あらすじ
上巻
平清盛は、保元の乱と平治の乱という二つの内乱に勝利し、目を見張る出世を遂げた。清盛は権力の頂点である太政大臣となり、平家一門は権勢を極める。しかし策謀家の後白河法皇をはじめ、平家の専横を快く思わない勢力が密かに動き始めた。平家を打倒しようとする鹿谷の陰謀事件は、密告により未遂に終わったものの、以仁親王の発した平家追討の令旨を皮切りとして、源頼朝ら源氏一門が挙兵。天下は争乱に突入する。
中巻
挙兵した以仁親王と源三位頼政に対し、平清盛は討伐のため大軍を差し向ける。以仁親王らは宇治の平等院に立てこもるが、衆寡敵せず敗れ、以仁親王や頼政は戦死した。清盛は全国的な反平氏の動きを警戒し、京を捨てて福原に遷都する事を決断する。その頃、東国では平氏の軍が富士川で源頼朝の軍と対峙していた。しかし平氏方は、夜間に水鳥の羽音を敵襲と誤認し逃げ帰るという失態を犯す。不穏な情勢の中で、清盛は熱病に倒れて死去。その跡を継いだ平宗盛は凡庸な人物で、木曽義仲が京に攻め入ると、平氏一門は安徳天皇を連れて都落ちする。
下巻
木曽義仲は平氏を都から追い払ったものの、彼の配下の粗暴な雑兵が略奪を繰り返したため、後白河法皇を悩ませる。また、安徳天皇の弟が新たな天皇として即位した事で、平氏は朝敵という扱いになってしまう。東国では、義仲の専横を重く見た源頼朝が、弟の源範頼、源義経を義仲追討のために差し向ける。義仲は奮戦虚しく敗れ、討ち取られる事となった。範頼と義経は、さらに西国の平氏を追討するよう後白河法皇に命じられ、平氏は滅亡に向かって転がり落ちていく。
登場人物・キャラクター
平 清盛 (たいらの きよもり)
武士の一門である平家の棟梁。保元の乱で功績を挙げ、平治の乱でライバルである源氏に打撃を与え、武士として異例の太政大臣への出世を遂げた。平家一門を繁栄に導いた傑物であるが、同時にカッとなりやすい激情家でもある。そのため、敵対者に苛烈な処分を下し、平家が反感を買う原因となっている。実在した人物、平清盛がモデル。
平 重盛 (たいらの しげもり)
平清盛の長男。思慮深く、平家のみに偏らない公正な裁きをするため人望が厚い。父親である清盛にも信頼を置かれている。激情に駆られやすい父親の性格を危惧し、鹿谷の陰謀事件の際には首謀者の命乞いをするなど、清盛の暴走を抑えるため力を尽くした。若くして病に倒れる。実在した人物、平重盛がモデル。
平 宗盛 (たいらの むねもり)
平清盛の三男。平清盛の死後、平家の棟梁となる。貴族然とした風貌の持ち主で、処断にも甘さが目立つ。東国で平家打倒の兵が挙がった際にも楽観的に構えていたが、北陸で挙兵した木曽義仲に京を追われ、安徳天皇らを連れて都落ちした。実在した人物、平宗盛がモデル。
後白河法皇 (ごしらかわほうおう)
朝廷の実権を握る実力者。天皇の位を譲って上皇となり、のちに仏門に入って法皇となる。平家が政治に口出しするのを快く思っておらず、幼い皇子を天皇にして、後見人として実際の政治を行っている。平家を追い落とそうとする鹿谷の陰謀事件に関わるなど影で暗躍することが多く、平清盛に危険視される。実在した人物、後白河法皇がモデル。
以仁親王 (もちひとしんのう)
後白河法皇の第二皇子。法皇の妃で平家一門の建春門院にうとまれ、30歳になっても世に出られず静かに暮らしていた。源三位頼政に平家を打倒する兵を挙げることを進言され、当初は悩むものの、ついに決心して平氏追討の令旨を発した。実在した人物、以仁親王がモデル。
源三位 頼政 (げんさんみ よりまさ)
源氏の武将で、従三位に昇進したことから源三位と呼ばれる。平治の乱では、朝廷に矢を引くことを拒んで平清盛の側につき、同族の源氏と戦った。清盛からも認められて従三位に昇進するが、息子の仲綱が平宗盛に屈辱を与えられたことをきっかけに謀反に踏み切った。実在した人物、源頼政がモデル。
平 知盛 (たいらの とももり)
平清盛の四男。貴族化した平家一門の中では統率力があり、以仁親王と源三位頼政が謀反を起こした時は追討軍の総大将となった。長門国(山口県)を領地としており、都落ちした平家を立て直し、再起を図る助力をする。実在した人物、平知盛がモデル。
平 忠度 (たいらのただのり)
平清盛の弟。源頼朝が東国で挙兵した時は、追討軍の副将として平維盛を補佐した。歌人としても有名で、藤原俊成に師事している。一の谷の戦いでは総大将を務めたが、源義経の奇襲の前に敗れた。実在した人物、平忠度がモデル。
平 維盛 (たいらの これもり)
平重盛の長男で、平清盛の嫡孫。若年ながら、東国で挙兵した源頼朝の追討軍の総大将を任される。しかし、富士川の戦いでは平家の軍は水鳥の羽音を敵襲と勘違いして総崩れとなり、敗走した。木曽義仲が挙兵すると再び総大将となり、その汚名を返上するために追討に向かった。実在した人物、平維盛がモデル。
木曽 義仲 (きその よしなか)
源氏の一門の武将で、源頼朝の従兄弟にあたる。父親は源氏の内輪揉めで殺され、木曽に身を隠していたが、源頼朝の平家打倒に呼応して信濃国(長野県)で挙兵した。知勇に優れた武将で、平家を打ち破って京に入る。京では兵の略奪を黙認し、朝廷に征夷大将軍の位を要求するなど、粗暴さが目立つようになる。実在した人物、木曽義仲がモデル。
源 頼朝 (みなもとの よりとも)
平治の乱で平清盛に敗れた源義朝の息子。乱の後、清盛に助命され伊豆に流刑となる。その後東国の源氏をまとめて、平家打倒の兵を挙げた。朝廷の官位を得て貴族化した平家の失敗を繰り返さないよう、鎌倉に根を下ろし、都とは距離を置いて東国の武士をまとめている。実在した人物、源頼朝がモデル。
源 範頼 (みなもとの のりより)
平治の乱で平清盛に敗れた源義朝の息子で、源頼朝の異母弟。頼朝の挙兵に際し、平家追討軍の総大将に任命され、源氏の大軍を統率した。異母弟の源義経と異なり、奇策を好まず、堅実に軍事行動を進める。木曽義仲、次いで平家を滅ぼすという大役を果たした。実在した人物、源範頼がモデル。
源 義経 (みなもとの よしつね)
平治の乱で平清盛に敗れた源義朝の息子で、源頼朝の異母弟。父親が敗死した後、京都の鞍馬寺に預けられた。頼朝が東国で挙兵すると合流し、異母兄の源範頼に従って平家追討軍に参陣した。常識にとらわれない奇策によって平家を翻弄するが、血気にはやりやすく、度々味方から独断専行をたしなめられる。実在した人物、源義経がモデル。
建礼門院 (けんれいもんいん)
平清盛の娘。政略結婚によって後白河法皇の子である高倉天皇の后となり、安徳天皇を産む。安徳天皇の即位後、夫の高倉上皇に先立たれる。木曽義仲の挙兵によって平家が都落ちしたときは、安徳天皇を伴い、平宗盛らに従って西国を流浪した。実在した人物、平徳子がモデル。
安徳天皇 (あんとくてんのう)
第81代の天皇。治承4年(1180年)に、平清盛が政治の実権を保つためにわずか3歳で即位した。平家が都落ちすると共に京を連れ出され、以後平家一門と共に西国を流浪する。幼く政治力はないが、彼が三種の神器を持っていることが平家の再起に必要であった。実在した人物、安徳天皇がモデル。
多田 行綱 (ただ ゆきつな)
反平氏の鹿谷の陰謀事件に加担した武士の男性。御所の北を守る北面の武士を率いて挙兵する手はずになっていた。しかし、比叡山の僧兵と戦った平氏の強さを目の当たりにして怖気づき、陰謀を密告。首謀者は未然に捕縛された。実在の人物、多田行綱がモデル。
藤原 成親 (ふじわらの なりちか)
平氏に反感を持つ貴族の男性。鹿谷の陰謀事件において、後白河法皇を巻き込んだ平氏打倒の陰謀を主導する。武士の多田行綱を利用して挙兵させる計画を立てたが、行綱の密告によって露見し、捕らえられた。実在の人物、藤原成親がモデル。
西光 (さいこう)
平氏に反感を持つ僧侶の男性。藤原成親らと共に、鹿谷の陰謀事件で平氏打倒を図る。しかし多田行綱の密告により捕らえられ、平清盛の前に引き出される。清盛の面前でもひるまず相手を罵倒したために怒りを買い、拷問の末に斬首された。実在の人物、西光がモデル。
巴御前 (ともえごぜん)
木曽義仲の側室。美しい女性だが、武勇では男にも引けを取らない。源頼朝の追討を受けて敗走する義仲に付き従う。最期まで夫についていく意志を持っていたが、義仲に生きて落ち延びるよう説得される。最後の奉公として敵将を討ち取り、義仲のもとを立ち去った。実在の人物、巴御前がモデル。
集団・組織
園城寺 (おんじょうじ)
滋賀県にある寺院。平家の追っ手を逃れた以仁親王をかくまい、源三位頼政らと呼応して平家に対抗する。同じ天台宗の比叡山や興福寺にも平家打倒を呼びかけるが、比叡山は応じなかった。腕自慢の僧兵が平家の武士を相手に善戦するが、数に押され鎮圧された。
興福寺 (こうふくじ)
奈良県にある寺院。園城寺の呼びかけに応じて援軍を出すが、到着が間に合わず園城寺は敗れた。その後も反平家を掲げ、平清盛の寄こした和平の使者をも追い返したため、清盛の逆鱗に触れる。平家が報復として放った兵により、奈良は火の海となった。
場所
福原 (ふくはら)
現在の兵庫県にある港町。京は平家に反対する寺社勢力の拠点に近く、後白河法皇派の貴族も多かった。そのため、平清盛は平家政権の守りを固めるため、防衛に便利な福原への遷都を強行する。しかし、強引な遷都には抵抗も多く、比叡山の説得によってわずか半年で都は京に戻った。
イベント・出来事
鹿谷の陰謀事件 (ししのたにのいんぼうじけん)
1177年に起きた、反平家の陰謀。藤原成親、俊寛、西光らが中心となって後白河法皇を担ぎ出し、平家を打倒する計画を立てたが、多田行綱の密告によって露見。平清盛の激しい怒りを買い、関係者は処罰され、後白河法皇も幽閉された。
その他キーワード
三種の神器 (さんしゅのじんぎ)
天皇の地位の証となる鏡、玉、剣のこと。平家一門は都落ちの際、安徳天皇と共に三種の神器を持ち出した。三種の神器が平家の手にあったため、後白河法皇が安徳天皇に代わる新しい天皇を即位させようとした際も、正統性を主張することが困難であった。