あらすじ
第1巻
明治初頭、妻の妙を間男の大月祥馬に奪われたシュマリは、彼らを追って東京から北海道に着くなり、誤って函館藩士を殺めて指名手配犯になってしまう。シュマリは余市で妙と大月を見つけるも、大洪水に襲われた事で、大月は帰らぬ人となる。大月に心底惚れ込んでいた妙はシュマリと暮らす事を拒んだため、シュマリは妙を残し、一人札幌へと向かう。そこでシュマリは明治政府に捕まるが、死刑を執行しない代わりに、かつて榎本武揚が密かに持ち出した五稜郭の軍用金の隠し場所を探すよう、取引を持ちかけられる。その後、シュマリは背中に五稜郭の軍用金のありかを記した地図の刺青を入れた男を探し出し、3万両相当の砂金を手にする。そして、その金を元手に土地を買い、牧場の経営を始める。種馬をシュマリに売った太財弥七は、シュマリに興味を持ち、自分の右腕になるようスカウトするが、シュマリはこれを拒否。これにより、弥七の兄・太財弥十から命を狙われるようになる。そんな中、妙と瓜二つの女・太財峯に惚れられたシュマリは、拾い子のポン・ションと共に牧場を営みながら生活を始める。
第2巻
シュマリの前妻・妙の存在を知った太財峯は、自分が彼女の代わりなのではないかと考えるようになり、役人にシュマリの所在を密告。これによってシュマリは逮捕され、集治監の囚人となる。そしてシュマリは、太財弥七が営む太財炭鉱に労働者として雇われ、太財弥十や大納屋の頭領、さらには同僚の罪人達に命を狙われるようになる。彼らは炭鉱の坑道にシュマリをおびき寄せ、暗闇に乗じて殺そうとするが、夕張で起きた局地地震により坑道は崩れ落ち、シュマリ、弥十、十兵衛、柳橋なつめ以外の全員が生き埋めになってしまう。何とかして出口を見つけ出し、脱出する事に成功したシュマリは、弥七の計らいで、戸籍上は死んだ事とされ、ポン・ションと峯、そして峯とのあいだに生まれた息子・弥三郎のもとへと帰る。こうしてシュマリ達は牧場を経営しながら平穏な日々を過ごすが、シュマリがみだれ髪を捕まえ、行き場を失ったアイヌの人々を受け入れた事により、さらなる危機に見舞われる事となる。
第3巻
シュマリは、アイヌの財宝を求めてやって来た野盗団と一戦交える事となり、太財峯とポン・ション、弥三郎の三人に太財弥七のもとへ行くよう指示する。激闘の末、シュマリは十兵衛やみだれ髪、そして牧場を失いながらも、野盗団を殲滅する事に成功。月日は流れ、50歳になったシュマリは華本要と再婚した妙と再会する。華本との生活に慣れない妙と共に暮らそうと考えたシュマリは、再び牧場作りに奮闘。そんなシュマリに対して、農学校の学生となったポン・ションは激怒するが、妻の峯は、妙はシュマリにとって生きる希望だと受け入れ、弥三郎を伴い、シュマリといっしょに暮らす事を決める。そんな中、妙が華本に撃ち殺されてしまう。怒りに燃えたシュマリは華本への復讐を決意するが、弥七から妙が死んだ経緯を聞かされた事で仇討ちを断念する。そして、開拓民によって発展していく北海道から、姿を消すのであった。
登場人物・キャラクター
シュマリ
アイヌ語で「キツネ」の意。「右腕は殺しのための手」と、普段はひもで縛って使わないようにしている。妻妙を奪って北海道へ逃げた大月祥馬を追って北海道の大地を放浪する。妙と大月祥馬を見つけるも、大月祥馬は洪水で命を落とし、一人で生きる決心をした妙を残してシュマリは去る。 その後、北海道にエゾ共和国を打ち立てようと野望を抱く太財一族から土地を買い、牧場を作る。やがて、太財一族の娘、太財峯とともに暮らすようになり、以後、彼らとの愛と野望をはらむ確執が続く。縛られることを嫌い、どこであっても自分の生き方を貫く、不屈の男であり、だれもがあきらめた荒れ地を開墾して牧場に育て上げるバイタリティあふれる野人である。
妙 (たえ)
シュマリの元妻。旗本でありながら、官軍に味方したシュマリを捨て、大月祥馬とともに北海道へ逃げる。シュマリに見つかるが、大月祥馬は、その夜、襲ってきた洪水から畑を守ろうとして死に、妙は一人、切り開いた土地にとどまる決意をする。
大月 祥馬 (おおつき しょうま)
シュマリの妻妙と北海道へ逃げた。シュマリに見つかるが、果たし合いを目前に、襲ってきた洪水から自分の畑を守ろうとして死ぬ。
太財 弥七
太財一族の次男。頭が切れ、父の死後、実質的に一族の事業を仕切る。一族は炭坑事業で「エゾ共和国」を作ろうという野望を持っていたが、地震により炭坑は壊滅する。妹の太財峯を、元妻の代用品にしたのかとシュマリを問い詰めるが、結局、和解しシュマリと人斬り十兵衛を死んだものとして放免する。 シュマリはまた、地震ですべてを失った太財弥七に、埋蔵金のありかを教える。心臓発作に悩まされ、政敵に操られた炭坑夫の暴動により命を落とした。
太財 峯
太財一族の末娘。自分に色目を使ったというだけで情け容赦なく人を殺す残忍さをもつ女だったが、一族の危機を救うため、自らをシュマリに身売りし、一冬をともに過ごすうちシュマリを夫として、また、シュマリの拾い子であるポン・ションを自分の子として愛するようになる。自分がシュマリの元妻、妙とそっくりである事を知って、自分が妙の代用品であるという嫉妬にかられ、指名手配中であるシュマリを密告するが、その後、再びシュマリと暮らすようになり、以後、献身敵な愛情を貫く。
太財 弥十
太財一族の長男。残忍で直情的な殺人者。たびたびシュマリを殺そうとする。炭坑でシュマリを襲うが、地震で坑内に閉じ込められ、シュマリに助けられる。しかし、その直後、自分が殺した女の情夫である炭坑の頭領に刺されて死ぬ。
ポン・ション
酒造りのアイヌ人女性の子ども。太財弥七の父に母を殺され、シュマリに拾われ、酒を母の乳の代わりに育つ。ポン・ションはアイヌ語で「ちいさなウンコ」の意。叔父である太財弥七が後見人になり、農学校に入学。その折、首麻里善太郎と和名を与えられる。日清戦争が起こり、ポン・ションも徴兵され、大陸へ渡るが、その際、中国北東部へ向かうシュマリと出会う。
華本 要 (はなもと かなめ)
男爵。公卿、華本実篤の次男。アメリカで学び、帰国後、北海道で郡書記官となる。シュマリの元妻妙を妻にする。渡米時のコンプレックスに心を蝕まれ、政争に疲れ、妙が太財弥七に支援を求めて、その代償に自らを捧げたことを許せず、妙を射殺してしまう。
みだれ髪 (みだれがみ)
『シュマリ』に登場する馬。白毛の南部馬で見た目は素晴らしく美しいが、疫病神と恐れられ近づくものがない。シュマリは、危険を承知で自分の馬にする。実は、眠り病にかかっており、乗った人間も、そばにいる馬も眠りこけて死んでしまう馬であった。
関口 金吾 (せきぐち きんご)
開拓督務補佐役島義勇の部下。佐賀藩一のピストルの使い手。手塚治虫のレギュラーキャラクター、ランプと同じビジュアル。用済みの人間は情け容赦なく始末する。シュマリとともに五稜郭の軍用金を探索に赴き、軍用金を発見するもシュマリに斬られ死ぬ。
吉兵衛 (きちべえ)
本郷団子坂の大工を名乗ってシュマリに近づくが、実は、五稜郭の軍用金の場所を記した入れ墨の男を捜している、元目明かしの刑事。シュマリを目的の男と決めつけ、捕らえて札幌へ向かう途中、イナゴの大群に教われ命を落とす。
太財一族
もと会津藩士の一族。北海道で産する良質の石炭で事業を興し、エゾ共和国を建設するという野望を抱く。だが、その性質は残忍、野蛮であり、詐欺、人殺しも意に介さない。炭坑を開くも、資金繰りに難航し、地震に教われ、後には政争に巻き込まれて炭坑夫たちの暴動が起きる。
柳橋 なつめ (やなぎばし なつめ)
東京からやって来た20代の女性。「十兵衛」と名乗るようになった「土方歳三」を追いかけてきた。十兵衛の弟と称して太財弥七の炭鉱に潜入するが、地震によって坑道が崩れると、十兵衛やシュマリと共に閉じ込められてしまう。なんとかして出口に辿り着くものの、山津波に襲われて命を落とす。
十兵衛 (じゅうべえ)
札幌の集治監でシュマリと出会った中年の男性。つねに脱獄する事を考えていたが、シュマリの人柄に惹かれ、彼と共に太財弥七の炭鉱で働いている。シュマリが炭鉱を離れたあとも、彼に付き添って共に野盗団と戦う。本名は「土方歳三」で、非常に剣の腕が立つ。自分を追いかけて来た柳橋なつめが、「土方歳三」と呼ぶのを否定し続けた。
集団・組織
アイヌ
『シュマリ』に登場する北海道の先住民族。シュマリは常に彼らを敬愛し、本土から来る和人たちよりも彼らに親近感を抱く。自分は彼らの土地を間借りしているだけであるとして、彼らの物を奪ったり、追いやったりすることをよしとしない。また、アイヌの人々も、和人であるにもかかわらずシュマリを信頼している。
その他キーワード
五稜郭の軍用金 (ごりょうかくのぐんようきん)
榎本武揚(えのもとたけあき)が、五稜郭陥落直前に隠した幕府の軍用金。ありかの地図は部下の体に入れ墨で記されている。死刑を待つシュマリに、開拓督務補佐役、島義勇は、命と引き換えにその金をみつけろと持ちかけ、部下の関口金吾とともに探索へ向かわせる。軍用金は細かく砕かれ、砂金状態で人知らぬ小川の川床に見つかる。
書誌情報
シュマリ 2巻 講談社コミッククリエイト〈手塚治虫文庫全集〉
第1巻
(2009-12-11発行、 978-4063737257)
第2巻
(2009-12-11発行、 978-4063737264)