配し、観光もかねて東京にやって来た。実家では何もしなかった幸が精進料理を作った事に驚き、感動する。しかし、精進料理を教えてくれた源導がイケメン住職である事を知り、幸が寺に嫁ごうとしていると勘違いしている。56歳ながら、かなりのミーハーで、東京観光ではフィギュアスケートショーが目当てだった。
清川 聖子 (きよかわ せいこ)
源導の見合い相手の女性。生け花を通じて知り合った源導の母親の紹介で、見合いをする事になった。見合い当日、偶然縁泉寺を訪れた臼井幸が、源導目当てで寺に通い詰めていると思い込んでいた。そのため幸と顔を合わせると、けん制するような態度を取る。
クレジット
- 原案協力
- 監修
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青江 覚峰
書誌情報
サチのお寺ごはん 全13巻 秋田書店〈A.L.C.DX〉
第11巻
(2022-07-14発行、 978-4253160001)
第12巻
(2023-01-16発行、 978-4253162395)
第13巻
(2023-08-16発行、 978-4253162401)