世界観
本作『ピーチボーイリバーサイド』の舞台は、中世ヨーロッパ風の架空の大陸だが、実在の「日本」も登場する。人間の住む国が点在し、どの国も基本的に王政で成り立っているため、王族や貴族の権力が非常に強い。魔力や魔法の概念が存在し、鬼や亜人、魔物といった多様な種族が混在し、それらの種族に対して基本的に人間では太刀打(たちう)ちできない。また、作中では死者がいく天界や魔族が住む魔界といった現界(下界・地上)でない世界も存在し、天使が死者の復活や転生にかかわる。
あらすじ
サルトリーヌの旅立ち
田舎の小国、アルダイクの姫であるサルトリーヌ・アルダレイク(サリー)は外の世界にあこがれ、いつもどおり城を抜け出し周囲を困らせていた。城の兵士に追われるサリーは旅人のキビツ・ミコトに出会い、自分を追っている兵士をやり過ごすよう命令する。みごと兵士をやり過ごしたミコトに、お礼を兼ねて食事を振る舞い外の世界の話を聞く。一方、謁見の間では鬼の爺鬼が王に対し、毎月30人の生贄(いけにえ)を要求し、応じなければ侵略を開始する旨を伝えにやって来ていた。城を散歩していたミコトは、鬼を見つけ歪んだ笑みを浮かべる。ミコトは鬼退治をするために海の向こうの国、日本からやって来た「モモタロウ」だった。ミコトは瞳に桃の印を浮かべ、城の外に集まった鬼を愉(たの)しみながら次々と斬り捨てていき、返り血に染まった笑顔でサリーに別れを告げる。ミコトの旅について行こうとするも、目の前に広がる鬼たちの死体にサリーは恐怖に立ちすくんで嘔吐(おうと)し、その場から動けなくなってしまう。その後、サリーは1か月のあいだ悩んだ末に自分の無知を知って、このままでは未知のものにこの国が飲み込まれてしまうという考えに至り、旅立ちを決意する。父親である国王の前で、家と名と女を捨てることを宣言し、自らの髪をバッサリと切り捨てた。ミコトを追いかけサリーの世界を知る旅が始まる。
リムダールにて
順調に旅を続けるサルトリーヌ・アルダレイク(サリー)は、森で行き倒れている白ウサギの亜人(卯人)、フラウと出会う。フラウに人参(にんじん)を与え近くの村に同行するなり、サリーは村人からの亜人に対する差別を目の当たりにする。しかし、フラウにコートを着込ませ亜人であることを隠し、領主邸に宿泊することに成功。そこで領主からキビツ・ミコトの情報を聞かされる。喜ぶサリーだったが、そこへ鬼が襲来。フラウが鬼を倒し危機を脱すが亜人であることがバレ、リムダールの騎士団により投獄されてしまう。騎士団連隊長のホーソン・グラトールと話し合って釈放されるが、高鬼のセトとキャロットによる襲撃が始まる。眼鬼の鬼砲により城壁が破壊されセトが城市に侵入。フラウが善戦するも倒されサリーに危機がせまる。一方、城壁の外で待機していた眼鬼はミコトと遭遇する。
西の森にて
リムダールが消滅し、サルトリーヌ・アルダレイク(サリー)一行は近くの街で宿を取ることになった。そこでサリーはキビツ・ミコトと偶然再会する。ミコトと話す中でサリーは旅の目的を、出会う人々に「差別をなくすために妥協させること」だと見出す。一方、ホーソン・グラトールは元部下のベレットと出会う。ベレットから魔女に魔法で連れ去られ国の消滅から逃れられたと聞かされ、ホーソンたちは西の森の魔女、ウィニーのもとへ赴く。西の森では、封印されている鬼の樹鬼を、敵対している爬人とエルフが共同で焼き殺す作戦を立てていた。そこに皇鬼から髪鬼のミリアが送り込まれる。
差別と鬼
サルトリーヌ・アルダレイク(サリー)一行は亜人と敵対している街へ辿り着く。そこで元鬼のキャロットはフラウに対する街の人間からの差別と悪意を目の当たりにし、サリーの差別に対する曖昧な態度も相まって人間への不信感を募らせる。そんな最中、フラウからサリーに対する信頼を聞かされたキャロットは憎悪に任せて暴走し、街に潜伏していた吸血鬼にこの街の人間の皆殺しを依頼する。フラウは人間を守るために戦い、サリーは異常を察知し駆けつける。そこで吸血鬼の口から、人間の女性と幸せに暮らした過去が語られ、キャロットの考えが変わっていく。
百鬼会
サルトリーヌ・アルダレイク(サリー)に敗北し、恐怖から記憶喪失となったミリアはキビツ・ミコトに拾われ行動を共にしていた。皇鬼により捕縛命令を受けた中鬼(ミドル)がミリアを発見する。記憶を失くしたミリアを見て、殺害することに決めた中鬼を前にミリアの記憶が呼び起される。「魔物狩り」と呼ばれ恐れられているミコトと、自分を殺そうとする中鬼に囲まれ絶体絶命のミリアだったが、自らの角を引き抜くことで鬼を辞め、ミコトに助けを乞う。皇鬼は逃げ帰った中鬼と鬼神のジュセリノと共に鬼たちを呼び寄せ、集会の百鬼会を開く。皇鬼は百鬼会で「モモタロウ」の脅威を伝え不安を煽(あお)り、キャロットの敗北をネタに轟鬼をモモタロウの討伐に向かわせる。
バルクェンドにて
仲間内で最弱扱いされるホーソン・グラトールは、男心からバルクェンドで開催される武術大会に出場していた。皇鬼の命によりミドル、キビツ・ミコトが、金欠のため賞金目当てにミリアも出場し、皆順当に勝ち残り1日目を終える。努力の大切さに気がついたミドルと、自分の小ささを感じるホーソンとそれぞれ得るものがある大会であった。鬼神のジュセリノとホーソンが出会い、親交を深める一方、ミコトと再会を果たしたサルトリーヌ・アルダレイクはミコトの旅の目的が鬼を皆殺しにすることだと聞かされる。そこへ皇鬼が現れ「鬼と人間の共存」を説き、二人はサリーを仲間に誘う。サリーがミコトと皇鬼のあいだで揺れ動いているところへ、キャロットの仇討ちのため「モモタロウ」の抹殺に来た轟鬼一行が襲来する。轟鬼は武術大会でのホーソンの活躍を聞き、「モモタロウ」がホーソンだと勘違いして彼を付け狙う。襲来した鬼の中で、最強の轟鬼とサリー一行の中で最弱のホーソンとの戦いが始まる。
憎悪の無い鬼
自称「超カッコいい鬼」の遊鬼から連日戦いを挑まれていたサルトリーヌ・アルダレイク(サリー)は、精神的に参っていた。何度ぶっ飛ばしてもめげずに時間も場所も関係なく挑んでくる遊鬼にうんざりしていたサリーだったが、遊鬼の相棒、小々鬼から遊鬼との出会いを聞かされ、遊鬼のことを少し見直す。そんな中、ある騎士団に遊鬼の討伐命令が下された。小々鬼が騎士団に人質に取られたことで、遊鬼は無抵抗で騎士団の攻撃にさらされることになるが、そこにサリー一行が駆けつける。
フラウと魔王
旅を続けるサルトリーヌ・アルダレイク(サリー)一行の前に黒い卯人が現れる。この黒い卯人は元魔王のクォーヴ(クロウ)が転生した姿で、前世の因縁を晴らすためにフラウのもとに現れたと本人から聞かされる。クォーヴの圧倒的な力の前にサリーは重傷を負い、フラウは殺されてしまう。キャロットは連れ去られ、その場を離れていたホーソン・グラトール以外全滅という事態になる。天界で天使のアトラにより復活を遂げたフラウは、キャロット救出に駆けつけクォーヴと対峙する。激しい死闘の末、クォーヴは鬼の角から鬼力を取り込む。パワーアップしたクォーヴにフラウは吸収され、さらに驚異的な力を持った魔王が復活する。魔王の討伐命令を受けたアトラが天界から下界に降り、サリーを回復させる。鬼力を取り込んだクォーヴに対しサリーの桃の眼の力が発動する。
ミコトと桃太郎
クロウを加えた轟鬼一行は、鬼と人間の和平を説くために鬼の砦に向かう。そこで遊鬼と出会い食卓を囲む最中、「魔物狩り」と呼ばれるキビツ・ミコトの襲撃を受ける。遊鬼が背を斬られクロウが腹を刺されるも、遊鬼の一撃でミコトの刀を折り、どうにか撃退に成功。その後、ミコト一行は折れた刀を修理するためドワーフの鍛冶屋のもとを訪れるが、鬼を斬りすぎた禍々(まがまが)しさを感じ取った店主からは修理を拒否されてしまう。そこで犬は、店主を説得するために、旅の経緯を語り始める。かつて犬は日本で、桃の眼の力を持つ「モモタロウ」である吉備津彦尊と出会った。彦尊は全国を旅し、圧倒的な強さで日本の鬼をすべて狩り尽くした。そんな中、鬼の子であったミコトは、親の仇であるにもかかわらず彦尊の人柄に惹かれ、敬愛するようになっていった。だが、日本の惨状を知り、制裁にきた鬼神のノブレガにより、ミコトの目の前で彦尊は殺されたのである。これが原因でミコトは鬼を憎むようになり、鬼退治の旅を続けるようになったのであった。
メディアミックス
TVアニメ
2021年7月から、本作『ピーチボーイリバーサイド』のTVアニメ版『ピーチボーイリバーサイド』が、TOKYO MX、BS日テレほかで放映された。アニメーション制作は旭プロダクションが担当し、監督は上田繁、キャラクターデザインは栗田聡美、加藤真人が務めている。キャストは、サルトリーヌ・アルダレイクを白石晴香、キビツ・ミコトを東山奈央、フラウをM・A・O、キャロットを戸田めぐみ、ホーソン・グラトールを増田俊樹が演じている。
登場人物・キャラクター
サルトリーヌ・アルダレイク 主人公
アルダイク王国の元姫。かわいらしい顔立ちで、胸も大きく女性らしい体型の少女。恋愛については疎いところがある。当初は金髪のロングヘアをツインテールにしていたが、旅に出る時に自分で髪を切ってショートヘアに... 関連ページ:サルトリーヌ・アルダレイク
キビツ・ミコト
長い黒髪の中性的な顔をした少年。たまに女の子に間違えられる。本名は不明だが、キビツ・ミコト自身は「かっこ悪い名前」と語っている。2代目モモタロウで、日本出身。母親は人間だが父親が餓鬼という鬼。鬼たちか... 関連ページ:キビツ・ミコト
フラウ
白ウサギの亜人の卯人。年齢は300歳以上で性別は不明。セーラー服とマフラーを着用している。サルトリーヌ・アルダレイク(サリー)が旅立ってからの最初の仲間。人間の街や村に立ち寄ると亜人という理由で宿泊を拒否されたり、そもそも村に入れなかったりと、差別を受けている。しかしフラウ自身は、そういった扱われ方に慣れているため気にしていない。街や村では卯人であることを隠すため、フード付きのローブをかぶっている。好物は人参で、ケガをしても人参を食べると完治する。マイペースな性格で言葉はカタコト気味に話すが、コミュニケーションを取ることは問題ない。差別されても世話になった人間に対して感謝を伝える素直さを持っており、前世から魂レベルで仲間のために体を張って戦う生き方をしている。身体能力が高くスピードを活かした戦闘スタイルを得意としているが、攻撃は軽いため序列の高い「高鬼」に対しては決定打に欠ける。杵(きね)を武器として愛用している。天使のアトラと元仲間で、魔女のウィニーとは300年来の付き合いと意外に顔が広い。もともと強大な力を持っていた前世の時代に、魔界で元魔王のクォーヴ(クロウ)と出会って友人となる。のちにクォーヴの肉体ごと力と名前を喰って卯人として転生した。名前がない眼鬼に「キャロット」という名前を付け、それ以来キャロットから懐かれている。実は名づけたキャロットという名前には「ルーン」という契約が付加されている。契約内容は「庇護」で、キャロットの命が危機に晒(さら)された時にはフラウの魂のタガが外され背中に羽根が具現化し、前世の強大な力を行使することができる。吸血鬼戦で上半身が吹き飛ばされ死んだ時に、天界でアトラから「ここ1年以内に2度死んでいる」と言われ、天界に住むよう勧められている。クォーヴ戦でも死んでいるが、アトラによりすぐに復活させてもらっている。復活する際に前世の力を少しだけ付帯されることがあり、その力でバルクェンドでは高鬼のバスゥを倒している。ちなみにこの力の付帯は、卯人の肉体での戦闘を心配したアトラのサービスである。
ホーソン・グラトール
大国、リムダールの騎士団で連隊長を務めていた青年。責任感が強く部下からの信頼も厚い。ベレットからは国が消滅したあとも「連隊長」と呼ばれ尊敬されている。差別が根強いリムダールでは珍しく亜人に偏見がない。危険な亜人という理由で捕らえられたフラウを、独断で釈放できるほどには権力がある模様。蒼面鬼の鬼砲により国が消滅した時は、サルトリーヌ・アルダレイク(サリー)たちを追って城壁の外にいたため助かった。以来、サリーたちと共に行動する。剣士としての腕前は王国随一ではあるが、特殊な能力を持っていないただの人間であるため、サリー一行の中では最弱として扱われている。「強くありたい、守ってやりたい」という男心からバルクェンドの武術大会に出場するが、ふだんから鬼と次元の違う戦闘をしている仲間たちからは興味を持たれなかった。のちに魔女のウィニーより天界の宝具、エアを譲り受け、鬼とも戦える戦力となった。一行の中で一番の常識人であり、精神的に非常に強く自分の感情より状況をよくすることを優先する。騎士団時代の肩書きを使ってフラウに危険性がないことを宿の主人に説いたり、歪み合う種族同士に戦略を提案し、指揮を執り共闘させるなど、直接の戦闘でない部分で頼りになる。ウィニーはホーソン・グラトールの祖父、マルヤ・グラトールと付き合いがあり、「育て方を間違えた」と言われていることから一時期彼女に育てられていたようである。騎士道精神にあふれ、守るもののためには自分を犠牲にしてでも敵に立ち向う意志の強さを持っている。それは死ぬとわかっていても、格の違う高鬼に木剣で対峙できるほどである。また礼儀に重きを置いており、剣士として一度立ち合った人間の名前は決して忘れない。つねに周囲を気遣っており、自国が消滅しすべてを失った直後でさえ、歳若いサリーを不安がらせないように気丈に振る舞い、ウィニーに桃の眼の能力で戦うサリーを見せられた時も恐怖を飲み込みふだんどおりに接する。鬼神のジュセリノに気に入られ、なんでも欲しいものをやるから「友達」になれと言われた際に、友達の在り方を説き一目置かれるようになる。
キャロット
ロングヘアの女性型の高鬼。右眼から強力な鬼砲を撃てるが、威力と引換に鬼力を使い果たし、回復するまで外見が一時的に成人女性から幼女に変わる。セトと共にリムダールを襲撃した際にキビツ・ミコトに敗北し、角を折られ右眼を潰され、人間として生きることを強いられる。角と眼を失ってからは鬼力がないため幼女の姿となるが、胸は以前と変わらず大きい。投獄されていたリムダールの牢でサルトリーヌ・アルダレイク(サリー)と出会い、鬼として処刑される覚悟を話したところ、強引に脱獄させられ、共に旅をすることになる。フラウから「キャロット」という名前をもらってからフラウに懐くようになる。最初は鬼としての考え方が抜けず、生きるためにサリーを利用して邪魔な人間は殺せばいいと考えていた。フラウに対する亜人差別を見て人間の悪意に触れた際には、偶然近くにいた吸血鬼に街の人間の皆殺しを依頼するなど、「個人」ではなく「人間」という括りで人を見ていた。旅を続け仲間の優しさに触れることで考え方が変わっていく。鬼に対して顔が広く遭遇する鬼が知り合いであることも多く、戦わなければならない時は仲間と鬼のあいだで葛藤する。鬼たちからは鬼時代の「眼鬼」という名で呼ばれる。自然博愛の精神を持っており、人間が環境破壊をして作る街や建造物に対して嫌悪感を持っている。仙道の使い手で、鬼力を失くしても中鬼程度なら戦える。サリー一行に加入直後は、皇鬼にサリーの動向を知らせるスパイの役目を強要されていた。髪鬼のミリアとは友人関係で彼女の髪をあやつる仙道もキャロットが教えた。恋愛に疎く、轟鬼に惚(ほ)れられているがキャロット自身はまったく気づいていない。フラウにより付けられたキャロットという名前には「ルーン」という契約が施されていて、名前を受け入れた時点で契約が施される。契約内容はキャロットが命の危機に晒された時に、フラウの魂のタガが外され前世の強大な力を行使することができるという「庇護」である。ちなみに最初は「ニンジン」という名前を付けられるところだったが、キャロットの強い拒否により実現しなかった。
犬 (いぬ)
かつて吉備津彦尊と共に日本全国を旅した犬。名前はなく、「犬」と呼ばれている。先祖が妖の類だったため人語を話せる。人語を話すと人間に怯えられるが、彦尊だけは興味を持ってキビ団子をくれたことがきっかけで旅の同行を決めた。見た目は白い毛並みのふつうの犬。現在はキビツ・ミコトと旅をしている。彦尊の死後、精神的に壊れてしまいそうなミコトをつねに心配している。嗅覚が鋭く、和平を謳(うた)う皇鬼から鬼の血の匂いを嗅ぎ取り信用できないことを見抜いたり、刀が折れ死人のように無気力になったミコトの代わりに鍛冶屋と交渉することもある。悪夢にあてられ暴走しそうなミコトを叱責するなど、犬ながら立派に相棒を務めている。しかし、ミコトからは犬用の食料をあまり買ってもらえなかったり、空腹時に雑草を勧められたりと、雑な扱いを受ける時もある。
蒼面鬼 (そうめんき)
長身で筋骨隆々とした肉体を持つ高鬼。実は本体は着用しているお面の方で、肉体はオマケである。鬼神のジュセリノによって創られた。高鬼の中でも強いレベルで、鬼砲一撃でリムダールの人や建物を跡形もなく消し飛ばした。ホーソン・グラトールの因縁の相手でもある。肉体が顕在化していない時は、ジュセリノの帽子にバッヂとして付いている。人間のことは食料としてしか見ていない。偶然遭遇したキビツ・ミコトに一撃で首を斬られ、鬼の集会、百鬼会で皇鬼に「モモタロウ」の危険性を示すネタに使われるなど、散々な扱いを受ける。ジュセリノへの忠誠心は高く、「アオ」と呼ばれている。
皇鬼 (すめらぎ)
牧師の格好をした男性型の高鬼。教会で牧師として従事していた。鬼神の第1位の命令で動いていると自称している。高鬼の中でもかなり上位の実力者で、キビツ・ミコトの斬撃を指2本で受け止めるほどである。魔法を扱うこともでき、千里眼や転移魔法を主に使う。サルトリーヌ・アルダレイク(サリー)の桃の眼能力覚醒時から何かを感じ取り、何かとサリーの道中に現れる。基本的に温厚な笑顔を顔に貼り付けているが、得体が知れないところがあり考えが読めない。ミリアを樹鬼と共にサリーにぶつけ、キャロットにスパイを強要し、鬼の集会、百鬼会では轟鬼を焚き付けてバルクェンドで「モモタロウ」を襲撃させたほか、ミコトに接触し遊鬼を殺させようとした。自らは日頃から平和への言葉を口にし、「鬼と人の共存」を説いているが、共存に肯定的になった鬼の殺害を企むなど真意が見えず、犬にも口先だけだと思われている。皇鬼本人の考えで動いており、サリーに接触した時にも共存を共に試そうと誘うも断られる。高鬼を自称しているが、桃の眼の力が皇鬼に対しては発動しない。天界とも因縁があるようで、殺害する相手に天界への伝言を伝えたりもしている。また、元魔王のクォーヴ(クロウ)の復活も手引きしており、クォーヴが敗北した時に拘束するため足に撃ち付けられたアトラの天弓の矢を引き抜き、魔王の渾身(こんしん)の一撃を退けた際に、アトラに力の種類が天界の者であると感じ取られている。いつも何かを企んでいることから轟鬼から「臆病者」と評され、鬼の中でも信頼度は低い。しかしミドルの鬼力を抜き取り、武術大会に出場させ努力の大切さに気づかせたり、ミリアに魔法を教え鬼力に頼らない戦い方を教えたりと、面倒見のいい一面もある。
ベレット
元リムダール騎士団の見習い。当時はホーソン・グラトールの部下だった。背が低く少女のような外見をしているが、れっきとした男性。一人称は「おら」で、語尾に「~ですだ」と付けてしゃべる。国を消し飛ばす蒼面鬼の鬼砲の直前に、魔女のウィニーにより西の森に転移され一命を取り留めた。同僚のトムとジェフもいっしょに飛ばされ、ウィニーの酒場で働かされていたが怖くなり逃亡した。ちなみにトムとジェフもベレットのあとに逃亡した。ホーソンと再会してウィニーのことを知り、現在はウィニーの酒場で男だがメイドとして働いている。世間知らずで、亜人を見たのもフラウが初めてだった。一般的な「鬼=悪」という認識で、元鬼であるキャロットに「悪い鬼」と言ってしまい怒らせる。
セト
キャロットと共に、リムダールを襲撃にやって来たセイウチの高鬼。身体が大きく、大きな牙が特徴。皮膚が硬いため防御力が高く、攻撃の一撃一撃も重たいが、スピードは非常に遅い。フラウと戦いの最中、強さを認めてお互い名乗り合い勝負するという、武人のような男気のある性格をしている。フラウを追い詰めるも、桃の眼の力に覚醒したサルトリーヌ・アルダレイクに敗北して死亡した。鬼の集会、百鬼会でセトの死を知った鬼たちに偲(しの)ばれるなど、仲間からは慕われていた。
ウィニー
リムダールの西の森に住む魔女。少女のような外見をしている。「西の森の魔女」として噂になっており、その存在を知っている者は多いが、姿を知るものは少ない。自宅は酒場として営業しているが、立地が悪いためにあまり来客はない。ホーソン・グラトールには金に汚い性格だと評されている。フラウと300年ぶりに再会したとの言葉から、最低でも年齢は300歳以上である。魔法を得意としており、ウィニー自身も物事全般に優れていると自負している。リムダールが消し飛ぶほんの少し前、城の書庫で本を漁っていたところで大きな力を感じたため、近くにいたベレット、トム、ジェフと共にテレポートして危機を逃れた。店番をさせていたトムとジェフには逃げられてしまったが、ホーソンと共に戻って来たベレットはメイドとして働かせている。得体の知れないところから、初めはベレットに怯えられていた。西の森に封印されている高鬼の樹鬼を封印したのはウィニーである。森に住む亜人である爬人や、エルフといった種族とも交流がある。ホーソンの祖父、マルタ・グラトールと交流があり、ホーソンを一時期育てていたようである。サルトリーヌ・アルダレイク(サリー)から魔法の教えを乞われたため、条件付きで承諾するが、すぐに旅立ったため習得には至っていない。魔法を教わるにはお金が必要であり、最低100万はかかる。ちなみに悪人が相手の場合は1億以上請求する。戦闘することはほとんどないが、ホーソンの危機に轟鬼の攻撃を瞬間移動で割って入って防いだり、宝具、エアを渡したりと遠隔からの補助が多い。直接当てる強力な魔法を使う場合は、無防備になる長い詠唱が必要なため集団の後衛や、敵の死角に位置することが条件となる。サリーたちの動向をいつも水晶玉で確認している。
ミリア
修道服がトレードマークの少女型の中鬼。ロングヘアで、身長と胸が小さい。修道服は角を隠すのに都合がよく、皇鬼と共に教会でシスターとして従事していた。「ミリア」は人間社会に紛れるための名前で、友達であるキャロットをはじめ鬼からは「髪鬼」と呼ばれている。角が欠けており、完全な状態より鬼力が弱い。そのため鬼力に頼らず、キャロットに仙道を、皇鬼に魔法を学んでミリア自身の鉄線より硬い髪を自在にあやつり、魔法で身体能力を強化して戦う。一人称は「拙者」。見た目によらず好戦的ではあるが、明るくサッパリとした性格をしている。細い外見からは想像がつかないほどの大食らいで、キビツ・ミコトの路銀のほぼすべてを食費で消費したことがある。皇鬼の命令で封印された高鬼の樹鬼の封印を解き、サルトリーヌ・アルダレイク(サリー)に挑むも敗北する。サリーの圧倒的な力を前に心を折られ、逃げ出して記憶を失いミコトに拾われるが、中鬼のミドルに発見されて記憶が戻る。鬼であることを自覚した自分を殺そうとするミコトと、鬼サイドの追手であるミドルに囲まれ絶体絶命の状況で、ミリア自身の角を引抜いて鬼であることを辞め、ミコトに助けを求めることで窮地を脱する。ミコトに縋(すが)ってでも生きたかった理由は、もう一度サリーに会って文句を言うためである。剣などの武器は扱えず、賞金目当てで出場したバルクェンドの武術大会でも素手で戦っている。
吸血鬼 (きゅうけつき)
300年も生きている男性型の高鬼。長髪にスーツを身につけている。牙が鬼の角という珍しいタイプで、街で人間として生活していた。人間の女性と結婚していたことがあり、幸せな時間を過ごしていたが、食人衝動を抑えきれずに妻の血を無意識に吸ってしまい、殺した過去を持つ。大切なモノを失う原因となった鬼の本能に絶望しており、角を失い本能を失くしたキャロットを心底羨ましく思っている。長年、無気力に生きているだけの状態ながらも、定期的に人間から吸血はしている。血液をあやつって攻撃する戦闘スタイルで、固めた血液を飛ばすだけでなく、細く凝固した血液を地面に縫い付け動きを封じる影縫いなど、攻撃方法は多彩。鬼砲はフラウの上半身が跡形もなく吹き飛ぶほど強力だが、牙から発動するため嚙み付いた状態でなければならず、射程距離は短い。復活したフラウにより心臓を貫かれ死亡する。死亡後は天界でイヤイヤ酒盛り三昧の暮らしを送るが、クロウが魔王を辞め転生する際に出された条件「鬼と人間の和平」を実現するアドバイザー兼監視役として、クロウの体に取り憑(つ)く形で下界に戻る。
アトラ
死者が行き着く天界で従事する天使。少女のような外見をしている。頭には天使の輪が浮かび、背中には白い羽根が生えている。転生前のフラウの元仲間で、天界と魔界の戦争時に3000万の悪魔を討ち取った過去を持つ。二つ名は「天弓のアトラ」。天界で死者の復活や転生にかかわるほか、地上に降りてフラウやサルトリーヌ・アルダレイク(サリー)を魔法のようなもので治療する場面もある。元魔王のクォーヴ(クロウ)が復活した際にも、討伐命令を単騎で受けるほど戦闘能力は高い。なにかとフラウを気にかけており、天界からサポートしている。仲間のために身体を張るフラウが頻繁に死んでしまうため、天界で暮らせばいいと提案したが断られている。「キャルロット」という亡くなった親友がいたため、キャロットの中に彼女を感じて初対面から馴れ馴れしく接した。
ミドル
ミディアムヘアの男性型の中鬼。「剣士」を自負しており、超重量の大剣を愛用している。皇鬼の命令でミリアを発見した時にキビツ・ミコトと対峙するが、力の差を感じて戦わずに逃げ去った。ミコトには、「名もなき中鬼とは思えないほど賢い」と評されている。礼儀正しい性格で、自分より序列が上の鬼には「様」付けで呼び命令に従う。鬼であることより、剣士であることにプライドを持っている。皇鬼に鬼力を抜き取られた状態で、バルクェンドの武術大会に「ミドル」という名前で参加し、辛くも初戦を突破するも2回戦の対戦相手がミリアだったために棄権した。これまでの鬼力に頼った剣の使い方を反省し、剣術の努力を積み重ねるようになる。皇鬼からは「努力で序列を変えることのできる可能性」としてさまざまな命令が下される。人間の街に紛れる指令が多いため「ミドル」の名前を使う場合が多いが、皇鬼からは「チュウ君」と呼ばれている。鬼神のジュセリノや皇鬼に振り回されることが多く、ミドル自身の住処(すみか)で断りもなく鬼の集会、百鬼会が開かれたりしている。ホーソン・グラトールからは苦労人だと親近感を持たれている。実は料理が得意。
ジュセリノ
鬼神の第3位。幼女のような外見をしている。無邪気だが世間知らずで、つねに上からの物言いで初対面の人間に対しても命令する。「人類抹殺」を掲げる鬼神の中で唯一「自分の目で見て確かめてから抹殺するかどうか決める」という独自の考え方を持っている。権能(鬼神のチート能力)「抗力無視」を使い、どんなものでも貫通することができる。ホーソン・グラトールの持つ宝具、エアも「効力無視」により切断されており、キャロットには「別次元の存在」と評されている。「面神鬼」という名の通り、お面の鬼のほとんどはジュセリノ自身が創っている。ホーソンを気に入って初対面時に「面神鬼」だと名乗っているが、その物言いと小綺麗な服装から「どこかのお忍び貴族令嬢」だと思われていた。リムダールを消し飛ばしたのはジュセリノが創った蒼面鬼だが、ホーソンがリムダールの人間であることをジュセリノは知らない。蒼面鬼のほかに、結界を得意とする牛型の「黄面鬼」、戦闘を得意とする大型の「紅面鬼」を主に使役し、それぞれ「アオ」「キイ」「アカ」と呼んでいる。
轟鬼 (ごうき)
少年型の高鬼。雷をあやつる能力を持っている。大きな角を隠すように細長い帽子をかぶり、和服を着用している。実はこの帽子は鬼力の制御装置で、キャロットが作って轟鬼に渡したものである。帽子をかぶっていない頃は凄(すさ)まじい鬼力を抑えきれずつねに雷をまとい、近づく者はみな感電死させていたため、鬼の中でも孤立していた。能力の高さゆえに白兵戦は苦手。初めは上からの命令でキャロットと組むようになったが、次第に恋心を抱くようになる。しかしキャロットは、まったくそのことに気づいていない。強さや外見にこだわらないため、キャロットの情報を聞くために伸鬼に話しかけたこから、孤立している者同士でなかよくなった。キャロットと共に戦果をあげるうちに、歴戦の高鬼のバスゥにも認められ、いつの間にかいっしょにいるようになった惰眠鬼も加わり、鬼の社会の中に自分たちの居場所を作っていく。鬼砲は、雷を人型のヴィジョンに具現化し攻撃する「雷神鬼轟」で、触れただけで即死級のダメージを与えることができる。実直な性格から皇鬼に「眼鬼がモモタロウに殺された」と焚(た)き付けられ、バルクェンドへ仇打ちに向かう途中でサリー一行と遭遇した。サリーに「鬼と人間の共存」を説かれ、のちに遊鬼や元魔王のクォーヴ(クロウ)と共に鬼たちの説得に回る。名前がない者に名前を付けることがあり、伸鬼とクロウも轟鬼が名づけた。
伸鬼 (しんき)
男性型の中鬼。足が短く腕が長い筋肉質の肉体を持つ。バルクェンドに「モモタロウ」を殺しにやって来た鬼のうちの一人。その外見から、鬼の社会でも気持ち悪がられて孤立していた。語尾に「~っす」を付けてしゃべる。身体を伸縮自在にする能力を持つため、打撃は効かない。轟鬼にキャロット(眼鬼)のことを聞かれたことがきっかけでなかよくなり、名もない中鬼だったが「伸鬼」という種名を付けてもらう。鬼の中では心情を感じる能力が高く、轟鬼の眼鬼に対する恋心に気付いている。眼鬼に影響され轟鬼が鬼と人間の共存派になってしまうことを恐れている。人間からは「鬼」でなく「バケモノ」と呼ばれ、鬼の社会でも孤立していた伸鬼は、鬼と人間の和平が成立すると、人間に受け入れられる外見の轟鬼や眼鬼と違い、異形の鬼である自分の居場所がなくなると感じ、共存派である眼鬼の殺害を決意した。
惰眠鬼 (だみんき)
ほぼ眠っているため謎が多い鬼。頭に角は生えていない。オカッパ頭でワンピースを身につけている。序列は明言されていないが、伸鬼が「さん」付けで呼んでいることから高鬼であることがうかがえる。眠っていても敵意を持つ相手を眠らせる魔法を使う。通りがかりに自分を殺そうとしたキビツ・ミコトも眠らせた。惰眠鬼に眠らされた相手は、悪夢にうなされて目覚めが最悪となる。腹を貫かれた轟鬼やクロウを刺された現場から遠く離れた場所で治すなど、治癒魔法と転移魔法も使える。轟鬼一行と行動を共にしているが自分の足で歩くことはなく、移動は誰かに運ばれている。睡眠魔法の強力さから戦闘中でも床や地面に転がされていることが多いが、仲間からは問題なしとされている。心地いい夢に惹かれる習性があり、キャロットに恋心を抱く轟鬼に引き寄せられた。
遊鬼 (ゆうき)
長身でロングヘアの男性型の高鬼。超絶なナルシストで、物事のすべてを「カッコイイ」か「ダセェ」かで判断する。そのため、鬼の序列の高い高鬼に位置しながら、強さにはあまり興味がない。過去に戦で「いい奴だが目立たない親友」を亡くし、みんなの記憶から忘れられていくことに恐怖を覚え、カッコよく目立つことに執着し始めた。相棒は小々鬼である。桃の眼を持つサルトリーヌ・アルダレイク(サリー)を討てば目立つと考え、サリー一行に戦いを挑むようになる。人間への憎悪が薄く、自分がカッコよく目立つことしか考えていないために悪い鬼ではないが、しつこくてウザがられている。何度サリーにぶっ飛ばされても挑み続け、呆れられている。一方で仲間思いなところもあり、自分がぶっ飛ばされて小々鬼とはぐれた時も、すぐにサリー一行のもとに助けにやって来た。ちなみにこの時、小々鬼は仲のいいキャロットといっしょにいただけであった。人間の前でも自分の存在を隠そうとしない遊鬼に討伐命令が出て、ある国の騎士が小々鬼を人質に取った時には、二つ返事で自らの命を差し出すことを決め、無抵抗を貫いた。その際に2本ある角のうち1本を折られて鬼力が弱まったが、遊鬼自身はまったく気にしていない。その後人質を取られ、されるがままだった遊鬼を助けたサリー一行に感謝し、付きまとうことをやめる。「鬼と人間の和平」という大きな目標を成し遂げると目立つと考え、共存派となりのちに轟鬼一行と行動を共にすることになる。しかし、街に入る時も「超カッコイイ角」を隠さないため、鬼だとバレることから別行動となることも多い。共存派になった直後に皇鬼に目をつけられ、殺害を依頼されたキビツ・ミコトと互角の戦いをしていることから戦闘能力は非常に高い。その戦いぶりを見ていたジュセリノからは、蒼面鬼よりも弱いはずなのにと疑問を持たれていたが、皇鬼自身は、カッコよく在りたいがための努力の結果だとうそぶいている。実は料理が上手で、轟鬼一行と合流した際には、遊鬼の料理を食べたクロウが感動したほど。その食事の席でミコトから襲撃を受け、背後から不意打ちで一閃を浴びているにもかかわらず、ミコトの刀を折り一矢報いている。
小々鬼 (しょうしょうき)
手のひらサイズの鬼。低鬼という最低の序列の中でもさらに最弱とされている。その弱さ故に、誰かの庇護がないと生きていけない。強さを気にしないキャロットや、外見や評判を気にしない轟鬼からしか相手にされず居場所がなかった。皇鬼に騙された轟鬼がバルクェンドに行く際に戦力外として置いて行かれるが、遊鬼に拾われ相棒となる。生まれて初めて自分のことを相棒と認めてくれた遊鬼に心から感謝している。サルトリーヌ・アルダレイク(サリー)にしつこく絡むも、遊鬼を殺さずに追い返してくれていることにも感謝している。一応鬼なので人間への憎悪は持っているものの迫力がないため、あまり深刻に受け止められることはない。ある国の騎士に遊鬼討伐のために人質にされてしまったところをサリー一行に助けられ、遊鬼と共に鬼と人間の共存を目指すこととなる。
クロウ
黒ウサギの卯人に転生した元魔王。魔王時代には前世のフラウと友人関係だった。「黒い卯人」ということで、轟鬼に「クロウ」と名づけられた。魔王だった時代の名前は「クォーヴ」だが、前世のフラウに肉体ごと魂と名前を喰われた。魔族の名前は力と表裏一体であり、力を失うと名前も発音できなくなる。皇鬼の手引きにより、フラウから己のすべてを取り戻すために転生した。キャロットにフラウの魂を剝(む)き出しにする「ルーン」が付加されていることを見抜き、鬼の角を使ってクロウ自身を強化し、フラウを取り込んで力と名前を取り戻し、クォーヴとして蘇った。ちなみにこの戦闘中にフラウを一度殺害している。絶大な力を取り戻したが、鬼の力も取り込んだため、桃の眼の能力が発動したサルトリーヌ・アルダレイク(サリー)に素手でボコボコにされ、取り込んだフラウも体内から奪還されてしまう。あと一撃で死ぬところまで追い詰められるが、サリーは魔力切れのため気絶し、アトラから拘束される。そこに現れた皇鬼によってとどめを刺されるが、惰眠鬼の能力のお陰で、遠く離れた場所で治療を受けて復活する。その縁で轟鬼一行と行動することとなり、合流した遊鬼の料理に感動しながら、自分が望んでいたことは「名前を呼びながら、笑い、飯を食う」ことだと気づく。直後、キビツ・ミコトに襲撃され再び死亡する。天界で鬼と人間の和平の掛橋になること、クォーヴの名前を捨てること、吸血鬼を監視役に置くことを条件にただの卯人として生まれ変わる。生まれ変わったあとは吸血鬼に憑依(ひょうい)され、彼の言葉を聞きながら下界のことを知っていく。
吉備津 彦尊 (きびつ ひこのみこと)
過去、日本の鬼を殺し尽くした青年で、故人。初代モモタロウ。犬やキビツ・ミコトからは「彦」と呼ばれている。本人は捨て子であったと語っているが、日本に桃が流れてきたという記述があることから桃から生まれた可能性がある。菓子職人の老夫婦に育てられ、吉備津彦尊自身もオリジナル菓子「キビ団子」を考案している。ちなみにキビ団子は「キビツの団子」の略称である。釣りや狩りは苦手。元服直後の少年時代に家を出て、犬と出会って日本全国を共に旅して回り、最終的に鬼の本拠地である鬼ヶ島の鬼たちを皆殺しにした。生家に伝わる名もない刀を愛用し、のちにミコトに受け継がれる。生まれつき両目とも桃の眼の力を持っている。その圧倒的な強さで鬼たちから、元服前の名前である「桃太郎(モモタロウ)」と呼ばれ恐れられ以後、桃の眼を持つ者が「モモタロウ」と呼称されることとなった。優しくてお人好しな性格から、頼み事をされると断れない。旅を始めた理由は彦尊自身の桃の眼の秘密を解いて封印し、静かに暮らすことであった。初めて鬼を殺すまで生き物を斬ったことがなかったが、「旅のついでの人助け」程度の気持ちで鬼を退治しているうちに国中に名が轟き、人々から助けを求められる中で人とのかかわりに辟易(へきえき)し、鬼退治後は山奥で犬とひっそりと暮らしている。そこで人間社会に溶け込んでいた鬼の餓鬼から自分を殺してくれと頼まれ殺害する。殺害後、餓鬼の息子のミコトを預かり共に暮らす。村中から迫害され絶望していたミコトに父親を殺したことを打ち明け、復讐心を煽ることで生きる目的を与えた。ミコトが彦尊の優しさに気づいてからは、本当の親子のような関係となり幸せな時間を過ごす。鬼ヶ島の惨状を知った鬼神のノブレガと戦い、実力差から敗北。死の際にミコトへ桃の眼の能力を継承し、認めてくれる人と出会えることを願い、外の世界を知るようにと告げて息を引き取る。
ノブレガ
長髪の男性型の鬼神で、故人。元鬼神第4位。手から放つ鬼砲(鬼神砲)「大破滅衝」の威力は凄まじく、視界すべてが攻撃範囲となる「遠近無視」という権能(鬼神が使えるチート能力)を持ち、遠近にかかわらず、人でも地面でも山でも雲でも目に入った物を「握り潰す」ことができる。「法神鬼」の名の通り、ノブレガ自身の法で動き、咎人であると判断すれば容赦なく制裁を下す。一方で、人間の生活や文化に興味を持ち、美食を求めてわざわざ海を渡り日本へやって来ることもある。日本に来た際に、鬼ヶ島の惨状を知り、殺戮(さつりく)という咎を吉備津彦尊に見出し、鉄槌を下すために動く。ミドルの大剣や、吸血鬼の影縫いなども使え、攻撃方法が多彩。彦尊を殺害するも、その直後に桃の眼の能力を継承したキビツ・ミコトに仇討ちとして惨殺された。
未鬼 (みき)
鬼の序列で最高位に位置する高鬼最強の鬼。丸いサングラスをかけてキャスケットをかぶり、トレンチコートを身につけている。未来を見ることができる。また、「世界線」という言葉を口にすることから、さまざまな未来を知っている模様。ノブレガやジュセリノといった鬼神と行動することが多いが本人の目的は別にあるようである。過去、日本でノブレガと戦った吉備津彦尊とキビツ・ミコトに自分の知らない未来への可能性を見出す。
爺鬼 (やき)
アルダイクに生贄の要求をするためにやって来た鬼。老齢な男性のような見た目をしている。タキシードにシルクハットという出で立ちで、自分が優位な立場にある時は物腰も柔らかく紳士的な振る舞いをするが、一度ピンチに陥ると狼狽(うろた)え小物感を漂わせている。序列は不明だが、城の兵士の頭を兜(かぶと)ごと叩き潰せるほどには強い。過去に日本で吉備津彦尊が最初に遭遇した鬼でもある。彦尊に見逃され、逃げ帰る途中にたまたま来日していた鬼神のノブレガに助けを求めた。キビツ・ミコトが桃の眼の力を受け継ぐ瞬間にも居合せ、アルダイクでも遭遇しているがどちらも逃げ切れている。鬼の集会、百鬼会で鬼たちに「モモタロウ」の危険性を熱弁している。
場所
日本 (にほん)
キビツ・ミコトの出身地。過去、鬼が跋扈(ばっこ)していたが吉備津彦尊によって地方から本拠地である鬼ヶ島まで狩り尽くされたため、現在では鬼はいない。本作の舞台となる大陸からは東に位置する。外国にはない物や文化が多く、ノブレガが美食を求め来訪した。
アルダイク
サルトリーヌ・アルダレイクの父親が国王を務める田舎の小国。平和な国で食糧も豊富にあり、建造物も立派で人も優しい。旅の途中に立ち寄ったキビツ・ミコトから「良い国」と評されている。隣国を喰らい尽くした鬼を率いて爺鬼が生贄の要求に来たところ、たまたま立ち寄ったミコトによって撃退され国難を脱する。
リムダール
大陸の北に位置する大国。この国の騎士団の連隊長をホーソン・グラトールが務める。亜人に対する差別意識が強く、それは城市だけでなく領内の村や街にまで根付いている。強固な城壁により周囲の鬼や魔物から国を守っていたが、キャロットとセトに襲撃された際に破壊された。のちに蒼面鬼の鬼砲の一撃により、国が建物や人ごと文字どおり跡形もなく消し飛んだ。
バルクェンド
毎年国をあげての武術大会が開かれている場所。高額賞金を目当てに各地から腕自慢がバルクェンドに集まる。大会の賞金の高さもさることながら、轟鬼一行に国が襲撃された際にも高額な報奨金で鬼の討伐を大会参加者たちに依頼するなど、財政は潤っている。武術大会を観戦しているフラウがフード付のローブを身につけていることから、亜人に対する差別意識が根付いている。
その他キーワード
桃の眼 (もものめ)
瞳に桃の印が浮かび上がり、鬼に対して魔力でも腕力でもない絶対的な力を発揮することができる能力。桃の眼を持つ者を鬼たちは「モモタロウ」と呼び畏怖の対象としている。戦闘能力が飛躍的に上昇するが、同時に相手を殺害することに悦(よろこ)びを感じる加虐性も著しく上がってしまう側面を持つ。吉備津彦尊がキビツ・ミコトに受け継がせたように、桃の眼の能力は継承することができる。現在この能力の保有者はミコトとサルトリーヌ・アルダレイクである。
亜人 (あじん)
半獣半人の姿をした種族。身体能力は人間よりも高い。言葉を話し、亜人の中でもさらに細分化した種族ごとにそれぞれ特性がある。さまざまな国で、亜人は生来凶暴で知能は低いと考えられており、差別の対象となっている。中には亜人は凶暴な魔物と変わらないと考える者も少なくない。種族によっては人間と争うだけでなく、亜人同士でも種族間で争うことがある。種族は卯人、爬人、エルフ、ドワーフなど多岐にわたり、集団で生活している者たちはリーダーを中心とした社会を構成している。
鬼 (おに)
鬼神により怨念から創られた存在。人間とは桁違いの強さを誇る。人間の悪意から生まれた者は人型へ、動物の悪意から生まれた者は動物型へと形作られる。生まれた時から人間を憎み、殺して捕食することが本能として備わっている。それぞれが「角」を持ち、頭に生えている者もいれば、口内に生え牙として機能するなど、一見しただけではわからない箇所に有している者もいる。人間の「魔力」にあたる「鬼力」を持ち、それを放つ鬼砲の威力は凄まじい。角を失うと鬼力はなくなり、ふつうの人間や動物と変わらない状態となるが、記憶は残っているため考え方は鬼だった頃のままである。個体により個性があり、人間への憎悪が薄い者や鬼の身体能力、鬼力に頼らない技術を習得する者もいる。言葉を話し社会性を持ち、「高鬼」「中鬼」「低鬼」と強さにより序列が分かれている。「人型の鬼は名前を名乗ってはいけない」という掟があるが、ミリアやミドルは人間の街に潜伏する際に名前を名乗っている。吸血鬼やキビツ・ミコトの父親の餓鬼のように人里に紛れて生活する者もおり、結婚して人間とのあいだに子供を作る者もいる。しかし大抵は食人衝動に抗(あらが)えず、人間社会での生活が破綻する。鬼の角は鬼力を有しているため、戦闘能力の強化材として使われることもある。
鬼砲 (きほう)
鬼の必殺技。鬼の力である鬼力を使い、大抵は角からエネルギーを放出する。中にはキャロットのように眼から放出したり、轟鬼のように雷を人型のヴィジョンにして相手を攻撃したりするものもある。国一つを跡形もなく消し去ったり、鬼神の「鬼神砲」のように撃つと星の形を変えてしまうほどの威力を誇るものもある。
仙道 (せんどう)
自らの内丹を練り、天地自然の気と合一して振るう技術。キャロットが得意とし、鬼の力である「鬼力」の有無にかかわらず使うことができる。直接の攻撃にも使えるが、索敵や遠距離での意思の疎通、魔力、気脈、結界を「見る」など補助的な部分が強い。魔法に近いが技術体系が根本的に異なる。
鬼神 (きしん)
鬼たちの神として君臨し、鬼とは別次元の存在。鬼たちはすべて鬼神によって作られた。現在6席あり、ジュセリノは第3位にあたる。基本的に「人類抹殺」という使命を持っており、鬼たちはこの意思に従っている。鬼神の放つ鬼砲は「鬼神砲」と呼ばれ、絶大な威力を誇るほか、各々が物理法則を無視した「権能」というチート能力を持つ。
エア
天界の宝具で斬りたいものを斬る仕分けの剣。もともとの持ち主はフラウだったが、ウィニーからホーソン・グラトールへ渡り、現在の所有者はホーソンである。いわゆる「なんでも斬れる剣」。物理的なものだけでなく、雷など実態のないものも斬れる。剣士としての技量があれば強力な武器となる。
魔法 (まほう)
「魔力」を使ってさまざまなことを可能にする力。本来ならば魔女の家系しか使えないが、師について学べば誰でも扱える。しかし、ふつうの人間は体力が異常に消耗する。ウィニーが得意としており、単純な攻撃だけでなく、千里眼や瞬間移動、鬼の封印を解くなど使用内容は多岐にわたる。魔法陣を使うものや、詠唱を必要とするものなど発動条件が魔法によって異なる。
クレジット
- 原作
書誌情報
ピーチボーイリバーサイド 16巻 講談社〈講談社コミックス月刊マガジン〉
第1巻
(2016-02-17発行、 978-4063925142)
第2巻
(2016-10-17発行、 978-4063925500)
第3巻
(2017-06-16発行、 978-4063925890)
第4巻
(2018-02-16発行、 978-4065109281)
第5巻
(2018-10-17発行、 978-4065133187)
第6巻
(2019-06-17発行、 978-4065159477)
第7巻
(2020-02-17発行、 978-4065185391)
第8巻
(2020-08-17発行、 978-4065203620)
第9巻
(2021-02-17発行、 978-4065219478)
第10巻
(2021-08-17発行、 978-4065241363)
第11巻
(2022-02-17発行、 978-4065264669)
第12巻
(2022-08-17発行、 978-4065285046)
第13巻
(2023-02-16発行、 978-4065306703)
第14巻
(2023-08-17発行、 978-4065327791)
第15巻
(2024-03-15発行、 978-4065350386)
第16巻
(2024-09-17発行、 978-4065365731)